臨床をしていると、製薬会社の方がいろいろと情報を持ってきてくれます。そういう情報の中には、薬を売るための情報も多く有るわけですけれども、中には興味深い基礎的な研究の論文を持ってきてくれることも有ります。今回、ショウジョウバエを用いた睡眠の基礎研究についての論文がてにはいりました。これは、名古屋市立大学の粂先生と上野先生というかたの研究ですが、粂先生は何かの会で、隣の席になり名刺交換をしたことがあるように思います。もう一人の上野先生は、東京都医学総合研究所の所属ですが、この研究所が私が以前所属していた研究所の改組後の名前なので、親しみが持てます。
ショウジョウバエ |
この研究は、ショウジョウバエを対象としてますが、ショウジョウバエは、遺伝子構造がよく解析されているということから遺伝研究には大変良く用いられる生物です。
さて、この研究ではショウジョウバエのドパミン系がより活発に動く個体を遺伝子操作によってつくり、その個体が、正常型(野生型というのが普通です)と比較して、どのような特徴を持っているのかを比較しています。遺伝子操作によって、ドパミントランスポーターの変異型を作っていますが、これによってドパミンが再取込されにくくなり、より強く働くようになると考えられます。
この中で、興味が持たれるのはドパミンの活動性の上がっている、ドパミントランスポーターノックアウト型では、
1.活動性の上昇
2.睡眠の不安定さ
が認められたということです。
これらの症状は見方を変えればADHDの症状とも考えられます。しかし、ADHDでは、むしろドパミン系の機能低下があるというのが一般の考え方で、実際に治療的に用いられるメチルフェニデートやアトモキセチンは、ドパミン系の働きを上昇させます。
こう考えると、ADHDの病態生理は、ショウジョウバエのこの実験に比して更に複雑なものであるという気がします。これは、人の脳の働きの複雑さを表しているものであるかもしれませんし、またドパミン系のだけでなく、他の神経伝達物質や、他のネットワークが関わっている可能性を示唆するものかもしれません。また、ADHDの病態が一つだけでないことを示唆している可能性もあります。
この論文は、睡眠覚醒のコントロールという意味で興味深いと思ったのと同時に、臨床においては必ずしもそのまま基礎研究の結果が反映できない側面もあると強く感じさせるものでした。
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