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2017年4月10日月曜日

時差ボケ朝日新聞

少し前になりますが、スポーツと睡眠に関わる興味深い記事が朝日新聞に出ていました。この記事は、自分で見つけたものではなく、花王と共同で行った短時間睡眠と肥満に関わる論文について朝日新聞が取材に来たときにお話しする中で、その記者さんが書いたものとして紹介いただいたものです。

http://uncyclopedia.wikia.com/wiki/HowTo:Beat_jet_lag
この記事は、時差ボケとスポーツパフォーマンスに関わる論文として、最近の知見として興味深いものであったのでご紹介します。

こちらの記事

本研究は、大リーグチームの「1992年から2011年までに開催された4万6535試合をホームとアウェーに分けて分析」したということで、結果としては、Fly East、つまり東向き飛行(カリフォルニアからニューヨークに戻るなど)のあとにホームゲームをすると、勝率が低下するとしています。

この研究は、興味深いものではありますが、これと似た別の研究も実は過去にあり、この1997年の研究では、NBAのバスケットボールゲームを同様に分析しています。この分析では、逆に東向き飛行のあとのゲームで勝率が上がるとしていますが、これは、ナイトゲームでは、西海岸にいたときの生物時計のままのほうが、東海岸でのナイトゲームではよいよい体内のコンディションを作るからであろうと考察しています。

こちらの論文

これらの論文をみると、一概にいえない面も多くあり、経験からは選手に対する時差のアドバイスは、慎重にしないといけないとも思っています。どのように睡眠を取ったらよいかは、過剰に理論に走らず、選手の顔を見ながらの現場の判断が優先されると行っても良いかもしれません。これはいわばアタリマエのことだとも思いますが、それだけ経験がいる判断であるとも言えると思います。


2015年4月29日水曜日

日本体育協会 公認スポーツドクター

日本体育協会公認スポーツドクターの認定証が先日送られてきました。他の専門医の資格が、学会や医師会から公認されているのに対して、この資格は日本体育協会から公認されている所が大きな違いです。スポーツドクターの資格は、日本体育協会の中では、スポーツ指導者の資格に位置づけられています。この資格には、各競技の指導者の資格や、アスレティックトレーナーの資格なども含まれます。


これらの資格を持った人たちには、認定証の他にカードも送られてきます。このカードは、私の勤務している早稲田大学スポーツ科学学術院の他の多くの教授ももっているもので、スポーツでお互いが結ばれているという仲間意識ができて、なかなか良いものです。

公認スポーツドクターを持っていることで良い面は、実際の精神科の診療の中では多く有るということはありません。また、試合に帯同するチームドクターというような役割を精神科の私がすることもありません。しかし、アスリートが安心して受診してくれること、またスポーツ関係者が安心して相談をしてくれることなどは、非常に大きな利点です。

まだまだ、精神的な問題で受診するということは、アスリートにとって高いハードルです。我々の方から、このハードルを下げていく努力も必要です。日本体育協会公認スポーツドクターをとり、スポーツに対する理解ということを高めていくことが、結果的に多くのアスリートの問題を早く解決する効果になると良いと思っています。

2015年2月6日金曜日

アスリートの不眠に筋弛緩作用が少ない睡眠薬:日経メディカル

日経メディカルに取材を受けたものが、12月にウェッブに公開されています。日経メディカルは、印刷されたものもありますが、ウエッブ版もあって、会員に公開されています。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201412/539889.html

上記が私の記事のURLですが、会員登録しないと読めないようです。スクリーンショットを掲載します。

日経メディカルの記事より


ポイントは、筋弛緩作用です。病院やクリニックでは比較的多く使われているベンゾジアゼピン系の薬物には、筋弛緩作用があります。このような作用は、身体的に健康な若年者であれば、さほど問題になる作用ではありません。しかしながら、アスリートとなると、競技会では100分の1秒を争う競争をするわけです。そんな時に、筋弛緩作用のある薬物を投与されていたのでは、競技にマイナスになってしまいます。そういう中で、できるだけ影響の少ない薬物で、かつ効き目のある使い方をするというポイントについて解説したものです。具体的には、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリー、ルネスタ)などの仕様や、ロゼレム、ベルソムラなどについても言及しています。

このような、筋弛緩作用に配慮した薬物の使用は、実は高齢者への配慮とも重なるものです。高齢者は、もともと筋力や反射の能力が低下しているため、転倒のリスクが有ります。転倒⇒骨折、そしてこれからベッド上安静、更に筋力低下、そして寝たきりという事にならないよう、転倒には十分注意しなければなりません。したがって、睡眠薬の選択も、アスリートに対する視点と同様な視点が必要になってくるわけです。

2015年1月12日月曜日

注意欠如多動性障害とアスリート

下記の論文を読みました。内容的には、ADHDの特徴および治療全般の説明と、ADHDの治療としての薬物療法がドーピングに関わる薬剤なので、予めの書類提出(TUE)が必要というようなことです。興味深い点としては、2つありました。

  1. 薬物療法を継続している中で、運動とSudden Cardiac Death (SCD)の関わりについて。メチルフェニデートなどの薬物は、心拍数と血圧を有意に上昇させるということから、チームドクターは常にこのことに留意していなければならない。このような薬物を服用している選手については、特に心電図などのモニターをしていく必要がある。心臓突然死の可能性もわずかながらあるので、特に小児では、何らかの心疾患の既往が有るケースには、薬物を投与することは控えたほうが良い。
    しかし、そうでなければ、メチルフェニデートなどの薬物は、一般の心臓突然死の確立を著しく上昇させるわけではないので、この心配から薬物を中止したりするべきではない。
  2. ADHDに用いられる薬物が、禁止薬物リストに入っていることは、競技に対する集中力を高めて、競技力を向上させるドーピング薬としての役割があるわけで、これを、障害のない人が、競技力向上のために投与を希望することに対しては十分に注意しなければならない。この点に関しては、個人的にもADHDの診断が、客観的指標によって完全にできるわけでないので、今後このような処方が多くなった時に問題になる点であろうと思っています。

2014年12月26日金曜日

浦和レッズ クラブハウス訪問


浦和レッズのチームドクター 関芳衛先生にお招きいただいて、浦和レッズのクラブハウスを訪問しました。私は、浦和レッズのサポーターです。以前は、「レディケットイーターズ」というサポータクラブを、中学校時代の友人たちと作っていて、埼玉スタジアム2002にも、レディケットイーターズのタイルが有るはずです。(今度、探して写真をとっておこう。)家にも何本も応援旗があります。

さいたま市大原のレッズクラブハウス


関先生とは、主には選手の睡眠についてのお話をしましたが、このような現場のスポーツドクターが、睡眠管理にも興味を持っていただけるのは本当にありがたいと思いました。スポーツにはトレーニングは勿論大事ですが、睡眠はそれを下から支えるとても大事な要素でも有ります。このことが理解され、睡眠の知識が、スポーツ界に広まっていくと良いと持っています。

レッズは、エアウィーヴとも契約しており、私もエアウィーヴの受託研究をしたことが有るということから、ご縁を感じました。また、睡眠に対する意識の高いクラブと再認識しました。

しかし、浦和レッズは当のリーグ戦では、今シーズンは最後に腰砕けになって、優勝を逃しました。シーズン後半で崩れてきたということも、良い体調を保つという意味で、睡眠の重要性を示唆するものかもしれません。

しかし、なんとかアジア・チャンピオンズリーグには出場権を得たそうです。その話にもなり、私も観戦に行ってみようかと思っています。


  • グループG
    1. ブリスベン・ロアー(オーストラリア)
    2. 浦和レッズ(日本)
    3. 水原三星ブルーウィングス(韓国)
    4. 東地区プレーオフ勝者4
      [北京国安(中国)/バンコク・グラス(タイ)/ジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)/ベンガルルFC(インド)]
    試合日キックオフホームアウェイ試合会場
    2月25日(水)未定水原三星ブルーウィングス対浦和レッズ未定
    3月4日(水)未定浦和レッズ対ブリスベン・ロアー未定
    3月17日(火)未定東地区プレーオフ勝者4対浦和レッズ未定
    4月8日(水)未定浦和レッズ対東地区プレーオフ勝者4未定
    4月21日(火)未定浦和レッズ対水原三星ブルーウィングス未定
    5月5日(火)未定ブリスベン・ロアー対浦和レッズ未定

2014年8月1日金曜日

第2回 埼玉県スポーツ精神医学懇話会: アスリートの摂食障害

7月31日木曜日に、大塚製薬株式会社の主催で、第2回埼玉県スポーツ精神医学懇話会が所沢で開催されました。この会は、本年1月に1回目の会を開催し、今回第2回めを開くことが出来ました。主には、埼玉県西部の精神科の先生方にお集まり頂いていますが、第1回めから獨協医科大学の精神科主任教授下田和孝先生にも来て頂いています。お弁当を食べながらのクローズドな会ですが、参加を希望される精神科医あるいはアスリートの治療に関わっておられるスポーツドクターやスポーツ関係の方がおられましたらお知らせください。

会の目的は、アスリートの治療に経験のある精神科医の数を増やしていくことです。そのために、アスリートの診療に関わる情報を、ケーススタディーを通じて共有していくのが大きな目的の一つです。精神的な問題を抱えたアスリートは少なからず居るにもかかわらず、必ずしもその治療が効率的に行われていないという側面があります。これは、いくつかの理由がありますがその一つには、アスリートが精神科にかからないという事、そしてアスリートの診療に慣れた精神科医が少ないということもあります。慣れていない精神科医はアスリートの事情を考慮せずに治療を行うということがあり、そのため、アスリートは一般のスポーツドクターに話をきてもらう時のように、競技に関連した話しが噛み合わないという結果になってしまいがちです。この会で、様々な情報を共有する中で、スポーツに興味をもち、アスリートの治療についての経験を積むスポーツドクターの精神科医が増えると良いと思っています。

今回は、摂食障害を取り上げました。会では最初に私がアスリートの摂食障害(Anorexia Athletica)についての概論をお話し、二人の治療者が一例ずつのケーススタディーを行いました。女子アスリートに摂食障害は比較的多くみられ、特に審美的要素のあるスポーツ、重量階級制のあるスポーツ、体重が減ると競技力が伸びるスポーツなどに多いと言われています。しかし、実際に診察をしていると必ずしも、そういった競技だけでもないように思われます。

最初の概論では、以前の大学院生が行った女子アスリート(新体操、体操、一般学生)の質問紙による調査の結果もお話しました。この研究は、2005年に行ったもので、対象は関東にある大学に在籍する女性158名で、無記名式の質問紙調査を実施したものです。そのうち67名は体育大学の運動部(新体操45名、体操競技22名)91名は運動部に所属しない一般学生でした。調査には、EDI-2という摂食障害研究でよく用いられる質問紙と、独自に作成した質問紙を用いました。

いくつかの興味深い結果があったのですが、そのうちいくつかをまとめると以下のとおりです。
・ 新体操選手では、BMI 18.5以下の割合が他よりも有意に多い
・ 一般学生に比べて、体操、新体操選手では初潮年齢が有意に高い
・ 新体操選手は、多食の傾向が強い
・ 身体への不満は、体操群で低く、新体操と、一般学生で高い
などのことが分かりました。

この中で、初潮年齢の問題は、育ち盛りの小中学生が、競技を優先するために充分な発育ができないという現状が示唆されたようにも思います。初潮年齢を優先すれば、しかし、競技力が十分伸びず、結果として競技で勝てないということがあれば、何のために競技をやっているのかわからないという意見もあると思います。いずれにしても、この問題はエビデンスはしっかり共有しながら、議論を進めていくべき問題だと思っています。

2014年5月20日火曜日

アスリートのバーンアウト症候群

バーンアウト症候群について調べたいという学生が来て、相談に乗りました。このバーンアウト症候群という言葉は、スポーツ医学の分野では、非常によく使われます。競技を一生懸命やった末に、ある時、急に意欲が低下してやめてしまうというような場合です。そういう時にスポーツドクターからは、バーンアウト症候群として紹介されることもあります。

このバーンアウト症候群ですが、医学的な診断名ではありません。医学的な診断名は、例えばICD-10(WHOの国際疾患分類)に出ているような名前ですが、バーンアウト症候群も(オーバートレーニング症候群も)、ICD-10のなかには名前がありません。したがって、心療内科などの病院に行っても、バーンアウト症候群が正式な診断名となることはありません。

では、このバーンアウト症候群はどのようなものでしょうか。これは、社会心理学という分野で主には使われる名称で、もともとはヒューマンサービスに関わる人達に使われた言葉です。ヒューマンサービスとは人に対するサービスを行う仕事で、医療職や看護職、あるいは介護職なども含まれます。このような人たちの中に、それまで一生懸命仕事をやりながら、突然燃え尽きたように仕事をやめてしまう人がいるということが知られ、これがバーンアウト症候群と呼ばれるようになったということです。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/01/pdf/054-064.pdf

上記は、この分野の専門家である同志社大学の久保真人先生の論文へのリンクです。久保先生は、この分野の単行本も出版されています。




この本を見ると、このような燃え尽きたように見える人を、バーンアウト症候群とするための要件が三つあるということが書かれています。それらは、

1.情緒的消耗感 (emotional exhaustion)
2.脱人格化 (depersonalization)
3.個人的達成感 (personal accomplishment) の低下

です。これをアスリートの当てはめるとこのようなことになります。

1.俺はやってもやっても、レギュラーになれない。自分なりには相当努力した。しかし、監督も自分を認めてくれないし、時には控えめに考えても自分よりも下の選手が使われたりする。自分はそれでも努力したが、もう疲れた。2.監督は、おまえのポジションは他にも居るという。自分は、チームの為に一生懸命やってきたつもりだが、いつでも他の人に変えられるようなことを言われる。
3.やってもやっても、成功できない。いったい、どれだけ努力したら良いのだろう。

このような状態の中で、もう競技はやめようと思う状態があれば、それはバーンアウト症候群と社会心理学的に定義されることになるでしょう。しかし、多くの場合、スポーツ医学の現場では、嫌になってやめるように見える人たちが、全般的にそう呼ばれることがあるようです。そうは言っても、そういう人たちの中に、バーンアウトに当てはまる人は多くいるとは思います。

バーンアウトの結果として、ときにうつ病(あるいは、適応障害 うつ状態)に陥る人も居ますし、うつ状態にならず、他に自分の道を見つける人もいると思います。その後状態の人に対して、医学的ケアが必要であるとすれば、それはその人が何らかの医学的な意味での診断がなされる状態にある場合です。逆に言えば、バーンアウト症候群と言っても、特に医学的なケアが必要ないケースも有り得ると思います。

比較的多いのは、こういった選手を何とかもう一度競技に戻せないかという相談です。しかし、ここまでくると、なかなか難渋します。しかし、私の経験では、現在の状態を過去の自分のスポーツへの関わりから明らかにしていくプロセスを一緒に行う中で、今までこれだけ努力してやってきたことだから、もう一度頑張ってみようと思う選手が、ある割合居ることもわかりました。そういう選手は、競技に復帰すると再び努力し、多くは活躍するようになっています。

2014年5月15日木曜日

グリシン (グリナ 味の素)

睡眠を改善するサプリメントは多くありますが、日本で発見された物質は珍しいと思います。グリシンはその一つで、発見者は味の素の社員です。発見のエピソードは、ある物質の研究をしている最中に、その物質のプラセボ(偽の作用のない薬)としてグリシンを服用していたところ、いびきをかかず、睡眠が安定しているのを奥さんが気づいたという事でした。したがって、発見者は、社員というよりも奥様のほうかもしれません。その後の研究で、特に動物実験で多くの睡眠に対する効果が確認されています。

私はその中で特に、睡眠中の体温低下効果に注目しています。睡眠中は、体温が低下することは知られていますが、この体温低下は徐波睡眠(深いノンレム睡眠)の出現と関連あるという研究結果が出ています。したがって、体温を低下させる物質は、徐波睡眠の出現を促進させ、睡眠の質を改善させるという考え方も出てくるわけです。

我々の研究では、高強度の運動を夜間の時間帯にした場合に、いったん正常値に戻った体温が、睡眠の前半で高くなる結果を得ています。夜間高強度の運動をした場合、その後の睡眠が安定しないケースが、ナイトゲームの後のアスリートを含めて知られていますが、こういったケースにはグリシンが、特に効果がある可能性もあります。

味の素は、ナショナルトレーニングセンターにもスポンサーとなり、日本のスポーツをサポートしています。私も睡眠を通じて何らかのコラボレーションができると面白いと思っています。

2014年5月8日木曜日

アスリートの時差対策 (6)

(5からの続き)成田空港で飛行機に乗る時の注意

ここで、飛行機に乗る際に、実際に竹澤選手に指示したことですが、東向きのカリフォルニア便は通常夕方便で、現地には午前中に到着します。その後、夜までずっと起きていることになるので、なるべく飛行機の中では眠るようにしたほうが良いので、そのように指示しました。また、このためには、搭乗前に食事をとってしまって、機内ではなるべく眠るほうが良いわけです。その他に飛行機に乗る前には、時計を現地時間に合わせる。時計を合わせることは、外的因子として、体内時計に 影響を与えることになるので、これも指示しました。機内では水分を多めにとる。アルコールやコーヒーは控えることも話しました。飛行機の中は乾燥しているので、水分を補給したほうが良いし、時差とは直接関係はありませんが静脈血栓などの発生を予防する効果もあります。

この指示は、出発の何日か前に話したのですが、彼はしっかりとそれを覚えていて、食事を予め取り、時計をしっかりとカリフォルニア時刻に合わせていました。このようなトップアスリートに接すると、伸びるアスリートの要件として、貪欲に情報を吸収し、自分で考えて、納得したことはしっかりと事項するという行動力が、ずば抜けて高いと感じます。トップアスリートには若くても尊敬できる人が多く居ます。

さて、無事カリフォルニアに到着し、翌日の朝の集合に私も参加したのですが、竹澤選手は、非常にスッキリした顔をしており、すごく良く眠れたと話していました。一方で、同行した別の選手は、寝付きが悪く夜中に何度も起きてしまったと話していました。その後、竹澤選手と一緒にしばらくジョギングもさせてもらいましたが、彼は体調も良い。日本で朝走るのと同じ感覚ととても嬉しそうでした。このような状態で、数日後に試合に参加し、良い結果を出したわけです。


競技の会場でトレーニングする竹澤選手


実際に選手に同行してみると、このような時差対策は、時差を克服するだけでなく、体調が良い状態で現地入りした時の安心感という、メンタルな側面も大きくあるように思いました。現地入りしたあと、体調の良い状態で、試合に向けてのコンディショニングができるようになると、現地での滞在時間が非常に有効に使えます。

私は、大学の講義などがあり試合は観戦できませんでしたが、彼は試合で当時の学生新記録を樹立したわけです。この時差対策は、私にとってもとても大きな経験になりました。

2014年5月6日火曜日

JA全農2014年世界卓球団体選手権東京大会 (2)

昨日、卓球団体世界選手権が終わって、男子は銅、女子は銀メダルでした。金は、男女とも中国で、卓球の中国の強さを思い知った気がします。私は、卓球のことはほとんど知りませんが、今回は試合を見に行ったこともあって、結果に非常に興味がありました。特に、女子の元代表監督である近藤先生からの招待だったので、女子が決勝に残った時は期待しました。結果は、0-3でしたが、内容としては大きな進歩があったということでした。

今回の試合には、福原選手は怪我でメンバーに選ばれていませんでした。福原さんは、以前早稲田大学に所属していたこともあって、私は応援したいと思います。なかなか卓球との両立は難しかったと思いますが、もし引退されてまた勉強する時間があれば、大学に戻られるのも悪くないように思います。アスリートで大学生活を送っていくのは、確かに大変なことです。特にラケットゲームなどで、遠征して試合をこなし、ポイントを稼ぐゲームでは、授業との両立は難しい面があります。スケートの中野友加里さんは、早稲田大学のeスクールを卒業されていますが、このようなインターネットを使った教育制度は、アスリートに向いているかもしれません。しかし、私は選手生活を送られたあとに大学生活を送るのも悪く無いと思っています。特に、学部にこういった社会人入学生が入ってくることは、高校から来た若い学生に対して、とてもよい効果があります。社会人入学生は、学ぶ目的をしっかり持っているので、その姿をみて、大学で学ぶことを、若い学生が学ぶことができるからです。

さて、卓球は中国が圧倒的に強く、日本も上位です。こう見ると東洋人が多いように思います。オーストラリアとの大戦でも、選手の一人は東洋系の方でした。この理由はわかりませんが、なぜブラジル人はサッカーが上手なのかという疑問と同じようなことのように思います。東洋人の体型の優位性は、無いようにも思います。

石川佳純選手が、次のオリンピオックを目指して更に上位、つまり優勝を狙うという言葉は、本当に力強く感じました。

2014年5月5日月曜日

アスリートの時差対策 (5)

竹澤健介選手に行ったカリフォルニアへの時差対策の続きについて述べましょう。カリフォルニアへは、早寝早起き方向へ睡眠時間帯をずらして行くことがジェットラグ症候群(時差ボケ)を軽減させることにつながります。実際に体の中で起きている変化は、睡眠時間帯の移動に合わせて、体温リズムが早い時間にずれる、コルチゾールの分泌時間が早い時間にずれる、メラトニンの分泌時間が早い方向にずれるなど、体全体のハーモニーとして動いている24時間のリズムが早い時間帯にずれていくということを示しています。一日だけ早寝早起きしてもこのような変化は限られたものなので、より効果的な変化を起こさせるために、光療法とメラトニン療法を竹澤選手には用いました。メラトニンは禁止薬物ではありませんので、服用に問題はありません。また、メラトニンは服用後若干眠気が出るので、短期的には競技力は低下すると思います。

睡眠時間帯は、毎日一時間ずつずらして行きました。したがって、3日間で3時間ずらすという計算になります。もともと早起きだったので、5時あるいは6時には起床する生活をしていました。そこで、6時から、5時、4時、3時という風に起きる時間を前進させ、起床直後に高照度光を浴びてもらいました。またメラトニンは17時、16時、15時というふうに夕方に0.5mgを服用してもらいました。この、毎日1時間ずつ前進させる方法は、やや無理があった気がします。

実際にやってみると、このような時差対策は、競技者や競技団体が時差対策に協力的でないと完全に行うことは難しい面があることも分かりました。例えば、竹澤選手はこの時には学生だったので、実習などもあり早い時間に眠ることが難しい日もありました。更に、メラトニンの即時効果としての眠気が0.5mgという微量でも意外に強く眠いと言っていました。そのようなことから、出発前は調子が悪いと言っていました。これを聞いて私は非常に心配になりました。オリンピックを目指している選手に対して、時差対策といえども、眠気というマイナスの要素を起こさせることが果たして良い結果に繋がるのかに、やや不安が起こったわけです。


パロアルトで滞在した宿舎前での竹澤選手


そこで、私もカリフォルニアについていくことにしました。競技会のあるパロアルトは、私が以前住んでいたサンフランシスコ・ベイエリアにあり、私も非常に良く知っている地域です。パロアルトに、留学時代の友人もいます。
(つづく)


2014年5月4日日曜日

アスリートの時差対策 (4)

(4)では、私が時差対策を行って非常にうまく言ったオリンピックアスリートのケースについて述べましょう。

アスリートの時差対策は、オリンピックやワールドカップなどの大きな試合の前は、あまり必要がない場合もあります。特にオリンピックの前などは、国がサポートをし前もって現地入りしますので、時差の調節には充分時間があるからです。しかし、それでも試合前の重要な時間を一部時差調節に使って、効率的な練習ができないとすれば、やはりそれでも時差調節をしたほうが良いとは思います。

必要となるのは、大きな大会の予選の国際試合です。個人競技選手であれば、様々な記録会やここの予選会に出場し、記録を伸ばしたりポイントを上げていく必要があるでしょう。しかし、同時にアマチュア競技者であれば、仕事や学業もしなくてはなりませんし、プロであれば他の試合もこなしながら予選会に出て行かなくてはなりません。このような時こそ、時差対策がほんとうの意味で生きてくるわけです。

私は、当時私の学生であった、北京オリンピック陸上5000m、10000mに出場した竹澤健介君の時差対策に協力したことがあります。彼は早稲田大学の競走部に所属をしていて、私のゼミに参加していました。真面目な学生で、指導者のアドバイスが納得できれば、そのとおりにトレーニングをするタイプのアスリートだと思います。彼のようなレベルになると、効果の上がらないトレーニング指導に従ってやるということは無いでしょう。例えば少しやったとしても、効果が上がらないと判断されれば、自分でトレーニングを始めると思います。

この頃、アスリートの時差対策については私自身も十分な経験は無かったので、彼のようなレベルの選手が、誤った時差対策によって、オリンピック出場機会を逃してはいけないと思い、彼へのアドバイスについて、私は非常に真剣でした。

彼に行った時差対策の試合は、カリフォルニア州パロアルト市にある、スタンフォード大学が行う招待試合、Cardinal Invitationalです。記録を見直すと、2007年4月30日のことでした。結果として、彼は学生記録を更新する自己ベストを出し、この記録が評価されて北京オリンピックに参加する結果となったのです。

http://www.runnerspace.com/eprofile.php?event_id=95&do=news&news_id=25329

Event 21 Men 10000 Meter Run Kim McDonald
================================================================
Meet Record: % 28:16.60 1998 Brad Hauser, Stanford Name Year School Finals
================================================================
1 Galen Rupp U Oregon 27:33.48%
2 Galvan David Mexico 27:33.96%
3 Simon Ndirangu New Balance 27:38.56%
4 Alistair Cragg adidas 27:39.55%
5 Jorge Torres Reebok 27:42.91%
6 Ed Moran Nike 27:43.13%
7 James Carney Unattached 27:43.64%
8 Suarez Alejandro Mexico 27:43.92%

9 Takezawa Kensuke Unattached 27:45.59%

10 Michael Aish Nike 27:46.37%
11 Josphat Boit Unattached 27:47.57%
12 Alan Culpepper Nike 27:50.05%
13 Simon Biaru Nike 27:50.71%
14 Josh Rohatinsky Unattached 27:55.86%
15 Reid Coolsaet Canada/Reebok 27:56.92%
16 Seth Summerside Unattached 28:02.51%
17 Ryan Shay Saucony 28:03.44%
18 Kenji Noguchi Shikoku Denr 28:03.83%
19 Tim Nelson Wisconsin 28:04.46%
20 Richard Kiplagat New Balance 28:06.43%
21 Romero JuanCarlos Mexico 28:10.14%
22 Dan Browne Nike 28:10.73%
23 Terukazu Omori Shikoku Denr 28:17.97
24 Martin Fagan Unattached 28:18.30
25 Josh McDougal Liberty Univ 28:27.65
26 Ed Torres Reebok 28:28.10
27 Rod Koborsi Reebok 28:30.03
28 Ryan Kirkpatrick Reebok 28:36.12
29 Mark Kenneally Ireland 28:55.49
30 Andrew Letherby Asics 29:04.97
31 Olmedo Pablo Mexico 29:36.89
32 Mario Macias Unattached 29:42.23 

2014年5月3日土曜日

アスリートの時差対策 (3)

(2)では、時差対策の概要を述べました。これは、出発の数日前から睡眠時間帯をずらしていく方法です。もう少し詳しくずらし方について述べましょう。

東向き飛行の場合
東向き飛行とは、日本から東に向かって飛行する場合で、例えばアメリカの西海岸に行く場合です。これは、(2)でも述べたように、早寝早起きにだんだんしていくことが良いわけです。この場合は、いきなり早寝早起きにするよりも無理の無い範囲で少しずつ早寝早起きにしていくほうが体に無理がかからず効果的です。だいたい3時間位早めれば良いと思いますので、例えば30分ずつ早寝にしていくとすれば6日間かけて3時間ずらすということです。どうしても日程が足りなければ1時間ずつずらして3日でやっても良いと思います。しかし、あまり急速にずらすと、早寝しようと思っても眠れなくなり、うまくずらせない可能性もあります。

このような場合に、生体リズムのシフトを促進させる方法を追加して使うことが推奨されます。
これらは、
1.高照度光への暴露
2.メラトニンの服用
の2つです。

高照度光は、以前にも説明した高照度光の治療装置で個人向けのものが発売されています。そういったものの前で、30分から1時間光を浴びるものです。光を浴びる時刻は、起床直後で良いと思います。現実的に、この時間帯に各選手が個別に光を浴びることが効率的でないこともあります。そこで、たとえば、起床後すぐにミーティングを行うなどの工夫も良いかもしれません。ミーティングの部屋をものすごく明るくするわけです。その中で1時間ほどの時間を過ごします。また朝食時間なども連動させて早めていったほうが良いと思います。

メラトニンは、夕方の時刻に服用します。通常睡眠の6時間くらい前に服用するのが良いとされています。また、服用量はごく少量が良いと言われており、私は多くの場合0.5mgで試しています。メラトニンは、日本では発売されていませんので、並行輸入で購入することになります。


上記は、Amazonへのリンクですが、Natrol社のものを使っている人が多いようです。

西向き飛行の場合

西向き飛行は、ヨーロッパなどに行く場合ですが、これは夜更かし朝寝坊の方向に睡眠時間帯をずらしていきます。これも30分位ずつずらして行くのが良いと思います。以前にも述べたように西向き飛行のほうが現地において適応しやすいということがあります。これは、早寝早起きにシフトさせるより、夜更かし朝寝坊にシフトするほうが、楽だということと関連しています。ヨーロッパに行くと極端に夜更かし朝寝坊が普通の生活になるので、合わせやすいわけです。

ここで、光を使うとすれば夜の遅い時間帯に強い光を浴びます。ミーティングを夜やって、その時に明るい部屋でやるとよいでしょう。また、メラトニンを飲むタイミングは朝になります。しかし、西向き飛行の場合は、先に述べたように適応はし易いので、光だけで充分ではないかとも思います。

(4)では、私が時差対策を行って非常にうまく言ったオリンピックアスリートのケースについて述べましょう。

2014年5月2日金曜日

JA全農2014年世界卓球団体選手権東京大会 (1)

私は、早稲田大学で「スポーツカウンセリング」という講義をやっています。秋学期の講義で、15回の中で、臨床心理学に関連したカウンセリングの基礎から、アスリートに対してのカウンセリングの応用までの話を学生にします。この講義に、昨年、2008年北京オリンピックの女子卓球監督、近藤欣司先生が聴講を希望されました。私としては、非常に緊張感が会ったのですが、とても丁寧な方で、卓球関連の仕事がない限り、私よりも早く教場にきておられ全出席をされました。最後の一回では、学生向けに北京オリンピックでの監督としてのご苦労について、早稲田大学の学生にお話もいただき、私としてはむしろこちらが勉強させていただいた思いです。このような御縁があって、今回の世界選手権のチケットを頂き、昨日代々木第1体育館に行ってきました。

行ってみるとアリーナ席で、本当に間近に選手の様子が見えました。私が北京の時から大ファンである、平野早矢香選手も出場し、大感激いたしました(写真)。


卓球は、メンタルなスポーツだということは知っていましたし、近藤先生からもいろいろとお話を伺っていたのですが、このような試合に行ったのは初めてだったので、いろいろと勉強になりました。近藤先生は、選手がタイムアウトの時に監督からどのように声をかけてもらいたいかを聴いたそうです。そうしたところ、ガンバレなどということは言ってもらいたくないということでした。では、何を言ってもらいたいか、それは、そういう時にどう対応するかの具体的なアドバイスがほしいということだったということです。逆に言えば、そういった時に精神論に走らず、具体的なアドバイスがしっかりできることが良い監督の条件の一つでもあるということだと思います。以前に、早稲田のラグビー部の名監督であった清宮監督と話をしたことを思い出します。清宮監督にどのようにアドバイスをするのかを聴いたところ、普通にこうした良いということを、いつもグランドで言うだけ。という答えでした。どうしたらよいかということをきちんと示せるということが大切だということだと思います。

今日の試合は、日本選手の活躍で、すべてストレート勝ちで、そんなことを考えるまもなく、スカッと終わりました。近藤先生に御礼のメールをして、平野選手の試合が見られたのが感激だったとお伝えしたところ、平野選手のサインを頂けることになりました!

2014年4月30日水曜日

アスリートの時差対策 (2)

アスリートの時差対策について、概要を(1)に書きましたが、実際に時差対策を行う場合には、これから行く行き先が、東の方向なのか、西の方向なのかによって違ってきます。東の方向とすれば、アメリカ西海岸、西の方向とすればヨーロッパが代表的です。ちなみに、オーストラリアなど時差が2-3時間程度のところでは、旅の疲れはありますが時差による障害(ジェットラグ症候群)はおきないので、この対策は全く必要ありません。

東向きに飛行の場合に出発地と目的地を比較すると、目的地はいつも早めに時間が訪れるようになっています。アメリカ西海岸のサンフランシスコであれば、サンフランシスコに日の出が見えるその8時間後に東京で日の出が見えるというような具合です。ですので、逆にサンフランシスコで通常寝る時刻の午後11時は、東京では午後3時です。したがってその時間に東京で合わせるとすれば、相当早寝になってしまいます。我々が行った実験では、通常の昼間の明かりの中で生活をしている場合でも、4-5時間程度であれば、体のリズムをずらすことができることが分かりました。しかし、サンフランシスコとの時差の8時間までずらすことは難しいので、無理の無い範囲で3時間程度リズムをずらすのが妥当だと思われます。

この場合に、睡眠時間帯をずらす方向は早寝早起きです。極端に8時間早寝早起きにすれば、つまり3時に寝て午後10時に起きるような生活にすれば、ぴったりサンフランシスコの時間帯に合うわけですが、これでは社会生活もできませんし、アスリートはトレーニングも出来ません。そう考えると可能な範囲は、せいぜい3時間位、つまり、8時に寝て午前3時に起きるような生活だと思います。一方で、西向き飛行の場合は、逆に3時間程度夜更かし朝寝坊にします。夜中の2時ころまで起きていて、9時ころまで朝寝坊をします。

アスリートはトレーニング時間を早めたり遅らせたりすれば、このような生活は比較的できます。以前に、女子サッカーワールドカップの際に、なでしこジャパンのフィジカルトレーナーの広瀬統一氏(早稲田大学の同僚でもあります)から質問を受けてアドバイスしましたときも3時間程度でやってみました。この時の経験では、選手の生活をこの様にすることはできるのですが、本当は食事の時間などもずらしたほうが良いわけです。しかし、合宿中にそのようにすると、食事をつくる近所のパートの人達の帰宅時間が遅くなったりして、なかなか難しい状況もあったと聞きました。

このような時差対策は、せいぜい3時間程度ですが、8時間の時差のあるところに行く場合に、3時間の時差対策をすると、実質5時間の時差を克服すれば良いことになります。これは、8時間に比べれば相当適応しやすいと思います。人によっては、ほぼ解消されたと思うこともあるかもしれません。

(3)では、このような時差対策を促進する方法と、実際のスケジュールについて解説します。

2014年4月28日月曜日

アスリートの時差対策 (1)

さて、もう少しするとサッカーワールドカップの話題が沸騰してくる時期になってきました。今年は、ブラジルにて開幕されます。私も、早稲田大学スポーツ科学部の教員ですので、視察に行ってまいります。日本とブラジルは、時差は13時間あるいは11時間。このような時差は地球のどちら周りで数えるかによって決まってきますが、多くの場合は短い方を数えます。例えば、今カリフォルニア都の時差は8時間です。同じ日で数えると、カリフォルニアは16時間遅れていますが、これは8時間の時差があると考えるほうが適当でしょう。ブラジルの場合は、そうすると、11時間と数えるのが良さそうですが、12時間前後になると、どちらでも同じようなものです。

このような時差のある地域への移動は、スポーツに関連しても多くの困難を伴います。スポーツの技能は通常は体温が高い午前10時ころから午後10時ころまでに良いパフォーマンスを行うことができます。ところが、ブラジルのような時差の反対の地域に行くと、昼ころは日本は真夜中です。また、午後の試合であれば、日本は午前2時あるいは3時などという時刻なので、良いパフォーマンスはできません。

こういった場合は、現地に合わせたリズムを出発前に作っていくことが大事です。しかし、アメリカ西海岸やヨーロッパであれば、せいぜい8時間位の時差なので、対策が比較的楽ですが、アメリカ東海岸や、ブラジルとなると、昼夜が全く逆になってしまうので、時差対策は非常に困難になります。

このような時差対策の場合は、少しずつ現地に近づいていくのがよいでしょう。したがって、まずは、アメリカ西海岸の時刻に合わせて日本で早寝早起きにする。そして、西海岸にしばらく滞在し、更に早寝早起きにしてブラジル入りするというような具合です。

このような時差対策は、非常に大切なのですが、まだ充分にアスリートの間に普及しているとも言えません。具体的な方法について何回かに分けて説明してみたいと思います。

2014年3月21日金曜日

アスレティックトレーナーのメンタルヘルス (2)

前回アスレティックトレーナー(AT)のメンタルヘルスについて書いたところ、閲覧回数が1000を超えました。これまで、1000を超える閲覧回数のものはなかったので、ずいぶん反響があったわけです。この問題はどのように捉えられているのか、できたら簡単なコメントがいただけるとありがたいです。前回のエントリーは、主にはこの話題の紹介でしたので、もう少し立ち入ったことを書いてみようと思います。もし読まれた方は、可能であればコメントしていただけると幸いです。その時に、

1.ATかどうか。
2.年齢 性別
3.活動している国(海外の方も居たようなので)
4.活動している競技の種類
5.感想など

を書いていただけると、非常に参考になります。もし、この問題が非常に重要であれば、何らかの調査をしてみても良いかもしれないと思っています。

前回、ATのメンタルヘルスに関連した問題について、

1.一般に、スポーツの現場では勝利につながる選手のメンタルヘルスを含めた健康については、非常に大事にされるが、ATは試合結果に繋がるものではないので、重要視されない。

2.ATは、選手のために(自己を犠牲にして)働こうという意識が強く、不平不満を言わず働く傾向があり、メランコリー親和型性格(このブログのエントリー参照)であることが比較的多くある。

というふうに書きましたが、1.については、例えばSCOPUSという学術論文検索サイトで、Athletic TrainerとDepressionというキーワードで検索しても、出てくるものは、アスリートのメンタルヘルスに関するものばかりで、それをATがどのように取り扱うべきたというような内容が主体です。ATのメンタルヘルスに関するものは皆無でした。しかし、現実には、ATで調子を崩す人は、少なくとも日本の学生スポーツの中には少なからず居ます。日本の実業団あるいはプロスポーツに関しては、そういう相談を受けたことはありますが、多いのかどうかはわかりません。

アメリカなど、ATが活躍している国はどうなのでしょうか。アメリカ人の気質から、そのようなことは無いのでしょうか。通常は、あまり関係がない気もします。また、私自身も2年ほどカリフォルニアで生活しましたが、アメリカ社会もストレスの強い社会ではあります。

2.については、ATにメランコリー親和型の特徴を持った人がほんとうに多いのかどうかは不明です。そうでない人も、勿論居ますので実際に何らかの調査をしてみないと、ATの中にメランコリー親和型性格が多くいるのかどうかわかりません。しかし、そのような人がAT活動の中で、自己不全感からうつ状態に陥るケースは少なからずいるようには思います。

このような問題の解決策というのは、特にATに関わる特別のものはないと思います。産業医学で言われている、一次予防、二次予防、三次予防、ラインケア、セルフケアなどというものが、スポーツの現場に適応されると良いように思います。下記のリンクに、これらについての良い説明があります。

茨城産業保健推進連絡事務所

スポーツの現場も、職場のメンタルヘルス管理の仕組みを参考にしてこういった仕組みを作ることは可能であるように思います。ただ、チームは監督が全体の管理者であり、目的は試合で勝利することで、その中でこのようなメンタルヘルスの管理にたいしての理解がうまく作っていけるかどうかということについては、ずいぶん時間は掛かりそうだという気もします。

メンタルヘルスの問題が、きちんと取り扱われれば、少なくとも長期的な展望の中では、チームの競技力向上に繋がることは間違いないと思います。ただ、これも産業医学の状況がそのまま当てはまるのですが、いわゆるブラック企業のように、そんな余裕はありませんという状況のチームもあり、その場合にはなかなかこれが難しい状況になります。

いずれにしても冒頭に書いたように、閲覧数がこれだけ多くなるこの話題ですから、ぜひどのような興味やニーズによって、閲覧数が増加したのか、匿名で結構なのでコメントを寄せていただけるとありがたく思います。

2014年3月17日月曜日

アスレティックトレーナーのメンタルヘルス (1)

アスリートのメンタルヘルスについて語るときに、忘れてはならないのはアスレティックトレーナー(AT)のメンタルヘルスについてです。以前、ベースボール・マガジン社のコーチングクリニックに「アスリートの心の悩み相談室」というのを連載をしていた時にも、このテーマを掲載しました。この特集は、ニューロック木綿子さんという漫画家さんに、アスリートのケースを幾つかお話し、それを元に漫画のお話を作ってもらい、それに私が解説をつけるという趣向です。



ATのメンタルヘルスを考えるときの、要素は2つあります。

1.一般に、スポーツの現場では勝利につながる選手のメンタルヘルスを含めた健康については、非常に大事にされるが、ATは試合結果に繋がるものではないので、重要視されない。

2.ATは、選手のために(自己を犠牲にして)働こうという意識が強く、不平不満を言わず働く傾向があり、メランコリー親和型性格(このブログのエントリー参照)であることが比較的多くある。

このようなことから、ストレスが募りうつ状態になるATは少なからず居ます。そのような人たちは、それでも休まず働くということが多くあり、非常に痛々しい状態がしばしばおこります。

この点は、スポーツ医学に関わる方々はよく理解しておく必要があると思います。ATのメンタルヘルスの問題は、つい後回しにされがちです。チーム管理者はぜひこの点を頭においてほしいと思います。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ


2014年3月6日木曜日

外来精神療法の意味

患者さんが外来にみえると、お話をして処方をするというのが通常のパタンである。この、「お話」の部分が外来精神療法(通院精神療法=通精)というものであるが、この治療にはどのような意味があるのだろうか。多分、精神科医はそれぞれのスタイルを持っていて、そこでどのような話をするのかには、精神科医それぞれの考えがあると思われる。

薬物療法について相談することも多くある。薬物療法は、精神科医療については欠かせないものなので、これについて相談することは大切である。副作用は出ていないか。患者さんが副作用と気づいていないことが実は副作用であることもある。精神的な症状と気づきにくい、様々な身体的な訴えについても丁寧に聞いて、必要であれば薬物療法を変更する。ただし、これだけだと患者さんの側から見れば、自分のことよりも薬の調節に興味があるということになるし、また実際そのような治療になってしまう。

薬物療法よりも更に大切と思われることは、その人がどのような生活をしているか、どのような内的な世界にいるのかを確認することだと思う。確認するだけでなく、それにコメントする。コメントは、多くの場合微調整を含む。この微調整は大きな意味を持っている。例えば、「退職など具合悪い時には人生の大切なことを決定しないほうが良いですよ。」などということである。そういうことは、外来に来ていなければ患者さんは、自分の考えで進めてしまうことも多い。そういうコメントをすると、ちょっと思い留まる。その会話は1分以内のことなのだけれども、これが後の人生に影響をあたえることも少なくない。

以前、あるスポーツチームの有名な監督と話をする機会があって、どんな指導をしているんですかと聞いた。そうしたところ「毎日、練習に行って、これは良い、これは悪いって言うだけですよ。」と話しておられた。これはとても大事なことで、そんなことを通じて、選手は良い方向が何かを日々の練習から確実に、そして確固とした方向として自分の中に位置づける事ができる。これは、大学院生の指導をしていてもそうだが、日々少しずつの微調整が、効率的で良い研究活動に繋がる。

このような指導は、一つ一つは本当に僅かなものであるが、これがないと誤った方向にどんどんと進んでしまう。そして、半年たったところではとんでもなく離れたところに行ってしまうこともある。それからの修正は大変である。

2週間に一度の外来精神療法はそのような意味を持っていると思う。まあ、先生の言うとおりだ。だけども、自分もそう思っていた、と患者さんは思うことは多いと思う。ただ、そうでもないことも時にはある。このような共同作業を続けることで、患者さんの良い自己決定ができるようになってくるということが外来精神療法の意味なのかなと思っている。

2014年3月2日日曜日

アスリートのモチベーションから学ぶこと

アスリートやアスリートのメンタルサポートをしている人たちに関わっていると、精神科臨床でも役に立つ様々なことが学べる。先日、埼玉スポーツ精神医学懇話会を立ち上げて、少人数の地域の精神科の先生に集まっていただく会合をした。その時に、所沢メンタルクリニックの児玉芳夫先生にお話をいただき、その中で「自我目標」と「課題目標」という内容を伺った。この概念は、私は詳しくなかったので調べてみたところ、新しいところで「城西国際大学 紀要 2013 深山元良先生の論文」があった。そこから下に図を引用します。

おおまかに言えば、自我目標というのは、今度の大会で3位に入ったらみんなが喜んでくれるのでがんばろうというようなもの。しかし、これは、3位に入れない大会は、出ないでおこうということにも繋がるという。一方で、課題目標は、次は今のベスト記録を0.5秒縮めることだというようなこと。これであれば、常に前に進むモチベーションに繋がる。したがって、アスリートが課題目標を持てるように指導するのが良いという。

これで思い出すのは、以前に早稲田大学のラグビー部の医事関係のしごとをしていた時の経験だ。私が早稲田大学に移動した2003年ころ、ラグビー部は清宮監督になった。そこで変化があったのかどうかまでは知らないが、そのことラグビー部の合宿所に行くと、定期的に行われる測定(50mダッシュとか、ベンチプレスとか)の全部員の値がトレーニングルームに貼りだしてある。このような測定をひと月ごとにやり、自分の測定値と部内の順位が数値として分かるようにしてあるということだった。ラグビー部は部員数も相当多く百数十名いる。その中で、トップチーム(赤黒を着る、と言うようだ)に入れるのは、20名ほどであろう。その他の大多数の人たちのモチベーションをどう保つのか。みんな、強い向上心を持っているとは思うが、このような工夫はそれを更に高めるのだと思った。

精神科医療にも結びつく。両親に褒められることを自分の中心においているために、自分の道を見失ってしまう患者さんは少なからずいる。両親の子供に対する対応に、一貫性が無いため、これをしたら叱られないこともあれば、強く叱られることもあるということがあるために、どうして良いかわからなくなってしまう幼少時を過ごしたりする。その結果として、いつも「これでよいのか」という不安から逃れられない全般不安の状態になってしまうということもある。そういう患者さんには、課題目標を与えてあげることも大切だ。課題目標という名前は知らなかったが、そのようなことはしてきていた。揺るぎのない、自分自身でしっかりと捉えられる課題目標を持っていれば、それに向かって自分のペースで努力をすればそれで大丈夫。うまく行かなければ、うまくいくまで努力すればよいだけのことだ。それを、丁寧に励ますのが精神科医の仕事だ。

アスリートから学ぶことは多い。