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2015年3月30日月曜日

どうして頭部外傷後に長く眠るようになるのか? (Psychiatric Times記事)

Psychiatric Timesの3月27日の記事に、Moving Beyond “Hand Waving”: Why Do People Sleep a Lot After a Traumatic Brain Injury?という題名のものがありました。この、「Hand Waving」という英語の意味がよくわからなかったのですが、これは「ごまかし」という意味だそうです。次のような会話が示されています。

患者: 先生、頭をうって大分良くなったんですが、なんか最近良く寝るんですよ。どうして、こんなに長く眠れるんでしょうか。

医者: それは、当然本当に脳が回復するために、時間がかかるんですよ。その回復のために、睡眠が必要になるんですなぁ。

しかし、この医者の説明は全てウソでないにしても、多分にごまかしが入っているということを指摘しています。



この記事では、2015年の1月号のAnnals of Neurologyという学術誌にのった、Valkoらの論文を紹介しています。この論文で彼らは、2009年に発表した論文の頭部外傷の患者さんをフォローした結果を示しているということです。そして、乳頭結節という後部視床下部にある覚醒系の神経伝達物質をであるヒスタミンを産生する部位が損傷されていることを明らかにしたようです。さらには、ヒスタミンほど顕著でないけれども、視床下部外側野に位置するオレキシンを産生する部分も損傷されていることも記載されているようです。オレキシンは、これも覚醒を促進する神経伝達物質として働いており、これらの部位の機能不全が、睡眠過多を引き起こしているようです。このメカニズムは、外傷性のナルコレプシーにも通じるものです。

面白かったのは、この記事の最後にSidney Harrisという風刺漫画家が引用されているところです。この漫画はオリジナルの記事には掲載されていませんでしたので、私が探してきました。これを掲載します。

二人の科学者が、黒板の前の立って議論をしています。そして、一人の科学者が真ん中に書かれている部分を指さして、「ここで、奇跡が起こって」というところをさして、「この部分についての説明は、もう少し明確にしなくてはいけないなぁ。」ともう一人の科学者に話しています。

頭をうって、よく眠るようになるのは、「脳の回復には時間がかかるんですよ。」というごまかしでなく、「覚醒を促す、ヒスタミンやオレキシンという物質を産生する部分が損傷を受けているのかもしれない。」という、明確な説明ができるようになり、そしてそのことが明らかになればそれに対する治療も、目的に沿った形でできるようになってくると、著者は結んでいます。

なかなか良いコラムでした。興味のある方はぜひ、オリジナルをお読みください。


2014年12月12日金曜日

新しい睡眠薬 (5) ベルソムラ(スボレキサント)を臨床で使ってみて。

スボレキサントが発売されて二週間ほどですが、良い印象を持っています。様々な患者さんに用いました。スボレキサントは、就寝前に服用することとなっていて、だいたい30分くらい前までには飲むように指導がされています。しかしながら、スボレキサントの作用機序は、オレキシン受容体へスボレキサントが結合し、その結合がノルアドレナリンなどの神経伝達物質への神経活動の促進をブロックし、その結果として眠気が出るというものです。そう考えると、これまで使われてきた、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が、直接的に脳に有る神経細胞の活動性を全般的に下げるというメカニズムとは異なっています。ベンゾジアゼピンの一段階の作用に比べ、スボレキサントが二段構えの作用であることを考えると、作用が開始するのに服用してから、より時間がかかるのではないかと、私は考えています。

これまで、患者さんには、就寝時刻の1時間半程度早めに飲んで、どのくらいで眠くなるのかの時間を教えてくださいとお話してあります。これまで、まだ少数例ですが、服用直後はほぼ眠気は出ないといいます。しかし、だいたい1時間から1時間半くらい経つと、眠気が出てきてこのタイミングで布団に入ると、自然に眠れるという話を多く聞きます。また、中途覚醒があっても、また再入眠しやすい、ということもだいたい共通した印象であるようです。

このような、投与前の説明は大変意味があります。これまで飲んでいた睡眠薬とは違う働き方をするけれども、自然な睡眠を導入するということを丁寧に説明することで、患者さん自身も、使うタイミングを自分で探すという能動的な姿勢になります。

副作用としては、朝は眠気が有る、ちょっと起きにくいというものもあります。しかし、おきられないということはないということです。

これまでの少数例の印象では、

1.少し早めに飲んだほうが良い。
2.中途覚醒に対しては、良い効果がある。
3.朝の眠気は多少あるので、それが強い場合は、より早めに飲むか、15mgの服用にする。

などのことが良さそうに思っています。

2014年11月3日月曜日

新しい睡眠薬 (4) ベルソムラ(スボレキサント)20mgを実際に服用してみました(その2)

オレキシン受容体拮抗薬で、睡眠薬として新しく発売されたベルソムラ20mgをまた服用してみました。前回と同様、睡眠の質の向上が感じられましたが、いくつかその他のポイントがあったのでまとめてみました。
(なお、2回の服用による個人的な感想なので、一般化できるかどうかは慎重に考えたほうが良いと思います。私自身は、このような主観的な体験は、患者さんの主観的な体験を共有するときの重要な情報にして、臨床に活かしていきたいと思っています。)


1.服用時刻
通常ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、就床の20-30分位前に飲むのが良いと思いますが、昨日は服用してから入浴、その後いつ頃眠くなるかを見るために、スマホで映画を見てみました。一度の経験ですが、入浴中は全く眠気はありませんでした。気持よく入れました。就寝前の入浴は、なるべく浴室を暗くして入るようにしているのですが、それでも眠気はさほど感じませんでした。その後、ひと通り眠る準備をして、スマホは青白光カットモードで映画を見ました。その結果、映画が33分進んだあたりで、かなり眠くなりその後すぐに入眠しました。

一度の経験なので、なんとも言えないですが、オレキシン受容体のブロックが実感されるのは、場合によるとベンゾジアゼピン受容体がGABAのアフィニティーを上昇させる(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効き目が実感される)よりも、もっと時間がかかるのかもしれません。昨日の印象では、就床の1時間から2時間位前に服用するのが良いという感じがしました。しかし、その場合には、その間の行動に、外出などの必要がないほうが安全だと思います。

もう少し経験を積む必要がありますが、いずれにしても、服用時刻については十分に考えて見る必要があるかもしれません。これは、患者さんにそのように説明しないと「効かない薬」と最初に評価が下ってしまう可能性があるからです。トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の超短時間作用型)よりも、眠気に対する切れ味は悪いのかもしれませんが、使い方をきちんと考えれば、患者さんも実感として良い薬と考えてもらえるからです。これは、ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬)の場合も同じように感じました。

2.睡眠の維持
睡眠の維持は、もともと中途覚醒に悩んでいる人でないと、実感はしっかりないかもしれませんが、私の主観では睡眠の維持は良かったように思いました。通常、夜中におきることは有りますし、服用時にも中途覚醒はありました。しかしその後の入眠は、ベルソムラ服用時には、さほど意識せず自然に入眠したように思います。逆に、ベルソムラを飲んでいても、中途覚醒が全くなくなるということもなく、覚醒を抑制する薬物としても、何かあってもおきられずに眠りっぱなしで居るということは無さそうです。また、朝の起床時の感覚は、やや眠気が強いようには思いました。普通に起きることができ、活動できますが、若い時に朝眠いなぁと思うようなあの感覚がありました。これは、スボレキサントの血中半減期が12時間ということにも関連があるのではないかと思います。オレキシンと競合して、覚醒がおきるので血中濃度だけで眠気が決まるわけではないということもありますが、それでも朝眠いという感じはあるのではないでしょうか。これは、気持ちのよい眠さでも有りますが、遅刻の要因になるかもしれませんね。

3.服用量
今回は20mgしか持っていなかったので、20mgを服用しましたが、高齢者用の15mgでも(私のような特に睡眠に問題のない人には)十分かなと思いました。長期連用の副作用は、特に注意はされていないのですが、ベンゾジアゼピンのように側坐核のドパミン放出促進をさせないのであれば、依存は形成されず、睡眠の質が向上するという意味では良いと思います。連用の問題は、日中の眠気や認知機能低下があげられると思いますが、この影響がどの程度なのかは今後の課題になりそうです。データでは、認知機能への影響はないと報告されています。

私は、さほど重症でない患者さんには、10mgくらいの低容量を使いながら、日中の活動性上昇や、生活を規則正しくするなどの生活療法を併用しながら、不眠を改善していく方法が良さそうではないかという感覚を、個人的には持ちました。現在、10mg錠はありませんが、高齢者向けに15mg錠はあります。このような低容量投与も含めて臨床的には、実際に利用しながら学んでいきたいと思っています。

受診は: すなおクリニック(大宮駅東口徒歩3分) へ

2014年10月24日金曜日

新しい睡眠薬 (2) スボレキサント

オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントがいよいよ発売されます。私はまだ使用経験がありませんが、この睡眠薬はこれまでのベンゾジアゼピン系睡眠薬と比較して、全く新しい作用機序であるところが注目されます。簡単にいえば、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳の神経の働きを全体に低下させます。全体というと語弊がありますが、ベンゾジアゼピンGABA-Clチャンネル受容体複合という、GABAが作用して神経の活動性が下がるスイッチは、かなり広い範囲の脳神経についています。ベンゾジアゼピンはその機能を高めて、神経の働きを低下させやすくするわけです。したがって、神経の働きの低下により、眠気や鎮静作用が起きてきます。

スボレキサントは作用機序は根本的に異なっています。オレキシンという、覚醒に作用する神経伝達物質が作用する受容体(作用点)をブロックして、一定時間オレキシンが働きにくくする。それによって、眠気が出るという作用機序です。このオレキシンは、日中に分泌が多いですが、夜間も分泌されているため、これをブロックすることでより安らかな睡眠が得られるというのが説明です。

発売開始するMSD社の説明によれば、このスボレキサントは、血中濃度は比較的すみやかに低下するのですが、オレキシン受容体のブロック作用は朝まで続き、朝起きる頃にちょうどその作用が切れるということで、睡眠の導入だけでなく、睡眠の維持にも効果があるということでした。

実際の使用経験がまだ無いので、またこれについて使用経験が出てきたところで報告したいと思います。来月くらいから次第に使われるようになるのではないかと思います。

ただ、不眠症に関しては、新しい薬に過剰に期待するのはあまり良い考えではないと思います。睡眠は24時間全体の中で考えるべきで、日中の活動性の上昇(運動)や、睡眠覚醒のリズム、食事などにも気をつけて、より健康的な生活を営むということが最も重要な事と考えられるでしょう。そのことは忘れないようにしたいものです。

2014年7月9日水曜日

第39回 日本睡眠学会 徳島 (2) オレキシン受容体アンタゴニスト

オレキシン受容体アンタゴニストのSuvorexantが、MSD社から発売される予定であるというニュースは聞いていましたが学会でその内容を聞くのは初めてでした。オレキシンというのは、脳の神経伝達を担う神経伝達物質のひとつで、とくに睡眠覚醒に関連しては、覚醒状態を維持する働きのある物質です。このSuvorexantという薬は、このオレキシンの働きをブロックする作用があるわけです。したがって、オレキシンをブロックすると、覚醒への作用が減少し、眠気が出るため、睡眠薬として用いることができるわけです。

これまでに主に使われていた、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、Suvorexantとは全く異なった機序で、(GABAを介して)神経の活動を全般に低下させることによって、睡眠を導入します。したがって、神経活動全般が低下するので、例えば神経全般に異常発火が起きる、てんかん発作の抑制などにも用いられます。また、麻酔前投与役などにも使われます。また一方で、記憶障害や筋弛緩、ふらつき、などの副作用もあります。しかし、このSuvorexantは、睡眠のメカニズムに直接作用することによって睡眠を導入するという意味で、画期的な薬物であり、副作用も少ないという評判です。

セッションでは、米国のMSD社からも研究者が来日し、発表していました。このような学会で、発表をすることは、非常に大きな宣伝にもなるわけですが、Suvorexantに関しては、非常に興味深い機序の薬物なので、学問的な興味から多くの聴衆が集まっていました。MSD社からは、Suvorexantが副作用が少なく、睡眠の構造(ノンレム睡眠やレム睡眠の割合など)を変化させずに、睡眠の質を良くする薬剤であるなどの説明がありました。

このセッションでは、私もこの薬物に興味があったので、ポスターセッションを含めて何度も質問をしました。ひとつは、オレキシンは覚醒の維持のために昼間分泌される神経伝達物質ですが、夜間眠る前にSuvorexantを投与するのは、オレキシンの分泌が少ない時期での投与だが、意味があるのかどうか。また、不眠症の患者さんでは夜間のオレキシン分泌が多くなっているというエビデンスがあるか。これは、まだデータは無いということでしたが、オレキシンは夜間でもゼロになるわけではないということと、薬が効果があるというのは実証されているところだということでした。また、ベンゾジアゼピンなどの他の薬剤との併用、あるいは、高齢者に対する投与についても質問いたしましたが、これらについては少なくとも発売すぐの状況では、慎重に使っていくのが良いという回答でした。この点は、注意深く用いまずは、Suvorexantのみの投与でその効果を見ていくのが良さそうです。

期待される薬物ではありますが、一方で、慎重さも大切だと思います。秋ころに発売される見通しのようですが、あくまで患者さんへの利点を第一に考えて、薬物選択をしていくことが大事だと思います。また、ベンゾジアゼピンよりも、副作用などが少ないとすれば、積極的に利用する視点も一方で持ちたいと思います。