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2014年10月20日月曜日

イスラム世界の精神医学

ここのところ、動きが非常に盛んになっている「イスラム国」に不安を感じます。このイスラム国の活動は、その残虐性に驚きますが、イスラム国設立に共感する人たちが多くの国から参加していることも報道されていています。

先日、日本からも北海道大学の休学中の学生が、イスラム国に渡ろうとして逮捕されました。このような事態についても、憂慮しています。一方で、イスラム世界と欧米との関係は大変複雑で、イスラム国を狙った、米国によるシリア領土内の空爆もその是非が問われている面もあります。

更に、この地域は、産油地域ということも有り、世界が看過できないということもこの紛争に別の意味付けをしている面もあります。我が国の立場は欧米寄りですが、私は日本は現状以上にこの地域の問題に踏み込むのは避けたほうが良いように思っています。問題は複雑で、日本はむしろ中立を保つことで、この地域に貢献できる面もあるのではないかと思います。

このようなことをも背景に、最近はイスラム圏から日本に来る人も増えています。このようなことから、イスラム世界での精神医学はどんなものなのだろうと思いました。文献を調べてみましたところ、以下の様なものが有りました。

Psychiatry and Islam.
Pridmore S1, Pasha MI.
Australas Psychiatry. 2004 Dec;12(4):380-5.

この文献には、イスラムの社会のあり方についての解説があります。一神教である、ユダヤ教やキリスト教とは、違いというよりも類似点が多いと書いてあります。イスラム教においては、唯一の神であるアラーを信じるという共通の観念の中で、社会が成り立っていて、そういう意味で個人よりも社会全体の福祉が重んじられるということです。そういった中で、精神医学は西欧の基準から言えば、限られたものだとも言っています(Psychiatric services in Islam, according to Western  standards,  are  somewhat  limited. )

しかしながら、医学という側面からは、例えば漢方医学ほどの大きな違いは無いのではないかとも思います。一般的に言ってパキスタンなどの精神医学者の多くは、アメリカに留学していたりもするので西欧と大きな違いは無いのではないかと思います。一方、社会精神医学という視点から見ると、アラーのもとでの社会全体の福祉を優先するということもあり、このような点で違いが見られるかもしれません。

私自身も、時々外国の方々の診療をしています。中国や韓国の方々が一番多いですが、英語を話す白人の方の診療もします。私自身は、外国語は英語しか話せませんので、それ以外の言葉だけの方はほぼお手上げです。この中には、英語を話すイスラム圏の方も居ます。

このような人たちの診療では時に興味深いなと思うことも有ります。それは例えば「食欲はどうですか」という質問に対して、「あまりないが、現在ラマダンなのでむしろ楽だ」という答えが帰ってきたりする時です。また、昨日、帝京大学溝の口病院精神科教授の張先生の話を聞いて、イスラム教徒には自殺者が非常に少ないことも知りました。しかし、このようなときも、診療というレベルでは、結局のところ、患者さんの主観的世界をなるべく中立的に感じていくという、精神医学一般における重要な実践を行っていくということに尽き、特に他の人の診療と変わるということもありません。

このようなイスラム圏の患者さんに対する私の経験は、まだ全く浅薄なものなのですが、イスラム世界のことを知れば、もう少し深い話ができるのかもしれません。私の経験は、まだまだですが、先の論文の最後の部分の下記の文章は、精神医学の持っている中立性を示している気もして、興味深く思いました。

Like  Islam,  the  profession  of  psychiatry  cuts  across ethnic  and  national  boundaries.  The  profession  can make a contribution to world peace through thoughtful respect, inclusion and cooperation.

2014年10月15日水曜日

国際睡眠障害分類 第2版から第3版への変化 (1) 不眠症の分類の大きな変化

不眠症についての原稿を依頼されて、その準備をしています。不眠症の患者さんは私自身も非常に沢山診療していますが、それぞれ個性があります。そう言い始めれば、どの患者さんにもそれぞれそのバックグラウンドがあって、患者さんのそういった背景を考えながら診療しなければ、良い診療はできません。

そのような中で、比較的純粋な不眠症を「精神生理性不眠症」と呼んで、治療してきました。治療法としては、非薬物治療として、運動療法や、認知行動療法をします。また、薬物療法として、睡眠薬を投与します。

しかし、この診断についても、患者さんの背景には、本人の性格傾向やストレスの影響などがあり、実は純粋な「精神生理性不眠症」というのは、なかなか難しいなと感じることも多くありました。

今年発刊された、国際睡眠障害分類の第3版の不眠症の項目は、そういった意味で非常に大きな変化が有りました。これまで、細かい不眠症のサブタイプがあげられていたものを、慢性に不眠になる慢性不眠症と一括したのです。図に、第2版から第3版への違いを掲げましたが、このように大きな変化をした理由について、この本の中では、臨床的にもこのようなサブタイプの純粋な患者さんは稀だから、と書かれていました。

不眠症の分類の変化


この考え方は、私自身の診療の感覚とも非常に一致していて、共感しました。患者さんには、それぞれその背景となる特徴があり、それらを総合的に治療していくことがもっとも重要だと考えているからです。

今回の改定は、不眠症に関しては良い方向に向ったように思います。ただし、一方で、細かい要因を学べなくなるということはあまり好ましくなく、これについても専門医はしっかりと知識をつけていく必要が有ることも忘れてはいけないでしょう。

2014年5月13日火曜日

「あとはネルだけ!」になると、もったい無くて眠りたくない

どうも夜更かしになってしまう人が居ます。夜型か朝型かは、体内時計の固有の周期(体内時計の一日の長さ)が長ければ夜型、短ければ朝型になる傾向にあるということを前に書いたことがあると思います。しかし、臨床をみていると必ずしもそればかりではないようにも思っています。

患者さんの中には、あるいは、患者さんでなくても、夜寝る前になると、一日のいろいろなことは終わって、あとは自分の好きなことだけをやれば良いという時間になると、この時間が終わってしまうのがもったいないので、つい眠るのがもったいないと、眠りにつく時刻が遅くなってしまう人が居ます。じつは、私自身もそういうところがあるのです。私の妻はそうでなく、寝る時間になれば寝る、というタイプです。私が、なにかコチャコチャやっているのをみて、呆れていることもあります。

このような心性は、
・ 他人のスケージュールに合わせながらやるのが苦手。一人でやるほうが楽。
・ 一つのことをやり始めると没頭してしまってやめられない。
ということにも繋がるところもあると思います。

これだけでは、そういうタイプの人は大勢居ますので、なんとも言えませんが、注意欠如障害の傾向のある患者さんにも多くこういったタイプは見られるように感じています。このような傾向があると、つい夜更かしになり、朝起きにくい。睡眠時間は短縮されますので、日中の眠気が出るということもあります。

注意欠如障害などの発達障害に関しては、これをいわゆる「疾患」と扱うのは、私自身抵抗もあります。しかし、投薬によって生活がずいぶん改善する患者さんも居ます。したがって、やはり「治療」の対象にはなると思いますが、たとえば、ここに挙げたような睡眠のとり方についての細かい点を問診でお聞きして、ご自身の傾向を指摘しながら、早寝の習慣を指導すると、これだけでずいぶんと日中の眠気がとれ、それにともなって注意力も向上する面もあります。

患者さんの生活の細かい面を知るには、ひとつの方法として睡眠日誌は非常に有効です。私は、睡眠日誌をしばしば患者さんにつけてもらいます。このような患者さんにもまずは、実験的に2週間ほど早寝をしてくださいとお話します。寝る前の楽しい時間を諦めるのは辛いことですが、まずは2週間ほどということになれば、やってくれる人は大勢います。そして、実際にやってみて、日中の眠気が取れることを経験すると、これらを秤にかけて、自分でも早寝しようという気持ちになります。その時に、睡眠日誌で確認する人がいるということも、この実験を行う上でとても助けになることでもあります。

このような診療は、薬物療法だけなく、患者さんの生活の様々な特徴を知って、それを指導するといういうことの重要性を示しているように思います。

寝る前のゆっくりした時間。大切な面もあると思います。眠りにつく時刻も考えながら、過ごせば、良いリラックスタイムになることも間違いないと思います。私も、それを実感して、やはり寝る前には少しゆっくりしてから眠ることが多いわけです。

2014年4月21日月曜日

うつ病を治療すると長生きする

うつ病の患者さんは、薬物を投与するし始める時に、薬の副作用を心配されます。これは、当然のことで、治療者は患者さんが安心して治療を受けられるように、副作用についても十分な説明をしなければなりません。また、患者さんは薬を早めにやめたいと思いがちですが、そうすると再発の危険もあります。また、できれば薬を飲まずに治したいと思うことも多くあると思います。しかし、抗うつ薬は効き目が非常にありますし、早く回復することは間違いないと思います。また、回復したあとに、当分の間少量の服用をすることで、再発が防げるということもあります。

このようなうつ病の治療は、うつ状態を改善するということだけではなく、結果として寿命をのばすことも明らかになっています。Whooleyら(2008)の論文では、うつ病の患者さんは、心疾患で亡くなる可能性が高くなる可能性を指定しています。これは、うつ状態が長引くと、運動をしなくなり、喫煙率も上がるのでこれがひとつの原因ではないかと述べています。

2012年に発表されたZivinらの論文は、アメリカの退役軍人病院の統計資料を調べ、亡くなった年齢が、うつ病の診断のある人とない人でどのくらい違うのかを調べています。その結果、うつ病のある人の平均死亡年齢が71.0歳であるのに対して、ない人では75.9歳で、4.9歳の違いがあります。

この著者は、うつ病で平均寿命が短縮する理由は、この疾患が、毎日の活動を低下させ、健康的なライフスタイルを送るための生活管理がしにくくなるのが大きな理由ではないかと述べています。そう考えると、寛解状態をきちんと維持しながら、良い生活を続けていくことは、うつ病の患者さんにとって非常に重要であるといえると思います。

我々の実際の臨床では、うつ病の患者さんにも運動療法を進めていますが、うつ病の治療をし、かつ運動や食事を含めた生活指導をすることで、結果的に患者さんが健康に長生きできるということもあるのだと思います。

うつ病での寛解の維持と、生活指導の重要性を考えさせる論文でした。
 
Early Mortality and Years of Potential Life Lost Among Veterans Affairs Patients With Depression

http://www.research.va.gov/news/features/depression.cfm



2014年4月12日土曜日

統合失調症の軽症化 (1)

統合失調症が軽症化しているという事が言われています。これは、私自身も非常に強く感じるところではありますが、これにはどんなエビデンスがあるのかとふと思いました。Google Searchをしてみると、東京都精神医学総合研究所の糸川昌成先生の文章が最初に出てきます。http://prit.igakuken.or.jp/Ja/PSchizo_Dep/TSchizo/kango.html  糸川先生は、東京医科歯科大学の医局の後輩で、私がアメリカに住んでいた頃にアメリカにいらして、サンフランシスコを案内したこともありました。彼の文章では、「近年,統合失調症全体が軽症化し,破瓜型でもひどい人格荒廃に至る症例が減少しました。」と書かれています。しかし、ここにも、どのようなエビデンスを示した論文があるのかは、書かれていません。

更に調べてみると、石丸昌彦先生の文章も見つけました。 http://lib.ouj.ac.jp/nenpou/no27/27-1.pdf  彼も、医局の後輩で、みんなよく頑張っているなぁという気持ちで嬉しく思います。彼も、文章の中の最後の「おわりに」というところで、軽症化は治療の進歩で予後が改善されたのではなく、初診で出会う患者さんの病像が軽症化していると言っています。

確かに、昔私が医者になった頃は病棟に入ると、無動状態(カタトニー)の患者さんが居たりというようなことがありましたが、そういう患者さんに出会うことは少なくなりました。もっとも、現在病棟のある病院に勤めていないということもあるかもしれません。

初診の患者さんで、軽症化が見られるということであれば、軽症のうちに受診するようになったということも言えるかもしれません。それは、価値観の多様化と関係があるのでしょうか。あるいは、精神科受診の敷居が低くなったということもあるかもしれません。

もし、このような文化的な背景が軽症化に影響を及ぼしているということが事実なら、海外の事情で、旧共産圏と西側社会での症状の違いがあっても良いと思います。このようなことを含めて、統合失調症の軽症化が事実としてあるのであれば、何らかのエビデンスが提出されていても良いと思います。もう少し海外の文献を含めて探してみたいと思っています。そう思って、タイトルにも(1)をつけておきました。

2014年3月27日木曜日

うつ病において、重要な判断をするタイミング

うつ病の患者さんでは、多くのケースで職場での問題があります。問題は、勤務時間の問題から、上司や同僚との問題、仕事の内容が自分に合わないなど、さまざまです。そういう中で、いろいろなストレスを感じ、うつ状態になり会社を休職するということになるケースが多くあります。そういった中で、これではだめだ。職を変えよう。という判断をされる方がいます。

こういうときに、なるべく症状が良くなってから最終的な決定をするようにお勧めしています。具合悪いときは、現状を客観的に正確に把握することが難しい場合も多いからです。たとえば、同じやめるにしても、傷病手当をもらって、しばらくは会社に所属し、その後退社して失業手当をもらうことになれば、しばらくはある程度の収入が確保できるということもあります。また、会社の方でも様々な福利厚生があり、時には配置転換を考えてくれて、その後働きやすい部署に異動できることもあります。

このような、様々な可能性について、落ち着いて考え、判断する力は、うつ状態がひどいときには必ずしも十分ではありません。そういう中で、仕事を辞めてしまって、つらいストレスを切り離してしまいたいという気持ちから、決断をしてしまうことがありますが、そういうときには、私は積極的に介入します。可能であれば、家族とも話をし、そのような判断が客観的にも妥当かどうかの意見を聞き、先に延ばすことができるのであれば、そのようにして、良くなった上でも退職が妥当であればそうすれば良いとお話しします。

そのような中で、安全で妥当な道を選べるようになるケースは少なからずあります。

2014年3月24日月曜日

障害者雇用対策

障害者雇用対策は、「障害のある人が障害のない人と同様、その能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指し、障害のある人の雇用対策を総合的に推進(厚生労働省)」するものです。各企業は、雇用者の2.0%に相当する障害者を雇用することが義務付けられています(障害者雇用率制度)。これに満たない企業は、納付金を納めることが求められ、これを資金にして障害者雇用をしている企業に調整金を支払ったり、障害者雇用のための施設設備費等に助成をしています。

このような制度は、主には身体障害者を対象(1976年)として始まり、次第に知的障害者(1987年)、そして精神障害者に枠が広げられてきました(2006年)。このような変化は、障害者スポーツにおける変化とも似ています。精神障害者が後回しになるのは、このような歴史が明らかにするところですが、しかし、現状では精神障害者も障害者雇用の対象となり、これによって仕事をする機会が実際に多くなっています。

私の患者さんたちも、このような制度を利用して仕事をすることがしやすくなっています。これまでにも、多くの患者さんが、このような障害者雇用で仕事についておられます。このような障害者枠を多く持っている企業は、大きい企業で、障害者雇用でも通常の雇用と同様の福利厚生がつきますので、非常に良い条件で仕事をすることができている方もいます。このような制度があると、仕事について社会の中で活躍し、労働によって自立する生活がしやすくなり、生活の質が向上します。これは、生きがいにもつながり、多くの患者さんがやりがいのある人生を送れるようになります。最近この雇用で職を得た患者さんも、とても生き生きとうれしそうにしておられました。

2014年3月20日木曜日

木の芽時(このめどき)と精神科外来

そろそろ春を感じる季節になりました。この季節は「木の芽時」とも呼ばれていますが、木の芽時には、暖かくなったかと思えば寒くなったりして、体調を崩す方も大勢いるので注意が必要です。精神科の外来でも、この季節に調子が悪くなる方も多いような印象は受けます

患者さんにそのことを訪ねてみると色々な答えが帰ってきます。多くは、年度の変わり目に関連したことです。例えば、学生時代にはこの時期になるとクラス替えがあるということがあり、そのことで緊張感が高まるというようなこと。これは、多くの人にとっては楽しみでもあるかもしれませんが、新しい環境への適応が難しい素因をもっている方々にとっては、変化の季節であまり歓迎できない季節なのかもしれません。また、会社では部署の異動などもあります。そのような場合も、新しい部署で今度はどのような人たちとどのような仕事をするのだろうかという不安と緊張が訪れるということもあります。

木の芽時の季節としての特徴が、精神症状を悪化させるということは、もしかするとあるのかもしれませんが、これについての明確な説明はあまり聞いたことはありません。多分、気候の急激な変化によって、自律神経系や内分泌系(ホルモン)がそれについていけないということから体調をくずすという事はありそうで、これが精神症状にも影響をあたえるということであれば、それは納得できる説明にもなると思います。

一方で、この時期に良くなる人も居ます。冬期うつ病(季節性感情障害)の患者さんは、この時期になると次第に回復してきます。患者さん自身にとっては、待ち遠しい時期でもあるでしょう。

新しく始まる4月からの年度への期待も膨らむ時期ですが、精神科の患者さんにとっては、複雑な気持ちが交錯する時期でもあるわけですね。

2014年3月18日火曜日

藤沢保健所での講演(うつ病の運動療法、 うつ病の痛みと睡眠障害)

先週、藤沢保健所での講演を頼まれて話をしました。2つの話をしたが、ひとつは「うつ病運動療法の可能性」。もう一つは「うつ病の痛みと睡眠障害」についてです。これらの話は、今まで主には医療関係者を対象にしてきたのですが、今回は一般の方々、および当事者(患者さん)やご家族むけにしました。同じように睡眠の話を、所沢市の並木公民館でも少し前にしましたが、こういう講演会では、講演の後の質疑応答がわりと活発になります。

ここで難しいのは、診療と同じようにならずに一般論として話をすることです。質問は、時に非常に個人的なことになりますが、それを皆さんの前でやりとりして答えたりすることは、無理があるので、その問題を一般的な問題としてとらえて回答するのが良いと思っています。しかし、それでもそれを丁寧にすれば、質問されたご本人にも、あるいは聴衆の方々一般にも役に立つ面があります。

この場合、やはり基本になるのは、うつ病の患者さんを治療するときに、症状だけをお聞きするのではなく、生活全体をお聞きすることです。何時に寝て何時に起きるのか、朝ごはんは食べるのか、運動はしているのか、人との交流はどうか、などです。これらをお聞きして初めてその方の生活が分かります。質問の際には、あまり個人的にならずさらっと一般的なこともお聞きして、一般論としてお話します。その中で、質問された方も、他の聴衆の方も自分に当てはまるエッセンスを持ち帰っていただけると思っています。こうして、答えると質問がたくさん出ます。時に30分位になり、時間でそこまでになることもあります。

表題にあるような様々なうつ病の症状や、これに係る生活状況は、個人個人でできることが異なっています。したがって、実際の診療の中ではそれを詳しく聞いて、様々な医学的知識をもとにできることをやっていくということになります。それを、患者さんにわかっていただくのが、こういった講演の一番の目的になります。

2014年3月15日土曜日

運動がけん引する睡眠と食事-生活習慣病としてのうつ病

健康に関連する生活習慣の3要素として、運動、睡眠、食事があります。しかし、これらの3つは同等の位置関係にあるのではありません。たとえば、たくさん睡眠を取れば運動す量になったり、食欲が出たりすることはありません。また、食事をとれば運動したり、よく眠ったりするわけでもありません。しかし、運動を良くする、運動習慣をつけると、お腹が空き食欲が増し、睡眠の質が向上します。このように、運動は、他の要素をけん引する生活習慣の本質を占める要素であると考えられます。

生活習慣の乱れから起きてくる疾患を、「生活習慣病」と呼んでいます。厚生労働省のホームページをみると、生活習慣病として6つの疾患が挙げられています。それらは、糖尿病、脳卒中、心臓病、脂質異常症、高血圧、肥満です。

私は、ここに「うつ病」を入れたいと思っています。うつ病はご存知のように高強度のストレスが長期間続いて起きてくる、抑うつ状態ですが、現代時の日々の生活にはストレスがつきものです。そのようなストレスの中でも、うつ病にならない人は居ます。これは、体質の違いと大きくくくっても良いかもしれません。そう考えると、例えば、必ずしも良い生活習慣でなくても生活習慣病を発症しない人もいるということと似ています。

他の生活習慣病と同様に、各個人の体質と環境の両方が関連してうつ病は発症してきます。人によっては、うつ病を発症しないケースも有りますが、生活習慣を整えることによって、うつ病の発症は、全体として減ると思っています。また、うつ病になった人たちについても、生活習慣を整えることが、治療的な意味があると思っています。

そのためには、生活習慣に運動を取り入れることがとても大事です。運動は、決してジャージを着て、激しいスポーツをすることだけではありません。日々の生活の中で、階段を使ったり、歩く距離を増やしたりすることも大切です。そして、それにけん引されて、バランスの良い食事と、良い睡眠を確保することも合わせて行わなくてはなりません。これによって、身体的な健康と、良い精神状態が保たれるようになることが期待できます。

このような、生活習慣病としての側面をもったうつ病について、実際の臨床では、薬物療法に合わせて、細かな指導をすることで、寛解に早く至り、良い状態を維持することができるようになるケースが多くなると考えています。


2014年3月10日月曜日

マスクと精神科の患者さん

この季節になると、花粉の影響で街にはマスクをしている人たちがあふれています。こんなにマスクをしている人が多い国は珍しいと思いますが、最近は北京などもPM2.5の影響でマスクしている人は多いようですね。精神科の患者さんもたくさんの人がマスクをしてきます。患者さんによっては、花粉症の薬出してくださいとおっしゃいます。先日の日経メディカルには、下記のような記事が出ていました。眠気の少なさを考えると、アレグラが良さそうですね。

医師1067人に聞いた「お気に入りの抗ヒスタミン薬」
花粉症医師の8割が抗ヒスタミン薬を服用
一番人気はアレグラ、続いてザイザル、アレロック
2014/2/28 田島健=日経メディカル

さて、ここでマスクを話題にしたのは、花粉症のことではありません。精神科の患者さんの中でマスクをしてくる人は、殆どと言って良いくらい顔を隠すためにマスクをしています。そういう意味で、この季節は患者さんにとっては、特別目立たずにマスクをできる良い季節かもしれません。マスクをしてくる患者さんの多くは、社交不安障害の方です。その他の疾患もありますが、外にでるときにマスクをしたりサングラスをすると、自分自身をみられずに安心できます。

そういう患者さんも、診察室の中ではマスクを取ってもらうようにしています。取るのが面倒くさくてそのままになっていたり、マスクを外してもらったことが何度もあるので、マスクをしていてもバリアにならないような患者さんの場合には、わざわざ、聞きませんが、初診の患者さんや、表情をよく知りたい患者さんの場合には、少し話をして慣れてきたら、「マスクを外すことができますか?」とお聞きします。

ほとんどすべての患者さんが、マスクを外してくれます。多くの患者さんは、自分自身がそういう問題を持っていて、そのことを相談する相手としての治療者に対しては、マスクは必要ない場合が多いです。逆に治療者に対しても顔を隠したい場合は、まだ十分な治療関係ができていないと考えても良いのではないでしょうか。

治療がうまくいくと、マスクが取れることもあります。マスクがとれて、イキイキとした顔を見られる患者さんは、この状態を是非維持するために、精神的なサポート、薬物治療、両方においてより気を抜かずにやっていかなければならないとも考えています。

2014年3月6日木曜日

外来精神療法の意味

患者さんが外来にみえると、お話をして処方をするというのが通常のパタンである。この、「お話」の部分が外来精神療法(通院精神療法=通精)というものであるが、この治療にはどのような意味があるのだろうか。多分、精神科医はそれぞれのスタイルを持っていて、そこでどのような話をするのかには、精神科医それぞれの考えがあると思われる。

薬物療法について相談することも多くある。薬物療法は、精神科医療については欠かせないものなので、これについて相談することは大切である。副作用は出ていないか。患者さんが副作用と気づいていないことが実は副作用であることもある。精神的な症状と気づきにくい、様々な身体的な訴えについても丁寧に聞いて、必要であれば薬物療法を変更する。ただし、これだけだと患者さんの側から見れば、自分のことよりも薬の調節に興味があるということになるし、また実際そのような治療になってしまう。

薬物療法よりも更に大切と思われることは、その人がどのような生活をしているか、どのような内的な世界にいるのかを確認することだと思う。確認するだけでなく、それにコメントする。コメントは、多くの場合微調整を含む。この微調整は大きな意味を持っている。例えば、「退職など具合悪い時には人生の大切なことを決定しないほうが良いですよ。」などということである。そういうことは、外来に来ていなければ患者さんは、自分の考えで進めてしまうことも多い。そういうコメントをすると、ちょっと思い留まる。その会話は1分以内のことなのだけれども、これが後の人生に影響をあたえることも少なくない。

以前、あるスポーツチームの有名な監督と話をする機会があって、どんな指導をしているんですかと聞いた。そうしたところ「毎日、練習に行って、これは良い、これは悪いって言うだけですよ。」と話しておられた。これはとても大事なことで、そんなことを通じて、選手は良い方向が何かを日々の練習から確実に、そして確固とした方向として自分の中に位置づける事ができる。これは、大学院生の指導をしていてもそうだが、日々少しずつの微調整が、効率的で良い研究活動に繋がる。

このような指導は、一つ一つは本当に僅かなものであるが、これがないと誤った方向にどんどんと進んでしまう。そして、半年たったところではとんでもなく離れたところに行ってしまうこともある。それからの修正は大変である。

2週間に一度の外来精神療法はそのような意味を持っていると思う。まあ、先生の言うとおりだ。だけども、自分もそう思っていた、と患者さんは思うことは多いと思う。ただ、そうでもないことも時にはある。このような共同作業を続けることで、患者さんの良い自己決定ができるようになってくるということが外来精神療法の意味なのかなと思っている。

2014年3月4日火曜日

声優と社交不安障害

社交不安障害は、人前で自己紹介をしたり、権威ある人と話をしたり、レストラン等で人と食事をしたり、周りの人のいるときに電話をしたり、人前で文字を書いたりするときに非常に高い緊張感を感じてしまい、自然にそういった状況を避けるようになってしまう障害です。このような障害の人は、人前で話をしたりすることがとても苦手なのですが、社交不安障害の患者さんたちの状況を聞いていると、多くの人達が必ずしも常にそうではないと話しています。

例えば、テーマパークなどのアトラクションの説明の仕事ですが、社交不安障害の人はとてもできそうにないとも思うのですが、必ずしもそうでもないようです。話を聞いてみると、全く別の人になって言うことが決まっているので大丈夫だというのです。別の患者さんは、声優の仕事ならできると思ってそうなろうかとおっしゃっていました。声優は大丈夫という人は、複数居て、顔が出ずまた別の人になれるということで、むしろ安心できる場所ということになるのだと思います。

社交不安障害にはセロトニン神経系の活動を高めるSSRIという薬物が非常に有効ですが、一方で生活指導も大切です。このような、社交不安障害の特徴をよく理解して、無理の無い職業から入って行くようにするのが良いと思います。ある患者さんは、それができるのですが、しかし仕事の場面ではそれをずっと続けなくてはならず、突然やめてしまうということも起きていたようです。安定して継続した生活を維持することを目標にするのが良いですが、そこには本人の主観的な内的世界をよく知った上でのアドバイスも生きてくると思います。

2014年3月2日日曜日

アスリートのモチベーションから学ぶこと

アスリートやアスリートのメンタルサポートをしている人たちに関わっていると、精神科臨床でも役に立つ様々なことが学べる。先日、埼玉スポーツ精神医学懇話会を立ち上げて、少人数の地域の精神科の先生に集まっていただく会合をした。その時に、所沢メンタルクリニックの児玉芳夫先生にお話をいただき、その中で「自我目標」と「課題目標」という内容を伺った。この概念は、私は詳しくなかったので調べてみたところ、新しいところで「城西国際大学 紀要 2013 深山元良先生の論文」があった。そこから下に図を引用します。

おおまかに言えば、自我目標というのは、今度の大会で3位に入ったらみんなが喜んでくれるのでがんばろうというようなもの。しかし、これは、3位に入れない大会は、出ないでおこうということにも繋がるという。一方で、課題目標は、次は今のベスト記録を0.5秒縮めることだというようなこと。これであれば、常に前に進むモチベーションに繋がる。したがって、アスリートが課題目標を持てるように指導するのが良いという。

これで思い出すのは、以前に早稲田大学のラグビー部の医事関係のしごとをしていた時の経験だ。私が早稲田大学に移動した2003年ころ、ラグビー部は清宮監督になった。そこで変化があったのかどうかまでは知らないが、そのことラグビー部の合宿所に行くと、定期的に行われる測定(50mダッシュとか、ベンチプレスとか)の全部員の値がトレーニングルームに貼りだしてある。このような測定をひと月ごとにやり、自分の測定値と部内の順位が数値として分かるようにしてあるということだった。ラグビー部は部員数も相当多く百数十名いる。その中で、トップチーム(赤黒を着る、と言うようだ)に入れるのは、20名ほどであろう。その他の大多数の人たちのモチベーションをどう保つのか。みんな、強い向上心を持っているとは思うが、このような工夫はそれを更に高めるのだと思った。

精神科医療にも結びつく。両親に褒められることを自分の中心においているために、自分の道を見失ってしまう患者さんは少なからずいる。両親の子供に対する対応に、一貫性が無いため、これをしたら叱られないこともあれば、強く叱られることもあるということがあるために、どうして良いかわからなくなってしまう幼少時を過ごしたりする。その結果として、いつも「これでよいのか」という不安から逃れられない全般不安の状態になってしまうということもある。そういう患者さんには、課題目標を与えてあげることも大切だ。課題目標という名前は知らなかったが、そのようなことはしてきていた。揺るぎのない、自分自身でしっかりと捉えられる課題目標を持っていれば、それに向かって自分のペースで努力をすればそれで大丈夫。うまく行かなければ、うまくいくまで努力すればよいだけのことだ。それを、丁寧に励ますのが精神科医の仕事だ。

アスリートから学ぶことは多い。



2014年3月1日土曜日

電子カルテ

最近は、多くの病院、クリニックで電子カルテが導入されています。マーケットはワープロに比べて大きいと言えないので、ワープロほど使い勝手が良いとはいえませんが、紙のカルテに比べて格段に良いと私は思っています。もっとも、これは私の意見で、電子カルテなんか全然ダメと思っている先生方も多くいらっしゃると思います。

私が臨床をしているあべクリニックは電子カルテを用いています。自分が電子カルテが良いと思う理由は、少し自慢になってしまうかもしれませんが、私はブラインドタッチのタイピングが得意です。時に患者さんが、「全然見ないで大丈夫なんですかァ…。」というくらい早く打てます。したがって、患者さんと話をしながら、その会話を殆ど記載することができるわけです。もちろん、話が込み入った時には手を止めて話をし、その後要点をまとめるようにしています。しかし、紙に書くよりもよっぽどたくさん事を記録できます。

最近はサマリーを作ってそれを見ながら診察するようにしています。電子カルテでは、サマリーのパネルを出しておくことができます。これは、なかなか便利です。初診の時は患者さんの、生育史や背景について沢山の事をお聞きします。その中には、多くの場合特徴的なことがいくつもあります。両親との関係、幼少時の家庭環境、中学高校時代のこと、大学の過ごし方、どこの大学に行ったかなどです。更に仕事の変遷、結婚などなど、プライベートのことそのものをたくさんお聞きするので、初診の時のことをしっかりと把握することが大事です。そのようなことは、その後の診察時にしっかり背景に置きながら現在の話を進めていくのが理想です。しかし、たくさんの患者さんと話をしていると、細かい部分については失念することもあります。そんな時にサマリーを出しておき、診察時にそこに新しいことがあれば付け加えるようにすると、話がしっくりいきます。患者さんの側から見ても、自分が話したことをあまり覚えていない先生では、たよりなく思われることでしょう。

もう一つは、書類書きの簡便さです。精神科では、たくさんの書類が回ってきます。例えば、自立支援医療の書類や介護認定に関わる意見書などです。このような書類は、定期的に提出しますが、かなりの部分は前回と同じことも多くあります。例えば、病歴などは変わるものではないので、そのようなものの記載です。そんな時に、電子カルテでは、前回のコピーからスタートして訂正すれば良いので、非常に記載が楽です。

事務の側から見れば、電子カルテは場所をとらず、取り出しに時間もかからないので、とても楽で、これも大きなメリットだと思います。紹介状や、患者さんのメモなどもスキャンして保存しておきます。紙ベースのものは、一定期間保存して焼却処分とします。しかし、電子ベースのものは残るので、時間がたっても参照できる、場所をとらないので、廃棄しないで済むという利点があります。

クリニックや病院の電子システムは、インターネットには接続しないのが原則です。したがって、システムの中に外部から侵入されることは絶対にありません。最近は、訪問医療などで便利なようにクラウドシステムがあるという話を聞いたことがありますが、セキュリティーはどうなっているのだろうか。患者さんの大事な個人情報は絶対に外部からの侵入は無いようにしないといけないと思うので、自分としてはクラウドシステムはよほどきちんとした保証がない限りは使えないと思っています。

最近、阿部院長がキーボードを新しいのに取り替えてくれました。特に相談もなかったが、Microsoft Sculpt Ergonomic Desktop L5V-00022にしてくれました。エルゴノミクスキーボードで、最初ちょっと慣れが必要なのですが、慣れると非常に打ちやすくて、大変便利に使っています。これで、いつも患者さんとお話しながらパチパチとやっている今日このごろです。


2014年2月27日木曜日

社交不安障害

社交不安障害は、対人場面や人から注目をあびる場面で、非常に緊張感が高まり、そのような場面を避けるようになる障害である。対人恐怖などと言われていたケースで当てはまるものもある。

社交不安障害からうつ状態になる人も多い。実際に患者さんの話を聞いていると、一対一の診察の場面ではさほど問題がなさそうでも、社会生活の中での様々な場面ですごく緊張が高いということが分かる。次の日に何らかのプレゼンテーションがあると、前の日に何度も何度も練習して、その日の夜はよく眠れないという人も多くいる。したがって、どの患者さんにもひと通り社交不安障害があるかどうかを聞いてみる。

また、社交不安障害によるストレスは、仕事の様々な場面で起きてくるので、丁寧にどのような環境で仕事をしているのかを聞くことも大切である。IT従業者のうつ病は非常に多いが、IT従業者が仕事のストレスで鬱になっているのではない場合もある。IT従業者は、自社で仕事をせずにクライエントの事務所に出向いて行って、そのプログラムの修正を行うプロジェクトを定期的に移動しながら行う場合も多い。そういった時に、プロジェクトが変わると新しいクライエント会社の担当者に変わる。その時に、担当者が高圧的な人だったりすると、社交不安障害のある人は非常に大きなストレスを感じる。また、そうでなくても新しい担当者と導入の打ち合わせをすることに大きなストレスを感じることもある。

このような人は、自社で仕事をする部署に回ると良くなる。そのような希望を出すことに気づいていない場合もあるので、詳しく話を聞いてあげるとそのようなアドバイスも出来る。会社によっては、そんなふうに部署転換ができない会社も多いが、大きめの会社であれば、そういうことが可能な場合もある。

また、継続して社交不安障害を改善する薬物療法を行うことも意味がある。この薬は、効果のあるケースは少なからず有り、うつ状態が改善しても継続的に服用したほうが良い場合が多い。

2014年2月22日土曜日

大人のAD/HD

田中康雄先生(北海道大学)の、大人のAD/HDをいう本(講談社)を患者さんがもっている。見せてもらったところ、大変わかり易く書かれている本で、購入してみようと思いました。
12月から、コンサータも成人に使えるようになり、ストラテラとコンサータの両方が成人でも用いることができます。また、成人に対してのコンサータの効果についての手応えはまだ少ないですが、小児に対するのと同様に成人に対してもコンサータは効果発現は即日に現れるように思います。このような中で、生活指導を丁寧にしていくことが真の治療に結びつくと思いますが、やはりそのようなときに、このような本があると指導がしやすくなります。

発達障害があると、社会の中ではさまざまな苦労があります。ADHDあるいはADD注意欠如障害の場合も、自分が努力しても間違いがあり、社会からは努力していないように思われてしまう面があり、患者さんは苦労しています。このような、薬物療法がそのギャップを埋めてくれる事になれば、患者さんにとっては朗報です。