2015年4月29日水曜日

日本体育協会 公認スポーツドクター

日本体育協会公認スポーツドクターの認定証が先日送られてきました。他の専門医の資格が、学会や医師会から公認されているのに対して、この資格は日本体育協会から公認されている所が大きな違いです。スポーツドクターの資格は、日本体育協会の中では、スポーツ指導者の資格に位置づけられています。この資格には、各競技の指導者の資格や、アスレティックトレーナーの資格なども含まれます。


これらの資格を持った人たちには、認定証の他にカードも送られてきます。このカードは、私の勤務している早稲田大学スポーツ科学学術院の他の多くの教授ももっているもので、スポーツでお互いが結ばれているという仲間意識ができて、なかなか良いものです。

公認スポーツドクターを持っていることで良い面は、実際の精神科の診療の中では多く有るということはありません。また、試合に帯同するチームドクターというような役割を精神科の私がすることもありません。しかし、アスリートが安心して受診してくれること、またスポーツ関係者が安心して相談をしてくれることなどは、非常に大きな利点です。

まだまだ、精神的な問題で受診するということは、アスリートにとって高いハードルです。我々の方から、このハードルを下げていく努力も必要です。日本体育協会公認スポーツドクターをとり、スポーツに対する理解ということを高めていくことが、結果的に多くのアスリートの問題を早く解決する効果になると良いと思っています。

2015年4月27日月曜日

浦和レッズの躍進

今年はJリーグシーズンがはじまってから、チームの勝敗を熱心に見ています。私は浦和在住です。そして浦和レッズをサポートしています。浦和レッズは昨年のシーズン最後に腰砕けになってしまい、本当に悔しい思いをしました。まさかという状況で、優勝を逃しています。非常に不甲斐ないことです。

今年は現在のところ負けなしのチームはレッズのみです。リーグ戦の勝負は、シーズンが終わってどうかということであり、今首位に立っていることは優勝という視点からすれば、殆ど意味が無いということも肝に銘じたいところです。次節のガンバ大阪戦をまずは勝つこと。このような一歩一歩の歩みが11月の最終戦を歓喜の渦で迎えられるかどうかにかかっているのです。

1 浦和レッズ1775201046
2 ガンバ大阪1675111477
3 川崎フロンターレ1474211688
4 FC東京147421844
5 サガン鳥栖137412963
6 サンフレッチェ広島137412853
Thanks for Yahoo! Sports Navi. 

2015年4月24日金曜日

コチュテル (Cotutelle)

現在早稲田大学スポーツ科学学術院の副学術院長(国際担当)の仕事をしている関係で、早稲田大学の国際部との関係もできています。先日は、国際部にある留学センターの主催で行われた留学フェアのレセプションに行ってきました。

国際担当理事や、国際部長とも交流できて非常に有効な時間を過ごしたパーティーでしたが、この中でコチュテルという仕組みについて教えてもらいました。

大学がグローバル化する中で、国際的な大学間の連携が推進されていますが、この枠組の中で博士課程(PhD コース)学生の教育を、2つの(異なった国の)大学の教員が共同で行い、2つの大学の名前のもとに(本籍大学から)博士号を与えるというのがコチュテルの大まかな意味です。

カルガリー大学のHPにその説明がありますので、英語ですが御覧ください。コチュテルは、学生が好きな大学とできるというものではなく、大学どうしが協定を結んで、その中にコチュテルの仕組みを行うという契約をしていなければできません。しかしこの契約があり、その枠組で博士課程の学生が研究を進めることになると、海外にも行って自分の研究の指導を海外の先生にもうしてもらうことができるので大変メリットがあるように思います。

例えば、架空の人物A君という私の博士課程の学生が居たとします。私は、ヨーロッパの同じ分野の研究をしているヨーロッパのB大学の先生と親しく、また共同研究もこれまでしてきたとします。その場合に、研究科どおしあるいは大学通しの協定を結び、コチュテルを行うことが決まっていれば、私とB先生が共同でA君の研究テーマについて話し合い、その結果A君は私とB先生の両方の指導を受けながら研究を進めることができるわけです。この場合、A君は一定期間ヨーロッパに滞在してもよいし、何度かの短期訪問をするということも可能です。また、スカイプなどを通じてB先生の指導を受けても構わないわけです。このようにして、実質的に私とB先生の指導を受ける実績があることが大事です。そして、ひとつの博士論文を書き上げ、これを私の所属する早稲田大学とヨーロッパのB先生の大学に提出し、審査の結果双方からよろしいと認められれば、博士号の学位記には2つの大学の名前の入ったものが(本籍大学から一つ)与えられるわけです。

このような学位は、A君の将来にとってもよい経歴となり、またなんといっても国際性という視点での学習経験も積めるので、今後のA君の研究生活にとってもプラスになるでしょう。このような視点の教育はどんどんと進めていくべきものと思いました。

コチュテルについての日本語の解説が少なかったので書いてみました。

(改訂:2016-12-30)

2015年4月22日水曜日

シフトワークの禁忌

シフトワークの睡眠障害についての原稿を依頼されましたので、これについてここのところずいぶんと調べました。私自身は、シフトワークのアドバイスを専門的にやっているわけではありませんが、これはリズム障害の一種であるので、アスリートに対する時差対策などの経験が生きる部分もあります。一方で、職場の状況特有の内容もあり、これについてはよく勉強をする意味がありました。

この中で、日本看護協会が出しているシフトワークの書物の中に、シフトワークの禁忌の項目があることを知りました。看護業務は、シフトワークを強いられる業務の中でも非常に大きな分野の一つであり、医療に関連した分野でもあることから、シフトワークの問題については最も進んでいるとも言えるのではないでしょうか。こちらがそのリストのPDFファイルへのリンクです。

その項目禁忌項目は以下のとおりです。
○過去 1 年間に薬物治療を要する癲癇発作があった
○冠状動脈の疾患、とくに不安定狭心症あるいは心筋梗塞の既往歴がある
○定期的な投薬を必要とする喘息、特にステロイド依存型喘息である
○インシュリン依存型の真性糖尿病(IDDM)
(ただし、IDDM の労働者であっても、仕事および非番の日を通じて定期的な食事、運動量、
投薬を維持できるならば、夜勤専従者が夜勤につくことも容認される)
○多量の投薬を必要とする高血圧
○薬物の大量使用によって 24 時間周期を変化させること ―特に輪番制スケジュールの場合
○再発性消化性胃潰瘍
○過敏性腸炎 ―症状が重篤な場合
○慢性うつ病、あるいは薬物治療を要する他の精神疾患
○シフトワークの不適応症候群の既往がある

シフトワークが、高血圧、心血管障害、糖尿病などの疾患に対して悪い影響があることがしっかり盛り込まれていますし、更にはうつ病についても項目があり、非常に大切なリストであると思いました。このようなことは、実際にシフトワークをしている人やその管理者にはしっかりと周知する必要のあることで、ぜひこういった知識が広まると良いと思いました。

2015年4月20日月曜日

スマホの睡眠アプリ (2) 熟睡アラーム

睡眠アプリをしばらく使ってみました。熟睡アラームというアプリなのですが、なかなか良いアプリです。これまでは、Sleep Wake Alarm Clock (SWAC)という海外のアプリを使ったことがありました。これと比べて、非常に大きな違いがあるわけではありませんが、ひとつはアラームの時刻がSWACでは、指定した時刻のあとで体動などがあり睡眠が浅くなったところで起こす仕組みになっているのに対して、こちらは普通の目覚まし時計も使えます。SWACの仕組みは優れているのかなと思って以前使ってみたのですが、厳密に早起きしなければならない時など、むしろ厄介で、普通の目覚まし時計のほうが使いやすいと思いました。また、曜日ごとや一回ごとの設定なども、もともとAndroidについている目覚ましと同じで、使いやすかったです。実は、こちらの熟睡アラームにも、スマートアラームという機能がついていて、これはSWACと同じものです。こちらが好みであればそのようにすることもできるし、正確な時刻に目覚ましということであればそれも使えるということで、より選択の幅が広がるとも思いました。

その他にも、ポケットメディカという医療相談のサイトとのつながりがあるようで、国産アプリの強みもあるなぁと思います。これは自分はきちんと使っていませんが、今後情報が充実してくれば、睡眠に関連した情報なども発信されるのではないでしょうか。

自分が、臨床で使うとすれば、スクリーンショットに示したような図を持ってきてもらう以外に、データをエクスポートできて、簡単に患者さんが渡してくれることができるようになると、カルテに残していけるという点で有用だと思いました。無料でダウンロードしてもらい、それを使ってもらい、来院時にそのデータは、電子カルテに吸い取るというやり方です。これは医療機器ではないので、特に問題無いと思います。

さらに、これと睡眠の認知行動療法をつなげて、このアプリを使いながら、自分自身で睡眠の認知行動療法を行えるようになる(Smartphone Based iCBT)などの方法が確立されれば、多く普及するようになると思います。また、このような認知行動療法はなかなか一人でやるのは困難だと思うので、クリニックなどで指導を受けながら、アプリのアシストを受けて、これを進めていく方法も有用だと思います。(睡眠の認知行動療法については、これまでエントリーが無かったので、近いうちに解説したいと思います。)

自分の睡眠については、平均睡眠時間が6時間10分ではイカンなぁという感想です。起床時刻はこれでよしですが、実はこの後グズグズ起きないこともあるので、これを直さないといけません。寝る時間は0時までには寝るように心がけようと思いました。また、このような図は、一日の睡眠だけでなくある期間の睡眠の様子や、リズムを見ることができるという点で、臨床的にも非常に有用です。

このように、自分自身の睡眠を概観する方法としてはとても簡便で良い方法なので、ぜひ試してみると良いと思います。

2015年4月17日金曜日

新鐘 『心と体の不思議』

早稲田大学では、新鐘という学園誌を発行しています。謳い文句として、次のようにHPには書かれています。「早稲田大学学生部が発行する『新鐘』は、「この一冊で早稲田の教育・研究が分かる」をコンセプトに、各号のテーマに基づき早稲田の学問を通して、日本、そして世界の今を読み解きます。そして、その最新号は、 『新鐘(心と体の不思議)』 2015年4月1日発行! です。このリンクは、デジタルパンフレットになっていて、この雑誌全てをオンラインで読むことができます。

この最新号に私も少しだけ書いています。私の書いているのは、41ページの時間と眠気の関係についてです。よろしければ読んでみてください。

さて、この雑誌を紹介したのは、私の文章というよりもこの特集全体が非常に興味深いものだからです。早稲田大学という、医学部のない大学でこれだけ心と体の研究をやっているのかと、感激しました。

理工学部を主体とする生命理工の分野では、様々な研究が行われています。

一方、スポーツ科学部も負けては居ません。この中にも、『アスリートトーク 身体鍛錬の極意』という特集の中に、私のゼミの卒業生である、竹澤健介くん(北京オリンピック、5000m、10,000m走日本代表)も出ています。

オンラインで全て読めますので、ぜひ御覧ください。

2015年4月15日水曜日

うつ病の精神病理学、概念の変化

病院にはいろいろなところから、情報誌が持ち込まれますが、最近、Depression Strategyという先端医学社の情報誌をいただきました。 この中に、下記の文章が有り、これがとてもおもしろかったので紹介したいと思います。


著者の古茶先生は、若手の精神病理学者で、私も直接講演を聞く機会が以前あった方です。慶応大学の精神科で仕事をしておられます。病理学というと、脳の切片でも見ているような仕事と思われる方も居るかもしれませんが、精神病理学というのは、精神の様々な現象を詳細に観察し、精神疾患に潜む精神現象のメカニズムを明らかにするというような学問です。哲学の影響を受けたり、精神分析学の影響を受けたりで、どちらかと言えば、文系の考え方と行っても良いかもしれません。しかし、こういった考え方の研究をしている人は、非常に詳細に患者さんを観察しますし、患者さんの言動についても詳細に分析するので、臨床的には非常に役に立つ研究であると思っています。

古茶先生は、この論文でいくつも興味深いことを言っておられますが、ひとつは、正常の悲しみをうつ病と過剰診断してしまう可能性についてです。これは、精神科以外の人から見れば、「精神科がそんなバカな」と思うかもしれませんが、薬に頼りすぎている精神科医にはそういうミスを犯す可能性はあると思います。

更に現在のうつ病概念の問題点として、3つのポイントをあげています。
1.体験反応(心因反応)の混入
2.「精神病理性」「妄想性」うつ病の位置づけ
3.仮面うつ病を見落とす可能性

これらのポイントは非常に興味深いです。詳しくは、古茶先生のオリジナルを呼んでいただきたいと思うのですが、1.の中で触れている「はて、心理的ストレスは、いつから’うつ病の主たる原因’となったのであろうか。(原文では、’ ’内は傍点)」という一節は、はっとさせられます。確かに、うつ病は、内因性精神疾患の一つと考えられていました。もし、ストレスが原因であれば、心因反応とされるべきなのでしょう。このような、精神疾患の病因に関わる議論は最近なされなくなってきているかもしれません。これは、古茶先生の文章にも述べられているように、DSMなどの操作的診断が用いられるようになってきたのが一因だと思います。

私も、うつ病が内因性かストレスによる心因性かについての概念は大学で講義をしながら、やや説明が曖昧になってしまっています。現代のクリニックに来る多くの患者さんは、職場でのストレスからうつ病になっているケースです。しかし、大きなストレス要因がはっきりしないながら、うつ状態を呈する人も居ます。内因性のうつ病(メランコリー型うつ病製障害)というものですが、これはストレス関連疾患とは必ずしも言えず、この点を鋭く指摘されていると思い、非常に興味深く読みました。

さて、巷ではDSM5が席巻しています。しかし、これにばかりとらわれて、最近の精神科医はすっかり精神病理学的考察を忘れてしまっているようにも思います。精神病理学者の書く文章は、こういう意味からも、考えさせられることが多いと思いました。なかなか、楽しめる文章でもありました。

2015年4月13日月曜日

スポーツ科学未来研究所 シンポジウム “Bridge the gap between science and application in athletic training” 感想

土曜日の午後に行われたシンポジウムは、90名以上の参加があり、大変盛況でした。取りまとめをした、広瀬統一先生、山内潤一郎先生、本当にご苦労さまでした。

私は、少し遅れての参加でしたが、最初の広瀬先生の講義だけが聞けませんでした。私がついた時には、二番目の演者である、守田優子先生(東京医大睡眠医学講座助教)が話をしていました。この中で、興味深かったのは、不眠の患者さんに対して運動療法を行った結果をお話になった点です。朝行う運動と午後行う運動では、午後行う運動のほうが効果が高いということでした。これは、臨床的に役に立つお話でした。

次に防衛大学校体育学研究室の小西優先生のお話でした。これは、前十字靭帯損傷と神経系の問題についての研究でした。私は、専門でないので必ずしもよくわかったわけではありませんでしたが、神経系との関連については興味のあるところです。

三番目は、寅島静香先生(北海道教育大学岩見沢校)が、妊娠後のスポーツ復帰についてのお話をされました。また、アスリートだけでなく、一般的な妊婦のためのヘルスプロモーションの話もあって、これは、女性にとっては大変重要な課題だと思います。

その後、スタンフォード大学のTammy Morrenoさんというフィジカルセラピー部門の方からの招待講演もありました。彼女は、怪我をした選手が競技に復帰する際にどのような基準で復帰させていくのかという評価の方法について紹介しました。

最後の特別講演では、早稲田大学の鳥居俊先生が、日本陸連における女性アスリートの医科学サポートというお話をされました。これは、女性アスリートの話としてはとても興味深く、そして勉強になりました。

その後の、懇親会にも多くの方が参加され、たいへん盛り上がった会でした。また、開催してほしいという声もあり、検討したいと思っています。

プログラムは以下のとおりでした。

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スポーツ科学未来研究所 シンポジウム
“Bridge the gap between science and application in athletic training”

開催日 : 2015411日(土) 会場: 早稲田大学東伏見キャンパス 205号室
参加費 : 無料
懇親会費: 社会人 1000円、学生 500円 (高校生以下は無料)

13:00      開場
13:30-13:35  開会の挨拶(広瀬統一)

13:40-15:30  シンポジウム    “スポーツ科学は競技力向上や健康増進に貢献できるか? 
・はじめに:女子サッカー選手のコンディショニング
広瀬 統一  (早稲田大学スポーツ科学学術院)
・中高齢者の不眠症状に対する運動の効果
守田 優子  (東京医科大学 睡眠学講座)
ACL損傷と末梢神経系の変化 
          小西 優   (防衛大学校 体育学教育室)
・女性スポーツ競技者のためのヘルスプロモーション ~産前産後の事例報告から~      
                寅嶋 静香  (北海道教育大学 岩見沢校)
・まとめ:エクササイズ科学と身体づくり
山内 潤一郎 (首都大学東京 人間健康科学研究科)

座長:山内 潤一郎
15:45-16:45 招待講演
”Use of the Functional Lower Extremity Evaluation in Return to Play Decisions”
       Tammy Moreno (Director of physical therapy, Stanford University)
座長:広瀬 統一
17:00-18:00 特別講演
女性アスリートのコンディショニングに対するスポーツ医科学の貢献
           鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院)
                                                                                 座長:内田 直
(早稲田大学スポーツ科学学術院)
18:00-18:05 閉会の挨拶(内田直)

18:30-20:00 懇親会(予定)

2015年4月10日金曜日

ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬について

ルネスタという商品名の睡眠薬について、調べる機会がありました。これは、エスゾピクロンという物質で、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬に分類されるものです。そこで、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬全般について、もう一度復習してみました。

ノンベンゾジアゼピン系というと、ベンゾジアゼピン系以外のというイメージを持ちますが、実はそうではなくて、ベンゾジアゼピン系と同じ、ベンゾジアゼピン受容体に作動する薬のうち、ベンゾジアゼピンの特徴となる骨格を持っていないものを示しています。日本で発売されている、ノンベンゾジアゼピン系に属する薬物は、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンです。

このうち、ゾルピデムは、超短時間型で血中半減期が約2時間です。マイスリーという商品名で発売されています。また、ゾピクロンは、光学異性体と言って、図に示したように「両手の形」が鏡面対称であるのと同じような、2つの鏡面対称の構造を持った物質が混ざり合ったものです。商品名はアモバンです。

これに対して、エスゾピクロンはこのうちS体(もう一方はR体)と呼ばれる、より効き目の強い光学異性体だけを集めたものです。したがって、エスゾピクロンを使うのであれば、より効き目の弱いゾピクロンを使う意味は殆どありません。あるとすれば、ゾピクロンに慣れた人がどうしても薬を変えたくないという時くらいです。

睡眠薬は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬であれば、ノンベンゾジアゼピン系から使うのが基本だと思います。これは、わざわざノンベンゾジアゼピン系を作ったということは、ベンゾジアゼピン系よりも進化させたものを作ったということがあるからです。どのように進化しているかといえば、睡眠薬として、催眠作用以外の副作用をなるべく少なくしてあるというところです。

FIGURE 1. GABA-Aの各サブユニットに対する、
ゾルピデム、ソピクロン、ロラゼパムの親和性
TABLE 3. GABA-A受容体サブタイプの分布と機能
表が英語でわかりにくいのですが、ベンゾジアゼピン受容体(正確にはGABA-A受容体)には、5種類あって、それぞれAlpha 1-5と分けられています。このうち、TABLE 3に示してあるように、睡眠に関わるものはAlpha 2, 3です。これに対して、Alpha 1に強く働くと、筋弛緩作用などの副作用が出てしまいます。また、Alpha 1については、依存性にも係る働きがあるので、これらが弱いほうが、悪い影響が少ないというわけです。

ゾピクロン(エスゾピクロンもほぼ同じプロファイルと考えられる)は、こういった点から、FIGURE 1に示されているように、一番右のロラゼパムや、左側のゾルピデムに比べてもAlpha 1に対しての効き目が弱い(棒グラフが長いほうが弱い)ので、筋弛緩作用などの副作用や依存性が低いというわけです。睡眠に対する効きも、ロラゼパムなどに比べると弱い面がありますが、しかし、副作用との相対的なバランスを考えると、非常に優れた薬剤であることが分かります。アメリカでは、最も使われている薬剤だそうですが、確かに良い面は多くあると思います。

一方で、嗜癖(Abuse)については、ゾルピデムのほうがゾピクロンよりも低いと下記の参考文献には示されています。

しかし、このようなノンベンゾジアゼピン系の睡眠薬にしても、ある程度以上の依存性などはあるわけです。したがって、睡眠薬はもちろん、使わないに越したことはなく、運動療法や生活療法などを常に併用して治療は行うべきです。

そして、薬をどうしても使わざるを得ないケースの場合には、より安全性の高いものを選びたいと思っています。

参考サイト: http://www.cjdiagnosis.com/articles/making-the-choice-to-sleep-differentiating-between-interventions-for-insomnia-a-focus-on-non-benzodiazepine-hypnotics

Making the choice to sleep differentiating between interventions for insomnia.  A focus on non-benzodiazepine hypnotics.

この中の特に重要な文献:
46. Nutt DJ & Stahl SM. Searching for perfect sleep: the continuing evolution of GABAA receptor modulators as hypnotics. J Psychopharmacol 2010; 24(11):1601-12. - See more at: http://www.cjdiagnosis.com/articles/making-the-choice-to-sleep-differentiating-between-interventions-for-insomnia-a-focus-on-non-benzodiazepine-hypnotics#sthash.AjPJIDP1.dpuf

2015年4月8日水曜日

食事と体内時計、睡眠

不眠の患者さんや、うつ病の患者さんに対しては、投薬よりもまずは生活の状況を聞いて、生活指導をするようにしています。生活指導と行っても、事細かにこうしろああしろと言うわけではなく、そのご本人の生活の様子を聞きながら、改善できる点を一緒に考えていくというような方法です。

この中で、ポイントになるのは、生活習慣の3つの要素である、運動、睡眠、食事です。このなかで、食事については私はこれまで多くの研究をしてきたわけではありません。逆に、運動と睡眠についてはかなりたくさんの研究をしました。

食事と体内時計や睡眠については、動物実験などが主体ではありますが、早稲田大学の柴田重信先生(理工学部)が良い研究をしています。彼の研究によれば、長時間空腹のあとの食事のほうが、体内時計のリセット効果は大きいということです。朝食を食べることによって、体内時計がリセットされる。リセットというのは、これから活動をするという時間帯に体の状態をセットし直すということです。この場合の食事は、炭水化物のほうが効果が大きいようです。また、この他にもインスリン分泌が体内時計のリセットに関わる。インスリン分泌にDHA, EPAが促進的に働く。DHA, EPAは炭水化物と一緒に取ると良い。などの研究成果をあげています。

また、お昼から間をあけて長く食事をせず、夜中ころに夕食をたくさん食べると、そこで体内時計がリセットされてしまうために、夜型になってしまうということもあるようです。

厚生労働省「平成21年 国民健康・栄養調査」では、朝食を食べていない人は非常に多いことがわかっています。特に男性では2割以上の人が朝食を取っていないという結果です。また、患者さんのお話をうかがうと、帰宅後23時過ぎに食事をするという人も多くいます。

このような、ことを細かく聞きながら、朝ごはんを食べるように、グラノーラなどが手軽だと薦めたりもします。また、夕食が遅くなるのであれば、帰ってからたくさん食べなくて済むように、夕方ころにも少し食事をしたほうが良いともお話します。このように、それぞれの個人にあった生活指導をしながら、長く良い状態をつくるような治療をしていくのが良いと思っています。



参考: 2013 Nichi-Iko Pharamaceutical Co., Ltd.パンフレット

2015年4月6日月曜日

ヒューブリス症候群: 追記

先日、書いたHubris Syndromeについて、このブログの読者である息子が、コメントしてくれました。Hubrisについて、私は(お恥ずかしいことに)ハブリスと読んでいましたが、ヒュブリスというのが正しいようです。この意味は、「傲慢、 思い上がり」という意味で、先日のエントリーのとおりなのですが、Hubrisというのは、もともとはギリシャ語が語源で、Wikipediaでは「神に対する侮辱や無礼な行為などへと導く極度の自尊心や自信を意味する。」とされています。さらには、ヘロドトス歴史書にこの話が出ていて、ペルシャ王によるギリシャ遠征決定の瞬間の記述があるそうです。このヒュブリスへの諫め(いさめ)については、Wikipediaに記述があるので興味があったら読んでください。

さて、Hubrisという単語に戻りますが、さらに息子の情報によれば、HubrisはHybrisとも綴られ、ハイブリッドカーのHybridにも通じる語源だそうです。これは、元々はローマ人の父親と異邦人の母親から生まれた子供を示す言葉だったそうです。調べてみると、確かにそういった記述がありました。

さて、このHubrisですが、自分自身は、随分昔からこの単語は知っていました。読み方は間違えていたわけですが、それは、Richie Beirachというジャズピアニストのアルバムに、同名のものがあるからです。私が買ったこのアルバムは、LP版なので、今すぐ聞くことができません。多分自分が大学生の頃に買ったものだろうと思います。アルバムのリンク先のAmazon(アルバムジャケット)をみても、片仮名でヒューブリスと書いてありますね。


このアルバムは、本当に美しいピアノソロで、学生時代の愛聴盤の一つでもありました。ただ、タイトルの意味は全く知らずに、アルバムジャケットから、写真に写っている島か、何かもやのかかった海の風景のことをハブリスとでも呼ぶのかなと思っていたので、まったく今から考えるとお笑いです。今まで、その呼び方がヒュブリスで傲慢という意味とは全く知りませんでした。全く、「負うた子に教えられて浅瀬を渡る」という気持ちです。このアルバムの一曲目にこれまた非常に美しい曲、Sunday Songというのがありますので、YouTubeのリンクを張っておきます。

これから一人暮らしを始める息子に、この曲をプレゼントしたいと思います。

2015年4月3日金曜日

早稲田大学入学式 2015

先日卒業式があったと思ったら、今度は入学式です。早稲田大学は2回入学式が有ります。一回は、戸山キャンパスの記念会堂にて、総長も出席するもの。もう一つは、各学部単位で行われる、オリエンテーションも兼ねた入学式です。今年は、1回めは4月1日。2回めは本日有りました。

1回目の会場である早稲田大学戸山キャンパスにある記念会堂は、今年の夏から立て直されますので、当分は使えません。したがって、来年度からは残念ながら、一回目の入学式はしばらく無くなってしまうようです。

1回目の入学式では、各学部の学術院長、副学術院長、教務担当者が登壇します。この時に、教員はみんなガウンをまとうのです。これは、なかなか見ものです。私は、副学術院長なのでガウンを着て登壇しました。このような格好はめったにしないのですが、新しく早稲田大学に入学した学生諸君にはなかなかのインパクトがあると思います。早稲田大学の伝統を感じるのではないでしょうか。

さて、新入生は、これから4年間の学生生活が始まるわけですが、うまくいく学生もいれば、時にはうまくいかない学生も居ます。しかし、これも価値観の問題でみんなが若い時の様々な経験をするという点においては同じです。このような出会いの中で、交流ができた学生は、精一杯サポートしたいと思っています。


2015年4月1日水曜日

日経メディカル 特集「攻めの不眠診療」に取り上げられました

日経メディカルに、ここのところ時々取り上げられます。今回は、「攻めの不眠診療」という特集に取り上げられました。日経メディカルの編集者によるインタビュー記事なので、私が書いた記事ではありませんが、多くの先生方にインタビューをしてまとめているので、良いと思います。



私が出ているのは、

Step2:睡眠への「誤認」を解く

という項目で、私の顔写真も出ていますので、御覧ください。こういう記事は、様々な先生方の談話を総合的にまとめているので、必ずしも自分の意見が全て反映されている、あるいは、正確に自分の考えが反映されている、という点では不満が残る面もありますが、他の先生方の考えがわかって、勉強になる面もあります。

私は、不眠症の患者さんに会った時には、必ず、現状の評価、そしてどんな状態をゴールと考えるのか、あるいは、不眠を解消する道筋はどのようなものか、という話をします。その上で、治療を開始するわけですが、それをせずに 眠れない ⇒ じゃあ、睡眠薬を出しましょう というような治療が多いというのも事実です。それに対する警鐘、そしてではどうすればよいのかという教育的な意味では、この特集はとても意味のあるものであると思いました。