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2017年4月18日火曜日

双極性障害のうつ状態に対するドパミン作動薬の使用

Dopaminergic Agents in the Treatment of Bipolar Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis

AG Szmulewicz et al. Acta Psychiatr Scand. 

上記の論文が、最近登録したCareNetに紹介されていました。

双極性障害のうつ状態に対して、抗うつ薬を用いることは、躁転(躁状態に変化すること)の可能性があって、注意が必要です。通常は、双極性障害は、気分安定剤を用いて治療することが行われていますが、ときにうつ状態をもう少し改善したいということが有ります。

http://call-for-addiction-treatment.com/
bipolar-disorder-causes-symptoms-treatment/
こういったときに、ドパミン作動薬を用いる方法が示唆されています。
ドパミン作動薬は、睡眠医学的な観点からは、過眠症治療薬として用いられています。
また、神経疾患の治療薬としては、パーキンソン病治療薬としても用いられています。

この論文で取り上げられている薬物は、

modafinil モディオダール ナルコレプシー治療薬、睡眠時無呼吸症候群の日中の眠気に対する治療薬
armodafinil ラセミ体のモダフィニルの中からR体のみを単独分離したもの(Wikipedia)
pramipexole ビ・シフロール。パーキンソン病治療薬。レストレスレッグス症候群の治療に用いられることがある。
methylphenidate リタリン、コンサータ。ナルコレプシー治療薬、ADHD治療薬
amphetamines 覚せい剤に指定。米国では、ADHD治療薬。ノルアドレナリンおよびドーパミンの放出促進と再取り込み阻害作用がある。

などです。日本で用いることができるのは、モディオダール、リタリン、ビ・シフロールですが、私はこれらを双極性障害のうつ状態に使用したことはありませんでした。しかし、この論文の結果からは、これらの薬剤の使用により、反応率や寛解率が上昇するとされています。また、抗うつ薬とちがい、躁転の危険性(mood switch)は上昇しないということなので、そういった意味での安全性もあるかと思います。

ただ、これらの薬物の幾つかは、報酬系のドパミン活動を上昇させ、精神依存を引き起こす可能性のある薬物でも有ります。この点に対の注意は必要であると思います。

モディオダールは、双極性障害への適応はありませんので、推奨はされませんが、適応外処方として用いる可能性はあるのではないかとも思います。また、最近話題になっている、双極スペクトラム障害に対する治療としても用いることができる可能性があると思いました。また、睡眠医学の臨床で使い慣れた薬でもあります。

治療の幅を広げる意味で、勉強になる論文でした。



2015年10月19日月曜日

ドパミンが睡眠覚醒に果たす役割 (ショウジョウバエの研究)=>ADHD症状も関連して

臨床をしていると、製薬会社の方がいろいろと情報を持ってきてくれます。そういう情報の中には、薬を売るための情報も多く有るわけですけれども、中には興味深い基礎的な研究の論文を持ってきてくれることも有ります。今回、ショウジョウバエを用いた睡眠の基礎研究についての論文がてにはいりました。これは、名古屋市立大学の粂先生と上野先生というかたの研究ですが、粂先生は何かの会で、隣の席になり名刺交換をしたことがあるように思います。もう一人の上野先生は、東京都医学総合研究所の所属ですが、この研究所が私が以前所属していた研究所の改組後の名前なので、親しみが持てます。
ショウジョウバエ

この研究は、ショウジョウバエを対象としてますが、ショウジョウバエは、遺伝子構造がよく解析されているということから遺伝研究には大変良く用いられる生物です。

さて、この研究ではショウジョウバエのドパミン系がより活発に動く個体を遺伝子操作によってつくり、その個体が、正常型(野生型というのが普通です)と比較して、どのような特徴を持っているのかを比較しています。遺伝子操作によって、ドパミントランスポーターの変異型を作っていますが、これによってドパミンが再取込されにくくなり、より強く働くようになると考えられます。

この中で、興味が持たれるのはドパミンの活動性の上がっている、ドパミントランスポーターノックアウト型では、

1.活動性の上昇
2.睡眠の不安定さ

が認められたということです。

これらの症状は見方を変えればADHDの症状とも考えられます。しかし、ADHDでは、むしろドパミン系の機能低下があるというのが一般の考え方で、実際に治療的に用いられるメチルフェニデートやアトモキセチンは、ドパミン系の働きを上昇させます。

こう考えると、ADHDの病態生理は、ショウジョウバエのこの実験に比して更に複雑なものであるという気がします。これは、人の脳の働きの複雑さを表しているものであるかもしれませんし、またドパミン系のだけでなく、他の神経伝達物質や、他のネットワークが関わっている可能性を示唆するものかもしれません。また、ADHDの病態が一つだけでないことを示唆している可能性もあります。

この論文は、睡眠覚醒のコントロールという意味で興味深いと思ったのと同時に、臨床においては必ずしもそのまま基礎研究の結果が反映できない側面もあると強く感じさせるものでした。

2015年10月8日木曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (5) 真性ナルコレプシーとのCo-morbidity 

以前にも同様の題名でエントリーをしましたが、その後もEDS(Excessive Daytime Sleepiness=
日中の過度の眠気)という主訴で来院される方の中に、ADHDの診断基準に当てはまる方が多く居ます。その中には、このブログを読んで見える方も居ます。勿論、日中の過度の眠気を主訴として来院される方の中には、ADHDの診断が可能な方もいればそうでない方も居ます。診断的には、いわゆる睡眠不足症候群や、睡眠時無呼吸症候群、ムズムズ脚症候群、ナルコレプシーなどの存在をきちんと確認しなくてはいけません。

この、睡眠とADHDの関係については、文献的な考察も行い、先日はヤンセンファーマ株式会社の講演会でもお話する機会を得ました。

さて、こういった患者さんの中には真性のナルコレプシー、つまり、日中の過度の眠気、睡眠発作、短時間睡眠ですっきりする、カタプレキシー(情動脱力発作=驚いたり、おかしいなど強い情動で力が抜ける)、入眠時幻覚、睡眠麻痺などの症状が揃っているナルコレプシーの方がいるということも少なからず経験しています。また、このような点については、論文も出されています。

例えばこちら。
http://www.journalsleep.org/ViewAbstract.aspx?pid=30124

しかし、この点については、まだ十分に自分自身も整理できていませんし、また文献的にもクリアにこの関係について説明するものはありません。今後、更に経験を重ねて、治療経過を見ながら、この関係については考えていきたいと思っていますが、現状の考えをまとめると以下のとおりです。

ナルコレプシーの病態は、オレキシン細胞の脱落ということが言われています。オレキシンの役割は何かというと、これは脳幹部(脳が脊髄に繋がるあたり)の、覚醒に関わる神経細胞に対してその活動を維持させるような働きをもっていることが知られています。ナルコレプシーの患者さんは、おきていることができないわけではありませんが、維持が難しく睡眠発作が出現してしまいます。

このような、脳幹部の覚醒に関わる神経核には、ノルアドレナリンやドパミンを産生する核も含まれます。これは、以前にも書いたようにADHDの病態に関わる神経伝達物質です。したがって、考えられる病態は、オレキシンが欠落していると、これらの細胞に対する持続的な活動の維持のための刺激がなくなり、ノルアドレナリンやドパミンの神経細胞の機能低下が起こり、その結果としてADHD様の症状が出現する可能性があるということです。

ADHD様の症状と書きましたが、そうすると、これはADHDではないということにもなりますが、もしこういった考え方が正しならば、ADHDではないが、ADHDに似ているということになります。しかしながら、ADHDそのものの原因も、均一な疾患であるのかどうかもよくわかっていない現在では、これは、ADHDとは別のものだとも言いがたいようにも思います。

ADHDの診断は、血液検査や脳波検査、MRI検査などによってなされるものではなく、病歴や現在の症状などによって、一定の診断基準を満たした場合になされます。このような中で、睡眠障害は除外診断には入っていませんので、ADHDの基準を満たせば診断は可能です。

私は、Co-mobidity(共存症=2つ以上の疾患が共存している)という捉え方を先ずはして、先にADHDの治療を行い、これによってナルコレプシーの症状がどこまで改善されるかという経過を診るようにしています。勿論、カタプレキシーなどの症状がひどければ、これを改善する薬物を先に投与することも有ります。

睡眠と発達障害の関連は、今後も更に研究の発展が見られる分野であると確信しています。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ

2014年10月31日金曜日

ベンゾジアゼピン系薬物の依存性とドパミンの放出

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、非常によく使われます。また、ベンゾジアゼピン系の薬物は、精神安定剤、あるいは抗不安薬としても一般の臨床でよく使われます。この薬は、生体内にあるGABAという神経を抑制する神経伝達物資の働きを上げることによって、様々な神経の働きを抑制し、その結果として眠気や、鎮静の作用が出るものです。

この薬は、生命への危険は非常に低い安全な薬と言っても良いと思います。生体内にあるGABAという物質の利用効率をあげるので、最大限でも生体内にあるGABAの働きを最高に高めるという点でいくら飲んでも働きには限りがあるということがあります。ただ、多量に服用すれば確実に強い意識障害の状態になりますので、容量を厳格に守ることは重要です。過量服薬の結果、嘔吐をして気管が閉塞しても意識が低下しているためにそのまま亡くなるケースもありますし、そうでなくても一方の腕を下にして、寝返りなく眠り続けた結果、神経麻痺がおきるケースもまま見受けます。

いずれにしても注意は必要ですが、最も注意を必要とするのは依存性があることです。薬物の依存性は、殆どは腹側被蓋野(VTA)から側坐核(N. Accumbens)に投射するドパミン神経のドパミン放出を促進する作用によるものです。この経路は報酬系と呼ばれていて、これによって気持ちが良くなり、依存が生まれるというものです。

ベンゾジアゼピンの依存に関連した神経経路 VTAからN. Accumbensへのドパミン神経が活性化される

ベンゾジアゼピンは、この経路の活動を強めるため依存が生まれるわけです。したがって、安全だからといって簡単に投与していると、患者さんはやめられなくなるということが有ります。使用法によっては良い薬なので、使用を禁止する必要はありませんが、このような知識は臨床家はきちんと持ちたいところだと思います。