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2016年5月10日火曜日

イップス (Yips) (3)

イップスについて、先日2014年5月26日のNew Yorkerの記事を読みました。New Yorkerという雑誌は、アメリカの比較的教養ある人たちが愛読している雑誌だと思います。幅広い話題について、さまざまな興味深い角度から解説がされている雑誌で、ユーモアのある記事も見られます。

私は、熱心な読者ではないのですが、アメリカに住んでいた頃指導をしてもらっていた、Irwin Feinberg先生が、読んでいて、たしかこの雑誌に過労死の記事が出ていたのをびっくりしたような顔をして、日本人は死ぬまで働くのかと、聞きに来たのを覚えています。その後、しばらく過労死の話が出ていました。その後も、幾つかの記事を紹介してくれました。

このNew Yorkerのイップスの記事は、なかなか科学的な視点も取り入れた良いものでしたが、私が最も印象に残ったのは、これは以前にも書いたと思うのですが、やはりメイヨー・クリニックの研究についての解説で、イップスについて、心理的不安によって起こるということをよく言われるが、必ずしも心理的不安によるものばかりではないく、神経学的な何らかの基盤(体質、素因というようなもの)が強く関連しているということを強調していた点です。

イップスは、時々関わりますが、今度私のゼミの卒業生で、ハバナトレーナーズルームを恵比寿で開業している、石原心さんと、その治療について考えたいと思っていて勉強していた中で、この記事に出会いました。

興味深いので、英語ですがよろしければ原典もご参照ください。

http://www.newyorker.com/magazine/2014/05/26/the-yips

2015年7月13日月曜日

なでしこジャパン 準優勝 (最初の16分)

なでしこジャパンが、準優勝で帰国しました。我らが、早稲田大学スポーツ科学学術院教授 広瀬統一先生もフィジカルコーチとしての役割をしっかりと終えて帰国しました。ワールドカップ連覇はなりませんでしたが、2度の決勝進出はやはり素晴らしい出来だと思います。

私は、最初の16分間に5点のうち4点を取られたことは、しかし、反省の材料にはなるのではないかと思っています。私は、サッカーが好きなだけでサッカーの戦略的な専門家でも何でもないので、私の考察はあまり的を得ていないかもしれません。しかし、アマチュアレベルでもスポーツをやっていると、そう多くはないものの時々こういう場面に出会うように思います。

東洋経済の記事より
十分に練習はしていたのだけれども、何か歯車が合わない。ここで相手の調子が良いと、あれよあれよというまに、どんどんやられてしまう。こんな時に、どうしたら良いのか。

タイムアウト: サッカー意外の競技ではこういう時によく監督はタイムアウトをとります。お互いの実力が、タイムアウトをとっただけで変わるわけではないと思いますが、「流れを変える」という意味で、タイムアウトは意味が確実にあるように思えます。これは、「心理的な」作戦です。バレーボールなどのチーム競技でも、卓球などでもタイムアウトがとれたと思います。サッカーでは、タイムアウトは取れないのですが、私はラジオを聞いていて解説の早野宏史さんが、もう4点取られたあとだったか、「とにかくちょっと足が痛いって誰か倒れて、試合を切ったほうが良いですよ」と話していましたが、サッカーではこれも作戦としては大事なんだと思いました。自陣でボールを回すことの危うさが、試合開始直後の段階ではどうなのかはわかりませんが、時間稼ぎというのは、「流れを変える」という意味では、早い段階で何らかの、「流れを変える」「心理的な」決断がされても良かったのかもしれません。

経験のある選手の存在: そんな時にどうしたら良いのかは、私がこんなところで書くよりも、経験のある選手のほうがよく知っているでしょう。佐々木監督が早い段階で岩清水を下げ、澤を入れたのは私は意味のあることであると思いました。その後のなでしこの戦いぶりは、順当なものだったと思います。澤が先発に入るという選択肢は、今から考えればもしかしたらこういう試合では悪くなかったのかもしれませんが、これはあとから考えてそう思うだけのことです。これに関して言えば、澤と同等の経験をもつ選手を育てることが最も大切なことで、そして、これは実際になされていることです。したがって、結局のところはほんの少しの様々なずれが、今回のような結果につながったという一般的な解釈になるのかもしれません。

アメリカが強かったと言うのは絶対的事実として、認めざるを得ないと言うこともあります。

このような中でも、良かったのは、多くの若い選手がこの経験を共有できたことです。なでしこの選手はいつも明るく振舞っていますが、この経験がなんでもないものである訳はありません。この経験は、引退する澤だけでなく、若い選手に共有されている、そしてそれは未来の強さに必ずつながってくれるものと信じています。



関連記事: 東洋経済 セルジオ越後のコメント

2015年2月11日水曜日

モンティー・ホール問題

この時期は、修士課程学生の修士論文公開審査が行われます。私もいくつかの審査に加わりましたが、私が参加した研究で興味深い話題が出ていて、私自身もちょっと騙された感じがあったので、それについて書いてみます。

Monty Hall Dilemmaとしてこの問題は紹介されていましたが、モンティー・ホール問題(Monty Hall Problem)としても紹介されているのでこの名前を使います。Wikipediaにも解説があります。

これは、モンティーホールというアメリカの芸人が司会をしていた、商品付きの商品当てゲームのやり方を示しています。やり方は次のようなものです。

モンティー・ホール問題


1.まず、3つのドアが提示されます。回答者は、その一つに商品の自動車がはいっており、残りの2つにはやぎが入っていると説明されます。
(* 自動車とヤギとどちらが価値があるかわかりませんが、私はヤギも面白いなとちょっと思いました。)

2.そして、回答者はひとつのドアを選ばされます。それに自動車があれば、それが商品としてもらえるわけです。しかし、まだドアは開きません。

3.その後、モンティー・ホールが、残り2つのうち、ハズレのドア、つまりヤギが入っているドアを開いてみせます。そして、回答者に、ドアは今のままで良いか、それともまだ開いていないもう一つのものにするかを聞きます。(Stay=そのまま、か、Change=変える、かどちらかということです。)

4.そして、回答者がStayかChangeを選び、そのドアを開くわけです。


さて、この回答者はStayにしたほうが良いのでしょうか、それともChangeにしたほうが良いのでしょうか。確率的には、Changeにしたほうが、確率が2倍に高まります。これは、なかなか直感的に理解し難いですし、私も理解するのにちょっと時間がかかりました。ですので、みなさんもいろいろなサイトを見ながら、考えてみてください。

簡単に言うと、最初の段階でそれぞれのドアの確率は3分の1ずつ。そして、モンティー・ホールが残りの一つのうちハズレをばらしたところで、残りの方の確率が3分の2に上がったということです。ですので、そちらを選んだほうが二倍当選確率が上がるということです。

この問題のもう一つの面白いところは、人間の心性として、自分の最初に選んだものが外れるのと、最初に選んだものから変えたものが外れるのでは、後者のほうが心の痛みが大きいということです。したがって、このままで良いと思う人の割り合いのほうが結果的には多くなるという興味深い側面もあります。

肝心の修士論文の方ですが、脳波の誘発電位を用いて良い内容のものでした。そちらの方は、研究をした人が論文発表をしたものが出たら、ご覧下さい。

2014年7月18日金曜日

イップス (Yips) (2) 朝日新聞秋田の記事

以前問い合わせのあったイップスについての内容が、新聞記事になりました。取材があった朝日新聞秋田支局の江口記者から、朝日新聞秋田版の私の載った記事を送っていただきました。イップスについての私の仮説は、多分あっていると思います。多くの人がそう考えていることと思います。いわゆる、運動の学習は、まずは意識してこう動かすのだと考えそれを繰り返して練習しているうちに、皮質下(大脳基底核など)に運動に関わる神経プログラムが出来上がります。(詳細には、良い総説がありますので参照してください。)この神経プログラムを呼び出して使っているうちは、スムーズに練習した効率的な動きが可能になるわけですが、緊張が高まるとそれに大脳皮質からの回路が干渉して、スムーズな動きが阻害される結果になるという仮説です。

一緒にインタビューを受けている、日本イップス協会の河野会長もとても良いことを言っています。これは、より精神療法的なアプローチだと思いますが、イップスのある人の、生理学的に言えば「皮質からの干渉」を、気持ちを解きほぐすことによって軽減し、本来の練習したスムーズな動きができるようにすることです。イップスを起こす精神的背景についても、家庭環境の問題などにも言及していて、経験のある方なのだろうと思います。

私のゼミ出身の石原心氏は、現在アスレティックトレーナーとして活躍し、ハバナトレーナーズルームという治療院を開業し、キューバ野球チームなどにも関わっていますが、彼はまた、行動療法的なアプローチからイップスを治療する方法を考案しています。これは、なかなか効果があるようです。彼の卒業論文:イップスについて。

この記事は、イップスについての、簡単な知識が身につくと思います。ご一読ください。


2014年5月20日火曜日

アスリートのバーンアウト症候群

バーンアウト症候群について調べたいという学生が来て、相談に乗りました。このバーンアウト症候群という言葉は、スポーツ医学の分野では、非常によく使われます。競技を一生懸命やった末に、ある時、急に意欲が低下してやめてしまうというような場合です。そういう時にスポーツドクターからは、バーンアウト症候群として紹介されることもあります。

このバーンアウト症候群ですが、医学的な診断名ではありません。医学的な診断名は、例えばICD-10(WHOの国際疾患分類)に出ているような名前ですが、バーンアウト症候群も(オーバートレーニング症候群も)、ICD-10のなかには名前がありません。したがって、心療内科などの病院に行っても、バーンアウト症候群が正式な診断名となることはありません。

では、このバーンアウト症候群はどのようなものでしょうか。これは、社会心理学という分野で主には使われる名称で、もともとはヒューマンサービスに関わる人達に使われた言葉です。ヒューマンサービスとは人に対するサービスを行う仕事で、医療職や看護職、あるいは介護職なども含まれます。このような人たちの中に、それまで一生懸命仕事をやりながら、突然燃え尽きたように仕事をやめてしまう人がいるということが知られ、これがバーンアウト症候群と呼ばれるようになったということです。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/01/pdf/054-064.pdf

上記は、この分野の専門家である同志社大学の久保真人先生の論文へのリンクです。久保先生は、この分野の単行本も出版されています。




この本を見ると、このような燃え尽きたように見える人を、バーンアウト症候群とするための要件が三つあるということが書かれています。それらは、

1.情緒的消耗感 (emotional exhaustion)
2.脱人格化 (depersonalization)
3.個人的達成感 (personal accomplishment) の低下

です。これをアスリートの当てはめるとこのようなことになります。

1.俺はやってもやっても、レギュラーになれない。自分なりには相当努力した。しかし、監督も自分を認めてくれないし、時には控えめに考えても自分よりも下の選手が使われたりする。自分はそれでも努力したが、もう疲れた。2.監督は、おまえのポジションは他にも居るという。自分は、チームの為に一生懸命やってきたつもりだが、いつでも他の人に変えられるようなことを言われる。
3.やってもやっても、成功できない。いったい、どれだけ努力したら良いのだろう。

このような状態の中で、もう競技はやめようと思う状態があれば、それはバーンアウト症候群と社会心理学的に定義されることになるでしょう。しかし、多くの場合、スポーツ医学の現場では、嫌になってやめるように見える人たちが、全般的にそう呼ばれることがあるようです。そうは言っても、そういう人たちの中に、バーンアウトに当てはまる人は多くいるとは思います。

バーンアウトの結果として、ときにうつ病(あるいは、適応障害 うつ状態)に陥る人も居ますし、うつ状態にならず、他に自分の道を見つける人もいると思います。その後状態の人に対して、医学的ケアが必要であるとすれば、それはその人が何らかの医学的な意味での診断がなされる状態にある場合です。逆に言えば、バーンアウト症候群と言っても、特に医学的なケアが必要ないケースも有り得ると思います。

比較的多いのは、こういった選手を何とかもう一度競技に戻せないかという相談です。しかし、ここまでくると、なかなか難渋します。しかし、私の経験では、現在の状態を過去の自分のスポーツへの関わりから明らかにしていくプロセスを一緒に行う中で、今までこれだけ努力してやってきたことだから、もう一度頑張ってみようと思う選手が、ある割合居ることもわかりました。そういう選手は、競技に復帰すると再び努力し、多くは活躍するようになっています。