2014年4月30日水曜日

アスリートの時差対策 (2)

アスリートの時差対策について、概要を(1)に書きましたが、実際に時差対策を行う場合には、これから行く行き先が、東の方向なのか、西の方向なのかによって違ってきます。東の方向とすれば、アメリカ西海岸、西の方向とすればヨーロッパが代表的です。ちなみに、オーストラリアなど時差が2-3時間程度のところでは、旅の疲れはありますが時差による障害(ジェットラグ症候群)はおきないので、この対策は全く必要ありません。

東向きに飛行の場合に出発地と目的地を比較すると、目的地はいつも早めに時間が訪れるようになっています。アメリカ西海岸のサンフランシスコであれば、サンフランシスコに日の出が見えるその8時間後に東京で日の出が見えるというような具合です。ですので、逆にサンフランシスコで通常寝る時刻の午後11時は、東京では午後3時です。したがってその時間に東京で合わせるとすれば、相当早寝になってしまいます。我々が行った実験では、通常の昼間の明かりの中で生活をしている場合でも、4-5時間程度であれば、体のリズムをずらすことができることが分かりました。しかし、サンフランシスコとの時差の8時間までずらすことは難しいので、無理の無い範囲で3時間程度リズムをずらすのが妥当だと思われます。

この場合に、睡眠時間帯をずらす方向は早寝早起きです。極端に8時間早寝早起きにすれば、つまり3時に寝て午後10時に起きるような生活にすれば、ぴったりサンフランシスコの時間帯に合うわけですが、これでは社会生活もできませんし、アスリートはトレーニングも出来ません。そう考えると可能な範囲は、せいぜい3時間位、つまり、8時に寝て午前3時に起きるような生活だと思います。一方で、西向き飛行の場合は、逆に3時間程度夜更かし朝寝坊にします。夜中の2時ころまで起きていて、9時ころまで朝寝坊をします。

アスリートはトレーニング時間を早めたり遅らせたりすれば、このような生活は比較的できます。以前に、女子サッカーワールドカップの際に、なでしこジャパンのフィジカルトレーナーの広瀬統一氏(早稲田大学の同僚でもあります)から質問を受けてアドバイスしましたときも3時間程度でやってみました。この時の経験では、選手の生活をこの様にすることはできるのですが、本当は食事の時間などもずらしたほうが良いわけです。しかし、合宿中にそのようにすると、食事をつくる近所のパートの人達の帰宅時間が遅くなったりして、なかなか難しい状況もあったと聞きました。

このような時差対策は、せいぜい3時間程度ですが、8時間の時差のあるところに行く場合に、3時間の時差対策をすると、実質5時間の時差を克服すれば良いことになります。これは、8時間に比べれば相当適応しやすいと思います。人によっては、ほぼ解消されたと思うこともあるかもしれません。

(3)では、このような時差対策を促進する方法と、実際のスケジュールについて解説します。

2014年4月29日火曜日

早稲田大学の講義日

今日は、暦を見ると昭和の日で国民の休日なのですが、早稲田大学は講義日です。講義日というのは、セメスター制で春学期と秋学期それぞれに15回の講義を確保するために決められた講義を行う日のことです。月曜日などは、しばしば振替休日になるので講義をやる日が設定されていて、世の中は休みなのに講義があるということがあります。アスリートはこういう休日に試合が設定されていたりするので、不都合もあります。今日は、火曜日ですが、多分連休の調節のためもあって講義日になっているのだと思います。と言うのは、明日からは3日間休日ではありませんが、休校日になり6日まで連休になります。学生は、連休の方がもうちろん嬉しいでしょうね。

このような日は、世の中は休みなのに働くということでどちらかと言うと嬉しくない面も多いのですが、しかし、通勤などはすいていて、とても楽でした。いつもよりも早くついたりしましたし、電車で座れたりして良い面もありました。このくらいの混み具合が一番よいですね。

そんなことで、これからは連休に入ります。みなさんも良い連休をおすごしください。

2014年4月28日月曜日

アスリートの時差対策 (1)

さて、もう少しするとサッカーワールドカップの話題が沸騰してくる時期になってきました。今年は、ブラジルにて開幕されます。私も、早稲田大学スポーツ科学部の教員ですので、視察に行ってまいります。日本とブラジルは、時差は13時間あるいは11時間。このような時差は地球のどちら周りで数えるかによって決まってきますが、多くの場合は短い方を数えます。例えば、今カリフォルニア都の時差は8時間です。同じ日で数えると、カリフォルニアは16時間遅れていますが、これは8時間の時差があると考えるほうが適当でしょう。ブラジルの場合は、そうすると、11時間と数えるのが良さそうですが、12時間前後になると、どちらでも同じようなものです。

このような時差のある地域への移動は、スポーツに関連しても多くの困難を伴います。スポーツの技能は通常は体温が高い午前10時ころから午後10時ころまでに良いパフォーマンスを行うことができます。ところが、ブラジルのような時差の反対の地域に行くと、昼ころは日本は真夜中です。また、午後の試合であれば、日本は午前2時あるいは3時などという時刻なので、良いパフォーマンスはできません。

こういった場合は、現地に合わせたリズムを出発前に作っていくことが大事です。しかし、アメリカ西海岸やヨーロッパであれば、せいぜい8時間位の時差なので、対策が比較的楽ですが、アメリカ東海岸や、ブラジルとなると、昼夜が全く逆になってしまうので、時差対策は非常に困難になります。

このような時差対策の場合は、少しずつ現地に近づいていくのがよいでしょう。したがって、まずは、アメリカ西海岸の時刻に合わせて日本で早寝早起きにする。そして、西海岸にしばらく滞在し、更に早寝早起きにしてブラジル入りするというような具合です。

このような時差対策は、非常に大切なのですが、まだ充分にアスリートの間に普及しているとも言えません。具体的な方法について何回かに分けて説明してみたいと思います。

2014年4月27日日曜日

新しい睡眠薬 (1)

大学の講義でも、睡眠薬という項目を設けて睡眠薬の話をしています。睡眠薬については、多くの学生が「怖い薬」というイメージを持っているようです。これは、一般のイメージとしても正しいのだと思います。患者さんたちも、最初は睡眠薬は飲みたくないという人も多くおられます。

そこで、講義では睡眠薬の開発の歴史に沿って、ハーブなどの睡眠を促進する薬草についてから話します。それから、バルビツール酸系睡眠薬について、そしてベンゾジアゼピン系睡眠薬(あるいは、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬を含めて、ベンゾジアゼピン受容体作動薬とする)について述べます。ここで、治療量と致死量の関係について話しますが、バルビツール酸系睡眠薬が治療に使われる量と致死量が近いことから、実際に注意すべき薬物であることも話します。それに比べると、ベンゾジアゼピンは、そのものが神経に作用するのではなく、すでに生体内にあるGABAの働きを促進させるという点で、生体内にあるGABAの量の範囲でしか効かないということから、安全性が高いということを話しています。

そして、最後に新しい睡眠薬についても説明します。新しい睡眠薬の一つは、メラトニン受容体作動薬であるラメルテオンです。これは、メラトニンと同じ働きをする人工的物質とでも言える薬です。もう一つは、この夏に発売される予定と聞いているスボレキサントという、オレキシン受容体の拮抗薬です。こちらはまだ発売されていませんので、使ったこともありません。

しかし、このような薬はこれまでのベンゾジアゼピン系睡眠薬とは全く違う機序で作用するので、期待が持たれています。またこれらについて、解説したいと思います。

2014年4月26日土曜日

睡眠専門外来をメンタルクリニックで行う意義

現在、日暮里のあべクリニックと、所沢市小手指の平沢記念病院で、睡眠専門外来を開いています。あべクリニックは、都会型のメンタルクリニックで、精神科ディケアもやっています。平沢記念病院は、入院病床もある精神科単科の病院ですが、老人病棟もあり思春期の患者さんから高齢者までが見えています。

そこで、睡眠専門外来をやると、訴えは睡眠に関連したものだけれども、実際のところは他の疾患の症状として睡眠を訴えて見える患者さんが多くいることに気づきます。最も普通にあるのが、うつ病です。うつ病はほとんどの患者さんで睡眠障害がありますが、うつ病の症状を訴えるよりも、睡眠障害のほうが訴えやすい面があるためか、睡眠障害で見える方も多く居ます。

また、最近多く見えるのが発達障害です。これは、すでに書き込みましたが多くいるので驚きます。私のところに見えるのは多くは、中学生、高校生以上です。成人の方も多く見えます。正直なところ、ストラテラやコンサータといった、発達障害の薬が使えるようになって、この疾患の診断が多くなったようにも思います。ここ2年位のことです。

また、まれですがてんかんの患者さんが見えることもあります。てんかんは、多くは痙攣を伴う疾患ですが、単純部分発作という病型は、意識の低下を主体とする病態で、日に何度かこのような状態になります。ある患者さんは、意識がなくなって、はっと気づいたら、時間が経っていて、その間の時間が抜けていたというようなことを言っておられました。このような場合は、てんかんの治療を行います。てんかんの治療で、この症状は収まりました。

睡眠専門外来は、このように誤診を防ぐためには、精神科一般の幅広い知識が必要だと思います。このようなことは、7月に行われる学会で発表をしようと思って現在準備をしているところです。

2014年4月25日金曜日

うつ病の運動の導入とトランスセオレティカルモデル(TTM)

大分春らしくなってきてましたが、外にでることも多いと思います。患者さんとお話していると、スポーツが好きな方も居れば、そうでもない方もいます。しかし、どのような季節でも殆ど家から出ずに、家の中でじっとしていて、まれに買い物で外にでるような生活ですと、どうしても生活全体の質は低下してしまします。生活全体の質というのは、生活習慣の三要素である、運動、食事、睡眠です。また、これにともなって気分の改善も図ることができません。

なかなか良くならないという患者さんには、いつも生活の改善の話をしています。外に出ずに、体を動かす機会が少なく、したがってお腹もすかないので大したものも食べないという生活の中で、よく眠れない、気分が落ち込みがちだという訴えがあった時に、では、薬をもう少し増やしましょうというのはあまり良いことではないと思います。そういう時には、少し時間をかけてでも患者さんに、こういう生活でよく眠れないから更に睡眠薬を増やしたりすれば、それは更に昼間動きにくくなって生活の質が悪化してしまうということをお話します。患者さんは納得されますが、すぐに生活が変わるわけでもありません。しかし、それは第一歩だと思います。まずは、それを認識することです。そうして、そこから具体的にできることを提示していくわけです。まずは、外にでること。あるいは、万歩計をつけて、到達できる目標歩数を決めること。食事を必ず決まった時間に取ることなどです。

このような目標ができたら、これを共に喜んで次の目標を作るわけです。次の目標は、毎日外にかならず出るなどの、次に到達しやすい目標を作ります。それができるようになってくると、自分自身でも良さが自覚されるようになって、次第に上の目標を作っていくようになることもあります。

実際に、いろいろな患者さんにこのようなことを進めていますが、例えば、なるべく歩くようにしていますという人、地元の公立のスポーツセンターなどは、精神障害者手帳をもっていれば無料で使えるので、そこに行くようになったという方、また、すこし自転車で遠出してみたという人も居ます。このように、それぞれの方がそれぞれのレベルで、それぞれの工夫をするようになるのは非常に嬉しい事です。

このような、段階的な運動の導入は、実は体系化されていて、トランスセオレティカルモデルと呼ばれています。健康運動心理学の分野で多く研究されています。早稲田大学にもこのような研究をしているひとが何人も居ますが、参考に竹中先生の訳された著書をご紹介いたします。



2014年4月24日木曜日

記銘力障害スクリーニングテスト MIS: Memory Impairment Screen

先日の認知症の会で、 医療法人相生会認知症センターの中野正剛先生のお話は、なかなか歯切れがよくてわかりやすいお話でした。その中で、MISという記銘力障害の簡単なテストが紹介されたので、論文を調べてみたところ、アルツハイマー病のスクリーニングには適しているという論文が出ていた。Buschkeら(1999)による論文です。これは、4つの単語の記名をテストするものですが、この論文によれば高い検出率で、認知症の記銘力障害を検出することができるということでした。

このMISというのは、非常に簡単なテストです。米国アルツハイマー財団のホームページにそのやり方が出ておりましたので、簡単に説明すると次のようなものです。(拙訳)。

1.まず、「これから私が、4つの単語を言いますので、それを覚えてください。これらの4つの単語は、それぞれ違う仲間の単語です。私が4つの単語を言い終わったら、繰り返してください。」と指示します。

2.例えば: 理科、工場、警察官、歯ブラシ。

3.その後、「覚えやすいように、それぞれの言葉のカテゴリー(これをどう訳すかですが、ここでは「説明になる様な言葉」としたいと思います)と一緒にいいいますので、また繰り返して覚えてください。」と指示します。

4.学校の科目-理科、建物-工場、職業-警察官、洗面用品-歯ブラシ
という具合です。
(この英語の解説は、単語として日本語に合わないものもあるので、日本では日本語にあう単語を用いると良いように思います。)

5.この後に、干渉課題を行います。これは、暗記のための努力をずっと続けられないように他のことをやらせるということです。ここでは、30秒間、できるだけたくさんの動物の名前を言ってくださいと言い、その後、4つ以上言えた人には、更に難しい名前を、4つ以上言えなかった人には、続けて動物の名前を言ってくださいといって、30秒間続けます。

6.この1分の干渉課題の後に、「先程覚えてもらった、4つの単語を言ってください。」と聞きます。この時に4つとも答えられれば終わりです。

7.もし答えられなければ、カテゴリー名を言います。これによって、答えられる痰が増えることもあります。

8.最後に点数化ですが、カテゴリーを言わなくても答えられたものを2点、カテゴリーを言って答えられたものを1点として、8点満点で採点します。




ここに示したのは、下記のBuschkeらの論文の表ですが、これを見ると、4点くらいをボーダーとすると、認知症の診断に役立つように思います。4点ですと、認知症の人の8割が引っかかってきますし、そのうちの96%が認知症(逆にいうと4%が誤って認知症になってしまう)という特異性があるということになります。

これは、比較的簡単なテストですので、一般の臨床でも使用してみたいと思いました。


Buschke et al. Screening for dementia with the Memory Impairment Screen NEUROLOGY 1999;52:231–238

2014年4月23日水曜日

レビー小体型認知症

先日、ノバルティスファーマの主催で、荒川区・足立区の認知症医療連携に関連した会がありました。認知症については、私は現在所沢市にある平沢記念病院で多くの患者さんを診察しています。しかし、都市部でのクリニックでの認知症医療がどのように病院や介護関連施設と連携しているのかについて、まとまった話を聴くことに興味があり参加いたしました。認知症医療は、医師による治療だけでは不十分で、行政を含めた様々な業種の人達による連携が必要だとつくづく感じました。また、認知症の患者さんだけでなく、介護する家族へのサポートも同等に重要であると再認識しました。

一方で、講演の中では認知症患者さんの診断として、最も多いアルツハイマー病(50%)のほかに、レビー小体型認知症が非常に多い(20%)という実際の数字が示されて、自分が持っている印象よりも多いので、これも非常に勉強になりました。

レビー小体型認知症は、最終的な診断は、亡くなった後の病理解剖をしなければならないのですが、同じ認知症でも症状から、診断をつけることは可能です。アルツハイマー認知症にみられる、記銘障害はむしろ軽く、レビー小体型認知症特有の症状を呈します。症状の特徴は以下の様なものです。

1.幻視: レビー小体型認知症の特徴としては、幻視の症状が現れることがあります。これは、本人にははっきりと見える幻視で、虫や動物などが見えるということが多くあります。

2.また、意識や認知の変動が見られるのも特徴と考えられています。時にボーっとしていたり、また、はっきりした時があったりです。

3.パーキンソン症状: 体の動きが硬くなる、小刻み歩行、手の震えなどのパーキンソン症状が見られることもあります。

4.レム睡眠行動障害: これは、以前にも独立した疾患として書いたことがありましたが、眠っている間にレム睡眠に入ると、起きだしてまとまった行動、時に暴力的な行動をします。また、大声で寝言を言う場合もあります。

5.また、自律神経症状として、起立性低血圧や胃腸障害(便秘、下痢)などをおこすこともあります。

このような患者さんには、時に出会うことがあり、レビー小体型認知症として治療しますが、私は、認知症の患者さん全体の割合としては、もう少し少ない印象を持っていました。この会の中で議論されていましたが、以前は認知症の患者さんも相当重くなってきてから来院する人が多かったのですが、最近は軽症の時期から受診する方が多く見られます。また、それにともなって医師の側の診断能力も上がってきて、そういう理由でレビー小体型認知症の診断が多くなったこともあるかもしれないという議論もありました。

超高齢化社会を迎え、認知症の臨床はますます重要になってきます。認知症の臨床は、患者さんにたいする、きちんとした診断と治療、だけでなく、介護する家族の問題も含めて、チーム、あるいは社会全体が役割を担っていく面があります。今回の会をつうじて、それぞれの地域によい医療、介護の連携ができ、認知症の患者さんが安全に暮らしていける環境ができることが望ましいと思いました。

2014年4月22日火曜日

自殺数と経済の関係

先日4月19日の日本経済新聞のコラムに、自殺と経済の関連について紹介されています。経験則でみる ふしぎ経済学(宅森昭吉)というコラムにか書かれている記事です。

自殺者数は、1998年から急に増加し、3万人を超えるところで推移していましたが、2012年からは3万人を下回っており、ここのところ減少傾向です。自殺者の減少については、精神科医や地方自治体が自殺予防の運動をしており、これが功を奏したと思っていましたが、このコラムでは、経済が好転したのがその主な原因だと言っています。

色々と資料をみてみると、経済的な困窮での自殺者の数が一番減少しており、経済が好転したために自殺者が減ったと、内閣府も考えているようです。

こう考えると、精神医学的なキャンペーンをしたり、臨床の場で注意をしていくよりも、経済を好転させるほうが、自殺者減少には効果があるということになります。そして、このコラムを読んだり、これをきっかけに、資料をみてみると、本当にそうなのかもしれないなとも考えてしまいます。

一方で、臨床の場では、精神科医が最も注意しなければならない事柄であることは変わりません。精神疾患は、脳炎などのように、それを見逃すと命が失われてしまう疾患はありますが、臨床のケースの中ではむしろ少数で、疾患によって患者さんが亡くなるとすれば、自殺が最も多いのではないかと思います。したがって、少なくとも個別の臨床では、患者さんの状態に注意しながら、慎重に診療をしていくことの重要性はやはり変わらないのであろうと思います。

2014年4月21日月曜日

うつ病を治療すると長生きする

うつ病の患者さんは、薬物を投与するし始める時に、薬の副作用を心配されます。これは、当然のことで、治療者は患者さんが安心して治療を受けられるように、副作用についても十分な説明をしなければなりません。また、患者さんは薬を早めにやめたいと思いがちですが、そうすると再発の危険もあります。また、できれば薬を飲まずに治したいと思うことも多くあると思います。しかし、抗うつ薬は効き目が非常にありますし、早く回復することは間違いないと思います。また、回復したあとに、当分の間少量の服用をすることで、再発が防げるということもあります。

このようなうつ病の治療は、うつ状態を改善するということだけではなく、結果として寿命をのばすことも明らかになっています。Whooleyら(2008)の論文では、うつ病の患者さんは、心疾患で亡くなる可能性が高くなる可能性を指定しています。これは、うつ状態が長引くと、運動をしなくなり、喫煙率も上がるのでこれがひとつの原因ではないかと述べています。

2012年に発表されたZivinらの論文は、アメリカの退役軍人病院の統計資料を調べ、亡くなった年齢が、うつ病の診断のある人とない人でどのくらい違うのかを調べています。その結果、うつ病のある人の平均死亡年齢が71.0歳であるのに対して、ない人では75.9歳で、4.9歳の違いがあります。

この著者は、うつ病で平均寿命が短縮する理由は、この疾患が、毎日の活動を低下させ、健康的なライフスタイルを送るための生活管理がしにくくなるのが大きな理由ではないかと述べています。そう考えると、寛解状態をきちんと維持しながら、良い生活を続けていくことは、うつ病の患者さんにとって非常に重要であるといえると思います。

我々の実際の臨床では、うつ病の患者さんにも運動療法を進めていますが、うつ病の治療をし、かつ運動や食事を含めた生活指導をすることで、結果的に患者さんが健康に長生きできるということもあるのだと思います。

うつ病での寛解の維持と、生活指導の重要性を考えさせる論文でした。
 
Early Mortality and Years of Potential Life Lost Among Veterans Affairs Patients With Depression

http://www.research.va.gov/news/features/depression.cfm



2014年4月20日日曜日

うつ病症状の男女差

一昨日4月18日に、甲府で、日本イーライ・リリーの主催でうつ病の痛みと睡眠障害の話をしました。この話は、これまでにも何度もしてきていますが、この講演会では、うつ病患者さんのアンケート調査を再解析しなおしたデータを含めてお話しました。この再解析では、うつ病における痛みと睡眠障害の関係を、男女に分けて解析しなおしています。うつ病は女性により多いことが知られていますが、この研究では症状に男女差があるかどうかを見たわけです。この結果は、現在論文にまとめている最中ですが、痛みの症状も、女性に多く見られました。男性の特徴は、痛みがあると入眠障害が増えるということです。これは、これまであまり知られていないことなので、この所見を含めて、論文にしようと思っています。

さて、このように、うつ病の症状に男女差があるのは、大変興味深いことです。このようなうつ病の症状の男女差については、痛みや睡眠障害だけでなく、その他の症状についてもあると思います。例えば、Kochklerら(2002)は、うつ病の周辺症状の男女差を調べて、女性では食欲不振がより多く見られ、男性では焦燥感が多いということでした。

Kahnら(2002)は、男女の二卵性双生児のペアで、双方がうつ病になった人たちを調べて、症状に差があるかを調べています。これによれば、疲労、過眠、精神運動抑制(動作が緩慢など)は女性に多く見られ、不眠や焦燥感は男性に多かったということでした。

この他にもRomansら(2007)の論文でも、女性では、食欲の増加、しばしば涙をながす、興味の喪失、自殺念慮が多いとしています。食欲の症状などは、Kochklerらとは違いがあり、調査による違いはあるようです。

我々の研究は、痛みと睡眠障害の男女差を見たものですが、様々な違いがあることが分かりました。これらについて詳細にまとめたらまた紹介したいと思います。


Int J Geriatr Psychiatry. 2002 Jan;17(1):65-72.
Gender differences of depressive symptoms in depressed and nondepressed elderly persons.
Kockler M1, Heun R.

Gender Differences in the Symptoms of Major Depression in Opposite-Sex Dizygotic Twin Pairs
Amir A. Khan, M.D.; Charles O. Gardner, Ph.D.; Carol A. Prescott, Ph.D.; Kenneth S. Kendler, M.D.
Am J Psychiatry 2002;159:1427-1429. doi:10.1176/appi.ajp.159.8.1427

Sarah E. Romans, MB, MD,* Jeanette Tyas, MHSc,† Marsha M. Cohen, MD, MHSc,*
and Trevor Silverstone, FRC Psych, DPM‡Gender Differences in the Symptoms of M ajor Depressive Disorder J Nerv Ment Dis 2007;195: 905–911

2014年4月19日土曜日

タバコとメンタルヘルス

タバコが体に良くないことは、よく知られていて、最近はタバコをやめる人も多くなってきました。私も、20代の頃タバコを吸っていました。また、その頃はタバコを診察室で吸う医者も居たのではないかと思います。私は30すぎに結婚して、ほぼ同時にカリフォルニア州に留学したのをきっかけにタバコをやめました。カリフォルニア州はご存知のように、非常に先進的な州で、人々もヘルスコンシャスです。ジョギングをする人も多く居ますし、なにより気候がスポーツに向いています。したがって、タバコを吸うことは非常に困難です。そんなことで、タバコをやめましたが、これは自分にとってはとても良かったと思っています。

一方で、タバコは体には悪いが、ストレスを解消するなど、メンタルヘルスには良い面もあるとする考えを述べる人も居ます。本当に、タバコをやめるとストレスでメンタルヘルスが悪化するのでしょうか。このような研究はこれまでにも多くあります。イギリスのテイラーたちは、このような研究をたくさん集めてもう一度解析しなおし、禁煙した後にメンタルヘルスがどう変わるのかについての論文を、最近提出しました。

Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis
Taylor G, et al. 2014

この論文によると、タバコをやめられた人とそうでない人をフォローアップして、やめられた人のやめた7週間後と9年後のメンタルヘルスの比較をしています。その結果、不安、抑うつ、そしてその両者の共存、およびストレスが、タバコをやめた人ではやめなかった人よりも改善していると報告しています。

更には、心理的な生活の質と、ポジティブな気持ちの構えは、タバコをやめた人のほうがより改善されているとも報告しています。

こう考えると、タバコをやめるときにはそれなりのストレスはあるかもしれませんが、長期的に考えれば、やめたほうが、メンタルヘルスに対しても良いということになりそうですね。

2014年4月18日金曜日

Kapur先生 (2) ベンゾジアゼピン系睡眠薬の多剤併用

Kapur先生が来日された先日話しをしたことで、興味深い話があったので、ご紹介しようと思います。不眠の患者さんに、睡眠薬を投与するときに、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を投与することは多くありますが、その種類が増えがちだということも臨床的にはあります。私は、努めてその数を減らすようにしていますが、時に2種類を同時投与することはあります。

その話をKapur先生にしたところ、「どうして2種類のベンゾジアゼピン系睡眠薬を同時に投与する必要があるのですか?」とお尋ねになりました。このとき、私はハッとしました。アメリカでは、2種類のベンゾジアゼピン系睡眠薬を同時投与することは殆ど無いのだなと思ったからです。

今回の診療報酬改定では、睡眠薬は出せるのは2種類までで3種類以上を出してはいけないことになりました。これについては、賛成反対、様々な意見があありますが、正直なところ、これによって治療が困難になるケースは、さほど多くはないだろうなと思っています。むしろ、全体としてベンゾジアゼピン系睡眠薬の多剤併用療法が少なくなるメリットのほうが大きいように思います。

ただ、睡眠薬には薬理作用(効き方)が違う薬があって、例えばラメルテオンという薬のように、メラトニン受容体に作用する薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とはぜんぜん作用の仕方が異なるわけです。したがって、こういった薬も一緒に、「睡眠薬」とくくるのは良い方法ではありません。

アメリカでは、Kapur先生の言うように、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の数は、複数使わないのが普通なのか、今度アメリカの睡眠学会に行った時に、何人かの知り合いの医者に聞いてみようとは思っています。Kapur先生は睡眠医学が専門ですが、内科で睡眠時無呼吸症候群などが専門なので、必ずしも不眠症全般の専門家ではありません。精神科分野では、複数の処方もありえるかもしれません。

いずれにしても、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の数を原則一種類にするということを念頭に置いて、処方にはあたっていきたいと思っています。

2014年4月17日木曜日

認知行動療法を行った反復性うつ病の再発についての6年間の経過

論文の解説

Six-Year Outcome of Cognitive Behavior Therapy for Prevention of Recurrent Depression
Giovanni A. Fava, M.D.; Chiara Ruini, Ph.D.; Chiara Rafanelli, M.D., Ph.D.; Livio Finos, Ph.D.; Sandra Conti, M.D.; Silvana Grandi, M.D.
Am J Psychiatry 2004;161:1872-1876. doi:10.1176/appi.ajp.161.10.1872

この論文は、「認知行動療法を行った反復性うつ病の再発についての6年間の経過」について述べた論文です。うつ病の患者さんは、普段の生活の中でも、自分自身を否定的に捉えたり、自分に対してよりストレスを掛けたりする行動を取りやすい傾向があります。このような傾向は、メランコリー親和型とも共通するものですが、このような行動パタンを修正するのが、認知行動療法の目的です。

この研究では、40名のうつ病の患者さんを、通常の医療の中での治療と、認知行動療法を行うという2群に分けて、双方に薬物療法は行い、寛解状態に至ったところで、薬物を減量していき、最終的には服薬をしない状態にしたあとで、その後の再発率がどのように違うかを6年間にわたってフォローした研究です。

結果は下記のグラフです。


グラフの最初のところを1.0として、良い状態を保っている人の割合を、横軸の72ヶ月=6年間にわたって示してあります。青の、認知行動療法を行ったグループにくらべて、赤の通常の医療だけのグループは、6年間の経過の中で良い状態を保っている人が、1割程度にまで減少してしまうことが示されています。

認知行動療法は、我々は通常の診療の中でも多く行うようにしています。患者さんが見えた時には、なるべく日常生活で困難と思われる事象や人間関係の問題、物事の捉え方などについて伺って、それについて、考え方の修正をしたり、アドバイスをしたりいたします。このような認知行動療法的なアプローチは、この結果をみると、うつ病の患者さんが寛解して良い状態を保つのに非常に重要な役割をしていることが分かります。

このように考えると、薬物療法を中止したあとも、認知行動療法的なカウンセリングに通院することも意味があるように思われます。

2014年4月16日水曜日

STAP細胞その後 (3)

私が早稲田大学に勤務を始めた最初の頃、最初にゼミに入ってきた女子学生がラクロス部でした。その頃、ラクロスという競技は、電車の中で網のついた棒を持っている人がいるなぁ、くらいの認識だったのですが、ラクロス部が上位に向けて努力している話をよく聴いていたので、試合を見に行くことにしました。ラクロスは、編みの中にボールを入れて、これが落ちないように振りながら走ったり、網を降ってボールを投げ、長距離のパスをしたりで、展開の早いスポーツでもあり、また、ゴール裏も使うことができることから、アイスホッケーなど北米系のスポーツ特有の面白さもあり、非常に楽しみました。何度か試合を見に行った覚えがあります。

小保方さんのSTAPの発表が1月末にあった時、ラクロス部で活躍していたという報道もあったので、このOGに連絡したところ私が見に行った試合にも出ていたということでした。そいういこともあって、STAP細胞の一連の流れについては、小保方さんに対しては、好意的な気持ちを持って推移を見守っています。

この問題は、3つのことが世間で議論されていると思います。

1.STAP現象がほんとうにあるのかどうか。

2.STAP現象を発見したということの発表の仕方の問題

3.ゴシップネタ

一番興味を持っているのは、1についてです。もし、小保方さんやその協力者たちがSTAP細胞を作り上げたのであれば、それは大きな功績です。再生医療への応用を考えても、非常に大きな第一歩になっていると思います。最近の理研のコメントでは、、多能性マーカーで遺伝子の働きを調べるだけでは証明は不十分で、STAP細胞を作製したとは言ず、どの臓器でも育つかどうかまでも確認しなければならないとしています。この部分については、専門外なので詳細なコメントが出来ませんが一般的に考えれば、これにも2つ問題があり、ひとつは、理研と小保方さんは対峙する関係ではなく、小保方さんは未だに理研の職員であるので、意見が対立することではなく、理研の言うようなことであれば、理研がそれをしっかりチェックせず発表させたという責任の不備があったということ。それから、科学的には、その段階であっても意味があるのであれば発表できるであろうということです。STAP細胞はありますと、小保方さんも行っていますし、副センター長の笹井氏は本日記者会見するようですが、すでにSTAP現象はReal Phenomenonであると述べています。また、チャールズ・バカンティ教授も、現象は本物だと言っているので、その部分についての評価は決して曇るものではないと思います。

一方で、発表手続きには大きな問題があると思います。これについては、好意的な意見では、指導体制の悪い中で、基本的な研究倫理を身につける機会がなかったのは、教育を担当した指導者が悪いという意見です。厳しい意見としては、30歳にもなる研究者であれば、そのくらいのことはわかっているはずだという意見です。私はどちらも正しいと思います。新しい発見に対して、エキサイトしすぎて行き過ぎてしまうということはあるとは思います。博士論文の一部を、他の施設ですでに公開されている文章の一部から取ってきたということは、しっかりと指導されるべきことであったと思います。これによって、博士論文を取り消させるのかどうかは、科学的結果がオリジナルで、自分でやったものであれば私は、訂正受理再受理が適当だと思います。また、指導した教員にはそれ相当の指導が非通用であったということになるとも思います。いずれにしても、この部分は、同じ早稲田大学に勤務する教員としても真摯に受け止め、自分の指導にも活かしていきたいところです。

3つ目のゴシップネタは、指導者との恋愛関係や、ホテル生活をしていたこと、割烹着、高級家具の購入などですが、これについてはコメントしません。これを上記の2つのポイントと一緒に議論しないでほしいという気持ちです。

このようなことで、本日の笹井さんの記者会見も見守りたいと思っています。

2014年4月15日火曜日

ムズムズ脚症候群 (2) 小児のケース

昨日は講演会で、座長をしました。その講演会で、久留米大学精神科の内村教授による、ムズムズ脚症候群のお話を聴きました。ムズムズ脚症候群は、典型的には眠る前にじっと布団の中にいると、下肢がムズムズしてきて動かさずには居られなくなる病態の疾患です。

昨日のお話は、全体的な概論で知識を整理するのに、大変役に立ちました。その中で、自分として、臨床的に役に立つお思ったのは小児のケースです。私のところに小児のケースが来ることは比較的少ないのですが、時にムズムズ脚症候群を疑って小学生のお子さんが親御さんに連れられて見えることがあります。

小児では、遺伝的な背景があるケースが多くあるということで、両親のどちらかがムズムズ脚であるケースが多いということでした。また、小児のケースでは、ムズムズ脚症候群がADHD(注意欠如多動性障害)と誤られているケースが有るということを内村先生は話されていましたが、そうであろうとも思いました。私自身は、そのような誤診ケースには出会ったことはありませんでしたが、気をつけ る必要があると思いました。更には、合併例、つまりADHDはあるのだけれども、これにともなってムズムズ脚症候群があるケースも有る、ということで、こうなるとなかなか正確な診断が難しくなるだろうと思われます。

小児のケースの治療は、少量のドパミンアゴニストや、リボトリールを使うということでした。私は、ドパミンアゴニストを小児に使うことには、やや躊躇が会ったのですが、今後は少量から試してみようと思いました。リボトリールは、もとはてんかん薬として作られた薬で、小児にもよく投与されているので、まずはこちらから試すことになると思います。

いずれにしても、小児の場合は、訴えがあまりはっきりせず、診断が難しいケースも多いのですが、これらのことを参考に、今後更に臨床現場での実践に知識を活かしたいと思っています。


2014年4月14日月曜日

Kapur先生

昨日、アメリカワシントン州ワシントン大学ハーバービュー病院のVishesh Kapur先生のご家族が日本に来られたので、妻と鎌倉をご案内しました。鎌倉には、海外からのお客さんを案内する時くらいしか行きませんが、いつも良い所だと思います。昨日は、たまたま鎌倉まつりにあたり、すごい人出でした。日本についた初日だったので、あまり過剰なスケジュールにはせず、まずは大仏見学。それから、松原庵というお蕎麦屋さんへ行って、ゆっくりと昼食を食べました。松原庵は、初めて行きましたが、とても素敵なお店でした。由比ヶ浜駅から海の方向に歩いて2-3分のところですが、古民家の室内席と、庭にあるモダンなガーデンテーブルの席があって、良い雰囲気の中で美味しいおそばをいただけます。

Kapur先生は、睡眠医学の専門家で、私がシアトルにあるワシントン大学を訪問した際に、知り合いました。インド系のアメリカ人で、とても紳士です。睡眠医学に連しては、睡眠時無呼吸の簡易型測定の話、うつ病に無呼吸が多いという話、発達障害の過眠、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使い方、アメリカの医療封建制度などについて、とても有益な情報交換を、おそばを食べながらしました。

その後、鶴ヶ岡八幡宮へ行き、鎌倉まつりの雰囲気を味わいました。ご家族と一緒のところを妻がとってくれた写真です。



最後に報國寺(竹寺)に行って、鎌倉の自然の雰囲気を味わいたかったのですが、16時閉門を知らず、16時10分に到着して、入ることができませんでした。しかし、報國寺近辺を散歩できました。とてもよい環境で、あのあたりに移り住みたい思ったくらいです。

Kapur先生から伺った話も今後少し書いてみたいと思っています。

2014年4月13日日曜日

Mystery of Sleep (1)

早稲田大学にはグローバルエディケーションセンターという組織があって、そこでは早稲田大学全学にむけて、様々な講義を行っています。その中で、私は”Mystery of Sleep”という講義を担当しています。この講義は、半期の講義ですが、講義すべてを英語で行っています。したがって、受講者の多くの割合が、国際教養学部の学生で、英語を母国語とする人も多く居ます。また、この講義は早稲田キャンパスの国際教養学部が入っている学舎の教室で行っています。私が行っている唯一の早稲田キャンパスでの講義です。

先週その第1回の講義を行いましたが、今年は37名の受講生が居て、かなりの割合の人が国際教養学部の所属で、留学生の割合も多かったです。このクラスは、スポーツ科学部での講義と比較して、ずいぶんと教室の雰囲気は違う感じがします。海外からの留学生の数は早稲田大学では増えていると思います。そういった人たちが、英語で受講できる講義を増やすということも、早稲田大学の急務で、そのために大学教員の教育プログラム(Faculty development program)も行っています。私は、この教育プログラムに3年連続で参加してから、この英語の講義をはじめました。

睡眠は、留学生にとっても興味深い課題のようで、興味深く話を聞いてくれます。初回は、オリエンテーションと睡眠の定義という話をしました。この講義と全く同じ内容の講義は、秋学期に日本語でも行っています。これらの講義の内容も時々紹介しようと思います。

参考までに今年のカリキュラムを紹介いたします。

04/08 Introduction; Definition of sleep
04/15 History: Historical sleep study; Discovery of EEG; Discovery of REM sleep; sleep structure
04/22  Polysomnography – PSG
04/29(National Holiday) Neurophysiology of sleep (mechanisms to generate NREM & REM sleep)
05/13  Development and aging – Sleep ontogeny
05/20  Animals’ sleep – Sleep phylogeny
05/27 Sleep regulation; Exercise and sleep
06/03 Cancelled
06/10  Dream; Sleep and memory
06/17  Cancelled
06/24  Clinical sleep medicine I:    Classification of Sleep Disorders; Insomnia; Use of hypnotics (sleep pills);
07/01  Clinical sleep medicine II:   Hypersomnia (Narcolepsy and other disorders); Clinical sleep medicine III:  Sleep apnea syndrome; Restless Legs Syndrome, REM Sleep Behavioral Disorders; and others
07/08  Clinical sleep medicine IV: Circadian rhythm sleep disorders
07/15  Clinical sleep medicine V:   Sociology of sleep
07/22    Final examination

2014年4月12日土曜日

統合失調症の軽症化 (1)

統合失調症が軽症化しているという事が言われています。これは、私自身も非常に強く感じるところではありますが、これにはどんなエビデンスがあるのかとふと思いました。Google Searchをしてみると、東京都精神医学総合研究所の糸川昌成先生の文章が最初に出てきます。http://prit.igakuken.or.jp/Ja/PSchizo_Dep/TSchizo/kango.html  糸川先生は、東京医科歯科大学の医局の後輩で、私がアメリカに住んでいた頃にアメリカにいらして、サンフランシスコを案内したこともありました。彼の文章では、「近年,統合失調症全体が軽症化し,破瓜型でもひどい人格荒廃に至る症例が減少しました。」と書かれています。しかし、ここにも、どのようなエビデンスを示した論文があるのかは、書かれていません。

更に調べてみると、石丸昌彦先生の文章も見つけました。 http://lib.ouj.ac.jp/nenpou/no27/27-1.pdf  彼も、医局の後輩で、みんなよく頑張っているなぁという気持ちで嬉しく思います。彼も、文章の中の最後の「おわりに」というところで、軽症化は治療の進歩で予後が改善されたのではなく、初診で出会う患者さんの病像が軽症化していると言っています。

確かに、昔私が医者になった頃は病棟に入ると、無動状態(カタトニー)の患者さんが居たりというようなことがありましたが、そういう患者さんに出会うことは少なくなりました。もっとも、現在病棟のある病院に勤めていないということもあるかもしれません。

初診の患者さんで、軽症化が見られるということであれば、軽症のうちに受診するようになったということも言えるかもしれません。それは、価値観の多様化と関係があるのでしょうか。あるいは、精神科受診の敷居が低くなったということもあるかもしれません。

もし、このような文化的な背景が軽症化に影響を及ぼしているということが事実なら、海外の事情で、旧共産圏と西側社会での症状の違いがあっても良いと思います。このようなことを含めて、統合失調症の軽症化が事実としてあるのであれば、何らかのエビデンスが提出されていても良いと思います。もう少し海外の文献を含めて探してみたいと思っています。そう思って、タイトルにも(1)をつけておきました。

2014年4月11日金曜日

精神障害者フットサル

先日、昨年の東京国体(スポーツ祭東京2013)の中で行われた、精神障害者フットサルのDVDが送られてきました。精神障害者のスポーツは、現在バレーボールが正式種目として障害者スポーツ大会の種目となっています。これに加えて、現在フットサルを正式種目に加えるべく、活動をしているわけです。精神障害者スポーツについては、私も委員をしている、日本精神保健福祉連盟のスポーツ振興の委員会が大きな役割を果たしています。

YouTubeに映像があります。大会は、明治学院大学で開催されました。


この前日に、ヨーロッパ各国、南米各国、アジア各国が参加して、精神障害者スポーツ国際化実行委員会も開催されています。この委員会では、国際大会開催に向けて、各国が努力することも宣言されました。

精神障害者スポーツは、主には、統合失調症の患者さんが、ディケアなど社会復帰の活動の中で行っていたものですが、これが次第に競技性を帯びてくるようになりました。2000年からは全国の大会が開かれるようになりました。当初は、競技性を導入することで、プレッシャから精神疾患が悪化するのではないかという心配もありましたが、そういったことはほとんどありませんでした。むしろ、全国大会という大きな目標ができたり、試合を通じて、活動の場が広がり、社会性が広がるなど、多くの良いことがありました。

こういったスポーツ振興には、スポーツ好きの医療スタッフの熱心な活動が欠かせませんし、これが患者さんに対しても、非常に大きなエネルギーとして治療的に働いているのは、とても嬉しいことです。

2014年4月10日木曜日

STAP細胞その後 (2)

昨日小保方さんのインタビューを、部分的ですが、インターネット配信で見ました。彼女は、STAP細胞の発見については絶対の自信を持っているようで、この点は頼もしい印象をもちました。朝日新聞は『存在を力説、消えぬ疑問 小保方氏会見、新たな証拠出ず』というタイトルでの報道でしたが、新たな証拠を、このような会見で出すことも期待できないと思うので、あまり適切なタイトルとも思えませんでした。もし、このように問題が大きくならなければ、実際に、理研の中で、上席研究員と一緒に再現実験をやったりして、なるほど、確かにできるのであれば、この先論文訂正等はこのようにすると良いと、上席研究員が指導するというのが妥当なところだと思います。

記者の質問の中には、副センター長との関係があったのかだとか、ホテルに滞在する費用はどこから出たのだだとか、まったく、会見の目的と関係無いような質問も出て、残念な印象も持ちました。

もし、この実験に間違いがあったのであれば、それは正さないといけないと思います。つまり、小保方さんが行った実験のプロトコルをつかうと、確かにこのような変化が起きるが、それは、STAPと言えるものではないと、上席研究員や他の研究者が考えるような問題があったのであれば、正さなければいけないということです。しかし、そういう間違いは研究を行う上ではあることで、そこから新しい発見があったりすることもあります。もし、STAP細胞が出来上がることが確認されたのであれば、これは不注意なミスから論文が不適切になってしまったということだけなので、それをきちんと訂正すれば良いと思います。

何度も再現出来たという自信は、少なくとも今回のインタビューからは感じられたので、次の科学的な手続きに是非進んでほしいと思います。その際、ゴシップネタは、やめてもらいたいものです。


(朝これを書いたあと、夜にクローズアップ現代を見たのですが、論文の証拠となる画像について、誤ったものを使ったり、切り貼りしたということにたいして、多くの研究者が批判的だったと報道していました。これは、そのとおりです。この点は、十分な科学の倫理観がなかったと言わざるをえないと思います。ここでよくわからないのは、STAP細胞の作成は、もし本当に成功しているなら小保方さんが最初に作ったものだという認識でいましたが、それはNatureの第1著者で出しているのですから、そうなのでしょう。そうだとすれば、研究ノートや画像の問題があったとしても、その業績は評価されても良いようにも思います。他の部分は、研究倫理の問題や、研究方法に対する教育が十分なされていなかったとか、上席研究者がきちんと管理していなかったという問題で、別の問題だとも思います。明らかに、小保方さんは30歳の研究者としても未熟な印象があります。ただ、そうだったとしてもSTAP細胞を作ったという事実があるのであれば、その業績は評価すべきものであるとも思うわけです。ですから、そのことはしっかりと明らかにしてもらいたいと思います。)

2014年4月9日水曜日

私が監修したヒーリング・ミュージック (1)

メンタルヘルス、睡眠などを専門にしているといろいろな依頼があります。SCMという会社から、ヒーリングミュージックの監修をする依頼がありました。自分は、音楽は好きで、楽器も演奏します。子供の頃はピアノを習っていましたし、大学時代はバンドもやっていました。ジャズが好きで、その後もずっとジャズを趣味にしています。たくさんのジャズを聴きますし、最近はサックスの演奏が趣味です。時々、ジャズクラブに行って、ジャムセッションに参加もします。実は、ジャズについてのブログもやっているので、興味のある方は除いてみてください。

http://jazz.uchidaclinic.net

そういうこともあって、この音楽の監修をやってみることにしました。一般的に考えて、こういったヒーリングミュージックのCDに、メンタルヘルスの専門家が監修しているものというのは、なんとなく、名前だけ貸しているようで、どのくらい音楽に関わっているのかわからないなあ、というのが私自身が、類似の品を見た時の感想なのですが、私がやったこの仕事は、自分自身は、楽しみながらしっかりと関わったと思います。

作曲や、音楽トラックの作成は勿論、作曲家がやるわけですが、その作曲家の方(西村真吾さん:http://www.nissymusica.com/) とも事前にお会いして、音楽やメンタルヘルスについての情報交換をしました。その後、タイトルに関連した音楽のイメージを、かなり具体的に伝えました。たとえば、テンポや、イメージされる楽器の種類、長調、短調、時にコード進行、あるいは、元のイメージになるようなジャズのトラック、更には自然界の音など、さまざまな情報を作曲家の方に伝えました。

作曲家はそれをもとに、作品をつくり、それを実際に聴きながら更にこれにコメントを入れて、修正していく作業を行っています。音楽家の方も、勿論、自分の作品にプライドを持っていると思いますので、それは尊重しながらも、目的にあった音楽としての変更の意味を、具体的にわかりやすく伝えるようにしました。そのようなプロセスで、もう一度作りなおした曲などもあります。西村さんは才能のがあり、かつ忍耐強い方で、一緒に良い共同作業をすることが出来たと思います。

更に出来上がった音楽を、一般の人に聞いてもらって、そのアンケート等もとっています。

このCDの第1弾は下記の2タイトルです。今回のこの仕事は、制作会社からも良い評価を受けたようで、更に第2弾以降も担当しています。多くの方々に聞いていただきたいと思っています。

よろしければ、下記のリンクから御覧ください。

2014年4月8日火曜日

グルジア科学アカデミー外国人会員

研究をしていると、世界中のいろいろな人と知り合うことができて楽しいです。私も様々な国を訪問しましたが、グルジアとのつながりができたのは、ちょっと驚きでした。1999年に、旧東ドイツのドレスデンで行われた、世界睡眠学会の学術集会で発表したのですが、その際の抄録集に私の名前を見つけた、グルジアの研究者がその後連絡をしてきました。その内容は、研究費に応募したいというものです。この研究費は、旧ソ連邦の科学技術の発展を助けるのが目的で、アメリカ合衆国、EU、そして日本が出資しています。ロシアとともに、旧ソ連邦にあった国は、この研究費に応募できるのですが、その際には、出資国に共同研究者を作らなければなりません。

グルジアの睡眠研究者は、この研究費に応募するために、日本で似たような研究をしている研究者を、ドレスデンでの学会の抄録集から探したようです。そして、私のところにメールが来ました。共同研究者になってほしいということです。確か2000年初めのことです。突然のメールで驚きましたが、内容については理解できるものでありましたし、ぜひ協力したいと思い承諾しました。その後、一ヶ月くらいして、これまた突然外務省があら電話がかかってきました。このような申請があるか、承諾しているのかという確認の電話です。承諾していることを告げると、申請は多分大丈夫だろうというような話をしていたように覚えています。その際に、私の役割について聞いたのですが、きちんと相手方が研究をしているのか、定期的に審査をしてほしいということでした。また必要がああれば、グルジアを訪問して、研究の進捗を確認することも可能だという説明でした。外務省のお金で、グルジアを訪問できるのは非常にありがたいので、ぜひ訪問したいとお話した覚えがあります。

研究はその後順調に進み、翌年の9月にグルジアを訪問しようと思いました。ところが、そこで、アメリカ同時多発テロ事件が起きたのです。家族は、こんな時に海外に行くなと言いますし、私も、これはやめたほうが良さそうだと思い、グルジアに行くのはやめました。同時多発テロの他にも、グルジアはウクライナと同様に、旧ロシアとは対立関係にあり、非常に安定しているとはいえないという事情もありました。私自身は、現地の研究者が居るので、安心だろうとも思ったのですが、その時はやめました。

その後、グルジアの研究者とは、アメリカやアジアの学会で合う機会はあり、交流は深めました。しかし、なかなかグルジアには行く機会がなかったのです。2003年に早稲田大学に、移動し、その後学生とヨーロッパスポーツ科学会などにも参加するようになりました。そして、2010年トルコのAntalyaで学会が会った際、その前にグルジアを訪問することが出来ました。その時の写真です。


グルジアは、小さな国です。黒海の東側に位置していて、首都はトビリシ。コーカサスの長寿国としても有名です。また、柔道やレスリングも盛んです。実は、このつながりを利用して、オリンピック候補の選手のグルジアでの出稽古先を探したこともありました。

経済は、まだまだです。この写真は国立ベリタシビリ生理学研究所の前でとった写真ですが、研究所も、必ずしも非常に良い機材が備わっているとも言えませんでした。しかし、人々は非常に親切で、自分たちの国を自分たちで作っていこうという気概が感じられました。こういう、中央アジアに近い国に行くと、言語、宗教、分化が民族を作り、その民族がひとつの土地を守っていこうという現実が、身を持って体験できます。グルジア語は、旧ソ連邦の時にも国の言語として守られたということでした。自分たちの土地を決して人に渡さないという気概は、訪問中も強く感じられました。

この国は、シルクロードの経由地でもあります。そういったことで、例えば、食事などでも、小籠包のような食べ物がグルジアの食べ物としてあります。ヒンカリという名前の食べ物ですが、非常に美味しいです。この専門店にも連れ行って頂いて、たくさん食べました。



このようなことで、私はグルジア科学アカデミーの外国人会員のさせていただいたわけです。

2014年4月7日月曜日

新学期

私の本職は早稲田大学の教員なので、今日から講義が始まります。大学の休みは長いですが、教員は研究指導もしているので、休み中も大学には行きます。また、この冬休み中も2月は入学試験の仕事などもあり、3月はちょっとホッとしたところです。しかし、全体を見渡せば、大学教員の時間はかなり自由です。労働時間についても、大学教員の場合は、月間の残業何時間というような計算はできません。それで、裁量労働制というのが適用されているようです。これについては、異論もあるようですが、自由度が高い仕事ではあるので、タイムカードはうまくいかないように思います。裁量労働制については、私もあまりよく知りませんが、現状で私自身はあまり不満はありません。

いずれにしても、必ずしも暇ではありませんが、自由度が高いのは確かです。

授業期間がはじまると、しかし、制約は多くなります。私はなるべく一日を有効に使うために、1限目の講義を多く入れているのですが、そうすると、家を出る時刻が早い時刻に決まるので、生活は少し変わります。

授業が始まると、この準備などで期限付きでやることは増えるのですが、授業そのものは好きです。学生に講義をすることは、うまく教えた時には達成感がありますし、講義の最後にはリアクションペーパーを出してもらうようにしているのですが、その中で、この部分が面白かったなどと書いてあるものが多くあると、より満足感も大きいです。

講義の回数は、文科省の規定で、半期(セメスター制)で15回と決められています。15週間講義をすると、夏休みが来るわけです。この期間も、長いようで短いというか、10回を過ぎると、そろそろもう夏休みだなぁという気分になってくるわけです。

さて、今日から気を入れて講義を開始します。

2014年4月6日日曜日

ブルーライト(青白光)をカットし、睡眠が改善 (白内障治療で眼内レンズ)

青白い色の光(ブルーライト)が、生物時計に作用して、リズムの位相を変化させるということが知られています。早朝に強い光を浴びることで、早寝早起き方向にリズムは変化し(位相の前進)、夜遅くに強い光を浴びると、リズムは夜更かし朝寝坊方向にリズムが変化します(位相の後退)。これに関連して興味深い論文を見つけたので、紹介しましょう(末尾参考文献)。

これは、中国の研究者の論文で、高齢者の白内障の手術の際、白内障でくもった硝子体(眼球の中のレンズ)を人工レンズに入れ替える手術があり、これは日本でもよく行われていますが、その際に透明なレンズでなく、ブルーライトをカットする眼内レンズを入れたところ、睡眠が改善したというものです。睡眠の質の評価は、ピッツバーグ睡眠の質質問票で行っていて、これが有意に改善したと報告しています。

夜間、光、特に青白い色の光は、脳の活動を刺激し、また生体リズムにも影響を与えて入眠しにくくなることが知られています。したがって、不眠症の患者さんに対しては、夜間の照明を電灯色(オレンジ色、あるいは褐色光)にして、あまり明るくしないようにおすすめしています。一般に日本の家庭は、欧米に比べて夜間の照明が明るいですね。これをもう少し暗くするということです。

このほか、ブルーライトをカットするサングラスをかけることも良いと思います。家族で暮らしている人たちは、ちょっと抵抗があるかもしれませんが、一人暮らしであれば周りを気にせずこれをやれますね。これは、コンピュータやスマートホンの画面から出てくるブルーライトもカットしてくれるので、良いと思います。

例えばこれです。
ブルーライト メガネ


それから、コンピュータの画面からブルーライトをカットしてくれるソフトウェアもあります。
例えば

f.lux というソフトウェア

これは、Windows, Mac, Linux, iphoneなどのバージョンが有るようです。

Android用には、私は、Twilight というのを使っています。

ブルーライトの影響は、様々な研究が裏付けているところですので、ぜひ試してみてください。

【参考文献】
Wei X; She C; Chen D; Yan F; Zeng J; Zeng L; Wang L. Blue-light-blocking intraocular lens implantation improves the sleep quality of cataract patients. J Clin Sleep Med 2013;9(8):741-745.



2014年4月5日土曜日

王立精神科医学会 「こころの健康ガイド」

ある調べ物をしていたら、下記のURLを見つけました。

http://www.rcpsych.ac.uk/healthadvice/translations/japanese.aspx

王立精神科医学会 「こころの健康ガイド」というものです。このページの内容は、精神医学の広い範囲にわたって、専門家でない一般の人向けに書かれています。それぞれの項目も、わかりやすく、QアンドA方式が多く使われています。

こういった、一般向けのページは他にも多くあります。

日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/forpublic/index.html

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/first/index.html

しかし、このページの驚くべきことは、イギリスの王立精神医学会が、自動翻訳でなく日本語でも解説をしているところです。日本語だけではありません、中国語、フランス語、ドイツ語、ヒンドゥー語、アラビア語などさまざまな言語で書かれています。それぞれの言語向けの詳しさはいろいろのようですが、それでも自動翻訳でなく、それぞれの言語向けにどなたかが翻訳活動をしているようです。

このようなアイディアは日本にはありません。歴史の中で一時期は、世界を征服していたイギリスの歴史的背景が大きく関係しているのだと思います。征服するだけでなく、その地域へリーダーとして貢献する。このような視点は、日本が学んでいくべきところだとも思います。

二つのことを考えました。
1.メンタルヘルスに関連したこのサイトはわかりやすく参考になる。
2.世界のリーダーを育てる教育を早稲田大学でするのであれば、このような発想が必要であろうと思われる。

我々の早稲田大学の研究室はこのような国際貢献をどのくらいしているでしょうか。
1.イスラエルの研究者の博士取得について共同研究
2.台湾からの博士課程留学生の教育
3.中国吉林大学との連携
4.(個人的)インド睡眠医学ファカルティースタッフとして睡眠教育への貢献
5.(個人的)グルジア科学アカデミー外国人会員として、グルジア睡眠医学への貢献

昨今の東アジア国際関係は、必ずしも良好とは言えませんが、各個人でこういった貢献を通じて、交流が進められると良いと思いました。

2014年4月4日金曜日

朝型夜型質問紙

あなたは、朝型ですか?それとも夜型ですか?朝早く起きていろいろな活動をすることが得意な人が居る一方で、夜になると元気になるので、つい夜更かししてしまう。夜のほうが集中できて仕事がはかどる。いろいろな人がいると思います。

早寝早起きが得意な人を朝型、夜更かし朝寝坊が得意な人を夜型と言っていますが、朝型夜型を判定する標準的な質問紙があります。海外で作られたものですが、これを日本語に訳した標準的なものが多く使われています。精神神経医療研究センターのサイトに、点数を自動計算してくれるものがありますので、まずはやってみてはいかがでしょうか。

http://www.sleepmed.jp/q/meq/meq_form.php

私が行った結果を下記に示します。私は、朝型のようです。以前は、睡眠研究をしていて夜遅くまで起きていることが多かったので、夜型でしたが、最近は朝型生活が身についている気もします。


このような、朝型夜型というのはどういうふうに決まるのでしょうか。その人の性格的な問題でしょうか、それとも社会的に従わざるをえない生活上のスケジュールが作るものでしょうか、あるいは体質(遺伝的な背景)でしょうか。結論から言うと、どれも関係があるのですが、遺伝的な背景も関連があると考えられています。

生物時計の仕組みのところでも述べたように、人はそれぞれ生物時計の一日の長さが微妙に異なっています。多くの人は、24時間よりも長めですが、24時間よりも短い人もいることが知られています。このような違いが朝型夜型に関連していると考えられています。例えば、24時間より長い人は、今日夜の11時に寝たとすると、次の日に眠くなるのは11時よりもあとになります。そうすると、寝る時間になっても眠気が来ないので、何か別のことをしようと思い、次第に夜更かしになってきます。つまり、夜型です。一方で、24時間より短いとすると、昨日よりも早い時刻に眠くなってきます。そうすると、次第に早寝になります。つまり、朝型です。このような固有の生物時計の長さと、朝型夜型の関係については、Duffyという研究者たちが2001年に実験結果として、固有の生物時計の一日の長さが短いほど朝型になることを示しています。

夜更かし型の人は、性格的な問題もあるのかとつい思いますが、そのような要素はあるにしても、生物時計という体質的な問題も多く関わっているのは不思議なことですね。

2014年4月3日木曜日

生物時計の仕組み

体のリズム、特に24時間の生物リズム(サーカディアンリズム、概日リズム)を司っている生物時計はどのような仕組みで動いているのでしょうか。体の中に、腕時計のような時計があるわけではありません。生物のどのような仕組みが、時計として働いているのかについて解説したいと思います。

まず、生物時計の本体は、脳にあります。脳の視交叉上核という場所ですが、視交叉というのは眼の網膜から出ている視神経が、反対側の後頭葉の一次視覚野につながっているのですが、右の目から左の後頭葉、左の眼から右の後頭葉に繋がる2つの視神経が交差した場所です。(視神経のつながり方はちょっと複雑なので、興味のある方は調べてみてください。)脳の中では目の高さで、真ん中よりも少し前の脳の奥の方にあります。この視交叉の上にあるのが、視交叉上核です。

さて、視交叉上核には時計があるのですが、一体どんな時計があるのでしょうか。下記に示したのが、単純化した生物時計の本体なのですが、この図ではわかりにくいので、非常に単純化して説明しますと…下記のようになります。





http://bmb.oxfordjournals.org/content/86/1/23/F1.expansion


<単純化した説明>
まず、あるタンパク質が作られる仕組みが動き出す。このタンパク質は、作る仕組みに抑制をかける働きを持っている。そうすると、ある程度の量までタンパク質が作られるとこの抑制機構が働いてタンパク質の合成をしないように命令する。その結果、タンパク質が作られる量が減少してしまう。そうすると、また抑制がとれてたくさん作るようになる。そのような中で、下記のようにタンパク質の量が一定幅で多くなったり少なくなったりする波が生まれる。この波の周期がほぼ一定で、これが時計として働いている。


http://mathsisinteresting.blogspot.jp/2008/08/how-to-sketch-trigonometric-graph.html


理解できたでしょうか。このように、物質がつくられ、それが増えると作る量が減り、作る量が減るとまたたくさん作るようになってくるという仕組みが生物時計の本態です。こう考えると、背の高い人、低い人がいたり、脂性の人と乾燥肌の人がいるように、このタンパク質を作る能力が比較的高い人と、そうでない人が居たり、抑制の感受性にちがいがあったりすることも容易に想像できます。このような生物時計の本来の周期をみるには、洞窟のような外部の時間や昼夜のわからない場所に連れて行って、時計なしで生活をさせる方法がとられています。そうすると、その人本来の生物時計の周期で生活するようになるわけです。

いろいろな研究を見ると、多くの人の、生物時計本来のリズムは24時間よりも長いようですが、最近の研究では、24時間よりも短い周期をもっている人もいることが分かっています。このような周期の幅があっても、24時間で生活できるのは、光や社会的な時間によって、生体時計がリセットされるという仕組みがあるからであると考えられています。

2014年4月2日水曜日

青魚に含まれるオメガ3脂肪酸(DHA、EPA)とうつ病

うつ病が生活習慣と関連していることは、臨床の場でも患者さんに強調してお話しています。独身で夜遅くまで仕事をしている方などは、運動、睡眠、食事のどれをとっても、好ましいとは言えない生活をしている方が多く居ます。「運動はほとんどしなくなっちゃいましたねぇ。」「だいたい4時間位眠れると良い方です。休みの日は結構殆ど寝てます。」「パンとかコンビニのお弁当とかになっちゃいますかね。」という具合です。これらを改善するだけでも、うつ病にたいしての抵抗性を増すことが確実にできると私は思っています。

その中で、うつ病の運動療法はあべクリニックで実践していますし早稲田大学のスポーツ科学学術院の研究としても行っています。睡眠に関しては、睡眠医療認定医として、あるいは前職の東京都精神医学総合研究所睡眠障害研究部門長として長く研究してきましたし、その重要性も臨床の場で強調しています。しかし、栄養に関しては、私自身は現在勉強中というところです。バランスの良い食事を、決まった時間にしっかり食べるということは、生体リズムという側面からも重要です。また、食物に含まれる成分も、精神活動に影響があると考えられています。栄養が精神症状に与える影響については、これまでにも研究がありますが、最近「オメガ3脂肪酸(DHA、EPA)とうつ病」についての論文を読みましたので紹介したいと思います。オメガ3脂肪酸は、青魚などに多く含まれている物質で、体に良いものであることは間違いありません。この製剤は、現在は高脂血症治療薬として用いられています。代表的な製品は、武田薬品のロトリガです。

MH Bloch and J Hannestad, Omega-3 fatty acids for the treatment of depression: systematic review and meta-analysis. Molecular Psychiatry (2012) 17, 1272–1282

2年前の論文ですので比較的新しいものです。

脂肪酸は、神経細胞の膜を構成しており、これらにはオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸があります。典型的な西欧の食事はオメガ6脂肪酸が多く、これが多いと、細胞膜の炎症性メディエーターを多く産生する結果になり、細胞を傷めます。一方で、オメガ3脂肪酸は抗炎症作用がありこれによって、細胞膜が安定します。これまでの動物実験による研究でも、オメガ3脂肪酸が、セロトニンやドパミンの神経伝達に影響をあたえることが報告されているようです。また、疫学研究でも(オメガ3脂肪酸を多く含む)魚を多くとっている人たちは、うつ病の発症が少ないという報告があります(Hibbeln JR. Fish consumption and major depression. Lancet 1998; 351: 1213.)。そういったことから、実際にオメガ3脂肪酸を投与して、うつ病の症状が改善したかどうかをみた研究がこれまでにもなされてきました。この論文は、これまでの多くの研究を総合的に解析しなおして、全体として効果があるのかを明らかにするメタ分析研究を行ったものです。

結論から言うと、オメガ3脂肪酸がうつ病の治療に効果は、殆どありませんでした。もう少し正確にこの論文の結論を表現すると"Current published trials suggest a small, non-significant benefit of omega-3 FAs for major depression."= これまでの論文を総合的に検討すると、うつ病に対しては、小さな有意とはいえない効果しかない、ということになります。

私自身は、オメガ3脂肪酸の効果はこのような研究デザインでは必ずしも十分に明らかにならないのではないかと思いました。こういった食品は、薬と同じようなデザインで研究をするのは良くないと思います。むしろ、食事として魚を多く食べるという生活習慣のなかで、うつ病の発症率をみるのが良いように思います。もし、製剤を使うのであれば、正常な人多数に、毎日習慣的に投与して、そうでない人の青魚摂取などもモニターした上で、薬物投与群でうつ病の発症が少ないかどうかをみるようなデザインが良いわけです。これは、相当大変な研究です。私は、オメガ3脂肪酸はうつ状態が発症したあと、この治療に良いかどうかはまだわかりませんが、疫学研究の結果などから、うつ病になりにくい身体を作ったり、あるいは、寛解状態になったあと良い状態を維持するためには効果がある可能性があるのではないかと思っています。

実際に医療の現場では、オメガ3脂肪酸だけの効果を見ることはしません。生活指導として、運動、睡眠、食事の全てについての構えを指導します。したがって、それらのどの効果が良いのかを明らかにする研究的アプローチとは異なっています。これらを総合的に行う中で、うつ病の患者さんであれば再発の少ない生活の助けになることはあるのではないかと考えています。



2014年4月1日火曜日

日本睡眠学会

睡眠に関しての研究を発表する場である、睡眠学会は世界中の国にあります。アメリカとヨーロッパのほか、日本における睡眠研究も世界の中でかなり早くから行われてきています。日本睡眠学会は、1977.12.03に私の恩師でもある島薗安雄先生が第1回の学術大会を開催しています。医学における睡眠医学は、重要な分野ではありますが、医療が十分に整備されていない国においては、優先課題とはいえません。優先課題は、感染症予防・治療、周産期医学、栄養の問題などです。これらが整った上で、睡眠の問題が課題として出てくるわけです。もちろん、そういった国でも睡眠の問題がないわけではありませううが、多くの場合限られた予算ではそれ以外の優先事項が取り上げられるという意味です。

現在は、私は日本睡眠学会の評議員をしています。

日本睡眠学会の活動は、睡眠に関連した研究活動の交流の場である他に、睡眠医療に関連した資格をの認定も行っています。睡眠医療の現場には、様々な専門家が必要になります。このよな専門家を学会が認定しています。学会の規約を引用すると下記のように書かれています。

睡眠医療認定医師(略称:学会認定医)、睡眠医療認定歯科医師(略称:学会認定歯科医)、睡眠医療認定検査技師(略称:学会認定検査技師)、および、睡眠医療認定医療機関(略称:学会認定医療機関)を認定する制度を設ける。

私は、この中で、睡眠医療認定医師です。歯科医師の方々は主には睡眠時無呼吸症候群の治療にあたっています。例えば、いびきを防止するマウスピースを作成するなどです。私も、軽症の睡眠時無呼吸症候群と診断された方には、マウスピースを作成する歯科医院を紹介したりいたします。

検査技師は、終夜睡眠ポリグラフィー検査を行います。この検査は、睡眠専門外来をもった病院や、クリニックなどの専門医療機関で、入院して夜間睡眠を検査したり、データの解析を行います。この作業には専門的な知識を要します。

また、睡眠医療に関連した検査や診断治療ができる医師、検査技師、施設をもっているかどうかを認定する睡眠医療認定機関の認定も行っています。

このような、専門家や医療機関がどこにあるのかは、

http://www.jssr.jp/data/list.html

上記のURLに掲載されています。私も、内田 直 医-0077-2 讃友会 あべクリニックと、掲載されています。専門医療機関でなくても、専門医が居る医療機関に受診すれば、専門的な診断を受けることが可能です。また、専門的な検査は他の専門医療機関と連携して検査を受けられるようにもなっています。あべクリニックの場合は、虎の門病院睡眠センターや所沢の平沢記念病院と連携して、必要な患者さんはそちらで検査をうけてもらい、結果を検査を行った病院とあべクリニックの双方で判定して、治療を行うという方法をとっています。