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2015年10月8日木曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (5) 真性ナルコレプシーとのCo-morbidity 

以前にも同様の題名でエントリーをしましたが、その後もEDS(Excessive Daytime Sleepiness=
日中の過度の眠気)という主訴で来院される方の中に、ADHDの診断基準に当てはまる方が多く居ます。その中には、このブログを読んで見える方も居ます。勿論、日中の過度の眠気を主訴として来院される方の中には、ADHDの診断が可能な方もいればそうでない方も居ます。診断的には、いわゆる睡眠不足症候群や、睡眠時無呼吸症候群、ムズムズ脚症候群、ナルコレプシーなどの存在をきちんと確認しなくてはいけません。

この、睡眠とADHDの関係については、文献的な考察も行い、先日はヤンセンファーマ株式会社の講演会でもお話する機会を得ました。

さて、こういった患者さんの中には真性のナルコレプシー、つまり、日中の過度の眠気、睡眠発作、短時間睡眠ですっきりする、カタプレキシー(情動脱力発作=驚いたり、おかしいなど強い情動で力が抜ける)、入眠時幻覚、睡眠麻痺などの症状が揃っているナルコレプシーの方がいるということも少なからず経験しています。また、このような点については、論文も出されています。

例えばこちら。
http://www.journalsleep.org/ViewAbstract.aspx?pid=30124

しかし、この点については、まだ十分に自分自身も整理できていませんし、また文献的にもクリアにこの関係について説明するものはありません。今後、更に経験を重ねて、治療経過を見ながら、この関係については考えていきたいと思っていますが、現状の考えをまとめると以下のとおりです。

ナルコレプシーの病態は、オレキシン細胞の脱落ということが言われています。オレキシンの役割は何かというと、これは脳幹部(脳が脊髄に繋がるあたり)の、覚醒に関わる神経細胞に対してその活動を維持させるような働きをもっていることが知られています。ナルコレプシーの患者さんは、おきていることができないわけではありませんが、維持が難しく睡眠発作が出現してしまいます。

このような、脳幹部の覚醒に関わる神経核には、ノルアドレナリンやドパミンを産生する核も含まれます。これは、以前にも書いたようにADHDの病態に関わる神経伝達物質です。したがって、考えられる病態は、オレキシンが欠落していると、これらの細胞に対する持続的な活動の維持のための刺激がなくなり、ノルアドレナリンやドパミンの神経細胞の機能低下が起こり、その結果としてADHD様の症状が出現する可能性があるということです。

ADHD様の症状と書きましたが、そうすると、これはADHDではないということにもなりますが、もしこういった考え方が正しならば、ADHDではないが、ADHDに似ているということになります。しかしながら、ADHDそのものの原因も、均一な疾患であるのかどうかもよくわかっていない現在では、これは、ADHDとは別のものだとも言いがたいようにも思います。

ADHDの診断は、血液検査や脳波検査、MRI検査などによってなされるものではなく、病歴や現在の症状などによって、一定の診断基準を満たした場合になされます。このような中で、睡眠障害は除外診断には入っていませんので、ADHDの基準を満たせば診断は可能です。

私は、Co-mobidity(共存症=2つ以上の疾患が共存している)という捉え方を先ずはして、先にADHDの治療を行い、これによってナルコレプシーの症状がどこまで改善されるかという経過を診るようにしています。勿論、カタプレキシーなどの症状がひどければ、これを改善する薬物を先に投与することも有ります。

睡眠と発達障害の関連は、今後も更に研究の発展が見られる分野であると確信しています。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ

2014年11月28日金曜日

ミルタザピン (3) 抗ヒスタミン作用

これまでの図にはありませんでしたが、ヒスタミンに対してもミルタザピンは非常に強い作用があります。ミルタザピンの副作用には眠気が有りますが、眠気を起こす作用は、不眠を伴う患者さんに対して使いやすいということが有ります。眠気はヒスタミンのH1受容体遮断作用によるものです。このヒスタミン受容体への遮断作用は、非常に強いものです。したがって、ごく少量のミルタザピンでもヒスタミンへの遮断作用がおきます。ヒスタミンの遮断は、非常にシャープな睡眠導入作用ではないかもしれませんが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を安易に使うことを考えれば、不眠症状のあるうつ病患者さんに対して、ミルタザピンを試すのは良い選択かもしれません。

ただ、食欲に対しての少し厄介な副作用も有ります。ヒスタミンは、視床下部の食欲をコントロールする部位を刺激して、食欲を抑える働きがあります。ヒスタミンをブロックすると、この部位が働かず、満腹感が起こりにくいために食欲が増加するということが有ります。このため、ドカ食いをしてしまうということも起こるわけです。ミルタザピンを服用しはじめて、非常に太ってしまったとおっしゃる患者さんは多く居ます。したがって、この副作用は投与する前に予めお話しておいたほうがよいでしょう。

一方で、この副作用は、食欲のない患者さんに対しては治療的な効果としても発揮されるわけで、詳細に症状を聞きながら、処方を行っていくと、非常に効果的にミルタザピンを使える可能性も出てきます。

このように、ミルタザピンは非常に様々な作用を持った薬物ですが、使い方によっては一度に多くの症状を改善するという可能性もあり、臨床においても治療のための良い薬物として頭においておきたいと思っています。

2014年11月21日金曜日

ミルタザピン (2) セロトニン(5-HT)に関わる作用

ノルアドレナリンに関わる作用を(1)で解説しましたが、ここではセロトニン(5-HT)に対する作用を解説したいと思います。解説を書くということは非常に勉強になるので、自分の勉強でもあるわけです。もう一度図を掲載します。



セロトニンへの働きは、図の②③④に示されたものです。

まず、②ですが、これは厳密にはミルタザピンそのものの作用ではありません。先に述べたように、ミルタザピンはノルアドレナリンの分泌を促進します。このノルアドレナリンは、セロトニンニューロンを興奮させセロトニンの分泌を促進するわけです。これが一つの、セロトニン分泌促進作用です。

次に③ですが、これはノルアドレナリンの分泌促進作用と同じようなものです。セロトニンニューロンにもα2ヘテロ受容体とよばれる自己受容体が有り、そこへはノルアドレナリンが作用して、セロトニンの分泌を抑制します。ノルアドレナリンは、分泌が促進されているのでこれをブロックしないとセロトニンの分泌は抑制されてしまいますが、ここをブロックするために、α2ヘテロ受容体からのセロトニンの分泌抑制がかからず、セロトニン分泌が促進されます。しかし、この他にも5-HT1B受容体というセロトニン自身の自己受容体もあり、これはブロックされません。

そして、④の作用ですが、これはセロトニン分泌促進作用ではなく、遮断作用です。ただ、これがうつ病の病態で弱まっている5-HT1A受容体は遮断せず、その他の2A, 2C, 3受容体を遮断するため、セロトニンは1A受容体に集まって作用することになり、相対的にセロトニンの働きを強めることになります。

この3つの作用は、どれも単純なものでなく、なかなか覚えられないのですが、大分自分の中でも整理されたように思います。

2014年11月19日水曜日

ミルタザピン (1) ノルアドレナリンに関わる作用

ミルタザピンは、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬で、NaSSAとも呼ばれている抗うつ薬です。日本で発売されて5年になり、私も使用しています。この薬の薬理作用は、なかなか興味深く、自分自身も常に明確に頭のなかにそれが整理されているかというと、あやふやになる部分があるので、すこしそれを整理してみたいと思っています。

ノルアドレナリン、セロトニンの他にもヒスタミンについても作用があり、これらを順番に取り上げようと思います。下記は、明治製菓ファルマが提供している、ミルタザピンの薬理作用の略図です。ミルタザピンは、日本では明治製菓ファルマからはリフレックス、MSDからはレメロンという商品名で発売されており、開発はMSDです。


まず、ノルアドレナリンに関しては、α2受容体への遮断作用があります。図の青いニューロンですがα2は自己受容体で、ノルアドレナリンを分泌するニューロン自体にくっついています。これにノルアドレナリンが、くっつくと、もうノルアドレナリンを分泌するなという分泌抑制作用として働きます。ミルタザピンはこれをブロックするので、分泌するなという作用が働かず、ノルアドレナリンがより多く分泌されるようになるわけです。

これが主なノルアドレナリンに対する作用です。ノルアドレナリンの作用が強まるという意味では、デュロキセチンに代表されるようなSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と同じようにノルアドレナリンの作用を強めますが、SNRIは取り込みを阻害するのに対して、ミルタザピンは自己受容体を介して、分泌抑制を弱めるため分泌量が多くなるという違いが有ります。

このように、ミルタザピンのノルアドレナリンに対する作用は、比較的単純です。しかし、セロトニン(5-HT)に対する作用は、非常に複雑で、これについてもまた整理してみます。

2014年11月7日金曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (2) ノルアドレナリンの仮説

このエントリーは前回3月に書きましたが、その後も睡眠専門外来には、日中の眠気で訪れて、注意欠如障害の症状を呈する患者さんが多く訪問しています。このようなケースに関して、推察される神経メカニズムと治療について、最近考えるところがあるのでまとめてみようと思います。

注意欠如障害は、ノルアドレナリンおよびドパミンという神経伝達物質(神経細胞同士の信号を伝達するための物質)の低下が背景に想定されます。これは、注意欠如障害治療薬の作用機序から推測されるものですが、ご存知のようにストラテラはノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、ノルアドレナリン機能を高めます。また、メチルフェニデートは、主にはドパミンの再取り込みを阻害して、ドパミン機能を高めます。

これらの薬物が関与するノルアドレナリンやドパミンは、睡眠覚醒にも関与しています。

ノルアドレナリンを神経伝達物質とする神経細胞は、脳幹部にある青斑核という神経細胞群に多く含まれています。青斑核は、ですので、ノルアドレナリンの起始核とも呼ばれています。青斑核にあるノルアドレナリン神経細胞は、長く軸索(神経線維)を伸ばして、大脳皮質全体に投射するようにノルアドレナリンを送っています。ノルアドレナリンは軸索をとおって脳全体に送られ、そこで他の神経細胞に対して影響を与えるわけです。

日本財団のホームページに良い画像があったので、転載します。


この画像をみると、脳幹部の青斑核から大脳全体にノルアドレナリン神経が投射している様子が示されています。この図の上部に「覚醒・注意」と書いてありますが、このようにノルアドレナリン神経は、覚醒に関与している神経伝達物質です。

注意欠如障害の患者さんで、日中の眠気を主訴に訪れる方が多いのをみると、一つにはこのノルアドレナリン系の機能低下が関与しているのかとも思います。

ストラテラ(アトモキセチン)を投与して、ノルアドレナリン系の機能を高めると、これが解決する成人のケースはあります。また、割合に多くの患者さんが朝の寝起きがよくなる、睡眠が安定するというようなことを言われます。今後の研究課題として、ADHDの患者さんの睡眠について、投薬前後で終夜睡眠ポリグラフを記録して、比較してみると面白いのではないかとも思いました。

しかし、小児で経験したある症例では、ストラテラではほとんど効果がありませんでした。このように、必ずしもノルアドレナリン系だけが関与しているわけでもないのかもしれません。また、薬物の効果だけで、神経伝達物質を完全に同定することも不可能だとも思います。

いずれにしても、昼間の眠気と神経伝達物質の関係については興味深く感じていますので、いろいろと考えてみたいと思っています。