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2014年7月11日金曜日

うつ病が寛解したら、どのくらい長く薬を飲むべきか

うつ病の患者さんが一旦寛解してから、少量の抗うつ剤を維持療法として続けていくということはよくあることです。良い状態が更に続くと、患者さんもいつまで薬を飲むのかと思うようになります。その時に、いつまで薬を飲んだら良いのかという研究を探してみると、以下の様な研究がありました。

Five-Year Outcome for Maintenance Therapies in Recurrent Depression
David J. Kupfer, MD; Ellen Frank, PhD; James M. Perel, PhD; Cleon Cornes, MD; Alan G. Mallinger, MD; Michael E. Thase, MD; Ann B. McEachran, MS; Victoria J. Grochocinski, PhD
Arch Gen Psychiatry. 1992;49(10):769-773. doi:10.1001/archpsyc.1992.01820100013002.

この研究は、この研究に先立って行われた3年間のイミプラミン(三環系抗うつ剤)と外来精神療法によって寛解した患者さんについて、その先2年間を平均200mgのイミプラミンを継続投与した場合と、プラセボに切り替えた場合の再発の度合いをみたものです。

その結果の図を示します。



これを見ると、明らかにイミプラミンを継続したほうが再発が少ないことが分かります。横軸は週が単位ですので、100週間つまり2年位フォローしているわけです。そうすると、最初が1のところから良い状態の人の割合は、プラセボを投与した場合にはどんどん減っていって、3割程度になってしまいます。

こう考えると、うつ病の患者さんが一旦回復したあとも、薬物の維持療法は続けたほうが良さそうです。

さて、ここからは私見ということで読んでほしいと思いますが、この著者のDavid Kupferは、アメリカ精神医学会のドンとも言える人で、今回のDSM-5の改訂の実行委員長、あるいは編集主任と言っても良いと思います。DSM-5についてはご存知のように様々な批判もあり、特に製薬会社との関連についての批判も多くあったところです。David Kupferは睡眠研究をやっていたということもあり、アメリカに1990年初めに住んでいた時にも学会で何度もお会いしたことがあります。私のその頃の指導者であったIrwin Feinberg先生は、David Kupferに対しては非常に批判的で、あのように製薬会社から多額のお金をもらっている人間の言うことは信じてはダメだと盛んに話していました。

この研究の方法論や結論に特段批判すべき点はありませんが、私は実感に比べて、ずいぶん再発率が高いという印象は持っています。このようなデータは当然製薬会社が薬を継続すべきであるという宣伝に使えるわけで、そのような意図がそこにあったかどうかは不明ですが、そういう視点も持っていたほうがよいかもしれません。

一方で、では寛解したら薬をやめて良いのかというと、そうとは言えないと考えています。結局のところ、自分自身は以下の様な方針でやっています。

1.寛解が最低一年は続くこと。
2.職場や家庭などの環境によるストレスがある場合に、これが改善されているかどうかを充分に知ること。
3.自分がやりすぎてしまう様な性格があるばあいは、そのことを理解して自分をコントロールできるようになるなど、本人がストレスをきちんとマネジメントできるように、変わってきているという状況があること。
4.運動療法、睡眠時間の確保、食事の改善、などを通じた生活の改善がしっかりと出来ていること。
5.自分にはうつ状態になる可能性があり、もし再発の徴候があればすぐにも来院して相談できるような、医師患者関係ができていること。
6.社交不安障害や発達障害、あるいはパーソナリティーの問題がある場合は、これをある程度、克服できる環境が出来上がっているのかどうか。

このような条件が揃っている患者さんの場合は、上記のようなデータもあることを患者さんに示し、今後少量の維持療法を続けるのかどうかを、相談します。揃っていなければ、それを改善するようにし、改善できない所があれば、薬物療法をやめることで、より日々の自覚的ストレスが高まり、再発する可能性もあることをお話します。

あとは、個々の患者さんとの相談になります。勿論、自己判断で来院されなくなる人達もいます。その場合も、再発して再来院される方も居れば、他に行ったかも知れない方も居ます。したがって、正確にいったい何%くらいの人が再発するのかはわかりません。しかし、上記のKupferらの論文で3年大丈夫だった人が薬をやめると7割がた具合悪くなるというのは、やはり割合が多いように思いました。このような研究は、是非我が国でも国立精神神経医療研究センターなどの主導でしっかりとやってほしい研究です。そのうえで、しっかりとした再発率をだし、どのような維持療法が良いのかの指針を出してほしいと考えています。

2014年4月17日木曜日

認知行動療法を行った反復性うつ病の再発についての6年間の経過

論文の解説

Six-Year Outcome of Cognitive Behavior Therapy for Prevention of Recurrent Depression
Giovanni A. Fava, M.D.; Chiara Ruini, Ph.D.; Chiara Rafanelli, M.D., Ph.D.; Livio Finos, Ph.D.; Sandra Conti, M.D.; Silvana Grandi, M.D.
Am J Psychiatry 2004;161:1872-1876. doi:10.1176/appi.ajp.161.10.1872

この論文は、「認知行動療法を行った反復性うつ病の再発についての6年間の経過」について述べた論文です。うつ病の患者さんは、普段の生活の中でも、自分自身を否定的に捉えたり、自分に対してよりストレスを掛けたりする行動を取りやすい傾向があります。このような傾向は、メランコリー親和型とも共通するものですが、このような行動パタンを修正するのが、認知行動療法の目的です。

この研究では、40名のうつ病の患者さんを、通常の医療の中での治療と、認知行動療法を行うという2群に分けて、双方に薬物療法は行い、寛解状態に至ったところで、薬物を減量していき、最終的には服薬をしない状態にしたあとで、その後の再発率がどのように違うかを6年間にわたってフォローした研究です。

結果は下記のグラフです。


グラフの最初のところを1.0として、良い状態を保っている人の割合を、横軸の72ヶ月=6年間にわたって示してあります。青の、認知行動療法を行ったグループにくらべて、赤の通常の医療だけのグループは、6年間の経過の中で良い状態を保っている人が、1割程度にまで減少してしまうことが示されています。

認知行動療法は、我々は通常の診療の中でも多く行うようにしています。患者さんが見えた時には、なるべく日常生活で困難と思われる事象や人間関係の問題、物事の捉え方などについて伺って、それについて、考え方の修正をしたり、アドバイスをしたりいたします。このような認知行動療法的なアプローチは、この結果をみると、うつ病の患者さんが寛解して良い状態を保つのに非常に重要な役割をしていることが分かります。

このように考えると、薬物療法を中止したあとも、認知行動療法的なカウンセリングに通院することも意味があるように思われます。

2014年3月29日土曜日

パニック障害の認知行動療法

西埼玉心と体の研究会という、私が世話人をしている会が先日あり、千葉大学の清水栄司先生から、パニック障害の認知行動療法についてのお話を伺いました。

まず、名称ですが、パニック障害にせよ他の障害にせよ、英文名のDisorderを障害と訳すのは、患者さんにとっては抵抗があるため、清水先生たちはこれを変更するように学会に働きかけているそうです。我々も、患者にお話しするとき、障害という名称でお話するのは、やや抵抗があります。これを、たとえば「パニック症」などという翻訳名に変えるわけです。これは採用されそうだとう事でしたが、良いことだと思います。

パニック障害はパニック発作によって特徴付けられる病態ですが、パニック発作はDSM5の診断基準では、

「下記のうち4つ以上の症状を含む強い恐怖あるいは強い不快感が突然起こり、10分以内にその頂点に達する。(A discrete period of intense fear or discomfort, in which four (or more) of the following symptoms developed abruptly and reached a peak within 10 min) 」 (拙訳)

となっています。症状は13個あり、

1.動悸,心悸亢進,または心拍数
2.発汗
3.身震い,または震え
4.息切れ,または息苦しさ
5.窒息感
6.胸痛,または胸部不快感
7.嘔気,または腹部不快感
8.めまい感,ふらつく感じ,頭が軽くなる感じ,ま
たは気が遠くなる感じ
9.冷感(悪寒),または熱感(hot sensations)
10.異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
11.現実感喪失(現実でない感じ)
12.コントロールを失うことに対する,または気が狂
うことに対する恐怖
13.死ぬことに対する恐怖

(塩入:精神経誌(2012)より訳語引用)


このような発作は、パニック障害の患者さんで繰り返し起こるということが診断の基準になっています。そのために、患者さんは外出を控えるようになったり、電車などに乗れなくなったりし社会生活が大きく障害されます。

このようなパニック障害の治療には、薬物療法が著効する例も多くあります。一方で、パニック障害の認知行動療法が治療的効果をあげることはよく知られています。しかしながら、この認知行動療法は、診療報酬点数化されていないために、治療として外来でしっかりと認知行動療法が行われることはあまり多くありません。

清水先生たちは、厚生労働省に働きかけて認知行動療法が点数化されるよう活動されています。また、一方で治療効果のエビデンスを明らかにするために、千葉大学の施設で認知行動療法の治療も行っています。

下記のURLが、その臨床研究のホームページで、無料で最高水準の認知行動療法を受けられるようです。お近くの方は、ぜひ試されると良いと思います。

http://www.chibasad.com/pd/index.html

また、清水先生の本もためになりそうです。私も読んでみようと思います。