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2016年5月10日火曜日

イップス (Yips) (3)

イップスについて、先日2014年5月26日のNew Yorkerの記事を読みました。New Yorkerという雑誌は、アメリカの比較的教養ある人たちが愛読している雑誌だと思います。幅広い話題について、さまざまな興味深い角度から解説がされている雑誌で、ユーモアのある記事も見られます。

私は、熱心な読者ではないのですが、アメリカに住んでいた頃指導をしてもらっていた、Irwin Feinberg先生が、読んでいて、たしかこの雑誌に過労死の記事が出ていたのをびっくりしたような顔をして、日本人は死ぬまで働くのかと、聞きに来たのを覚えています。その後、しばらく過労死の話が出ていました。その後も、幾つかの記事を紹介してくれました。

このNew Yorkerのイップスの記事は、なかなか科学的な視点も取り入れた良いものでしたが、私が最も印象に残ったのは、これは以前にも書いたと思うのですが、やはりメイヨー・クリニックの研究についての解説で、イップスについて、心理的不安によって起こるということをよく言われるが、必ずしも心理的不安によるものばかりではないく、神経学的な何らかの基盤(体質、素因というようなもの)が強く関連しているということを強調していた点です。

イップスは、時々関わりますが、今度私のゼミの卒業生で、ハバナトレーナーズルームを恵比寿で開業している、石原心さんと、その治療について考えたいと思っていて勉強していた中で、この記事に出会いました。

興味深いので、英語ですがよろしければ原典もご参照ください。

http://www.newyorker.com/magazine/2014/05/26/the-yips

2014年7月18日金曜日

イップス (Yips) (2) 朝日新聞秋田の記事

以前問い合わせのあったイップスについての内容が、新聞記事になりました。取材があった朝日新聞秋田支局の江口記者から、朝日新聞秋田版の私の載った記事を送っていただきました。イップスについての私の仮説は、多分あっていると思います。多くの人がそう考えていることと思います。いわゆる、運動の学習は、まずは意識してこう動かすのだと考えそれを繰り返して練習しているうちに、皮質下(大脳基底核など)に運動に関わる神経プログラムが出来上がります。(詳細には、良い総説がありますので参照してください。)この神経プログラムを呼び出して使っているうちは、スムーズに練習した効率的な動きが可能になるわけですが、緊張が高まるとそれに大脳皮質からの回路が干渉して、スムーズな動きが阻害される結果になるという仮説です。

一緒にインタビューを受けている、日本イップス協会の河野会長もとても良いことを言っています。これは、より精神療法的なアプローチだと思いますが、イップスのある人の、生理学的に言えば「皮質からの干渉」を、気持ちを解きほぐすことによって軽減し、本来の練習したスムーズな動きができるようにすることです。イップスを起こす精神的背景についても、家庭環境の問題などにも言及していて、経験のある方なのだろうと思います。

私のゼミ出身の石原心氏は、現在アスレティックトレーナーとして活躍し、ハバナトレーナーズルームという治療院を開業し、キューバ野球チームなどにも関わっていますが、彼はまた、行動療法的なアプローチからイップスを治療する方法を考案しています。これは、なかなか効果があるようです。彼の卒業論文:イップスについて。

この記事は、イップスについての、簡単な知識が身につくと思います。ご一読ください。


2014年5月30日金曜日

イップス (Yips) (1)

ある新聞社からイップスについての問い合わせがあったので回答しました。イップスについては、スポーツと精神医学の関わりで非常に興味深いところなので、時々書いてみようと思います。まずは、その回答について。

===

・「イップス」とはどんなものなのか。定義は。
イップス(Yips)は、元来はゴルフのパット動作の際に、自分の思うような体の動きに反して、主に手首に不随意の力が加わり的を外してしまうということを示した言葉でした。その後、このような現象は様々なスポーツで認められるようになり、広く(多くは精神的な緊張を伴う、多分比較的時間をとれる場面で)不随意な運動により失敗をしてしまうことを示すようになっています。
定義は、上記のようなものだと思います。米国のメイヨークリニックのホームページを御覧ください。比較的信頼できる説明が出ています。
http://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/yips/basics/definition/con-20031359

・医学的な「症状」なのか。
実際のケースをみていると、いわゆる「書痙」と同様の機序のものであるように思われます。
あまりよい解説ではありませんが、書痙についてはWikipediaも御覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B8%E7%97%99

・治すことができるのか。
治療は、薬物療法と非薬物療法にわかれます。薬物療法には、一般に神経症に用いる薬物、例えばベンゾジアゼピン系抗不安薬、選択的セロトニンとり込み阻害剤(SSRI)などが効果があることがあります。また、非薬物療法は精神療法と行動療法にわかれます。精神療法では背景にある過度の不安をおこす精神的なメカニズムがあるかどうかについて明らかにし、これを解決する方向で行います。行動療法は、様々な方法がありますが、私の研究室の卒業生の石原心(アスレティックトレーナー:NHK出演歴あり)が開発した方法が良いように思います。彼は、とくに野球の投手のイップスの治療に効果を上げる方法をもっています。方法については、必要あれば本人に直接お問い合わせください。
http://www.havana-trainers-room.com/

・メカニズムなど。
不明です。私が考えるメカニズムとしては、運動は一般に練習によって大脳基底核や小脳などを含んだ皮質下の構造に、無意識の運動の回路ができます。この回路がスムーズに動けば、トレーニングによって養われたスムーズで正確な運動ができるわけです。一方このような回路は、ヒトが意識できる大脳皮質の働きによっても制御されています。イップスでは、このような大脳皮質の活動が、多分不安などの要因で過度に皮質下のメカニズムに影響を与えてしまうために、元来あった好ましい回路が十分に作動せず、不随意な運動となってしまう可能性があると思います。過度の意識が、運動学習された好ましい回路を阻害してしまうというメカニズムです。イップスが、不安が高い時に強く出て、治療によって不安が解消すると改善することもこの事と一致しています。