2014年11月28日金曜日

ミルタザピン (3) 抗ヒスタミン作用

これまでの図にはありませんでしたが、ヒスタミンに対してもミルタザピンは非常に強い作用があります。ミルタザピンの副作用には眠気が有りますが、眠気を起こす作用は、不眠を伴う患者さんに対して使いやすいということが有ります。眠気はヒスタミンのH1受容体遮断作用によるものです。このヒスタミン受容体への遮断作用は、非常に強いものです。したがって、ごく少量のミルタザピンでもヒスタミンへの遮断作用がおきます。ヒスタミンの遮断は、非常にシャープな睡眠導入作用ではないかもしれませんが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を安易に使うことを考えれば、不眠症状のあるうつ病患者さんに対して、ミルタザピンを試すのは良い選択かもしれません。

ただ、食欲に対しての少し厄介な副作用も有ります。ヒスタミンは、視床下部の食欲をコントロールする部位を刺激して、食欲を抑える働きがあります。ヒスタミンをブロックすると、この部位が働かず、満腹感が起こりにくいために食欲が増加するということが有ります。このため、ドカ食いをしてしまうということも起こるわけです。ミルタザピンを服用しはじめて、非常に太ってしまったとおっしゃる患者さんは多く居ます。したがって、この副作用は投与する前に予めお話しておいたほうがよいでしょう。

一方で、この副作用は、食欲のない患者さんに対しては治療的な効果としても発揮されるわけで、詳細に症状を聞きながら、処方を行っていくと、非常に効果的にミルタザピンを使える可能性も出てきます。

このように、ミルタザピンは非常に様々な作用を持った薬物ですが、使い方によっては一度に多くの症状を改善するという可能性もあり、臨床においても治療のための良い薬物として頭においておきたいと思っています。

2014年11月26日水曜日

大学院生合宿

毎年、この季節に大学院生の合宿をしています。今年は、早稲田大学鴨川セミナーハウスに行きました。千葉県の鴨川市(安房鴨川)にありますが、意外と遠いので驚きました。東京駅から安房鴨川まで、特急わかしおで1時間50分です。

4時頃に鴨川セミナーハウスで、勉強会をして、夜は飲み会。人間科学部から参加してくれた中国の留学生が、中国のお酒をもってきてくれて、それを少し飲みました。マオタイ酒のような白酒ウーリャン液ですが、なかなか強いお酒です。

勉強会は、「メラトニン分泌のメカニズム」「呼吸商について」「運動と睡眠の関係について」という3つのテーマについて勉強しました。

大学院のみんなと海ホタルで


翌日は、テニスをして、昼過ぎに鴨川の漁港のそばで食事をしました。私は、サザエ丼をたべて、帰りは、学生の車で東京まで送ってもらいました。その途中で、東京湾アクアラインの海ほたるに寄りました。海ほたるは初めてでしたが、とても景色のようところで、楽しめました。

なかなか良い合宿でした。

2014年11月24日月曜日

睡眠文化の講義 (鍛冶恵先生)

私が早稲田大学の秋学期に、全学向けに行っている講義「睡眠の医学」では、昨年から睡眠文化研究会事務局長の鍛冶恵先生をお招きして、睡眠文化の講義を毎年お願いしています。今年もお話をお聞きして、非常に興味深く思いました。

お話は、睡眠文化というものの考え方、寝具のお話、「ねむり衣」という睡眠文化学の言葉=眠るときに着るものの時代文化的変遷、眠りに関しての文化的背景など、大変盛りだくさんでした。この中で、いくつも興味深いことがあったのですが、一つ印象に残ったことを書きたいと思います。

北米のアメリカ原住民の文化の中に、装飾品でドリームキャッチャーというものがあります。これは、図に示すようなものなのですが、実は私も大きなのを一つ持っています。北米に住んでいた時に、アメリカ原住民の民芸店で買ったものです。しかし、これが正確にどのような意味があるのかは、よく知りませんでした。

鍛冶先生の説明によれば、ドリームキャッチャーは、言い伝えとして悪い夢を捕まえてくれるものであるということでした。このことから、北米の原住民の文化の中では、夢は外から入ってくるものと考えられているということです。


一方で、夢は眠っている間に自分自身の精霊が体から抜け出て、動きまわる間に経験するものと考えている文化も有るようです。体外離脱というようなもののようですが、鍛冶先生は眠っている人の顔にいたずらに何か書いたりすると、自分の体に精霊が戻れなくなってしまうので、それは駄目だと戒めている文化も有るという話もされていました。それがどこなのかは、聞き逃しました。

2014年11月21日金曜日

ミルタザピン (2) セロトニン(5-HT)に関わる作用

ノルアドレナリンに関わる作用を(1)で解説しましたが、ここではセロトニン(5-HT)に対する作用を解説したいと思います。解説を書くということは非常に勉強になるので、自分の勉強でもあるわけです。もう一度図を掲載します。



セロトニンへの働きは、図の②③④に示されたものです。

まず、②ですが、これは厳密にはミルタザピンそのものの作用ではありません。先に述べたように、ミルタザピンはノルアドレナリンの分泌を促進します。このノルアドレナリンは、セロトニンニューロンを興奮させセロトニンの分泌を促進するわけです。これが一つの、セロトニン分泌促進作用です。

次に③ですが、これはノルアドレナリンの分泌促進作用と同じようなものです。セロトニンニューロンにもα2ヘテロ受容体とよばれる自己受容体が有り、そこへはノルアドレナリンが作用して、セロトニンの分泌を抑制します。ノルアドレナリンは、分泌が促進されているのでこれをブロックしないとセロトニンの分泌は抑制されてしまいますが、ここをブロックするために、α2ヘテロ受容体からのセロトニンの分泌抑制がかからず、セロトニン分泌が促進されます。しかし、この他にも5-HT1B受容体というセロトニン自身の自己受容体もあり、これはブロックされません。

そして、④の作用ですが、これはセロトニン分泌促進作用ではなく、遮断作用です。ただ、これがうつ病の病態で弱まっている5-HT1A受容体は遮断せず、その他の2A, 2C, 3受容体を遮断するため、セロトニンは1A受容体に集まって作用することになり、相対的にセロトニンの働きを強めることになります。

この3つの作用は、どれも単純なものでなく、なかなか覚えられないのですが、大分自分の中でも整理されたように思います。

2014年11月19日水曜日

ミルタザピン (1) ノルアドレナリンに関わる作用

ミルタザピンは、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬で、NaSSAとも呼ばれている抗うつ薬です。日本で発売されて5年になり、私も使用しています。この薬の薬理作用は、なかなか興味深く、自分自身も常に明確に頭のなかにそれが整理されているかというと、あやふやになる部分があるので、すこしそれを整理してみたいと思っています。

ノルアドレナリン、セロトニンの他にもヒスタミンについても作用があり、これらを順番に取り上げようと思います。下記は、明治製菓ファルマが提供している、ミルタザピンの薬理作用の略図です。ミルタザピンは、日本では明治製菓ファルマからはリフレックス、MSDからはレメロンという商品名で発売されており、開発はMSDです。


まず、ノルアドレナリンに関しては、α2受容体への遮断作用があります。図の青いニューロンですがα2は自己受容体で、ノルアドレナリンを分泌するニューロン自体にくっついています。これにノルアドレナリンが、くっつくと、もうノルアドレナリンを分泌するなという分泌抑制作用として働きます。ミルタザピンはこれをブロックするので、分泌するなという作用が働かず、ノルアドレナリンがより多く分泌されるようになるわけです。

これが主なノルアドレナリンに対する作用です。ノルアドレナリンの作用が強まるという意味では、デュロキセチンに代表されるようなSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と同じようにノルアドレナリンの作用を強めますが、SNRIは取り込みを阻害するのに対して、ミルタザピンは自己受容体を介して、分泌抑制を弱めるため分泌量が多くなるという違いが有ります。

このように、ミルタザピンのノルアドレナリンに対する作用は、比較的単純です。しかし、セロトニン(5-HT)に対する作用は、非常に複雑で、これについてもまた整理してみます。

2014年11月17日月曜日

コバニ Kobani の状況を見て思うこと

トルコ、シリアの国境の街、コバニで、現在激しい戦闘が繰り広げられています。私は、この地域の紛争がどのよう収束していくのか興味があってロイターなどの報道を読むようにしています。また、コバニについては、Twitterでも検索してフォローしていましたが、本当に日夜を通じて激しい銃撃戦がこの小さな町を舞台に続いているようです。

この街には、イスラム国が侵入してきたのが9月中旬でしょうか。それ以来、街で暮らしていた人たちは難民としてトルコになだれ込みました。この地域が複雑なのは、コバニに住むクルド人はこの地域での独立を望んでいて、これはトルコにとっては厄介な存在です。トルコはこの独立運動をテロリストと考えています。

一方で、コバニに侵入してきたイスラム国もテロリストと考えられていて、トルコにしてみればテロリスト同士で戦っているように思われるわけです。したがって、当初(多分、現在も)トルコは、積極的にクルド人を援助はしていません。一方、イスラム国の排除には、現在はイラクからのクルド人も参加しているようです。トルコは当初このグループにトルコ国内を通過させないようにしていましたが、アメリカがイスラム国を排除するために、クルド人を支援し、トルコに圧力をかけ、トルコは通過を認め、現在は、イラクのクルド人がトルコを通ってコバニに入っています。また、シリアでは、自由シリア軍というアサド政権への反政府勢力が有り、これもイスラム国に対峙するように、一部参戦しているようです。また、もともとシリアに居たアルカイダ系の勢力は、これはイスラム国と協調しているようです。

このような、非常に複雑な構図になっているのですが、私が一番感じたのは、何と言っても戦争の悲惨さです。この街はここ2ヶ月、毎日毎日が破壊と殺しあいの連続のようです。街は、Twitterなどに掲載される写真を見ても本当にボロボロに崩壊しています。毎日、一つの通りを占拠した、また取られたという一進一退の状況がもう2ヶ月近くも続いています。

東アジアも、時に尖閣諸島の問題などが絡んで緊張が高まることも有ります。しかし、戦争は絶対に始めてはいけないと、このような状況をみて改めて思いました。地上戦は相手に向けて銃を発砲し、毎日毎日殺し合いをする日々です。それが毎日の全てです。やがて砲弾で街は全くの廃墟になっていきます。これまで人々が作り上げてきた街が短時間で瓦礫の山に化してしまうのです。

本当に胸が痛み、もうやめて欲しいと思うような状況がそこにあります。私は、東ウクライナの状況についてはあまり報道を追っていませんが、世界の紛争地域はすべからくそうなのでしょう。自分たちは戦争を経験していない世代ですが、親の世代から言われたことの大切さが、コバニの報道を追いながら、ひしひしと感じられました。

2014年11月14日金曜日

フルニトラゼパムの血中濃度半減期

フルニトラゼパムは、中間作用型の睡眠薬に分類されていますが、フルニトラゼパムの血中濃度の半減期は、6.8時間と書いてある正書もあって、そうであれば、短時間型に分類されるのかと思っていました。しかし、フルニトラゼパムの血中濃度の減衰曲線は二相性で、最初の12時間でみると比較的速やかに血中濃度がさがるようですが、その後の推移も見ると24時間とも考えられるということでした。


サイレース添付文書より



更に、フルニトラゼパムの代謝物は活性(睡眠薬としての働き)をもっており、この半減期を考えると、36-200時間くらいになるということでした。このことを考え合わせると、フルニトラゼパムの投与は、常にあるレベルの血中濃度が日中にもあるということを考える必要があります。

この薬物はω2ベンゾジアゼピン受容体にも作用します。この受容体に薬が作用すると、抗不安作用が発揮されるため、日中に一定の血中濃度を保つことは、日中の不安を和らげる作用もあるわけです。時に、不眠の患者さんは睡眠に対しての不安が強い場合が多く、このような不安を和らげる意味ではこの薬物を使う意味はあるようにも思います。

よく効く薬なのですが、アメリカでは持ち込み禁止薬物でもあり、慎重に量が増えないように、血中濃度の推移や依存について患者さんにも話しながら使っていく種類の睡眠薬であろうと思っています。



参考
http://www.chm.bris.ac.uk/motm/rohypnol/rohypnolh.htm

2014年11月12日水曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (4) 精神病理学的解釈

注意欠如障害に昼間の眠気が見られるということを、先日臨床心理の先生にお話しました。そうしたところ、眠気は授業中など、注意の転動があると困ってしまうのを無意識的に回避するための行動かもしれないということをおっしゃっていました。これは、確かにそういういう面もあるかもしれないなと思いました。こういった、社会性をまだもつ前の子供では立ち上がって動きまわったりするかもしれませんが、それはいけないことということが分かると、起きているといろいろなものが気になってじっとしているのが非常に辛いということになり、眠ってしまったほうが楽だということになるわけです。

これだけで、そのメカニズムを説明はできないかもしれませんが、眠気の強い子供でも好きなことに対して、周りが目にはいらないほど熱中してやるということは見られるので、このような解釈も成り立つのかもしれないと思いました。

2014年11月10日月曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (3) ドパミンの仮説

注意欠如障害の治療薬であるコンサータは、メチルフェニデート(リタリン)の徐放剤で、血中濃度の急激な上昇をさせずに、12時間程度の作用時間を保つように設計されている薬です。この薬は、下記に示すようにノルアドレナリンとドパミンの取り込みを司るトランスポーターの働きを抑えて、シナプス間隙のドパミンまたはノルアドレナリンを増やします。







脳の側坐核という部分のドパミンの放出が増えると、これが快刺激となって依存が形成されると言われています。メチルフェニデートはドパミンの作用を増強させるので、依存性がある薬物ですが、コンサータは徐放剤であるために急激な血中濃度の上昇がなく、比較的依存性が少ないと言われています。

さて、日中の眠気に関してこのドパミンはどのように働いているのでしょうか。ドパミンは、直接的にどのように睡眠覚醒に関与しているのかは、まだ良くわかっていないようです。しかし、細胞外のドパミン濃度が睡眠時よりも覚醒時に増加することが知られています。更にドパミントランスポーターが生まれつき無い動物では、ドパミンがより強く働いていることが推察されますが、そのような動物では覚醒時間が増加するといわれています。このようなことから、ドパミンは覚醒を起こさせる作用があるようにも考えられています。

従って、このようなドパミンの機能低下が場合によるとADHDの日中の眠気に関与している可能性もあります。

ところで、メチルフェニデートは、日中の睡眠発作を主症状とする過眠性疾患であるナルコレプシーにも用いられる薬物で、これを投与すると日中の眠気はとれます。多くの場合は、強い日中の眠気を呈するADHDの患者さんにコンサータを投与すると、眠気はとれます。この場合に、この眠気の改善に一体どのような神経メカニズムが関与しているのかは、非常に興味が有るところです。ナルコレプシーに欠けているオレキシンは、ノルアドレナリンにもドパミンにも作用してこれらの働きを増強させます。従ってADHDの眠気には、一般的に覚醒系全般の機能低下が関わっているのかも知れません。今後の研究が期待されるところです。



参考
ドパミンと睡眠に関わる研究の例
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6000

2014年11月7日金曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (2) ノルアドレナリンの仮説

このエントリーは前回3月に書きましたが、その後も睡眠専門外来には、日中の眠気で訪れて、注意欠如障害の症状を呈する患者さんが多く訪問しています。このようなケースに関して、推察される神経メカニズムと治療について、最近考えるところがあるのでまとめてみようと思います。

注意欠如障害は、ノルアドレナリンおよびドパミンという神経伝達物質(神経細胞同士の信号を伝達するための物質)の低下が背景に想定されます。これは、注意欠如障害治療薬の作用機序から推測されるものですが、ご存知のようにストラテラはノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、ノルアドレナリン機能を高めます。また、メチルフェニデートは、主にはドパミンの再取り込みを阻害して、ドパミン機能を高めます。

これらの薬物が関与するノルアドレナリンやドパミンは、睡眠覚醒にも関与しています。

ノルアドレナリンを神経伝達物質とする神経細胞は、脳幹部にある青斑核という神経細胞群に多く含まれています。青斑核は、ですので、ノルアドレナリンの起始核とも呼ばれています。青斑核にあるノルアドレナリン神経細胞は、長く軸索(神経線維)を伸ばして、大脳皮質全体に投射するようにノルアドレナリンを送っています。ノルアドレナリンは軸索をとおって脳全体に送られ、そこで他の神経細胞に対して影響を与えるわけです。

日本財団のホームページに良い画像があったので、転載します。


この画像をみると、脳幹部の青斑核から大脳全体にノルアドレナリン神経が投射している様子が示されています。この図の上部に「覚醒・注意」と書いてありますが、このようにノルアドレナリン神経は、覚醒に関与している神経伝達物質です。

注意欠如障害の患者さんで、日中の眠気を主訴に訪れる方が多いのをみると、一つにはこのノルアドレナリン系の機能低下が関与しているのかとも思います。

ストラテラ(アトモキセチン)を投与して、ノルアドレナリン系の機能を高めると、これが解決する成人のケースはあります。また、割合に多くの患者さんが朝の寝起きがよくなる、睡眠が安定するというようなことを言われます。今後の研究課題として、ADHDの患者さんの睡眠について、投薬前後で終夜睡眠ポリグラフを記録して、比較してみると面白いのではないかとも思いました。

しかし、小児で経験したある症例では、ストラテラではほとんど効果がありませんでした。このように、必ずしもノルアドレナリン系だけが関与しているわけでもないのかもしれません。また、薬物の効果だけで、神経伝達物質を完全に同定することも不可能だとも思います。

いずれにしても、昼間の眠気と神経伝達物質の関係については興味深く感じていますので、いろいろと考えてみたいと思っています。

2014年11月5日水曜日

文京学院 女子中学校・高等学校での講演

先日、文京区駒込駅近くにある、文京学院大学女子中学校高等学校で、講演をしました。この女子中学高等学校の一貫校は、大変ユニークな教育をしており、都内の女子高校では初めてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されたそうです。また、このAdvanced Scienceというコース他にGlobal Studiesとして、国際化を推進するコースと、Sports Scienceのコースを作りました。来年度から正式な募集を始めるそうですが、この新しいコースの中で、新生文京学院というシンポジウムを行いました。そこに招待されて話をしました。



私は、スポーツ科学は大きく捉えれば、あらゆる学問を包含する応用科学だと思います。その話を中学高等学校の生徒さんたちにしたのですが、その中では、サイエンスだけでなく、スポーツの歴史についても紹介しました。特に、私の親しい同僚の石井昌幸先生(早稲田大学准教授)から、イギリスのフットボールのルールを統一する歴史のスライドをお借りして、多くの人が共通のルールでフェアプレイをするということは、様々な苦労があったという話もしました。

もう一つは、グローバリゼーションにおける問題です。世界がひとつになり、これは良いこともたくさんありますが、困ったことも起きてきています。この中で、Ecological Footprintの概念を取り上げて、お話しました。この概念については、批判も有りますが、しかし注意を喚起するという意味では、とても意味のある概念だと思います。

また、パレスチナ問題についても触れました。パレスチナ問題は、解決策がすぐに見るかる問題では無いのですが、ここで、パレスチナとイスラエルの子どもたちに、一緒に柔道の稽古をするなかで、お互いの融和を図ろうという山下泰裕さんの試みを取り上げました。

全体として、スポーツ科学の自然科学という側面、グローバリゼーションの中で起きてくる問題を、共通のルールでフェアプレイという媒体を使って、人々の心を暖かくし、問題を解決の方向へ導く強い力になるのだということをお話しました。

勿論、そんなに簡単なものではないと思います。しかし、早稲田大学がSGUをとり、我がスポーツ科学学術院が向かっていく方向も、そのようなところにあるのではないかと思っています。

2014年11月3日月曜日

新しい睡眠薬 (4) ベルソムラ(スボレキサント)20mgを実際に服用してみました(その2)

オレキシン受容体拮抗薬で、睡眠薬として新しく発売されたベルソムラ20mgをまた服用してみました。前回と同様、睡眠の質の向上が感じられましたが、いくつかその他のポイントがあったのでまとめてみました。
(なお、2回の服用による個人的な感想なので、一般化できるかどうかは慎重に考えたほうが良いと思います。私自身は、このような主観的な体験は、患者さんの主観的な体験を共有するときの重要な情報にして、臨床に活かしていきたいと思っています。)


1.服用時刻
通常ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、就床の20-30分位前に飲むのが良いと思いますが、昨日は服用してから入浴、その後いつ頃眠くなるかを見るために、スマホで映画を見てみました。一度の経験ですが、入浴中は全く眠気はありませんでした。気持よく入れました。就寝前の入浴は、なるべく浴室を暗くして入るようにしているのですが、それでも眠気はさほど感じませんでした。その後、ひと通り眠る準備をして、スマホは青白光カットモードで映画を見ました。その結果、映画が33分進んだあたりで、かなり眠くなりその後すぐに入眠しました。

一度の経験なので、なんとも言えないですが、オレキシン受容体のブロックが実感されるのは、場合によるとベンゾジアゼピン受容体がGABAのアフィニティーを上昇させる(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効き目が実感される)よりも、もっと時間がかかるのかもしれません。昨日の印象では、就床の1時間から2時間位前に服用するのが良いという感じがしました。しかし、その場合には、その間の行動に、外出などの必要がないほうが安全だと思います。

もう少し経験を積む必要がありますが、いずれにしても、服用時刻については十分に考えて見る必要があるかもしれません。これは、患者さんにそのように説明しないと「効かない薬」と最初に評価が下ってしまう可能性があるからです。トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の超短時間作用型)よりも、眠気に対する切れ味は悪いのかもしれませんが、使い方をきちんと考えれば、患者さんも実感として良い薬と考えてもらえるからです。これは、ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬)の場合も同じように感じました。

2.睡眠の維持
睡眠の維持は、もともと中途覚醒に悩んでいる人でないと、実感はしっかりないかもしれませんが、私の主観では睡眠の維持は良かったように思いました。通常、夜中におきることは有りますし、服用時にも中途覚醒はありました。しかしその後の入眠は、ベルソムラ服用時には、さほど意識せず自然に入眠したように思います。逆に、ベルソムラを飲んでいても、中途覚醒が全くなくなるということもなく、覚醒を抑制する薬物としても、何かあってもおきられずに眠りっぱなしで居るということは無さそうです。また、朝の起床時の感覚は、やや眠気が強いようには思いました。普通に起きることができ、活動できますが、若い時に朝眠いなぁと思うようなあの感覚がありました。これは、スボレキサントの血中半減期が12時間ということにも関連があるのではないかと思います。オレキシンと競合して、覚醒がおきるので血中濃度だけで眠気が決まるわけではないということもありますが、それでも朝眠いという感じはあるのではないでしょうか。これは、気持ちのよい眠さでも有りますが、遅刻の要因になるかもしれませんね。

3.服用量
今回は20mgしか持っていなかったので、20mgを服用しましたが、高齢者用の15mgでも(私のような特に睡眠に問題のない人には)十分かなと思いました。長期連用の副作用は、特に注意はされていないのですが、ベンゾジアゼピンのように側坐核のドパミン放出促進をさせないのであれば、依存は形成されず、睡眠の質が向上するという意味では良いと思います。連用の問題は、日中の眠気や認知機能低下があげられると思いますが、この影響がどの程度なのかは今後の課題になりそうです。データでは、認知機能への影響はないと報告されています。

私は、さほど重症でない患者さんには、10mgくらいの低容量を使いながら、日中の活動性上昇や、生活を規則正しくするなどの生活療法を併用しながら、不眠を改善していく方法が良さそうではないかという感覚を、個人的には持ちました。現在、10mg錠はありませんが、高齢者向けに15mg錠はあります。このような低容量投与も含めて臨床的には、実際に利用しながら学んでいきたいと思っています。

受診は: すなおクリニック(大宮駅東口徒歩3分) へ