2014年7月30日水曜日

菅平 野外活動実習 2014

この日、月、火の3日間は、早稲田大学菅平セミナーハウスに、学部1年生をつれて野外活動実習に行ってきました。早稲田大学スポーツ科学部では、一年生は教養演習クラスがあり、いわばホームルームクラスのように週一度は同じ学年、同じメンバーが集まるようになっています。そこには、担任がいて様々な面で学生生活の開始をサポートしています。私自身は、ここ数年は担任をしていないので、入学したての1年生のお世話を授業の中ですることはありません。今回は、野外活動実習のサポーター教員として参加したわけです。

菅平 根子岳の山頂付近で. 学生にはお揃いの早稲田スクールカラー、エンジのポロが支給されます


このような教養演習クラスについては、学生にとっては良いと思います。大学生一般に取ってということと、スポーツ科学部の特徴という2つの側面がありますが、大学生一般として考えると、大学は講義は選択制なので、なかなか友だちができないという側面があります。このようなホームルームクラスがあれば、そこでいろいろな友人を作れる可能性がでてきます。もう一つは、様々な理由で大学に溶け込みにくい学生をうまく大学生活に導入できるという側面もあるように思います。少なくとも、大学に来なくなる学生を担任が把握でき、何らかの介入をすることが可能です。こういった意味で、学生メンタルヘルスにも一役買っているわけです。

スポーツ科学部の特徴としては、アスリートはどうしても部活の活動が中心になりがちで、部活の友達はできますが、その他の友達ができにくいという側面があります。ホームルームクラスやその後のゼミ活動は、様々な友人を作り、これが人生の大きな財産となるということもあります。ビジネスの方面に進んだり、研究方面に進む学生が、トップアスリートの学生と大学時代に親友になるということは、双方にとっていろいろと良い面があります。

そのようなことで、教養演習のクラスで菅平の野外活動実習に行くわけです。根子岳登山や、キャンプ実習など、学生はとても楽しんでいます。私もこれに便乗して、毎年根子岳登山を楽しんでいるというわけです。

2014年7月28日月曜日

新しい抗てんかん薬

先日、徳島の睡眠学会の際に、松浦雅人先生とお話する機会がありました。松浦雅人先生は、私の30年来の恩師で、研修医時代にはよく飲みに行ったりして、本当にお世話になった先生です。今年、東京医科歯科大学の教授を定年退職され、現在は那覇市の病院で臨床をされています。

松浦先生はてんかん治療の大家で、グーグルサーチでも、松浦雅人と入れると、選択肢として次にてんかんが出てきます。松浦先生は以前は、てんかんの臨床として、部分発作であればカルバマゼピン、全般発作であればバルプロ酸と、処方の仕方がシンプルで明快だったとお話になっていました。

そこで、私が「新しい抗てんかん薬がたくさん発売されていますが、それらが出てから、治療率が改善しましたか?」とお聞きしたところ、「同じだね。」とのお答え。多分、非常に難治な症例に関連しては、幾分良い面はあるのかもしれませんが、てんかんの治療はこれまでの抗てんかん薬でほぼ間に合うということのようです。

一方で、新しい抗てんかん薬は、盛んに気分障害に用いられるようになってきています。脳の異常発火としてのてんかんの治療薬が、気分の過度な変動に対しても効果があることは、それ自体が非常に興味のあることです。一方で、このような薬を併用して気分障害の治療を行うと、多剤併用になりがちで、このような多剤併用がほんとうに効率的な治療なのかどうかも、注意深く検証する必要はあると思っています。

2014年7月25日金曜日

第12回 日本スポーツ精神医学会学会総会・学術集会 鹿児島 (1)

第12回 日本スポーツ精神医学会学会総会・学術集会が8 月 29 日(金)~31日(日)、鹿児島市にて、橋口知先生を会長として開かれます。橋口先生は、この学会の創設時から長年この学会に協力していただいた精神科医で、現在は鹿児島大学教育学部の教授です。特に水泳競技などの分野で活躍されています。

学術集会HP:  http://jyouseikai.jp/jasp/
プログラム: http://jyouseikai.jp/jasp/schedule.pdf

シンポジウム「スポーツはこころを育む」を初め、教育講演「薬物乱用の最近の傾向」講師:佐野 輝先生(鹿児島大学医歯学総合研究科精神機能病学分野教授)、 特別講演1「からだを育み、こころを育み、人を育む」 講師:武藤芳照先生(東京大学名誉教授 日体大総合研究所所長)、特別講演2「情熱と我慢」 講師:松澤隆司先生(鹿児島県サッカー協会顧問)などが行われ、多くの一般演題も発表されます。

この学会は、日本では唯一のスポーツと精神医学に関連した学会です。多くの方々の参加を是非お待ちしています。

このブログでは、この学会に関連した内容を開催までの1ヶ月のあいだ、少しずつ紹介しようと思っています。

2014年7月23日水曜日

完治する統合失調症

Psychiatry Times(精神医学新聞)というアメリカのウエッブジャーナルに、完治する統合失調症についての記事が出ていました。統合失調症は、非常に多い疾患で、時代や文化によらずだいたい150から200人に一人くらい見られると考えられています。一般的には、慢性的に経過し、徐々に進行すると考えられていますが、この記事には完治するケースについて書かれています。Better Off Without Antipsychotic Drugs?という題名の、Fuller Torreyという精神科医の記事なのですが、ざっと要約すると以下のようです。

例えば、ワシントンポストに昨年掲載された記事では、薬を止められる統合失調症がいるという記事が、新しい発見のように載っているが、その様なことは随分前から知られている。1939年の抗精神病薬が開発される前から報告がある。これまでの報告を見て見ると、だいたい2割から3割弱の統合失調症の患者さんは、(抗精神病薬を投与しなくても)完治するようである。しかし、発症時に完治するものかどうかの判断はできないので、まずは抗精神病薬を投与し、症状が消退したあとどうするかを考える。薬を全くやめてしまっても良い症例は少なからずいると思われる。多くの場合は、少量投与し、再発が見られなければやめるということである。初発の場合では、症状が消退したら、比較的すみやかにやめても良いかもしれない。

このような記事を読むと、自分の診た患者さんを思い出します。最も印象に残っているのは、研修医を終えたあと、市中の精神病院に務めた時の患者さんです。20代の若い女性で、知的レベルは高く有名大学の4年生でした。特にこれというきっかけは無かったようですが、短期間のうちに引きこもりがちになり、大学のサークルの人達が自分を陥れようとしている。家に盗聴器が仕掛けられている。テレビでも、どうも自分の人を言っているようだ、というような典型的な幻覚妄想状態でした。夜は眠れず、外来ではオドオドしているような様子でした。

私と年齢も数歳しか違わなかったと思うので、今から思うと向こうのご家族も、私が担当となり頼りないと思っていたのかもしれませんが、きちんと私の診察を受けてくださいました。私は、なるべく時間をかけてお話をし、本人にはそのような大変なことがあっては心配で眠れないだろうから、まずはしっかり眠るほうが良い。また、すぐに警察に行っても証拠がなければとり合ってもらえない可能せがあるから、まずは自分がしっかり休息してこれからどうするのが良いか一緒に考えよう、体力をまずは回復させましょうと言って、ハロペリドールを処方しました。

一週間後にまた、両親と来院された時は、すでに大分落ち着いていました。ご両親には非常に感謝されました。しかし、妄想については、最近そういうことははっきりしないが油断はできないというような話をしていたように思います。その後、少量の抗精神病薬を投与続けたところ、2ヶ月位ですっかりとよくなり、大学にも復帰しました。その際に、妄想のことを聞いてみたのですが、本人は、「ああいうことはやはりあったと思う。しかし、どうしてから分からないが、病院に来るようになってからそういうことが無くなってきた。また、最近はあまり気にならなくなってきた。」とお話になりました。

その後、2年ほど診察したでしょうか。ずっと安定した状態が続いており、薬も減量しました。そして、安定して落ち着いた状態が続いているところで、最終的には服薬をやめました。服薬をやめてからも、2ヶ月後、半年後くらいに診察をしたと覚えていますが、問題なく、もし万が一同じようなことが起きる気配があれば、すぐ受診するように話して、治療を終結しました。

多分、このようなケースは少なからずいるというふうに考えてよいでしょう。私も他にも、完治したり、症状がなくなってからその後来なくなってしまったりするケースが多く居ます。一方で、慢性化する人たちとは長く付き合うので、慢性疾患としてのイメージが強くはなってしまいます。

気になるのは、初診時の治療的アプローチが、その人のその後の経過にどのような影響をおよぼすかです。良い治療をすれば、完治し、そうでなければ慢性化する、もしそういうことがあるのであれば、精神科医の責任は重大です。今のところは、初診時の治療アプローチの影響が非常に大きいとはいえないのではないかと思っては居ますが、しっかりと明らかにしたいことの一つでもあります。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ

2014年7月21日月曜日

2014 ゼミ夏合宿

ゼミの夏合宿に行ってまいりました。今年は、土日で早稲田大学軽井沢セミナーハウスです。軽井沢のセミナーハウスは、広大な敷地で東京ドームが3つ入るということでした。学生用の昨年出来たという新しい宿泊棟、セミナー棟、食堂などのほか、野球場、テニスコート、バスケットコート、卓球場、サッカー場などがあって、さらにバーベキュー場、教員用宿舎などもあります。それが、林の中に点々とあるという佇まいで、なかなか贅沢な作りです。

今年は、27名の学生が参加して行いましたが、これだけたくさんになったのは久しぶりでした。一つの理由は、まだ授業期間中であるこの連休に行ったのが良かったようです。スポーツ科学部は部活に入っている学生も多く、夏休み期間になると合宿が始まって、なかなか参加が難しくなります。かえって学期中にやったほうが参加者が多くいるようです。

ゼミ合宿記念写真

学生とのゼミ合宿は、とても楽しいものです。学生は、協調的で優しく親切です。予定をドタキャンする、課題をやってこないなど、社会性に乏しい面もあるのですが、それは、どうすれば良いかを指導する人が居なかったためということもあります。丁寧に指導すると、改善されますし、改善された点を指摘すると、嬉しそうにしています。自主性を重んじながら丁寧に指導することは大事だなとも思います。それぞれがいろいろな個性を持っているのですが、集団生活をするとそのような違いがお互いにわかります。現代の学生は、個人の権利などの意識が高く、お互いに同じでなければならないという気持ちは昔より少ないようで、個性を認めあうのはうまいように思います。

合宿は、セミナーは一応やるのですが、ほとんどはスポーツをしていました。あいにく雨もありましたが、テニス、卓球、バスケットボール、フットサルなど。自分も参加してやりました。20歳前後の若者と、それも中には日本代表選手も居るアスリートたちとスポーツが出来る機会は、大学教員、それもスポーツ科学部の教員でなければなかなか無く、こちらも充分楽しませてもらいました。

2014年7月18日金曜日

イップス (Yips) (2) 朝日新聞秋田の記事

以前問い合わせのあったイップスについての内容が、新聞記事になりました。取材があった朝日新聞秋田支局の江口記者から、朝日新聞秋田版の私の載った記事を送っていただきました。イップスについての私の仮説は、多分あっていると思います。多くの人がそう考えていることと思います。いわゆる、運動の学習は、まずは意識してこう動かすのだと考えそれを繰り返して練習しているうちに、皮質下(大脳基底核など)に運動に関わる神経プログラムが出来上がります。(詳細には、良い総説がありますので参照してください。)この神経プログラムを呼び出して使っているうちは、スムーズに練習した効率的な動きが可能になるわけですが、緊張が高まるとそれに大脳皮質からの回路が干渉して、スムーズな動きが阻害される結果になるという仮説です。

一緒にインタビューを受けている、日本イップス協会の河野会長もとても良いことを言っています。これは、より精神療法的なアプローチだと思いますが、イップスのある人の、生理学的に言えば「皮質からの干渉」を、気持ちを解きほぐすことによって軽減し、本来の練習したスムーズな動きができるようにすることです。イップスを起こす精神的背景についても、家庭環境の問題などにも言及していて、経験のある方なのだろうと思います。

私のゼミ出身の石原心氏は、現在アスレティックトレーナーとして活躍し、ハバナトレーナーズルームという治療院を開業し、キューバ野球チームなどにも関わっていますが、彼はまた、行動療法的なアプローチからイップスを治療する方法を考案しています。これは、なかなか効果があるようです。彼の卒業論文:イップスについて。

この記事は、イップスについての、簡単な知識が身につくと思います。ご一読ください。


2014年7月16日水曜日

第14回 日本外来精神医療学会 宇都宮 シンポジウム9 『外来精神科における睡眠医療』

7月13日日曜日に宇都宮の日本外来精神医療学会に行ってまいりました。今回の会長は、自治医科大学精神科の加藤敏先生です。今回は、シンポジウムの演者として呼んでいただき、総合睡眠ケアクリニック代々木の西田先生、久留米大学精神科医の内村先生と3人でシンポジウムを行いました。西田先生は、睡眠専門クリニックのお立場から、内村先生は大学病院のお立場からお話になりました。私は、現在行っている一般精神科外来での睡眠専門外来の特徴について話しました。

この講演の抄録を掲載します。加藤会長からは、ご著書をいただき、これは大変興味深いうつ病のレジリエンスに関連したものなので、また感想を書きたいと思っています。

帰りには、宇都宮餃子をたくさん買って帰りました。

<抄録>
一般精神科外来における睡眠医療

内田直(早稲田大学スポーツ科学学術院)
阿部哲夫(讃友会 あべクリニック(日暮里))

演者は、日本睡眠学会睡眠医療認定医として都内の精神科クリニックにおいて、一般精神科外来と同時に睡眠専門外来も行っている。ここでの経験についてまとめたい。

最初に、一般精神科外来における睡眠医療の工夫について述べる。一般精神科外来において睡眠医療を行う場合一番の障害となるのは、終夜睡眠ポリグラフ記録(PSG)の設備が無いことである。一般精神科外来においては、必ずしもPSGが必要なケースは多くはなく、設備投資に見合わない。演者の行っているクリニックでは、睡眠障害専門診療施設との連携により、この問題を解決している。すなわち、睡眠時無呼吸が疑われるケースについては、まずは簡易型PSGを自宅にて行い、この結果がCPAP適応になるレベルであれば、CPAPの導入を、施設における精密PSG検査が必要であれば、その後施設に紹介して検査を行う方法をとっている。また、ナルコレプシーなどの検査が必要な場合にも検査可能な施設との連携を行っている。検査により一旦診断がつけば、殆どのケースで一般精神科外来でのフォローアップが可能となる。

一般精神科外来において、睡眠専門外来を行う利点もある。これは、睡眠障害の多くが、背景に精神疾患をもっているからである。多くのうつ病などの患者さんが睡眠障害を主訴に来院する。一般精神科外来であればこういった患者さんの経験も豊富で、睡眠専門外来において睡眠障害だけでなく、精神疾患の治療も行うことができる。

また、この逆もある。うつ症状を主訴に来院された患者さんの中に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害を伴っているケースがある。うつ症状は典型的なうつ病と何ら変わりないため、多くの精神科クリニックではうつ病薬物療法や睡眠障害に対して睡眠薬投与を行ってしまう。しかしながら、簡易型PSGを行う設備を持っていれば、これに気づきSAS治療を導入する可能性が広がる。これにより、CPAPのみでうつ症状が寛解した症例も多くある。

最近多く見られるのは、成人のADHDにみられる昼間の眠気である。ある睡眠専門診療施設で、遅刻が多い、日中の眠気があるという症状から、睡眠相後退症候群と診断されたケースが来院したが、詳細に病歴を聴取するとADHDであった。小児のケースでも、日中の眠気が著しい症例を経験するが、睡眠障害だけにとらわれず一般精神科臨床の中で睡眠障害を取り扱う重要性を示唆しているものとも考えられた。

2014年7月14日月曜日

第110回 日本精神神経学会 (4) 大人の発達障害の外来プログラム

このセッション名は、「高機能発達障害の職場における課題と精神科医療の取り組み」というのが正式です。様々な先生がお話になりましたが、札幌駅前クリニックの横山太範先生のサイコドラマについての紹介が非常に興味深い発表でした。サイコドラマというものについて、私自身は漠然とした知識はありましたが、あまり詳しいことは知りませんでした。横山先生は、これまでにも熱心にサイコドラマに取り組んでおられるようで、このような技術を持った人の認定団体なども立ち上げているようです。横山先生は、そのビデオをお持ちになって、サイコドラマの様子を紹介されました。

サイコドラマについては、東京サイコドラマ協会という会があり、そこで公認のサイコドラマディレクターの認定をしているようです。その方法については、正確には専門家に問い合わせて欲しいのですが、シンポジウムで取り上げられたのは、ある人が職場などのある状況にあった場面を作り、そこで同僚が言う言葉に対して本人がその反応を発します。その後、今度は同僚と本人が入れ替わって同じことをする。これによって、本人の振る舞い、また心理的な動きを外から客観的に見るということを行うということがひとつの要素になっているようでした。

この方法は、ずいぶん効果があるだろうなと私は思いました。なかなか、客観的に自分を見ることはできませんし、発達障害のある方々は、どうしても独善的で一つのことに囚われるとそのことばかりを考えてしまう傾向があるので、そういった自分を客観的な視点から見る経験ができるというのは良いと思いました。

この他にもいくつかの発表がありましたが、自分が診療する上での悩みとしてもあることで、発達障害の「傾向」のある人達について、この人達を発達障害の治療ベースに乗せるのが良いかどうかという問題について、考えさせられました。患者さんにとっては、もし生活が改善するのであれば、それで良いということもあるかもしれませんが、障害とまで言えない人に対して、薬物療法を含めた治療をするのかどうか。また、そのラインはどこに引くのか。これは、臨床の現場の中で、患者さんのニーズなども鑑みながら考えていくことではあるとは思いますが、そこから積極的に薬物療法をすべきかについては、特に更に考えていくべき問題とも考えさせられました。

2014年7月11日金曜日

うつ病が寛解したら、どのくらい長く薬を飲むべきか

うつ病の患者さんが一旦寛解してから、少量の抗うつ剤を維持療法として続けていくということはよくあることです。良い状態が更に続くと、患者さんもいつまで薬を飲むのかと思うようになります。その時に、いつまで薬を飲んだら良いのかという研究を探してみると、以下の様な研究がありました。

Five-Year Outcome for Maintenance Therapies in Recurrent Depression
David J. Kupfer, MD; Ellen Frank, PhD; James M. Perel, PhD; Cleon Cornes, MD; Alan G. Mallinger, MD; Michael E. Thase, MD; Ann B. McEachran, MS; Victoria J. Grochocinski, PhD
Arch Gen Psychiatry. 1992;49(10):769-773. doi:10.1001/archpsyc.1992.01820100013002.

この研究は、この研究に先立って行われた3年間のイミプラミン(三環系抗うつ剤)と外来精神療法によって寛解した患者さんについて、その先2年間を平均200mgのイミプラミンを継続投与した場合と、プラセボに切り替えた場合の再発の度合いをみたものです。

その結果の図を示します。



これを見ると、明らかにイミプラミンを継続したほうが再発が少ないことが分かります。横軸は週が単位ですので、100週間つまり2年位フォローしているわけです。そうすると、最初が1のところから良い状態の人の割合は、プラセボを投与した場合にはどんどん減っていって、3割程度になってしまいます。

こう考えると、うつ病の患者さんが一旦回復したあとも、薬物の維持療法は続けたほうが良さそうです。

さて、ここからは私見ということで読んでほしいと思いますが、この著者のDavid Kupferは、アメリカ精神医学会のドンとも言える人で、今回のDSM-5の改訂の実行委員長、あるいは編集主任と言っても良いと思います。DSM-5についてはご存知のように様々な批判もあり、特に製薬会社との関連についての批判も多くあったところです。David Kupferは睡眠研究をやっていたということもあり、アメリカに1990年初めに住んでいた時にも学会で何度もお会いしたことがあります。私のその頃の指導者であったIrwin Feinberg先生は、David Kupferに対しては非常に批判的で、あのように製薬会社から多額のお金をもらっている人間の言うことは信じてはダメだと盛んに話していました。

この研究の方法論や結論に特段批判すべき点はありませんが、私は実感に比べて、ずいぶん再発率が高いという印象は持っています。このようなデータは当然製薬会社が薬を継続すべきであるという宣伝に使えるわけで、そのような意図がそこにあったかどうかは不明ですが、そういう視点も持っていたほうがよいかもしれません。

一方で、では寛解したら薬をやめて良いのかというと、そうとは言えないと考えています。結局のところ、自分自身は以下の様な方針でやっています。

1.寛解が最低一年は続くこと。
2.職場や家庭などの環境によるストレスがある場合に、これが改善されているかどうかを充分に知ること。
3.自分がやりすぎてしまう様な性格があるばあいは、そのことを理解して自分をコントロールできるようになるなど、本人がストレスをきちんとマネジメントできるように、変わってきているという状況があること。
4.運動療法、睡眠時間の確保、食事の改善、などを通じた生活の改善がしっかりと出来ていること。
5.自分にはうつ状態になる可能性があり、もし再発の徴候があればすぐにも来院して相談できるような、医師患者関係ができていること。
6.社交不安障害や発達障害、あるいはパーソナリティーの問題がある場合は、これをある程度、克服できる環境が出来上がっているのかどうか。

このような条件が揃っている患者さんの場合は、上記のようなデータもあることを患者さんに示し、今後少量の維持療法を続けるのかどうかを、相談します。揃っていなければ、それを改善するようにし、改善できない所があれば、薬物療法をやめることで、より日々の自覚的ストレスが高まり、再発する可能性もあることをお話します。

あとは、個々の患者さんとの相談になります。勿論、自己判断で来院されなくなる人達もいます。その場合も、再発して再来院される方も居れば、他に行ったかも知れない方も居ます。したがって、正確にいったい何%くらいの人が再発するのかはわかりません。しかし、上記のKupferらの論文で3年大丈夫だった人が薬をやめると7割がた具合悪くなるというのは、やはり割合が多いように思いました。このような研究は、是非我が国でも国立精神神経医療研究センターなどの主導でしっかりとやってほしい研究です。そのうえで、しっかりとした再発率をだし、どのような維持療法が良いのかの指針を出してほしいと考えています。

2014年7月9日水曜日

第39回 日本睡眠学会 徳島 (2) オレキシン受容体アンタゴニスト

オレキシン受容体アンタゴニストのSuvorexantが、MSD社から発売される予定であるというニュースは聞いていましたが学会でその内容を聞くのは初めてでした。オレキシンというのは、脳の神経伝達を担う神経伝達物質のひとつで、とくに睡眠覚醒に関連しては、覚醒状態を維持する働きのある物質です。このSuvorexantという薬は、このオレキシンの働きをブロックする作用があるわけです。したがって、オレキシンをブロックすると、覚醒への作用が減少し、眠気が出るため、睡眠薬として用いることができるわけです。

これまでに主に使われていた、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、Suvorexantとは全く異なった機序で、(GABAを介して)神経の活動を全般に低下させることによって、睡眠を導入します。したがって、神経活動全般が低下するので、例えば神経全般に異常発火が起きる、てんかん発作の抑制などにも用いられます。また、麻酔前投与役などにも使われます。また一方で、記憶障害や筋弛緩、ふらつき、などの副作用もあります。しかし、このSuvorexantは、睡眠のメカニズムに直接作用することによって睡眠を導入するという意味で、画期的な薬物であり、副作用も少ないという評判です。

セッションでは、米国のMSD社からも研究者が来日し、発表していました。このような学会で、発表をすることは、非常に大きな宣伝にもなるわけですが、Suvorexantに関しては、非常に興味深い機序の薬物なので、学問的な興味から多くの聴衆が集まっていました。MSD社からは、Suvorexantが副作用が少なく、睡眠の構造(ノンレム睡眠やレム睡眠の割合など)を変化させずに、睡眠の質を良くする薬剤であるなどの説明がありました。

このセッションでは、私もこの薬物に興味があったので、ポスターセッションを含めて何度も質問をしました。ひとつは、オレキシンは覚醒の維持のために昼間分泌される神経伝達物質ですが、夜間眠る前にSuvorexantを投与するのは、オレキシンの分泌が少ない時期での投与だが、意味があるのかどうか。また、不眠症の患者さんでは夜間のオレキシン分泌が多くなっているというエビデンスがあるか。これは、まだデータは無いということでしたが、オレキシンは夜間でもゼロになるわけではないということと、薬が効果があるというのは実証されているところだということでした。また、ベンゾジアゼピンなどの他の薬剤との併用、あるいは、高齢者に対する投与についても質問いたしましたが、これらについては少なくとも発売すぐの状況では、慎重に使っていくのが良いという回答でした。この点は、注意深く用いまずは、Suvorexantのみの投与でその効果を見ていくのが良さそうです。

期待される薬物ではありますが、一方で、慎重さも大切だと思います。秋ころに発売される見通しのようですが、あくまで患者さんへの利点を第一に考えて、薬物選択をしていくことが大事だと思います。また、ベンゾジアゼピンよりも、副作用などが少ないとすれば、積極的に利用する視点も一方で持ちたいと思います。


2014年7月7日月曜日

第39回 日本睡眠学会 徳島 (1)

日本睡眠学会が徳島市で、7月3日4日木曜日金曜日に開催されました。1,500名の人たちが集まったということで、徳島大学医学部生理学研究室の勢井教授はとても喜ばれたことでしょう。勢井先生とは、ずいぶん以前より学会ではご挨拶させて頂いていますが、動物を用いた基礎的な研究を主にしておられる方なので、研究面での交流はありません。

徳島市は、ビジネスホテルが少ないのか、私が予約をしようと思った約1ヶ月前にはすでに徳島市内のホテルの予約ができなくなっていました。そのため、私は鳴門市、鳴門駅前のビジネスホテルに泊まりました。夜、鳴門についたのですが、翌朝学会場に向かうために電車に乗ろうと思い、ビジネスホテルの方に聞くと、電車は9時4分だということでした。ただ、聞いた時点ですでに9時5分だったので、この電車はもう出発していたわけです。この段階で、ずいぶんのんびりしたところだなと思いましたが、前回の佐賀についで、この瞬間からのんびりモードに入りました。

結局、次の電車は10時何分かだったのですが、バスは無いかと聞くとバスはある。それは9時20分だということでした。鳴門駅のバス停に向かいましたが、金曜日の9時過ぎというのに人通りは殆ど無く、本当に閑散としていました。その後、タクシーの運転手さんとも話をしたのですが、大塚製薬が産業としては大きいとか、徳島ヴォルティスがJ1に上がってすこし元気は出たということですが、ヴォルティスは負けてばかりいるので、あまり見に行く人も少なくなってきたということでした。いずれにしても、人口も減少していて、街は元気が無いということでした。

のんびりした鳴門駅。鳴門駅は終着駅で、終点です。一時間に一本くらいの電車で、この時間帯は誰もホームには居ませんでした。


そういうことで、バスで徳島に向かいました。500円ほどの料金で40分で徳島駅につくのですが、その間の風景ものんびりしています。吉野川が有名だということですが、大きな川でした。徳島駅につきましたが、徳島市はさすがに賑やかでした。学会は、金曜日一日だけ出席したのですが、日本睡眠学会はもう30年近く会員でいる学会なので、多くの知り合いに会って、楽しく過ごしました。

徳島は、鳴門鯛など美味しいということでしたが、今は鱧が旬ということで、鱧を頂きましたし、研究室の有竹先生たちと一緒に、徳島ラーメンが美味しいということでラーメンも食べました。徳島ラーメンは、「東大」という店に行きましたが、ここは生卵が入れ放題という東京ではお目にかかれないサービスが有り、お汁の色は濃いのですが、味は決してしつこくなく、とても美味しかったです。ここはおすすめでした。




学会の内容として、オレキシン受容体拮抗薬のセッションが、非常に興味深かったので、これについても紹介したいと思います。

2014年7月4日金曜日

お相撲と日本の文化

先日、高橋龍太郎先生と食事をさせていただく機会がありました。高橋先生は、蒲田のタカハシクリニックの院長をされていますが、現代アートのコレクターとしても有名な方です。私自身は、高橋先生のことを以前からよく存じ上げていたわけではありませんでしたが、一年くらい前にお話をさせていただく機会があり、その後ゆっくりお話をする機会があると良いと思っていて、その機会を得ることが出来ました。

色々なお話を伺いましたが、高橋先生が精神科医としてだけでなく、芸術や文化、そして経済や世界情勢など幅広く興味を持っておられることがわかりました。お話をさせいただくと、ニューヨークの話や、ペルーにJICAのしごとで行っておられたことなど、とても興味深い話を伺いました。ニューヨークのジャズクラブなどについてもお詳しく、とても楽しい話ができました。

話はワールドカップサッカーになり、スポーツそのものだけでなく、日本人の特質や、海外の人たちとの比較、国の維持や移民の話にまで広がりました。

その中で、日本が今後どのようになっていくかという話で、今後移民を受け入れて、その人達が、もともとの日本人と同じような権利を獲得し、首相になったりするということができるのかどうかという話になりました。そして、相撲の話が出ました。相撲は、最近は長いこと外国出身の横綱が続いています。横綱だけでなく、上位の力士は外国出身です。しかし、彼らは決して、自国の言葉で話すことはありません。皆、日本語でインタビューに答えます。これが、他のスポーツと違うところです。どうしてでしょうか?と高橋先生に聞かれて、相撲の社会には外国語で話す人が居ないから、というつまらない答えをしてしまいました。しかし、相撲は、日本の国技です。したがって、外国に相撲を学びに行くということはありません。また、柔道のように国際化しているわけでもありません。日本独特の文化そのものなのです。そこに外国出身者が多く受け入れられているということは、ひとつの今後の日本のあり方のモデルとして、非常の興味深いのではないかとも思いました。

日本の文化そのものも変わる。しかし、相撲に外国出身者を受け入れているように、外国人を受け入れ、横綱になることもあるけれども、変化はこれまで日本の文化の流れを尊重し、これを基調として変化を受け入れていく。そんなモデルが、そこにはあるような気がしました。

2014年7月2日水曜日

第110回 日本精神神経学会 (3) DSM-5セッション

精神神経学会でDSM-5のセッションにも出席しました。

特別講演6:(司会 岸本 年史)
・Evolutionary Conceptual Changes in DSM-5
Darrel A. Regier

委員会シンポジウム14:(司会 神庭 重信・大野  裕)
・DSM-5 の基本を理解する

最初に、Daniel A. Regier先生の講演があり、DSM-5についての概論、シンポジウムでも、Regier先生からDSM5のIVからの主な変更点についてのまとめがあり、その後、日本人の研究者からのさまざまな分野の今回の改変の特徴についてのまとめがありました。

正直なところ、今回のこのシンポジウムはさほど面白くはありませんでした。Regier先生の変更点についての講演は、変更点についてもう一度頭のなかでまとめることができてよかったのですが、その他の先生方の発表は、解説ということでさほど自分自身の考えを述べるというものでもなく、自分としては、むしろ以前に出席した製薬会社の勉強会のほうが興味が持てたように思います。

DSM5に関しては、もっとアメリカで作ったこの診断に順を日本に持ち込むときの問題点などについて、しっかり議論をしたほうが良いと考えています。これも、各カテゴリーごとに異なっているようにも思いました。今回、発達障害に関連したカテゴリーが大きく変わりましたが、これはむしろ私はポジティブに捉えています。発達障害の専門家の方々もそういう意見が多いように思います。しかし、その他の診断病名の追加や削除、また、それぞれの病名や、それぞれの診断項目が日本での臨床(日本の文化)に、適合したものなのかどうかについて、十分な議論を早いうちに始めるべきだとも思っています。

是非、学会ではこのような議論をするシンポジウムを今後の学会活動の中でしていってほしいと思います。また、日本の精神科臨床にあった、精神科分類、診断基準というものもできていくと良いとも思っています。