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2016年5月2日月曜日

生活習慣病予防の歩数の目安 (日経記事)

歩いて病気予防、目安は?
やりすぎると免疫力低下
糖尿病なら1日8000歩、早歩きで負荷プラス

上記のような、日経の記事が出ていました。有料記事でないと思いますので、どなたでも読めるのではないでしょうか。

これをみると、やはり歩く習慣をつけるのは良いということが書かれています。しかし、やり過ぎると免疫力が低下するということですが、やり過ぎるというのは相当の距離を毎日歩くというような意味です。勿論、体力の個人差がありますから、何キロ歩いたらということはありませんが、例えばフルマラソンを走った後は風邪を引きやすくなります。そう考えると、毎日へとへとになるほど歩くのは良くないかもしれません。

一方で、トレーニングをすると体力がつくので、次第に同じ距離でも負荷が少なくなってきます。このようなことについても考えることも必要だと思います。この記事では、その点については触れられていませんでした。

この記事の中でインタビューされている赤間教授は私の同僚ですが、ご自身も運動されて減量されていました。やはり、自分自身で具現化することが大事ですね。

さて、記事の中の図をみると、それぞれの疾患と歩数が書いてありますが、その中で私の専門のものだけについて批評します。うつ病の予防の歩数が4000歩というのは、データとしては見たことはありません
。これまでのデータをみると、うつ病の寛解状態の維持に必要な運動量は、一週間に150時間程度です。150時間というのは、一日20分から30分、毎日運動するというものです。ここに掲載した図をみてください。私が講演で使うスライドの一つです。図のHoffmannらの研究の結果をみると、自己申告で週に150時間以上運動すると、気分尺度であるHAM-Dスコアも改善しますし、寛解維持率も高い状態となります。

一日4000歩がこれに当たるかどうかはわかりませんが、しかし、このような目安をもって運動を推奨するということは、素晴らしいことです。

このブログでは何度も繰り返していますが、是非運動習慣を継続しましょう!

2016年3月19日土曜日

うつ病の運動療法 (2) 介入効果の判定


うつ病の運動療法に関して、総説を書く機会が得られました。そこで、Exercise と Depressionをキーワードとして、最近の臨床研究を調べなおしてみました。新しいこの総説は、出版されてしばらくしたら、ここで読めるようにしても良いかとも思っています。

この総説には含めませんでしたが、少し面白い文献があったので紹介します。2005年に発表された、イリノイ大学のキネシオロジーのグループの論文です。論文では、174名のもともと運動習慣がなかった高齢者に対して、運動介入をしました。

運動は、6ヶ月間のウォーキング あるいは 低強度の筋肉トレーニングとストレッチ です。対象となった174名を2つの群にわけて、このどちらかの運動をさせたということです。

結果としては、どちらの群も介入を初めて、すぐにうつスコアは改善し、これは開始後60ヶ月でも継続していたということでした。運動の種類は、この改善に関連がなく、どちらの運動群も同様の改善が見られたということです。

このような結果を見て思うのは、SEDENTARY(座ってばかりの習慣)な人たちは、まずは精神的に抑うつ的になりがちだということ。それに対して、運動介入はこれを改善する効果があるということです。しかしながら、ここで運動介入は、運動したことが良かったのか、実際に心拍数が上がるなどの身体的な改善効果が効果的なのか、身体運動という介入方法が良い効果をあたえるのか(これはわかりにくいかもしれませんが、運動に関わる介入はたとえ心拍数がそれほど上がらなくても、様々な身体の部位に刺激をあたえることになるのと、その場面の様子も他の介入、たとえば認知療法とは異なったものになるとうことです)、はまだ良くわからないという気もします。

こういった論文は、興味深いですが、上記のような切り分けができる研究をしていかないと、何がうつ状態の改善に良いのかはよくわかりません。よくわからなければ、応用もできないということです。そういう意味で、この論文は今回の総説には取り上げなかったということもあります。


<引用した論文>
Depressive Symptoms Among Older Adults: Long-Term Reduction After a Physical Activity Intervention

Motl, Robert W.; Konopack, James F.; McAuley, Edward; Elavsky, Steriani; Jerome, Gerald J.; Marquez, David X.

Journal of Behavioral Medicine;Aug2005, Vol. 28 Issue 4, p385

ABSTRACT:  We examined the effects of two physical activity modes on depressive symptoms over a 5-year period among older adults and change in physical self-esteem as a mediator of changes in depressive symptoms. Formerly sedentary, older adults ( N = 174) were randomly assigned into 6-month conditions of either walking or low-intensity resistance/flexibility training. Depressive symptoms and physical self-esteem were measured before and after the 6-month intervention, and 12 and 60 months after intervention initiation. Depressive symptoms scores were decreased immediately after the intervention, followed by a sustained reduction for 12 and 60 months after intervention initiation; there was no differential pattern of change between the physical activity modes. Change in physical self-esteem predicted change in depressive symptoms. This study supports the effectiveness of an exercise intervention for the sustained reduction of depressive symptoms among sedentary older adults and physical self-esteem as a potential mediator of this effect.

2016年2月15日月曜日

NHK TVシンポジウム「うつ病と躁うつ病 ~当事者とともに考える~」

昨年10月18日に東京で行われた、NHK主催のフォーラムが、下記に放送されます。フォーラムでは、帝京大学溝の口病院教授の張先生、杏林大学名誉教授の田口先生と、双極性障害の当事者の方々と様々なディスカッションを行いました。

精神的な疾患を持ちながらも、価値ある人生を送る。そういうことについて、非常に多くを学ぶことができたフォーラムでした。

お時間があれば、是非御覧ください。 

日時:2016年2月20日(土) NHK Eテレ 14:00-14:59
 タイトル:TVシンポジウム「うつ病と躁うつ病 ~当事者とともに考える~」


番組情報

TVシンポジウム「うつ病と躁(そう)うつ病~当事者とともに考える~」 ウェブ検索
2/20 (Sat) 14:00 ~ 15:00 (60分) この時間帯の番組表
NHKEテレ1・盛岡(Ch.2)
ドキュメンタリー/教養 - インタビュー・討論 , 情報/ワイドショー - 健康・医療

番組概要

うつ病や躁(そう)うつ病の当事者本人の声を聞きながら、家族や専門家とともに、自分らしく生きていくためにはどうしたらよいのかを考えるパネルディスカッション。

番組詳細

うつ病や躁(そう)うつ病と診断された後も、自分らしく生きていくためにはどうしたらよいのか。当事者本人の声に耳を傾けながら、家族や専門家とともに考えるパネルディスカッションの模様を伝える。討論の中では、薬を減らしながら症状を改善していく「引く治療」、人や地域との関わりを増やしながら回復を目指す取り組みなども紹介する。

【パネリスト】帝京大学医学部教授…張賢徳,杏林大学名誉教授…田島治,早稲田大学スポーツ科学学術院教授…内田直,【司会】福祉ジャーナリスト…町永俊雄
HD 16:9 コピー可

2015年10月22日木曜日

文献:うつ病治療におけるオメガ3系脂肪酸のエビデンス(西、松岡 臨床精神薬理 2012)

以前にも、オメガ3系脂肪酸の抗うつ効果についてこのブログに書いたことがあります。最近、表題の論文を読む機会があり、これについて紹介したいと思います、

この総説論文によって、自分自身が新しく得た知識としては、DHA, EPAというオメガ3系脂肪酸のうつ病に対する効果としては、女性に効果があり、男性では効果が見られないという性差があるということです。しかし、報告によっては男性で効果があるというものも有り、まだ今後のさらなる知見が必要とされる段階であるようです。

また、オメガ3系脂肪酸の抗うつ効果についての、ランダム化比較試験(RCT)の論文を集めて、総合的に統計処理をするメタアナリシスの最近の論文では、オメガ3系脂肪酸の抗うつ効果については、有効であると結論づけています。この中では、DHAよりもEPAがより抗うつ効果として有効であることも示されています。(EPAが60%以上含まれているサプリメントを使用した場合有効。)

さて、それではこのようなオメガ3系脂肪酸がどのような機序で、抗うつ効果を発揮しているのかについて疑問が湧くわけですが、これについては、まだあまりはっきりとはわかっていないようです。仮説として有力なものは示されているので、列挙すると…。

1.抗炎症作用
2.神経新生の活性化など神経細胞への影響
3.セロトニン代謝への影響
4.CRFの調整 (CRF=corticotropin-releasing factor)の調整
5.Protein Kinase Cの阻害
6.HRV(心拍変動)の調整
7.シナプス形成の亢進
8.脳血流量の改善

等が挙げられています。

まだ、メカニズムもわかっておらず、エビデンスとしてもまだ不安定な要素のあるものでは有りますが、やはり食事というのは精神衛生に対して影響を与える者の一つであることは間違いないと思います。今後も、研究の動向に注目していきたいトピックの一つだと思っています。

2015年10月11日日曜日

TV出演 報道ライブ21 INsideOUT 10月12日午後9時

明日10月12日午後9時に、報道ライブ21INsideOUTに出演して、露木さんとお話します。

内容は、運動と脳の健康についてです。

私自身は、うつ病の運動療法についての可能性を主にお話したいと思っていますが、番組としては認知症の治療予防について興味が有るようです。この治験は、まだ限定的なものですが、これについても触れたいと思っています。

更には、運動のし過ぎによる脳へのダメージとしてオーバートレーニング症候群についても言及されるかもしれません

ぜひご覧ください。

2015年10月2日金曜日

ランニングが命を救った(うつ病の運動療法) The Guardianの記事

イギリスの大手新聞「ガーディアン」に、運動療法によって命が救われたという患者さんの記事が出ていました。これについて紹介したいと思います。Runnning Saved My Life (ランニングが私の命を救ってくれた)というこの記事は、運動によってうつ状態が改善したことを綴っています。どん底にあった自分の状態から、ウォーキングを始め、次第にランニングをするようになり、生活に光が差してきた様子が、自分の体験からありありと書かれています。

MyFitnessPalとRunKeeperという2つのアプリを使っているという話も書かれていますが、このうちRunKeeperは私も使っています。なかなかよいアプリです。

この文章の最後には、何と村上春樹が引用されていて、ほとんどのランナーは長生きするために走っているのではない、ただ単に充実した人生を送りたいからだ(Back Translation)と書かれています。

最近は、生活習慣からうつをなおすという話を時々講演でしていますが、これは本当のことだと思っています。生活の三要素、運動、睡眠、食事の中で、運動は睡眠を改善し、食欲を増すという意味でもっとも重要なものではないでしょうか。

こういった、うつ病に関わる運動療法は徐々に普及してきています。現在、私もうつ病、双極性障害に関する市民フォーラムで話をする予定が有り、その準備を進めていますが、これについてもまたご紹介したいと思っています。

2015年6月22日月曜日

うつ病と肥満 (Psychiatric Times)

Psychiatric Timesにうつ病と肥満についての記事が出ていました。非常に興味深いポイントを指摘しているので、取り上げてみました。主には、APAにおける、Julio Licinio, 医師による発表を元にしているようです。

うつ病と糖尿病の関係についてのポイントは、

• 2つの疾患は頻繁に共存する。疫学研究は、これら2つの疾患は双方向に影響を与えているということを示唆しています。
• 抗うつ薬は、体重増加をもたらす。
• ストレスは、うつ病と肥満を引き起こす可能性がある。そして両方が、心血管障害の悪化因子である。
• 両疾患にかかる医療費が莫大なものである。


ということです。いくつかの関連のバックグラウンドとしては、

1.グルココルチコイドの上昇
この両者については、ストレスが両者の発症に関わっているということが共通しています。ストレスによって、グルココルチコイドが上昇することが、ひとつは海馬のCA3領域の神経末端の萎縮をおこさせるということ。もう一つは、糖尿病と関連してグルココルチコイドの持続的上昇が耐糖能低下を起こさせるということです。

2.レプチンの減少
レプチンは、脂肪細胞から賛成されるペプチドホルモンですが、これは視床下部に働いて満腹感を与える働きをもっています。うつ病やストレスに暴露した動物の実験で、レプチンの量が減少しているということも知られていて、うつ病の病態に関連しているとも考えられています。さらに、レプチン欠損マウスでは脳重量および皮質のボリュームが低下していることも示されています。

3.肥満した人でのレプチンの働き
レプチンは脂肪細胞からつくられるので、肥満した人ではレプチンが多く、満腹感をもって食欲が減少するように思われますが、肥満した人では、血液脳関門におけるレプチンの輸送がうまく行かず、脳内のレプチンの働きが低下しているということも実験的には示唆されています。

4.抗うつ薬による体重増加
抗うつ薬は、多分抹消におけるIGF-1の上昇を介して、体重増加をもたらす副作用があることが知られています。また、Licinio医師は、短期間抗うつ薬を服用しても、その後も体重増加の影響が残ることを指摘しています。


うつ病の患者さんは多く居ますが、抗うつ薬による肥満、そして糖尿病の発症、あるいは悪化などについても、臨床の中では常に頭において置かなければならない問題だろうと思います。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ

2015年5月22日金曜日

知っていますか? 五月病とうつ病の違い (日経記事)

先日、日経の記事に表題のようなものがありました。結論から言うと、良い記事だなと思いました。第一印象では、五月病とうつ病の違いというのを読んで、それはいろいろ違うだろうなと思ったのですが、どういうことを書いてあるのかについて、興味がそそられました。

五月病と呼ばれるものは、4月に新しく学校に行き始めたり、仕事を始めたところ、5月ころに元気がなくなり無気力になってくるというのが大雑把な経過だと思います。このような状態の多くは、この記事にも書かれているように「適応障害」と呼ばれているものです。適応障害の診断は、大まかには


  • 明らかなストレス因子があり、それが生じた3カ月以内に症状が出現している
  • 症状が通常予測されるよりも強い苦痛を与え社会的・職業的機能に障害を与えている
  • 他の精神疾患の診断基準を満たしていない、そしてすでに存在している精神疾患の単なる悪化ではない
  • 死別反応ではない
  • 因子が消失した6カ月以内に症状が改善される

日経記事の写真(リンクしたものです)
というようなものです。4月に学校や新しい職場に入り、三ヶ月以内に症状が出現し、本人が苦痛に感じて、社会的機能や職業的機能に問題が生ずるということですので、まさに五月病にはピッタリと当てはまります。しかし、少しだけ注意が必要なのは、症状としては必ずしもうつ状態が出てくるとは限らないということです。適応障害の診断基準の中には、うつ状態になることが必須ではありません。抑うつや不安は多い症状ですが、その他の症状でも適応障害の診断はできます。また、因子を消失させれば症状が改善されるということも大切です。

先日書いた、古茶先生の文章を読んで思うのは、ここで他の精神疾患の診断基準として、うつ病の診断基準を満たしていれば、適応障害とはならないということです。両方の診断名を併記することは、ここではありえません。しかし、このあたりの診断は意外と曖昧になっている可能性もあります。

それからら、五月病でもう一つ思うのは、それまで学生だった人が、4月から新入社員として就職した場合に、発達障害などの問題が表面化して非常にストレスを感じるようになるという場合です。このような場合は、単に適応障害とだけ診断して治療したのでは、根本的な解決にはなりません。むしろ、今後の人生についてどのように社会に適応していくのかということについて、時間をかけながら共同作業で探していくような治療が必要になると思います。


2015年4月15日水曜日

うつ病の精神病理学、概念の変化

病院にはいろいろなところから、情報誌が持ち込まれますが、最近、Depression Strategyという先端医学社の情報誌をいただきました。 この中に、下記の文章が有り、これがとてもおもしろかったので紹介したいと思います。


著者の古茶先生は、若手の精神病理学者で、私も直接講演を聞く機会が以前あった方です。慶応大学の精神科で仕事をしておられます。病理学というと、脳の切片でも見ているような仕事と思われる方も居るかもしれませんが、精神病理学というのは、精神の様々な現象を詳細に観察し、精神疾患に潜む精神現象のメカニズムを明らかにするというような学問です。哲学の影響を受けたり、精神分析学の影響を受けたりで、どちらかと言えば、文系の考え方と行っても良いかもしれません。しかし、こういった考え方の研究をしている人は、非常に詳細に患者さんを観察しますし、患者さんの言動についても詳細に分析するので、臨床的には非常に役に立つ研究であると思っています。

古茶先生は、この論文でいくつも興味深いことを言っておられますが、ひとつは、正常の悲しみをうつ病と過剰診断してしまう可能性についてです。これは、精神科以外の人から見れば、「精神科がそんなバカな」と思うかもしれませんが、薬に頼りすぎている精神科医にはそういうミスを犯す可能性はあると思います。

更に現在のうつ病概念の問題点として、3つのポイントをあげています。
1.体験反応(心因反応)の混入
2.「精神病理性」「妄想性」うつ病の位置づけ
3.仮面うつ病を見落とす可能性

これらのポイントは非常に興味深いです。詳しくは、古茶先生のオリジナルを呼んでいただきたいと思うのですが、1.の中で触れている「はて、心理的ストレスは、いつから’うつ病の主たる原因’となったのであろうか。(原文では、’ ’内は傍点)」という一節は、はっとさせられます。確かに、うつ病は、内因性精神疾患の一つと考えられていました。もし、ストレスが原因であれば、心因反応とされるべきなのでしょう。このような、精神疾患の病因に関わる議論は最近なされなくなってきているかもしれません。これは、古茶先生の文章にも述べられているように、DSMなどの操作的診断が用いられるようになってきたのが一因だと思います。

私も、うつ病が内因性かストレスによる心因性かについての概念は大学で講義をしながら、やや説明が曖昧になってしまっています。現代のクリニックに来る多くの患者さんは、職場でのストレスからうつ病になっているケースです。しかし、大きなストレス要因がはっきりしないながら、うつ状態を呈する人も居ます。内因性のうつ病(メランコリー型うつ病製障害)というものですが、これはストレス関連疾患とは必ずしも言えず、この点を鋭く指摘されていると思い、非常に興味深く読みました。

さて、巷ではDSM5が席巻しています。しかし、これにばかりとらわれて、最近の精神科医はすっかり精神病理学的考察を忘れてしまっているようにも思います。精神病理学者の書く文章は、こういう意味からも、考えさせられることが多いと思いました。なかなか、楽しめる文章でもありました。

2015年4月8日水曜日

食事と体内時計、睡眠

不眠の患者さんや、うつ病の患者さんに対しては、投薬よりもまずは生活の状況を聞いて、生活指導をするようにしています。生活指導と行っても、事細かにこうしろああしろと言うわけではなく、そのご本人の生活の様子を聞きながら、改善できる点を一緒に考えていくというような方法です。

この中で、ポイントになるのは、生活習慣の3つの要素である、運動、睡眠、食事です。このなかで、食事については私はこれまで多くの研究をしてきたわけではありません。逆に、運動と睡眠についてはかなりたくさんの研究をしました。

食事と体内時計や睡眠については、動物実験などが主体ではありますが、早稲田大学の柴田重信先生(理工学部)が良い研究をしています。彼の研究によれば、長時間空腹のあとの食事のほうが、体内時計のリセット効果は大きいということです。朝食を食べることによって、体内時計がリセットされる。リセットというのは、これから活動をするという時間帯に体の状態をセットし直すということです。この場合の食事は、炭水化物のほうが効果が大きいようです。また、この他にもインスリン分泌が体内時計のリセットに関わる。インスリン分泌にDHA, EPAが促進的に働く。DHA, EPAは炭水化物と一緒に取ると良い。などの研究成果をあげています。

また、お昼から間をあけて長く食事をせず、夜中ころに夕食をたくさん食べると、そこで体内時計がリセットされてしまうために、夜型になってしまうということもあるようです。

厚生労働省「平成21年 国民健康・栄養調査」では、朝食を食べていない人は非常に多いことがわかっています。特に男性では2割以上の人が朝食を取っていないという結果です。また、患者さんのお話をうかがうと、帰宅後23時過ぎに食事をするという人も多くいます。

このような、ことを細かく聞きながら、朝ごはんを食べるように、グラノーラなどが手軽だと薦めたりもします。また、夕食が遅くなるのであれば、帰ってからたくさん食べなくて済むように、夕方ころにも少し食事をしたほうが良いともお話します。このように、それぞれの個人にあった生活指導をしながら、長く良い状態をつくるような治療をしていくのが良いと思っています。



参考: 2013 Nichi-Iko Pharamaceutical Co., Ltd.パンフレット

2015年3月13日金曜日

腸内フローラ による うつ病治療 (1)

先日ゼミスキー合宿について書きましたが、シュプールイン苗場のオーナーである伊藤長三郎さんはとても勉強家で、健康な生活について色々と考えておられます。先日宿泊した際もちょっとご挨拶によるお酒が入ったところで、伺ったところ、「どぶろく」を振る舞っていただきました。「どぐろく」を売っているお店があるそうなのですが、そこに行ったところ高かったので自分でつくろうと思って作られたそうです。ちょっと酸っぱいながらも日本酒の香りのする独特の味わいで、意外と美味しく飲めました。

さて、その際に、NHKのテレビ番組を録画しているものがあるということで、それを見せてもらいました。NHKスペシャル「腸内フローラ 解明!驚異の細菌パワー」という番組です。その中で、腸内フローラを変えることが、うつ病の治療にも役立つという内容がありました。この事については、よく知らなかったので、調べてみました。

内容としては、マクマスター大学プレミシル・ベルチック博士が行ったマウスの実験で、活発なマウスの腸内フローラを臆病なマウスの腸内フローラと入れ替えると、臆病なマウスの行動が変わり、より活発になる(高いところからも臆病がらずすぐに降りられる)というものです。


更に調べてみるとNaverまとめというのもあって、腸内細菌はうつ病が治せる! うつ病と腸内細菌の大きな関わりについて というページにまとめが載っていました。

Scopus(文献検索エンジン)で、( TITLE-ABS-KEY ( intestinal  flora )  AND  TITLE-ABS-KEY ( depression ) ) で調べてみると、78個の文献が出てきました。

そこで、こういう場合は、Reviewを読むのが手軽で、多く引用されているものが一般には良いので、それを更に絞り込んで探してみると、下記のNature Reviews Microbiologyの論文が出てきました。

The interplay between the intestinal microbiota and the brain  (Review)
Collins, S.M. ,  Surette, M.,  Bercik, P.
Farncombe Family Digestive Health Research Institute, Department of Medicine, Faculty of Health Sciences, 1200 Main Street West, Hamilton L8N 3Z5, ON, Canada
Nature Reviews Microbiology
Volume 10, Issue 11, November 2012, Pages 735-742

抄録の中には、 gut-brain axis という言葉も出てきます。腸脳軸というものですが、これがどのように働いているのか、様々な精神疾患にどのように関わっているのかについても述べられているようです。これを手に入れて読もうとしたのですが、どうも早稲田大学はこちらには契約していないようで、やむを得ずこれに近い下記の論文を読むことにしました。

The Relationship Between Intestinal Microbiota and the Central Nervous System in Normal Gastrointestinal Function and Disease  (Article)
Collins, S.M. ,  Bercik, P.
Gastroenterology
Volume 136, Issue 6, May 2009, Pages 2003-2014

楽しみです。またレポートします。

2014年10月3日金曜日

軽症うつ病 と 薬物療法

先日日本イーライリリーの会で、大坪天平先生の「軽症うつ病に関して」というお話を伺いました。大坪先生は、多くの講演をされている先生ですが、私はこれまではWeb講演会でお話を伺ったりするくらいで、あまり直接にお話を伺う機会は少なかったように思います。今回は、「軽症うつ病に関して」という非常に自由度の高い演題でのお話で、どんな話が聞けるのかと楽しみでしたが、期待以上に共感できる話でした。

現在、うつ病の薬物療法に関しては、これまでにもこのブログでも書いてきているように、製薬会社のキャンペーンによって必要以上に抗うつ薬が用いられており、適正に使用すべきだという意見があります。さらには、製薬会社の利益供与が薬物の使用を歪めているという指摘もあります。

このようなことから、一部の文献を引用して軽症うつ病には抗うつ薬は効かないということを主張する研究者もいます。このような主張には、私は疑問を持っていました。それは、うつ病は均一な疾患ではなく、様々なタイプが混在する疾患だからです。しかし、問題はまだ研究によってその不均一性がどのような形のものがあるのかは明確になっていません。ただ現実には、ある薬物はあるタイプのうつ病には効果があるけれども、他のタイプのうつ病には効果が無いということはあると思います。抗うつ薬の効果をみる場合、うつ病のタイプを選んで、抗うつ薬の治験を行うということは通常は行わないので、そうすると効果を特定できないということも有ります。

今回の大坪先生の講演は、軽症うつ病に対して薬物が有効でないという研究は、いくつかの点で不完全な研究だという指摘をしました。それらのポイントについては、大坪先生がお書きになるものや講演を見ていただくのが一番なのですが、私が印象に残ったものは、

1.うつ病が軽症であるとしても、生物学的に病的レベルが高くないものもあれば、患者さん自身の適応性が良いために生物学的に病的レベルが高くても軽症に見えるものもあるということ。
  これは、まさにそのとおりだと思いました。特に、うつ病(だけでなく他の精神疾患もそうだと思いますが)生物的=精神的=社会的(Bio-psycho-social)な要因によって疾患が成り立っていることを考えると、やはりしっかりと症状を吟味して治療を考えることが重要であろうということはそのとおりだと思いました。

2.初期値が軽症であると、薬物効果に有意差が出にくいということ。
  これも、そうであろうと思いました。これは純粋に方法論的な指摘です。

3.薬物の効果の評価に、うつ病評価尺度の合計をつかうのはあまりよい方法でないということ。
  これについて、そうかもしれないなと思いました。

特に、1については、非常に強く共感するところで、結局のところは、軽症のうつ病に対してもしっかりと病態を見ていかなければ、いけないということです。このような視点は、しかし、薬物の過剰な使用に警鐘を鳴らす人たちも、同様に指摘している点であり、結局のところ、2つの立場は主張の方向は違っても最終的な到達点は同じと言えなくも無いようにも思います。

このような問題については、主張の方向が明確な方が、議論、特にディベートなどは面白いのですが、結局のところこのような主張を強くする先生方は、しっかりと臨床を見つめているという面もあって、到達点は同じになるということかもしれません。臨床家として最も大事なことは、自分で考え、コマーシャリズムに流されないということではないでしょうか。

2014年8月18日月曜日

うつ病リワークプログラム 再考 (1)

うつ病の患者さんが求職をして、仕事に復帰する際に、長期仕事をしていなかったためにすぐに復帰することが難し場合が多くあります。そのようなときには、会社によっては時短勤務からスタートして次第に仕事に慣れていくようなプログラムが用意されているところもあります。しかし、その場合でも、あるいはそういったプログラムが用意されていない場合には、「仕事をする練習」をしなければなりません。このように、うつ病の患者さんが長期の療養休暇から復帰する際にリワークのプログラムを行う施設が最近はできています。
このような施設の一覧は、私も準会員として個人で会員参加している「うつ病リワーク研究会」の会員施設一覧として公開されています。

うつ病リワーク研究会 リワーク施設一覧

東京には21の施設がリストされています。このプログラムについては詳細にはそれぞれの施設が工夫してやっていると思いますが、このリストからみると、

模擬業務
 オフィスワーク、プレゼンテーション、ディスカッション、ディベートトレーニング

心理教育
 疾患教育、認知行動療法、ストレス・マネジメント・プログラム、SST(ソーシャルスキルトレーニング)、,サイコドラマ、

運動プログラム
 軽運動、ヨガ、リラクゼーション

その他
 光治療
 

などに分類されます。私が面白いなと思ったのは、秋田の田代クリニックでやっている光療法です。私は田代先生のことは非常に昔から知っていて、睡眠学会で研究発表をしておられるときに盛んにディスカッションをさせて頂いていたことがあります。以前このうつ病リワーク研究会に参加した時に、久しぶりにお会いしてその後、日本スポーツ精神医学会にも参加していただくようになりました。光療法は、脳の活性化、生体リズムの調整にはとても効果があります。このような生物学的なアプローチをしている施設は他にはなく、このような生物学的な治験に基づいたプログラムも今後いろいろと開発されていくと良いと思っていいます。うつ病運動療法もその一つです。

うつ病リワークプログラムは、うつ病での療養から復職がスムーズに行くようにするために必要なプログラムなので、個々人によって必要なプログラムが異なってくるということもあると思います。私は、このような病院でやるリワークプログラムの他にも、EAP(従業員支援プログラム[Employee Assistance Program] )との関連や、うつ病運動療法プログラムとの関連があります。また、最近は、ベンチャー企業の立ち上げ支援プログラムの講師としても呼ばれました。そのようなことを考えながら、どのようなリワークプログラムが、実質的に効果があるのかを少しずつこの中で考えながら、私の考えるリワークプログラムの実践プロトタイプがどのようなものかを提案できたら良いなと思います。

2014年8月11日月曜日

SSRIによるアパシー(無気力状態)

先日、持田製薬・田辺三菱製薬・吉富薬品の主催による講演会で、東京女子医科大学講師の高橋一志のお話を聞く機会がありました。この中で、SSRIによるアパシーについてのお話があったので紹介します。SSRIの副作用として、無気力状態が作られるという事です。

文献を調べてみると、いくつかの文献が出てきます。医学文献検索サイトPubMedにて、ApathyとSSRIで検索すると、Results: 1 to 20 of 62となります。62個の文献なので、非常に確立された知見とは言えないかもしれません。もう少し詳細に調べてみようと思い、SCOPUSという文献検索サイトに行き、タイトル、アブストラクト、キーワードから検索すると、43 document resultsでした。引用数の多い上位5つを参考までにリストします。一番多いのは、103引用で前頭葉型の認知症に対してパロキセチンが認知機能を低下させるというもの。次が83引用で、抗うつ剤の潜在的な悪い副作用について、3番目にSSRI誘発性のアパシー症候群で、これが56引用です。この引用数で重要度を判定するのは適当でないかもしれませんが、非常に多く知られている知見でもないようです。

その中で、
Barnhart, W.J., Makela, E.H., Latocha, M.J.
SSRI-induced apathy syndrome: A clinical review
(2004) Journal of Psychiatric Practice, 10 (3), pp. 196-199.
を読んでみることにしました。

この文献は、これまでに出版されたSSRIによるアパシーの論文をまとめた総説です。よくまとまっていると思いました。これまでの論文は、多くがケースレポートです。つかわれていた薬剤は、fluvoxamine, fluoxetine, paroxetineなどのクラシックなSSRIです。このうち、fluoxetineはプロザックという商品名ですが、日本では発売されていません。これらの薬物を使用するなかで、うつ病の疾患としての症状でなく、薬物の副作用としてアパシーがでて来るというものです。

ここで、アパシーについての定義も紹介されています。Marin RS(1991)の定義ですが、「モチベーションが無く、これに認知障害、気分の障害、意識の低下が伴っていないもの。」という事です。意欲だけが低下しているということです。ここで、高橋先生はPainfulでないということを強調されていました。自分自身の辛さは、感じないということです。

このような病態は、前頭葉機能の低下と考えられているようです。症状からして、その可能性は十分あります。前頭葉機能低下がSSRIで起きるメカニズムは、セロトニン神経の活動の活性化によって、直接的影響があるのか、あるいは中脳のドパミン神経が関連しておきてくるのかどちらかであろうということでした。

このような状態に陥ったならば、薬物をやめるか、あるいはSSRIを補う薬物を投与するかということが書かれています。この場合、補う薬物としてはbupropionも良いようです。この薬は日本では発売されていませんが、ノルアドレナリンとドパミンの両方の再取り込み阻害作用がある薬です。つまり、セロトニンの活性化だけでなく、同時にノルアドレナリンやドパミンを活性化することでこのアパシーは改善されるということです。高橋先生は、新しく開発されたSSRI=レクサプロに変更するのも良いと紹介されました。

では、実際の臨床の場で、SSRIをSNRIに変更してアパシーが改善した場合に、これは薬物によるアパシーなのか、うつ病の残遺症状としての意欲低下がSNRIによって改善したのかは、判断できるでしょうか。これは、なかなか難しいと思います。診断をきちんとするという意味では、一旦薬をやめてみた時にこれが改善すれば、薬物によるアパシーである可能性が高いと考えて良いと思います。しかし、臨床の中で診断を優先するか治療を優先するかと言えば、治療を優先する場合のほうが多くなると思います。

何れにしても、こういうことを言っている人達がいるということは、頭に置いておいて良いと思います。そして、随分良いように思えるけれども、気力が出ないという患者さんに出会った時には、減量あるいは、SNRIへの置き換えをしていくようにしていくと良いと思いました。良い勉強ができた講演会でした。


===参考文献===
Scopus
EXPORT DATE:08 Aug 2014

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2014年8月6日水曜日

ウエアラブル デバイスで、健康管理 (Wearable Expo 2014 NYC)

朝日新聞に「ウエアラブル端末、NYに集結 健康分野に熱視線」という記事が出ていました。記事の写真には、ストーンクライサスという会社の腕時計型の活動量計が出ています。記事によれば、「歩数などの運動量や睡眠の深さ、食事の摂取量などのデータを一括管理する新型端末」だそうです。125ドルで秋には発売されるそうです。買ってみようと思っています。

ストーンクライサスの腕時計型測定器


このようなウエアラブル端末には私は非常に興味があります。これまでにもアスリートの測定をするために、アクチウォッチなどの活動量計を用いたり、うつ病の患者さんにライフコーダーという活動量計を用いたりしてきましたが、特に精神科の臨床では、このような活動量計は非常に役に立つ面があります。精神科の臨床は、例えばこのようなものです。

「◯◯さん、こんにちわ。」
「こんにちわ。」
「前回は2週間前でしたが、この2週間はいかがでしたか?」
「そうですね、処方していただいたお薬があっているようで、大分眠れるようになり、昼間の気分も改善しました。」
「それは良かったです。」
カルテに 『大分眠れる。気分も改善した。』 と書く。

このように、精神的な症状の変化は主観的に語られるものを頼りにしなければならない面が多くあるのですが、もう少し客観性をもった治療を行いたいと思っています。それで、私はしばしば患者さんに活動量計をつけてもらったり、そうでなくても、睡眠日誌や生活日誌をつけてもらったりしています。

この、ここで紹介されたストーンクライサスという会社の製品を調べてみました。

http://www.stonecrysus.com/

これが、ホームページでした。まだ、ホームページには情報がありません。
しかし、YouTubeにビデオが有りました。それと、紹介の記事も。

http://cyclestyle.net/article/2014/07/16/11691.html

うーん。良さそうですね。これを実際の臨床で無償で配って、患者さんの様子が分かるようにできないか、少し検討してみましょう…。

2014年7月11日金曜日

うつ病が寛解したら、どのくらい長く薬を飲むべきか

うつ病の患者さんが一旦寛解してから、少量の抗うつ剤を維持療法として続けていくということはよくあることです。良い状態が更に続くと、患者さんもいつまで薬を飲むのかと思うようになります。その時に、いつまで薬を飲んだら良いのかという研究を探してみると、以下の様な研究がありました。

Five-Year Outcome for Maintenance Therapies in Recurrent Depression
David J. Kupfer, MD; Ellen Frank, PhD; James M. Perel, PhD; Cleon Cornes, MD; Alan G. Mallinger, MD; Michael E. Thase, MD; Ann B. McEachran, MS; Victoria J. Grochocinski, PhD
Arch Gen Psychiatry. 1992;49(10):769-773. doi:10.1001/archpsyc.1992.01820100013002.

この研究は、この研究に先立って行われた3年間のイミプラミン(三環系抗うつ剤)と外来精神療法によって寛解した患者さんについて、その先2年間を平均200mgのイミプラミンを継続投与した場合と、プラセボに切り替えた場合の再発の度合いをみたものです。

その結果の図を示します。



これを見ると、明らかにイミプラミンを継続したほうが再発が少ないことが分かります。横軸は週が単位ですので、100週間つまり2年位フォローしているわけです。そうすると、最初が1のところから良い状態の人の割合は、プラセボを投与した場合にはどんどん減っていって、3割程度になってしまいます。

こう考えると、うつ病の患者さんが一旦回復したあとも、薬物の維持療法は続けたほうが良さそうです。

さて、ここからは私見ということで読んでほしいと思いますが、この著者のDavid Kupferは、アメリカ精神医学会のドンとも言える人で、今回のDSM-5の改訂の実行委員長、あるいは編集主任と言っても良いと思います。DSM-5についてはご存知のように様々な批判もあり、特に製薬会社との関連についての批判も多くあったところです。David Kupferは睡眠研究をやっていたということもあり、アメリカに1990年初めに住んでいた時にも学会で何度もお会いしたことがあります。私のその頃の指導者であったIrwin Feinberg先生は、David Kupferに対しては非常に批判的で、あのように製薬会社から多額のお金をもらっている人間の言うことは信じてはダメだと盛んに話していました。

この研究の方法論や結論に特段批判すべき点はありませんが、私は実感に比べて、ずいぶん再発率が高いという印象は持っています。このようなデータは当然製薬会社が薬を継続すべきであるという宣伝に使えるわけで、そのような意図がそこにあったかどうかは不明ですが、そういう視点も持っていたほうがよいかもしれません。

一方で、では寛解したら薬をやめて良いのかというと、そうとは言えないと考えています。結局のところ、自分自身は以下の様な方針でやっています。

1.寛解が最低一年は続くこと。
2.職場や家庭などの環境によるストレスがある場合に、これが改善されているかどうかを充分に知ること。
3.自分がやりすぎてしまう様な性格があるばあいは、そのことを理解して自分をコントロールできるようになるなど、本人がストレスをきちんとマネジメントできるように、変わってきているという状況があること。
4.運動療法、睡眠時間の確保、食事の改善、などを通じた生活の改善がしっかりと出来ていること。
5.自分にはうつ状態になる可能性があり、もし再発の徴候があればすぐにも来院して相談できるような、医師患者関係ができていること。
6.社交不安障害や発達障害、あるいはパーソナリティーの問題がある場合は、これをある程度、克服できる環境が出来上がっているのかどうか。

このような条件が揃っている患者さんの場合は、上記のようなデータもあることを患者さんに示し、今後少量の維持療法を続けるのかどうかを、相談します。揃っていなければ、それを改善するようにし、改善できない所があれば、薬物療法をやめることで、より日々の自覚的ストレスが高まり、再発する可能性もあることをお話します。

あとは、個々の患者さんとの相談になります。勿論、自己判断で来院されなくなる人達もいます。その場合も、再発して再来院される方も居れば、他に行ったかも知れない方も居ます。したがって、正確にいったい何%くらいの人が再発するのかはわかりません。しかし、上記のKupferらの論文で3年大丈夫だった人が薬をやめると7割がた具合悪くなるというのは、やはり割合が多いように思いました。このような研究は、是非我が国でも国立精神神経医療研究センターなどの主導でしっかりとやってほしい研究です。そのうえで、しっかりとした再発率をだし、どのような維持療法が良いのかの指針を出してほしいと考えています。

2014年6月26日木曜日

クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか イーサン・ウォッターズ

カリフォルニアによった時に、友人のローゼンリクト先生が、この本を紹介してくれました。勿論英語版ですが、和訳が出ていたのでそちらを購入してみました。この本は、アメリカ文化が世界に輸出され、世界中がアメリカナイズされているという、アメリカ人の好きそうなカテゴリーの本で、精神医学に関連した事柄が輸出されていることについての実例を4つ挙げて議論したものです。その中の一つにグラクススミスクライン(GSK)が日本にパキシルを売り込むときの戦略が取り上げられていて、とても興味深いです。



アメリカ人は、アフガンゲリラでもベースボールキャップをかぶっているとかいうようなジョークが好きです。アメリカは、驕り高ぶったところのある国なので、時に嫌気がさすこともありますが、しかし世界情勢を考えるときには外して考えたり、全く否定したりもできない国です。集団的自衛権の議論が昨今盛んですが、この場合もアメリカについて考えずにこの議論は全く成り立たないでしょう。一方で、アメリカは日本のことはすごく考えてくれていると思いすぎることも注意が必要だと思います。日本はアジアの国なので、基本的にはアジアの国との友好関係をしっかりと築いていかなくてはいけないでしょう。

さて、前置きはこのくらいにして、この本は各章に4つの実例を出しています。

第一章 香港で大流行する拒食症
第二章 スリランカを襲った津波とPTSD
第三章 変わりゆくザンジバルの統合失調症
そして
第四章 メガマーケット化する日本のうつ病

ローゼンリクト先生は、この第四章の感想を聞きたいということを言ったので、今回のブラジル旅行中に第四章を読んでみました。

この章は精神科医の先生たちも、場合によったら製薬会社のMRの人たちも読むと面白いと思います。先に述べたように、いかにしてGSKが日本にパキシルという抗うつ剤(SSRI)を売り込んでいったかを書いてあります。私が思うに、この本には誇張や記述の誤りはあると思います。たとえば、1990年頃には日本の精神科医は本当に重い患者しか診ていなかったとか言うようなことです。日本におけるうつ病の概念が、ここ20年くらいの間に大きく変わって、それに多くはGSKの戦略も荷担していたというようなニュアンスが書かれもいます。これも誇張があるなとも思いますが、しかし、少し客観的に見てみると、必ずしも誤りでも無いのかなと思う面もあります。

正直なところ、ここに書かれている時期は私自身は、研究所で研究に多くの時間を費やしていたので、ここに書かれているそのようなキャンペーンや、製薬会社からの接待のことなどについては経験がありません。製薬会社の人から、講演の後食事会に招かれることは最近になってありますが、ここに書かれている時代はそういう世界からは遠いところにいて、実際どうだったのかが、自分の経験から言えないということもあります。

本の中では、アメリカの例として、製薬会社が医学研究者たちの論文を代筆して、出版していたということ。それによって、製薬会社とそのような関係にある研究者は、どんどんと業績(論文出版によるインパクトファクターという点数)をのばし、出世していったという事が書かれています。ある意味ではアカデミックなキャリアを積んでいくための道を、製薬会社が作るようになったということで、医学の重要なポジションに着く人たちを製薬会社がコントロールできるようになったと、アメリカの例として書いてあります。

日本においては、これよりも大分控えめなものであったように思いますが、それでも数年前は、食事会などもよく開かれていたようです。結局のところ、このような製薬企業と研究者との癒着は使用する薬物の選択にバイアスがかかるという結果となり、それは患者さんの症状に応じた薬物処方とは異なった視点からの薬物処方がなされる可能性を示しています。しかし、このような接待は、日本でも現在はなくなりました。

*GSKの方にも伺いましたが、GSKは、2016年までに医師の講演謝金などはすべて廃止する方針を決めたようです。ロイターの新聞記事でも確認しました。GSKはこのような問題となる活動を初めましたが、自らそれに終止符を打つことにしたということでしょうか。

さて、私の感想としては、このような問題がこれまでにもあり、現在もそのようなことがあるのは事実だと思います。DSM5のケースでも、アメリカ精神医学会(APA)とNIMHが協調しないことになり、APAはどちらかと言えば、臨床家と製薬会社よりの立場になっている気がします。これに対して、NIHはより純粋に研究的な視点に立った診断基準を考えているようです。日本精神神経学会は、APAほど製薬よりの立場ではなく、むしろ中立になろうとしていると思います。そのような中で、精神科医の教育にも力を入れ始めています。一方で、日本においても、ノバルティスのケースなど、アメリカに近い問題が発覚しており、今後も、中立的な研究者が主体的に研究をして、治療法の評価をするという仕組みを確立していくことは、重要な課題であると思います。

私は、薬は治療の役にたつと思っています。また、そのような薬物の開発は、製薬会社がしのぎを削る資本主義社会の競争の中でより良い物が出てくるという側面もあると思います。しかし、それを評価するのは、科学的に客観的に行われなければならないことは言うまでもありません。

従って、より望まれるものは研究者のあるいは医師・精神科医の倫理観なのでしょう。客観的にものを見るというのは非常に難しいことです。これは、研究をやっていると非常によく判ります。つい、自分の考えに近い方向にデータを導こうとしてしまう無意識の意識が働いてしまいます。お金を渡されれば、その方向に配慮するということも起きてきます。そういう意味でも、臨床家もある程度の研究経験を持ち、物事を客観的に評価する視点を学ぶ機会を持つことが大切だと思います。そういう意味では、最近研究をする医師が少なくなったのは残念なことでもあります。このような経験をすれば、その中で、データに対する客観的な判断力も養われます。このような精神科医が増えれば、一方的な視点のデータだけで、薬物の効き目を評価すると言うことは少なくなってくるようにも思いました。

治療に関わる、さまざまな製薬企業との関わりはなくすことはできないと思います。したがって、これをどのようにコントロールしていくのか、また実際に医師がどのような形で客観性や倫理観を担保していくのかが今後の重要な課題となると考えさせられる本でした。


2014年6月16日月曜日

日本老年精神医学会 シンポジウム 老年期うつ病の臨床

日本老年精神医学会の老年期うつ病の臨床というシンポジウムにご招待を受けて、6月13日金曜日に話をしてきました。座長は、首都大学東京の繁田雅弘先生と舞子浜病院の田子久夫先生でした。演者は、5名で

1.身体症状、睡眠障害とうつ病  内田直 (早稲田大学)
2.老年期うつ病と薬物療法: 個別の細やかな対応を目指した治療戦略について考える 堀輝 (産業医科大学)
3.高齢者のうつ病に対するECT 上田諭 (日本医科大学)
4.高齢者のうつ病と認知行動療法 渡辺範雄 (国立精神神経医療センター)
5.老年期うつ病の臨床:精神療法の視点から 繁田雅弘 (首都大学東京)

でした。






それぞれの先生の発表はとても興味深く勉強になりました。2番めの堀先生は、日本スポーツ精神医学会でも活躍して頂いています。非常に優秀な先生で、まだ30代だと思いますが、ポールヤンセン症なども受賞されて、薬理学に長けた先生です。老年期のうつ病における、薬の使い方について細かく教えていただきました。特に、抗鬱剤の維持療法についてのディスカッションが興味深いと思いました。抗鬱剤の維持療法については、私自身は自分の治療法としての考えが少しずつ固まってきているので、そのうち書いてみようと思っています。

次の上田先生は、東京医科歯科大学の医局の後輩で、ずいぶん以前から知っている先生でしたが、こんなにECT(電気けいれん療法)について詳しいとは知りませんでした。私自身は、最近は電気けいれん療法は行う施設で働いていないので全くしなくなりましたが、有効な治療法であること、また施行上の注意すべき点などがよく分かりました。

渡辺先生は、認知行動療法についてお話になりました。私は、認知行動療法には非常に興味があり、認知行動療法について是非今後も渡辺先生に教えを請いたいと思っています。彼は、うつ病の認知行動療法だけでなく、不眠症の認知行動療法などについてもプログラムを統括しており、様々な少佐な知識を持っていました。このような治療法は、一般臨床の中にもっと取り入れていくべきもので、このような自分の中でも運動療法と同様どのように実践するかを今後も考えていきたいと思っています。

最後に繁田先生が統括されましたが、精神療法という視点から、繁田先生自身の長年の経験に基づいた、深みのあるお話を聞くことができまいした。それぞれの演者が熱弁したために、総合討論の時間が少なくなってしまいましたが、それでもとても有意義な会だったと思います。


2014年6月6日金曜日

Kapur先生に学会でまた会う:精神科疾患と無呼吸

学会場を歩いていると、Sunaoと声をかけられました。誰かと思うと、4月に鎌倉をご案内したKapur先生でした。意気投合し、ひとしきり日本でのその後の話などをし、昼を一緒に食べようと言うことになりました。お昼に待ち合わせると、彼の医学部研修医時代の同級生も一緒に来て、一緒にご飯を食べることになりました。Kapur先生とは日本に見えたときのその後の話でもしようと思ったのですが、お友達も来たので、学会関連の話をする事になりました。

彼らは、呼吸器内科医なので、精神科のことは知りません。睡眠学会へは、睡眠時無呼吸症候群の発表を聞きに来て居ます。私は精神科医なので、精神疾患で睡眠時無呼吸症候群が多いことに話をふってみました。すると、その友達が興味深い話を聞かせてくれました。自分の患者さんで統合失調症の患者さんがいて、なぜその患者さんを診ることになったのか忘れましたが、無呼吸症候群が疑われたそうです。それで、検査をしたところ重度の睡眠時無呼吸症候群だったので、治療にCPAPをする事にしたそうです。しかし、主治医の精神科医はこれに理解がなく、必要無いのではないかという反応だったそうです。しかし重度だったので、必要だと説得してCPAP治療を始めたところ、精神症状も大幅に改善し、ある日母親もやってきて、本当にここのところ良くなった。ありがとうございましたと、御礼を言われたという事でした。こういう話を聞いても、国によらず、精神科医は、睡眠疾患の有無を頭において診療に臨む事の大切さを感じます。

この他にも、こうやってアメリカの呼吸器科の医者と話をしたりしていると、いろいろと雑多な情報を得ることができます。例えば、MediCareというアメリカの大きな医療保険会社の基準だと、CPAPの導入にはAHIは5以上あれば良いということは驚きでした。正確にはRDIで4%以上無呼吸で血中酸素濃度が下がった場合が一時間に5回以上ということですが、私はいぜんやった簡易検査ではRDI3%が9位だったので、アメリカではCPAP導入ケースになります。日本では、簡易型で40以上、通常の病院に宿泊してやるポリグラフ検査では20以上が基準です。

いろいろな解釈ができますが、軽症例でもCPAPはやったほうが良いという考え方をとっているということ。それから、基準を低くすれば、それだけCPAP会社が儲かるということ。両方あるのだと思います。アメリカは、よくも悪くも自由経済の国ということが、医療を通じても思い知らされます。

2014年5月21日水曜日

軽うつと身体症状

昨日は、イーライリリーの主催する、ウェブ講演会で座長をさせていただきました。講演は、村上医院の村上建先生でした。村上先生とは、あべクリニックで診療するようになってから、いろいろな機会にお会いさせて頂いています。江戸川区で開業をされていますが、患者さんを丁寧に診察されるということで、非常に評判の高い先生です。

昨日のお話は、うつ病の患者さんを対象に、重症度による分類を行い、重症度別に、つらいと思われる身体症状と、つらいと思われる痛みがどのように出現しているかをご自身で調査した結果について話されました。ご自身のデータに基づいたお話で、説得力があったと思います。

この中で、私が非常に参考になったのは、このような痛みや身体のつらさに現れる症状は、必ずしも重症になると多くなるというわけではないことです。比較的症状の軽い患者さんでもこのような身体的な症状が非常に多く見られていました。精神科の診療ではこういった身体症状は見逃されがちになるので、軽症の患者さんでも身体症状は頭において話を聞くべきだという思いを新たにしました。

また、このような症状一つ一つを確認することは時間のかかることですが、今回の調査で村上先生が外来で用いた質問紙は、非常に簡便なもので、こういった質問紙を問診の際に用いることも悪くないのではないかと思いました。場合によると、うつだけでなく、その他の疾患においても思った以上に身体症状を持った人が多い可能性もあります。精神科医は、どうしても精神症状に焦点をあてて患者さんの話を聞きがちですが、患者さんの症状全体を捉えて治療するという観点に建てば、精神症状だけを聴いていたのでは片手落ちになってしまいます。

このような身体症状について尋ねる視点は、今後の診療にも活かしていきたいと、私自身も思いました。