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2018年2月5日月曜日

注意欠如症におすすめノート

大人の発達障害の一つであるADHDでは、多動性衝動性は比較的収まっており、不注意優勢型であることが多くあるともいます。本人は、仕事を真面目にやろうという気持ちは十分にあるのですが、幾つもの仕事を振られると、抜け落ちてしまう、やり残してしまうということがあります。約束事を忘れてしまうなどがあると、仕事上は大きな問題になってしまうと思います。

もう一つは、時間配分がうまくいかないということもあります。一つのことをやり始めると時間を忘れて仕事に取り組んでしまうために、やるべき仕事の半分しかできずに一日終わってしまうということもあります。

こういうときに、メモをとることはとても大事です。しかし、多くの場合はあちこちにメモを書いて、そのメモがどこにあるのかわからなくなってしまうなどということが有り、これは薬物治療などもしながら、ノートは一つにするということを徹底することがとても大切になります。すべてのことを一つのノートに書くということです。

もう一つは、時間配分もノートに書くということです。そのような意味でのおすすめのノートについて考えていたところ、私の患者さんが良いノートを見せてくれました。調べてみたところ、ロフトのHPにノートについての解説がありました。

ロフトのおすすめ手帳の選び方

という、サイトですが、リンクを張っておきます。
ロフトのサイトより:週間バーチカルタイプの例
この中で私がおすすめするのは、「週間バーチカルタイプ」というものです。一週間のスケジュールを、日にちごとに縦の時間軸に沿って、埋めていくというものです。これを用いれば、その日一日の自分の行動がイメージとして頭に入りやすいと思います。注意欠如症の方は、イメージを覚えるのが上手なことも多いので、そういった意味でも良いと思います。使い慣れれば、絵を入れたり、色分けをしたりすることでかなり効率的な仕様ができるのではないでしょうか。


2016年8月21日日曜日

ミニマリスト

日本人の佐々木典士さんについての記事が、アジアタイムスというサイトに出ていました。ミニマリストという考え方(あるいは生き方)が、日本の若者の心を捉えているというものです。このミニマリストに関しては、非常に興味をもっています。私も現代はものが溢れすぎていると感じていて、自分自身もものを少しでも減らそうと思っています。減らすには捨てるわけですが、どこまで捨てられるかが、ミニマリストのレベルを決定することになるのだと思います。

佐々木さんの場合は、ほぼ極限にちかいミニマリストですが、少しでもものを減らすのだという姿勢は、いろいろな側面でものを捨てるときの決定がしやすくなります。

アジア タイムズ のサイトから
また、このような考え方はADHDの人たちの生活指導にも良いかもしれません。ADHDの人たちは、部屋を片付けるのが苦手でどうしてもものが溢れてしまい、「部屋が片付いていない」ということになりがちです。しかし、その場合も本当に必要なものが整理できずにあるというよりは、殆どのものは要らないものであることも多くあります。したがって、なるべく捨てる、あるいは手に入れないという姿勢をもてば、これを遂行すること自体は可能ではないかと思います。この部分にトレーニングが必要だとは思いますが、しかし、そのことに固執してやってみることはできるように思います。また、ものが少なければそれらを順序立てて整理することも容易になってきます。そうすれば、必要な物が何かも明らかになってくる可能性があります。

使わなくても持っていたいというものはやはりあると思うので、こういうことは誰でもができるということではないようにも思いますが、しかし、一つの選択肢としてミニマリストの生き方や、この概念をADHDの人たちの生活指導にうまく取り入れられないかもう少し考えてみようと思います。

2016年7月10日日曜日

発達障害と睡眠障害 第41回日本睡眠学会シンポジウム

2016年7月7日8日に、日本大学医学部の内山真先生を会長として、日本睡眠学会が京王プラザホテルで開催されました。私は、シンポジウム「発達障害と睡眠障害」を8日の午後行いました。シンポジウムでは、聴衆が部屋に入りきれず、廊下にまであふれだす状況で、非常に好評でした。

演者は
本田秀夫先生
信州大学医学部附属病院 子どものこころ診療部
初めてお会いしましたが、素晴らしい先生でした。
発達障害の概論を睡眠と結びつけて話していただきました。非常に分かりやすくユーモアに富んだお話でした。
http://www.shinshu-u.ac.jp/hp/bumon/kokoro/goaisatu.html

内田 直
早稲田大学スポーツ科学学術院
私です。
睡眠障害外来に来院する日中の過度の眠気を呈するケースを提示して、背景にある注意欠如多動性障害の可能性や考える背景の神経メカニズムについてお話しました。

中島亨先生
杏林大学医学部精神神経科学教室
このシンポジウムを一緒に協力して開催した先生です。
発達障害にみられる、起床困難例についてケースを上げてその背景に見られるメカニズムや、具体的な薬物療法(ノルアドレナリン再とり込み阻害剤の使用、ドパミンD2パーシャルアゴニストの使用など)についてお話し頂きました。
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/faculty/medicine/education/staff/detail/?id=med19003

神山潤先生
東京ベイ・浦安市川医療センター
研究所の時代から交流を持たせていただいている、神経生理学にも詳しい小児科の先生です。
発達障害と睡眠障害に関連した、神経メカニズムについての仮説的なお話を提示していただきました。特に、報酬系が覚醒メカニズムとも大きな関わりがあるという桜井先生の仮説や、マシュマロスタディーに関わる脳内神経機構などとのお話が逸品でした。(マシュマロスタディーは非常に興味深かったので、また取り上げます。)
http://www.j-kohyama.jp/


発表後の総合討論では、聴衆からも熱心な質問が出て、我々も非常に勉強になりました。とても良い、シンポジウムになったと自負しています。





2016年2月8日月曜日

日本人の糖質制限食のRCT (Medical Tribune記事)

Medical Tribuneという、医師向けの広報誌のメーリングリストにいつからか入っているらしく、時々メールが送られてきます。だいたいあまり目を通さずにいるのですが、下記の記載が目について読んでみました。

日本人の糖質制限食のRCT,エネルギー摂取量が400kcal抑制
学会レポート | 2016.01.19

Diabetes Daily より転載
順天堂大学の金澤昭雄先生(代謝内分泌内科学)が行ったランダム化比較試験(RCT)で、良い成績を上げたようです。記事を読むと、一日130gの糖質制限食とエネルギー制限食を比較したようですが、学会には出席していないので詳細は不明です。

良い成績というのは、
・ 一日の総エネルギーが約400kcal抑制できた
・ HbA1c(過去の血糖値を反映するマーカー)や、BMIが有意に低下した(エジェルギー制限食では低下せず)

ということでした。

糖質制限食に興味を持ったのは、私自身、変形性膝関節症の治療の一環として減量が必至の目標だったので、昨年10月より糖質制限食を実施して、この4ヶ月で5kg減量しました。これによって、先に書いたようにフットサルができるまでになったわけですが、糖質制限食について、専門家はどのように考えているのかも調べてみたところ、日本経済新聞に良い記事が出ていました。

ご飯・パン減らす「糖質制限食」、是非巡り論争続く
糖尿病を予防・安全に懸念…
2014/1/28

という記事ですが、日本糖尿病学会では、糖尿病患者さんが糖質制限をすることは注意が必要という立場をとっているようです。

まとめると、

1.健康な人のダイエットとしては、問題視する面は少なく、効果がある
2.一方、糖尿病患者さんや高齢者では代謝のバランスを崩して、時に重篤な状態も起こりうるので注意が必要

ということのようです。

私が実際に行ってみると、全く糖質を取らないようにするということよりも少なくするということで、栄養のバランスもある程度保たれるようになるのではないかという実感を持ちました。実際に、例えば、お寿司屋さんにいって、自分だけ全く握りを食べないとか、あるいはお弁当が出た時に、白米を全く食べないとかいうことはなかなか難しくて、ついそういう時は、私も食べていました。また、食事の後にでるデザートも一口二口食べたりもしました。

このような状態で続けた結果、私の場合は体重5kg減少し、いろいろと良い面がありました。実際に午後の眠くなる時間に眠気が少ないというのも大きな利点です。

私は、内分泌代謝の専門家でないので、専門的な視点からの推奨はできませんが、特に代謝疾患などのない人が、比較的効率的に半年程度の期間の中で減量するという意味では効果があるのではないかと思います。これは、運動と合わせればより効果があるでしょうし、適応のある人に対しては、進めていっても良いのではないかという感想を持ちました。

2015年10月22日木曜日

文献:うつ病治療におけるオメガ3系脂肪酸のエビデンス(西、松岡 臨床精神薬理 2012)

以前にも、オメガ3系脂肪酸の抗うつ効果についてこのブログに書いたことがあります。最近、表題の論文を読む機会があり、これについて紹介したいと思います、

この総説論文によって、自分自身が新しく得た知識としては、DHA, EPAというオメガ3系脂肪酸のうつ病に対する効果としては、女性に効果があり、男性では効果が見られないという性差があるということです。しかし、報告によっては男性で効果があるというものも有り、まだ今後のさらなる知見が必要とされる段階であるようです。

また、オメガ3系脂肪酸の抗うつ効果についての、ランダム化比較試験(RCT)の論文を集めて、総合的に統計処理をするメタアナリシスの最近の論文では、オメガ3系脂肪酸の抗うつ効果については、有効であると結論づけています。この中では、DHAよりもEPAがより抗うつ効果として有効であることも示されています。(EPAが60%以上含まれているサプリメントを使用した場合有効。)

さて、それではこのようなオメガ3系脂肪酸がどのような機序で、抗うつ効果を発揮しているのかについて疑問が湧くわけですが、これについては、まだあまりはっきりとはわかっていないようです。仮説として有力なものは示されているので、列挙すると…。

1.抗炎症作用
2.神経新生の活性化など神経細胞への影響
3.セロトニン代謝への影響
4.CRFの調整 (CRF=corticotropin-releasing factor)の調整
5.Protein Kinase Cの阻害
6.HRV(心拍変動)の調整
7.シナプス形成の亢進
8.脳血流量の改善

等が挙げられています。

まだ、メカニズムもわかっておらず、エビデンスとしてもまだ不安定な要素のあるものでは有りますが、やはり食事というのは精神衛生に対して影響を与える者の一つであることは間違いないと思います。今後も、研究の動向に注目していきたいトピックの一つだと思っています。

2014年8月6日水曜日

ウエアラブル デバイスで、健康管理 (Wearable Expo 2014 NYC)

朝日新聞に「ウエアラブル端末、NYに集結 健康分野に熱視線」という記事が出ていました。記事の写真には、ストーンクライサスという会社の腕時計型の活動量計が出ています。記事によれば、「歩数などの運動量や睡眠の深さ、食事の摂取量などのデータを一括管理する新型端末」だそうです。125ドルで秋には発売されるそうです。買ってみようと思っています。

ストーンクライサスの腕時計型測定器


このようなウエアラブル端末には私は非常に興味があります。これまでにもアスリートの測定をするために、アクチウォッチなどの活動量計を用いたり、うつ病の患者さんにライフコーダーという活動量計を用いたりしてきましたが、特に精神科の臨床では、このような活動量計は非常に役に立つ面があります。精神科の臨床は、例えばこのようなものです。

「◯◯さん、こんにちわ。」
「こんにちわ。」
「前回は2週間前でしたが、この2週間はいかがでしたか?」
「そうですね、処方していただいたお薬があっているようで、大分眠れるようになり、昼間の気分も改善しました。」
「それは良かったです。」
カルテに 『大分眠れる。気分も改善した。』 と書く。

このように、精神的な症状の変化は主観的に語られるものを頼りにしなければならない面が多くあるのですが、もう少し客観性をもった治療を行いたいと思っています。それで、私はしばしば患者さんに活動量計をつけてもらったり、そうでなくても、睡眠日誌や生活日誌をつけてもらったりしています。

この、ここで紹介されたストーンクライサスという会社の製品を調べてみました。

http://www.stonecrysus.com/

これが、ホームページでした。まだ、ホームページには情報がありません。
しかし、YouTubeにビデオが有りました。それと、紹介の記事も。

http://cyclestyle.net/article/2014/07/16/11691.html

うーん。良さそうですね。これを実際の臨床で無償で配って、患者さんの様子が分かるようにできないか、少し検討してみましょう…。

2014年4月25日金曜日

うつ病の運動の導入とトランスセオレティカルモデル(TTM)

大分春らしくなってきてましたが、外にでることも多いと思います。患者さんとお話していると、スポーツが好きな方も居れば、そうでもない方もいます。しかし、どのような季節でも殆ど家から出ずに、家の中でじっとしていて、まれに買い物で外にでるような生活ですと、どうしても生活全体の質は低下してしまします。生活全体の質というのは、生活習慣の三要素である、運動、食事、睡眠です。また、これにともなって気分の改善も図ることができません。

なかなか良くならないという患者さんには、いつも生活の改善の話をしています。外に出ずに、体を動かす機会が少なく、したがってお腹もすかないので大したものも食べないという生活の中で、よく眠れない、気分が落ち込みがちだという訴えがあった時に、では、薬をもう少し増やしましょうというのはあまり良いことではないと思います。そういう時には、少し時間をかけてでも患者さんに、こういう生活でよく眠れないから更に睡眠薬を増やしたりすれば、それは更に昼間動きにくくなって生活の質が悪化してしまうということをお話します。患者さんは納得されますが、すぐに生活が変わるわけでもありません。しかし、それは第一歩だと思います。まずは、それを認識することです。そうして、そこから具体的にできることを提示していくわけです。まずは、外にでること。あるいは、万歩計をつけて、到達できる目標歩数を決めること。食事を必ず決まった時間に取ることなどです。

このような目標ができたら、これを共に喜んで次の目標を作るわけです。次の目標は、毎日外にかならず出るなどの、次に到達しやすい目標を作ります。それができるようになってくると、自分自身でも良さが自覚されるようになって、次第に上の目標を作っていくようになることもあります。

実際に、いろいろな患者さんにこのようなことを進めていますが、例えば、なるべく歩くようにしていますという人、地元の公立のスポーツセンターなどは、精神障害者手帳をもっていれば無料で使えるので、そこに行くようになったという方、また、すこし自転車で遠出してみたという人も居ます。このように、それぞれの方がそれぞれのレベルで、それぞれの工夫をするようになるのは非常に嬉しい事です。

このような、段階的な運動の導入は、実は体系化されていて、トランスセオレティカルモデルと呼ばれています。健康運動心理学の分野で多く研究されています。早稲田大学にもこのような研究をしているひとが何人も居ますが、参考に竹中先生の訳された著書をご紹介いたします。



2014年4月21日月曜日

うつ病を治療すると長生きする

うつ病の患者さんは、薬物を投与するし始める時に、薬の副作用を心配されます。これは、当然のことで、治療者は患者さんが安心して治療を受けられるように、副作用についても十分な説明をしなければなりません。また、患者さんは薬を早めにやめたいと思いがちですが、そうすると再発の危険もあります。また、できれば薬を飲まずに治したいと思うことも多くあると思います。しかし、抗うつ薬は効き目が非常にありますし、早く回復することは間違いないと思います。また、回復したあとに、当分の間少量の服用をすることで、再発が防げるということもあります。

このようなうつ病の治療は、うつ状態を改善するということだけではなく、結果として寿命をのばすことも明らかになっています。Whooleyら(2008)の論文では、うつ病の患者さんは、心疾患で亡くなる可能性が高くなる可能性を指定しています。これは、うつ状態が長引くと、運動をしなくなり、喫煙率も上がるのでこれがひとつの原因ではないかと述べています。

2012年に発表されたZivinらの論文は、アメリカの退役軍人病院の統計資料を調べ、亡くなった年齢が、うつ病の診断のある人とない人でどのくらい違うのかを調べています。その結果、うつ病のある人の平均死亡年齢が71.0歳であるのに対して、ない人では75.9歳で、4.9歳の違いがあります。

この著者は、うつ病で平均寿命が短縮する理由は、この疾患が、毎日の活動を低下させ、健康的なライフスタイルを送るための生活管理がしにくくなるのが大きな理由ではないかと述べています。そう考えると、寛解状態をきちんと維持しながら、良い生活を続けていくことは、うつ病の患者さんにとって非常に重要であるといえると思います。

我々の実際の臨床では、うつ病の患者さんにも運動療法を進めていますが、うつ病の治療をし、かつ運動や食事を含めた生活指導をすることで、結果的に患者さんが健康に長生きできるということもあるのだと思います。

うつ病での寛解の維持と、生活指導の重要性を考えさせる論文でした。
 
Early Mortality and Years of Potential Life Lost Among Veterans Affairs Patients With Depression

http://www.research.va.gov/news/features/depression.cfm



2014年4月19日土曜日

タバコとメンタルヘルス

タバコが体に良くないことは、よく知られていて、最近はタバコをやめる人も多くなってきました。私も、20代の頃タバコを吸っていました。また、その頃はタバコを診察室で吸う医者も居たのではないかと思います。私は30すぎに結婚して、ほぼ同時にカリフォルニア州に留学したのをきっかけにタバコをやめました。カリフォルニア州はご存知のように、非常に先進的な州で、人々もヘルスコンシャスです。ジョギングをする人も多く居ますし、なにより気候がスポーツに向いています。したがって、タバコを吸うことは非常に困難です。そんなことで、タバコをやめましたが、これは自分にとってはとても良かったと思っています。

一方で、タバコは体には悪いが、ストレスを解消するなど、メンタルヘルスには良い面もあるとする考えを述べる人も居ます。本当に、タバコをやめるとストレスでメンタルヘルスが悪化するのでしょうか。このような研究はこれまでにも多くあります。イギリスのテイラーたちは、このような研究をたくさん集めてもう一度解析しなおし、禁煙した後にメンタルヘルスがどう変わるのかについての論文を、最近提出しました。

Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis
Taylor G, et al. 2014

この論文によると、タバコをやめられた人とそうでない人をフォローアップして、やめられた人のやめた7週間後と9年後のメンタルヘルスの比較をしています。その結果、不安、抑うつ、そしてその両者の共存、およびストレスが、タバコをやめた人ではやめなかった人よりも改善していると報告しています。

更には、心理的な生活の質と、ポジティブな気持ちの構えは、タバコをやめた人のほうがより改善されているとも報告しています。

こう考えると、タバコをやめるときにはそれなりのストレスはあるかもしれませんが、長期的に考えれば、やめたほうが、メンタルヘルスに対しても良いということになりそうですね。

2014年4月2日水曜日

青魚に含まれるオメガ3脂肪酸(DHA、EPA)とうつ病

うつ病が生活習慣と関連していることは、臨床の場でも患者さんに強調してお話しています。独身で夜遅くまで仕事をしている方などは、運動、睡眠、食事のどれをとっても、好ましいとは言えない生活をしている方が多く居ます。「運動はほとんどしなくなっちゃいましたねぇ。」「だいたい4時間位眠れると良い方です。休みの日は結構殆ど寝てます。」「パンとかコンビニのお弁当とかになっちゃいますかね。」という具合です。これらを改善するだけでも、うつ病にたいしての抵抗性を増すことが確実にできると私は思っています。

その中で、うつ病の運動療法はあべクリニックで実践していますし早稲田大学のスポーツ科学学術院の研究としても行っています。睡眠に関しては、睡眠医療認定医として、あるいは前職の東京都精神医学総合研究所睡眠障害研究部門長として長く研究してきましたし、その重要性も臨床の場で強調しています。しかし、栄養に関しては、私自身は現在勉強中というところです。バランスの良い食事を、決まった時間にしっかり食べるということは、生体リズムという側面からも重要です。また、食物に含まれる成分も、精神活動に影響があると考えられています。栄養が精神症状に与える影響については、これまでにも研究がありますが、最近「オメガ3脂肪酸(DHA、EPA)とうつ病」についての論文を読みましたので紹介したいと思います。オメガ3脂肪酸は、青魚などに多く含まれている物質で、体に良いものであることは間違いありません。この製剤は、現在は高脂血症治療薬として用いられています。代表的な製品は、武田薬品のロトリガです。

MH Bloch and J Hannestad, Omega-3 fatty acids for the treatment of depression: systematic review and meta-analysis. Molecular Psychiatry (2012) 17, 1272–1282

2年前の論文ですので比較的新しいものです。

脂肪酸は、神経細胞の膜を構成しており、これらにはオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸があります。典型的な西欧の食事はオメガ6脂肪酸が多く、これが多いと、細胞膜の炎症性メディエーターを多く産生する結果になり、細胞を傷めます。一方で、オメガ3脂肪酸は抗炎症作用がありこれによって、細胞膜が安定します。これまでの動物実験による研究でも、オメガ3脂肪酸が、セロトニンやドパミンの神経伝達に影響をあたえることが報告されているようです。また、疫学研究でも(オメガ3脂肪酸を多く含む)魚を多くとっている人たちは、うつ病の発症が少ないという報告があります(Hibbeln JR. Fish consumption and major depression. Lancet 1998; 351: 1213.)。そういったことから、実際にオメガ3脂肪酸を投与して、うつ病の症状が改善したかどうかをみた研究がこれまでにもなされてきました。この論文は、これまでの多くの研究を総合的に解析しなおして、全体として効果があるのかを明らかにするメタ分析研究を行ったものです。

結論から言うと、オメガ3脂肪酸がうつ病の治療に効果は、殆どありませんでした。もう少し正確にこの論文の結論を表現すると"Current published trials suggest a small, non-significant benefit of omega-3 FAs for major depression."= これまでの論文を総合的に検討すると、うつ病に対しては、小さな有意とはいえない効果しかない、ということになります。

私自身は、オメガ3脂肪酸の効果はこのような研究デザインでは必ずしも十分に明らかにならないのではないかと思いました。こういった食品は、薬と同じようなデザインで研究をするのは良くないと思います。むしろ、食事として魚を多く食べるという生活習慣のなかで、うつ病の発症率をみるのが良いように思います。もし、製剤を使うのであれば、正常な人多数に、毎日習慣的に投与して、そうでない人の青魚摂取などもモニターした上で、薬物投与群でうつ病の発症が少ないかどうかをみるようなデザインが良いわけです。これは、相当大変な研究です。私は、オメガ3脂肪酸はうつ状態が発症したあと、この治療に良いかどうかはまだわかりませんが、疫学研究の結果などから、うつ病になりにくい身体を作ったり、あるいは、寛解状態になったあと良い状態を維持するためには効果がある可能性があるのではないかと思っています。

実際に医療の現場では、オメガ3脂肪酸だけの効果を見ることはしません。生活指導として、運動、睡眠、食事の全てについての構えを指導します。したがって、それらのどの効果が良いのかを明らかにする研究的アプローチとは異なっています。これらを総合的に行う中で、うつ病の患者さんであれば再発の少ない生活の助けになることはあるのではないかと考えています。



2014年3月30日日曜日

睡眠日誌

診療ではどのような場合もそうですが、その患者さんがどのような問題を抱えているのかを総合的に評価し、患者さんの状態を把握することが大切です。精神科の診療では、患者さんの様子を伺うときに、たとえば、「よく眠れていますか?」と質問して、「よく眠れるようになりました。」と患者さんが答えると、カルテには、「よく眠れるようになった。」と記載するというような具合で、客観性に乏しい面があります。

睡眠障害に治療をする場合に、このような主観的な記述でなく、少しでも客観的に患者さんの睡眠状況を把握するために、睡眠日誌をつけてもらっています。睡眠日誌は、簡単なもので、以下のURLにたくさんそのサンプルがあり、ダウンロードすることができます。

睡眠日誌をつけるとわかることはいくつかあります。一つは、毎日の平均睡眠時間がどのくらいであるのか。またこれは、毎日同じくらいの時間眠っているのか、それとも長かったり短かったりばらつきが大きいのか、ということも含まれます。ある患者さんは、時々朝早く起きてしまうのでどうしたらよいかという訴えをされました。睡眠日誌を見てみると、時には10時間、時には6時間と、毎日の睡眠時間がまちまちでした。長く眠った次の日には、早く起きてしまったという記録でした。そこで、毎日の就寝時刻と起床時刻を一定にするように指導をして、これは良くなりました。

さらには、どのような時間帯に睡眠をとっているのかも、睡眠日誌でわかります。これは、概日リズム睡眠障害の治療にはとても役に立ちます。毎日明け方の5時から眠って、昼頃に起きるという生活をしている方の場合は、このような疾患の可能性があります。たまたま早く起きても、午前中はぼーっとしているというような場合です。あるいは、高齢者で午後の遅い時間帯に昼寝をしている様子がわかる場合もあります。これにより、夜間不眠が起きていることもあります。

睡眠日誌に、食事や運動の時間帯を書き込んでもらうこともあります。そうすると、毎日の生活の様々な様子がさらにわかることもあります。

みなさんも、自分の睡眠の状況を把握するためにつけてみてはどうでしょうか。自分の睡眠に注意が向き、睡眠時間の改善に役立つかもしれません。


国立精神神経医療センター
http://www.ncnp.go.jp/pdf/hos_guide_s_outpatient_detail07_02.pdf

日本大学医学部部附属板橋病院睡眠センター
http://www.med.nihon-u.ac.jp/hospital/itabashi/sleep/sleepdiary_2weeks.pdf

過眠ランド
http://kaminsho.com/professional/tool/diary.html

SUIMIN-net 可愛らしいもの
http://www.suimin.net/topics/yamane/suiminnisshi.pdf

2014年3月29日土曜日

パニック障害の認知行動療法

西埼玉心と体の研究会という、私が世話人をしている会が先日あり、千葉大学の清水栄司先生から、パニック障害の認知行動療法についてのお話を伺いました。

まず、名称ですが、パニック障害にせよ他の障害にせよ、英文名のDisorderを障害と訳すのは、患者さんにとっては抵抗があるため、清水先生たちはこれを変更するように学会に働きかけているそうです。我々も、患者にお話しするとき、障害という名称でお話するのは、やや抵抗があります。これを、たとえば「パニック症」などという翻訳名に変えるわけです。これは採用されそうだとう事でしたが、良いことだと思います。

パニック障害はパニック発作によって特徴付けられる病態ですが、パニック発作はDSM5の診断基準では、

「下記のうち4つ以上の症状を含む強い恐怖あるいは強い不快感が突然起こり、10分以内にその頂点に達する。(A discrete period of intense fear or discomfort, in which four (or more) of the following symptoms developed abruptly and reached a peak within 10 min) 」 (拙訳)

となっています。症状は13個あり、

1.動悸,心悸亢進,または心拍数
2.発汗
3.身震い,または震え
4.息切れ,または息苦しさ
5.窒息感
6.胸痛,または胸部不快感
7.嘔気,または腹部不快感
8.めまい感,ふらつく感じ,頭が軽くなる感じ,ま
たは気が遠くなる感じ
9.冷感(悪寒),または熱感(hot sensations)
10.異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
11.現実感喪失(現実でない感じ)
12.コントロールを失うことに対する,または気が狂
うことに対する恐怖
13.死ぬことに対する恐怖

(塩入:精神経誌(2012)より訳語引用)


このような発作は、パニック障害の患者さんで繰り返し起こるということが診断の基準になっています。そのために、患者さんは外出を控えるようになったり、電車などに乗れなくなったりし社会生活が大きく障害されます。

このようなパニック障害の治療には、薬物療法が著効する例も多くあります。一方で、パニック障害の認知行動療法が治療的効果をあげることはよく知られています。しかしながら、この認知行動療法は、診療報酬点数化されていないために、治療として外来でしっかりと認知行動療法が行われることはあまり多くありません。

清水先生たちは、厚生労働省に働きかけて認知行動療法が点数化されるよう活動されています。また、一方で治療効果のエビデンスを明らかにするために、千葉大学の施設で認知行動療法の治療も行っています。

下記のURLが、その臨床研究のホームページで、無料で最高水準の認知行動療法を受けられるようです。お近くの方は、ぜひ試されると良いと思います。

http://www.chibasad.com/pd/index.html

また、清水先生の本もためになりそうです。私も読んでみようと思います。


2014年3月28日金曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (2)

以前にもこの問題について書きましたが、その後も発達障害を専門としている先生にお話を伺ったりして、やはり昼間の眠気だけでなく、様々な睡眠障害のケースがあるようでした。ここのところ、睡眠専門外来にも、同様の主訴の方が多く見えて、治療にあたっています。高校生女子の割合が比較的多く、ADHDの症状は、様々です。診断できるかどうかのボーダー程度で、さほどADHDの症状で日常生活が障害されているほどではないが、幼少時のことを伺うと、その傾向がありそうだという方から、学校生活に支障をきたしている方までです。高校2年生が多いのは、これから受験でこのままでは勉強が難しいということからでもあるようです。

しかし、日中の眠気は同様で、眠気のパタンは、夜遅くまで起きていて日中は眠いという、睡眠相後退症候群(DSPS)に類似しているような訴えです。夜中のほうが頭が冴えているので、明け方近くまで起きていて眠る。眠ると相当長く眠って、休みの日などは午後になってしまうこともある。学校にいくと、眠気がひどく眠ってしまう。遅刻も多いということです。ただ、純粋なDSPSに比べると、テストの日など行かなくてはいけない日は、きちんと起きられたり、テストも受けられたりします。したがって、DSPSとは病態は異なっていると考えています。

この治療は、多くの場合、病態や治療について現状で考えられることを十分に患者さんと保護者に説明をして、治療へのモチベーションを確かめます。治療へのモチベーションを高めるように、高校生本人の今後の進路への希望なども聞いて、それを実現する目的に沿った治療をするということもお話するようにします。また、保護者にも治療の方針を説明します。

睡眠は、早く眠ることが可能なケースもあるので(ここが、DSPSと異なるところ)、早く眠るようにしてもらいます。それでも、昼間眠いという場合もありますが、生活習慣としてそのようなことを続けるというところから始めます。比較的長時間睡眠者出る可能性もあるので、一定期間は睡眠時間を延長して、日中の眠気がどう変化するかについても聞いてみます。入眠困難がある場合には、メラトニン受容体刺激薬(ラメルテオン)を用いたり、睡眠導入剤などを少量用います。同時に、睡眠日誌をつけてもらい、それによってどのような生活をしているのかをモニターし、同時に本人に生活習慣を改善するモチベーションにもしてもらいます。睡眠が改善した上で、どのくらい生活が改善するのかをみて、更に必要であれば、ADHDに対する薬物療法をするというようにします。

前回も書きましたが、このようなケースについて睡眠専門外来では、誤診されることが多くあると思います。また、ADHDと独立した睡眠障害が併存していて、確実に誤診かどうかわからないケースも有ります。2006年に出版された、「ADHDの小児における睡眠覚醒について」という総説論文では、この問題についての知見は、まだ充分でないとの見解でした。実際に、発達障害の専門家の先生方と話をしても、十分に明らかになっていないという印象です。しかし、患者さんは、特にこれから受験を控えた患者さんは困っていて、このようなケースに対する治療ストラテジーが早く確立されると良いと思っています。

2014年3月22日土曜日

睡眠時無呼吸症候群とうつ病 (2)

本日、この題名で医者向けに講演をします。すでに、同名のエントリーで概要は書いているので、今日話すにあたっての新しい内容のみです。

すでに、日中のうつ症状の背景に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)があるということは、様々なところで報告がありますが、今回調べてみてわかったのは、多くの研究が睡眠時無呼吸のある人に、どの程度の割合でうつ状態があるかを調べた研究が主体だということです。例えば、Sharafkhanehらによる2005年の研究では、OSAがある人達では、21.75%、ない人たちでは9.43%にうつ状態が認められています。

また、ヨーロッパでの調査は、電話による聞き取り調査ですが、18,980名(15-100歳)を対象とした構造化された質問(質問事項を最初から決めてある)によって、健康状態および精神状態、睡眠時呼吸障害について調べています。その結果、2.1%がOSA. 2.5%が何らかの睡眠時呼吸障害。
0.8%に呼吸障害とうつ病の合併が見られたということでした。うつ病の18%に睡眠時呼吸障害が見られ統計的には、うつ病の患者には、5.26倍無呼吸が多く見られたという結果です。

私が経験する中でも、うつ病の患者さんに無呼吸の検査を行い、これが発見された無呼吸の治療をおこなうことで、日中の意欲の低下やだるさが非常に改善され、投薬が必要なくなった人たちもいます。この点は、ぜひ精神科だけでなく内科の先生方にも知ってもらいたいことだと思っています。

2014年3月19日水曜日

睡眠の日

昨日、ある講演会で座長をしまいた。その時に、精神・神経科学振興財団の高橋清久先生に久しぶりにお会いして、お話をさせていただきました。高橋先生は、国立精神・神経センター 総長もされた、睡眠の大家です。

さて、その会で高橋先生から睡眠の日についてのお話がありました。睡眠の日は、年に2回あります。一日春の睡眠の日で3月18日、もう一日は秋の睡眠の日で9月3日です。春の方は、World Sleep Dayに連動させて設定したようですが、World Sleep Dayは、3月18日に固定されているわけではなく、毎年その辺りの日程で行われています。2014年は3月14日だったようです。一方、秋の睡眠の日は9月3日で、これは日本独自のものです。この理由は、グッスリ(キュウ スリー=9月3日)という語呂合わせから来ているようです。

健康的な生活のために、運動、睡眠、食事は非常に大切ですが、この機会に睡眠の大切さについて、もう一度考えてみるのも良いかもしれませんね。

World Sleep Day

睡眠の日



2014年3月18日火曜日

藤沢保健所での講演(うつ病の運動療法、 うつ病の痛みと睡眠障害)

先週、藤沢保健所での講演を頼まれて話をしました。2つの話をしたが、ひとつは「うつ病運動療法の可能性」。もう一つは「うつ病の痛みと睡眠障害」についてです。これらの話は、今まで主には医療関係者を対象にしてきたのですが、今回は一般の方々、および当事者(患者さん)やご家族むけにしました。同じように睡眠の話を、所沢市の並木公民館でも少し前にしましたが、こういう講演会では、講演の後の質疑応答がわりと活発になります。

ここで難しいのは、診療と同じようにならずに一般論として話をすることです。質問は、時に非常に個人的なことになりますが、それを皆さんの前でやりとりして答えたりすることは、無理があるので、その問題を一般的な問題としてとらえて回答するのが良いと思っています。しかし、それでもそれを丁寧にすれば、質問されたご本人にも、あるいは聴衆の方々一般にも役に立つ面があります。

この場合、やはり基本になるのは、うつ病の患者さんを治療するときに、症状だけをお聞きするのではなく、生活全体をお聞きすることです。何時に寝て何時に起きるのか、朝ごはんは食べるのか、運動はしているのか、人との交流はどうか、などです。これらをお聞きして初めてその方の生活が分かります。質問の際には、あまり個人的にならずさらっと一般的なこともお聞きして、一般論としてお話します。その中で、質問された方も、他の聴衆の方も自分に当てはまるエッセンスを持ち帰っていただけると思っています。こうして、答えると質問がたくさん出ます。時に30分位になり、時間でそこまでになることもあります。

表題にあるような様々なうつ病の症状や、これに係る生活状況は、個人個人でできることが異なっています。したがって、実際の診療の中ではそれを詳しく聞いて、様々な医学的知識をもとにできることをやっていくということになります。それを、患者さんにわかっていただくのが、こういった講演の一番の目的になります。

2014年3月16日日曜日

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の方との関わり

DSM 5では、アスペルガー症候群という言葉は用いられなくなり、自閉症スペクトラム(ASD: autism spectrum disorder)という言葉が用いられる。この中で、従来自閉症と呼ばれていたもの、特に知的障害を伴うものも含まれています。このような中で、知的障害や、言語発達の障害を伴わず、「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害」を主な特徴とした、従来アスペルガー症候群と呼ばれている人たちとの関わりについて書いてみます。

外来で、こういった方たちと接する機会は多くありますが、コミュニケーションの障害の結果、診察が長くなるということがあります。外来では、順不同で患者さんを診察していきますので、うつ病の患者さんが続いた後に、このようなASDの患者さんになることがあります。安定したうつ病の患者さんでは、ざっとここのところの様子を聞いて、薬の処方や生活のアドバイスをして終わります。ところが、ASDの患者さんの場合は、ここのところの生活の様子を聞くと、その周辺の状況から始まって、事細かに話し始めます。

このようなことは、やむを得ないと思っています。障害がある方を診察しているわけですから、これで「もう少し手短にお願いします」では、一般社会の対応と同じになってしまいます。ひと通りの話を聞いたあとに、お話するのは、問題となっていることをもう少し大局的に見る視点です。これをASDの方に持てるようにしてもらうことは困難ですが、個別の問題について、「いまやっていることの大きな目的はなんでしょうか。」などと話をして、ある事柄について何が正しいかよりも、その問題を通して関わる人がスムーズに仕事が進むようになることのほうが、全体としての利益が大きいということを丁寧に説明し、そのために何をするのが良いかをお話します。

具体例としては、例えば「自分はある企画の説明をしなければならないが、その中には専門的な細かい内容を説明しなければみんなに意味がわかってもらえないのではないかと思う。そうすると、パワーポイントもたくさん作らなければならないし、話も2時間位になってしまうのでどうすればよいか。」という質問です。まず、この質問に到達する前に、事細かに企画の背景についても話をするので、この説明にずいぶん時間がかかります。さて、こういう質問をされた時に、いくつかの質問をします。「聞いている人たちは、何分くらいの話だったら聞いてもらえるのだろうか。」「そのためには、スライドを何枚に抑えなければならないだろうか。」そうすると、これまでの経験から15分位。スライドも10枚から15枚位という風に答えることはできます。そして、まずは10枚にする。その中には大事なものをいれる。入らないものは、しょうがないので捨てる。それによって第一には全体の概要を知ってもらうようにするのが良いということをアドバイスするわけです。

このアドバイスで、物事がどれだけうまくいくようになるかはわかりません。しかし、このような事柄はASDの患者さんにとっては、毎日の生活の中でつねに起きてきていることです。外来では、そのことを取り上げて、説明するようにします。そうすることによって、少なくとも患者さんは方向が見えて安心します。結果として、どれだけうまく出来たのかは確認もできない場合が多いのですが、それでも患者さんは、安心される場合も多くあります。

ASDは、ADHDのような治療薬と呼べるものがなく、治療法も確立されているとは言えません。また、社会の理解をと言っても、なかなか職場の理解を得ることも難しいと思います。しかし、根気強く、このようなアドバイスを繰り返すことは、日々の患者さんのストレスを軽減する方向には働いていると思っています。


加藤進昌先生の本は参考になりました。


2014年3月15日土曜日

運動がけん引する睡眠と食事-生活習慣病としてのうつ病

健康に関連する生活習慣の3要素として、運動、睡眠、食事があります。しかし、これらの3つは同等の位置関係にあるのではありません。たとえば、たくさん睡眠を取れば運動す量になったり、食欲が出たりすることはありません。また、食事をとれば運動したり、よく眠ったりするわけでもありません。しかし、運動を良くする、運動習慣をつけると、お腹が空き食欲が増し、睡眠の質が向上します。このように、運動は、他の要素をけん引する生活習慣の本質を占める要素であると考えられます。

生活習慣の乱れから起きてくる疾患を、「生活習慣病」と呼んでいます。厚生労働省のホームページをみると、生活習慣病として6つの疾患が挙げられています。それらは、糖尿病、脳卒中、心臓病、脂質異常症、高血圧、肥満です。

私は、ここに「うつ病」を入れたいと思っています。うつ病はご存知のように高強度のストレスが長期間続いて起きてくる、抑うつ状態ですが、現代時の日々の生活にはストレスがつきものです。そのようなストレスの中でも、うつ病にならない人は居ます。これは、体質の違いと大きくくくっても良いかもしれません。そう考えると、例えば、必ずしも良い生活習慣でなくても生活習慣病を発症しない人もいるということと似ています。

他の生活習慣病と同様に、各個人の体質と環境の両方が関連してうつ病は発症してきます。人によっては、うつ病を発症しないケースも有りますが、生活習慣を整えることによって、うつ病の発症は、全体として減ると思っています。また、うつ病になった人たちについても、生活習慣を整えることが、治療的な意味があると思っています。

そのためには、生活習慣に運動を取り入れることがとても大事です。運動は、決してジャージを着て、激しいスポーツをすることだけではありません。日々の生活の中で、階段を使ったり、歩く距離を増やしたりすることも大切です。そして、それにけん引されて、バランスの良い食事と、良い睡眠を確保することも合わせて行わなくてはなりません。これによって、身体的な健康と、良い精神状態が保たれるようになることが期待できます。

このような、生活習慣病としての側面をもったうつ病について、実際の臨床では、薬物療法に合わせて、細かな指導をすることで、寛解に早く至り、良い状態を維持することができるようになるケースが多くなると考えています。


2014年3月10日月曜日

マスクと精神科の患者さん

この季節になると、花粉の影響で街にはマスクをしている人たちがあふれています。こんなにマスクをしている人が多い国は珍しいと思いますが、最近は北京などもPM2.5の影響でマスクしている人は多いようですね。精神科の患者さんもたくさんの人がマスクをしてきます。患者さんによっては、花粉症の薬出してくださいとおっしゃいます。先日の日経メディカルには、下記のような記事が出ていました。眠気の少なさを考えると、アレグラが良さそうですね。

医師1067人に聞いた「お気に入りの抗ヒスタミン薬」
花粉症医師の8割が抗ヒスタミン薬を服用
一番人気はアレグラ、続いてザイザル、アレロック
2014/2/28 田島健=日経メディカル

さて、ここでマスクを話題にしたのは、花粉症のことではありません。精神科の患者さんの中でマスクをしてくる人は、殆どと言って良いくらい顔を隠すためにマスクをしています。そういう意味で、この季節は患者さんにとっては、特別目立たずにマスクをできる良い季節かもしれません。マスクをしてくる患者さんの多くは、社交不安障害の方です。その他の疾患もありますが、外にでるときにマスクをしたりサングラスをすると、自分自身をみられずに安心できます。

そういう患者さんも、診察室の中ではマスクを取ってもらうようにしています。取るのが面倒くさくてそのままになっていたり、マスクを外してもらったことが何度もあるので、マスクをしていてもバリアにならないような患者さんの場合には、わざわざ、聞きませんが、初診の患者さんや、表情をよく知りたい患者さんの場合には、少し話をして慣れてきたら、「マスクを外すことができますか?」とお聞きします。

ほとんどすべての患者さんが、マスクを外してくれます。多くの患者さんは、自分自身がそういう問題を持っていて、そのことを相談する相手としての治療者に対しては、マスクは必要ない場合が多いです。逆に治療者に対しても顔を隠したい場合は、まだ十分な治療関係ができていないと考えても良いのではないでしょうか。

治療がうまくいくと、マスクが取れることもあります。マスクがとれて、イキイキとした顔を見られる患者さんは、この状態を是非維持するために、精神的なサポート、薬物治療、両方においてより気を抜かずにやっていかなければならないとも考えています。

2014年3月9日日曜日

睡眠相後退症候群

睡眠相後退症候群は、通常の社会生活を営むのに障害になる程度に、生体時計が遅い方向にずれている障害です。この場合、遅い方向にずれているだけなので、その時間帯に睡眠をとれば良く眠れます。典型的な例は、朝の6時から昼過ぎの1時までの7時間の睡眠が、最も睡眠を取りやすい時間帯なるというような場合です。これで生活できる職業についていれば、これで問題無いとも言えます。しかし、多くの場合は朝9時に仕事に行き、夕方から夜には仕事を終わって、帰宅し、12時ころには眠るという生活で、これができないとうまく社会生活が営めないということになります。中高生でも同じような場合があり、遅刻が多くなり、時に精神的な原因による不登校と誤られることもあります。

原因は不明ですが、生体時計をリセットする光にたいする感受性が弱いという体質を持っていることなどが考えられています。このような人は、多くは朝起きるための努力を色々としており、これが精神的な原因による不登校などとは異なっています。私が以前診ていた患者さんは、午後の授業に出席し、夕方のクラブ活動にはかならず出て、積極的に活動していました。

この疾患には、メラトニン、あるいはメラトニン作動薬のラメルテオン(武田薬品:ロゼレム)が著効する例が比較的多く見られます。この薬物は服薬のタイミングが非常に重要です。私は、だいたい午後6時あるいは7時ころに、半錠を服薬してもらっています。これは、このタイミングにメラトニン受容体を刺激すると、時計の位相が前進する(早寝早起き方向に変化する)という時間生物学の理論を当てはめたものです。正常者では、このタイミングは午後4時ころなのですが、このような人ではすでに位相が後退しているので、これよりも遅い時間が良いように考えています。ただ、実際には、ケースによってタイミングを色々と試してみる価値はあると思います。

効果があった例では、2週間後にはしっかりと11時に寝て6時か7時に起きるという生活ができており、午前中の眠気も無くなります。この疾患は、精神疾患ではなく純粋に生物時計の疾患なので、その後の精神科的なフォローは殆ど要りません。あとは、そのケースにあったタイミングで服薬するだけです。

遅刻が多く、授業中に寝ていることが多いケースをみると、睡眠専門医は睡眠相後退症候群が頭に浮かびますが、この時に注意すべき疾患がいくつかあります。ひとつはAD/HD(注意欠如多動性生涯)です。他の睡眠専門外来で睡眠相後退症候群と誤診されていたAD/HDの患者さんが居ました。これは、先に示した不登校と同時に頭においておくべき鑑別診断です。睡眠専門外来は睡眠関連疾患の治療に大きな貢献がありますが、私はしっかりと総合的に精神医学を診ることができる医師が行うべきであると考えています。

拙書 好きになる睡眠医学に更に詳しい解説がありますよ。