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2015年12月15日火曜日

ベルソムラ(スボレキサント)の長期処方が可能になった

オレキシン受容体拮抗薬であるベルソムラ(スボレキサント)は、これまでにない全く新しい作用機序の睡眠薬です。昨年11月に発売されましたが、1年間は14日までの処方で、処方に苦労しました。今月、2015年12月からは、やっと長期処方が可能になりました。

この薬物は、依存性が無いことなどから向精神薬に指定されておらず、処方の日数制限がなくなりました。14日から一挙に長く処方できることになり、処方しやすくなりました。

発売当初は、単剤で初発例にということで慎重に使用するようメーカーからもアドバイスが有りましたが、その後、少しずつ併用するなかで、併用によっても睡眠を安定させる作用があることがわかってきました。

私は、双極性障害や統合失調症などの患者さんで、他の薬物を多く服用している人に併用することも多くなってきています。このようなケースでは、依存性のあるベンゾジアゼピン系の睡眠薬の投与量を減らしていけるという利点があることも経験の中でわかってきました。

現在主に用いられている睡眠薬は
・ ベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン、ノンベンゾジアゼピン)
・ メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)
・ オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)
です。この中で、オレキシン受容体拮抗薬のみが、睡眠に直接作用する薬物ではなく、覚醒の維持のために必要と考えられているオレキシンの役割をブロックする、いわば覚醒阻害剤としての役割をもっているユニークな薬物であるわけです。

経験により安全性が確かめられてくれば、このような薬物は併用によっても、より効果的に安定した睡眠を維持できる可能性があると思います。


2014年4月18日金曜日

Kapur先生 (2) ベンゾジアゼピン系睡眠薬の多剤併用

Kapur先生が来日された先日話しをしたことで、興味深い話があったので、ご紹介しようと思います。不眠の患者さんに、睡眠薬を投与するときに、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を投与することは多くありますが、その種類が増えがちだということも臨床的にはあります。私は、努めてその数を減らすようにしていますが、時に2種類を同時投与することはあります。

その話をKapur先生にしたところ、「どうして2種類のベンゾジアゼピン系睡眠薬を同時に投与する必要があるのですか?」とお尋ねになりました。このとき、私はハッとしました。アメリカでは、2種類のベンゾジアゼピン系睡眠薬を同時投与することは殆ど無いのだなと思ったからです。

今回の診療報酬改定では、睡眠薬は出せるのは2種類までで3種類以上を出してはいけないことになりました。これについては、賛成反対、様々な意見があありますが、正直なところ、これによって治療が困難になるケースは、さほど多くはないだろうなと思っています。むしろ、全体としてベンゾジアゼピン系睡眠薬の多剤併用療法が少なくなるメリットのほうが大きいように思います。

ただ、睡眠薬には薬理作用(効き方)が違う薬があって、例えばラメルテオンという薬のように、メラトニン受容体に作用する薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とはぜんぜん作用の仕方が異なるわけです。したがって、こういった薬も一緒に、「睡眠薬」とくくるのは良い方法ではありません。

アメリカでは、Kapur先生の言うように、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の数は、複数使わないのが普通なのか、今度アメリカの睡眠学会に行った時に、何人かの知り合いの医者に聞いてみようとは思っています。Kapur先生は睡眠医学が専門ですが、内科で睡眠時無呼吸症候群などが専門なので、必ずしも不眠症全般の専門家ではありません。精神科分野では、複数の処方もありえるかもしれません。

いずれにしても、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の数を原則一種類にするということを念頭に置いて、処方にはあたっていきたいと思っています。

2014年3月11日火曜日

睡眠薬の使い方

このブログは、一般向けに書いているつもりですが、時々専門的になってしまうこともあります。こちらの意図としては、例えば受診中の患者さんが、自分の診療とほかの診療を比較してみることができて、セカンドオピニオン的な情報が得られる情報を提供できると良いというところもると思います。このエントリーもそのような視点で書いています。

睡眠薬については、精神科一般外来ではよく用いられていて、睡眠薬の使い方についてはいろいろと考えてきました。まずは、睡眠薬の一般て知識として睡眠薬の種類について。

バルビツール酸系  ラボナ、イソミタールなど
   これは、外来では使いません。眠くはなりますが、良くない副作用も多いので。
ベンゾジアゼピン系 ハルシオン、レンドルミン ~ ロヒプノール、ベンザリンなど
   多く用います。この使い方が大切です。
ノンベンゾジアゼピン系  マイスリー、ルネスタ、アモバン
   ベンゾジアゼピン受容体に作用するという点では、ベンゾジアゼピン系と同じ。化学構造が異なっている。
メラトニンアゴニスト  ラメルテオン(ロゼレム)
   副作用が少なくて良い薬だと思っています。リズム障害にも著効例があります。
(発売予定と聞いているオレキシンアンタゴニスト)
   まだ使ったことが無いのでわかりませんが、期待できると思っています。

この中では、ベンゾとノンベンゾが最もよく使われています。これらの薬は、まずは少量から使うのが基本です。例えば、マイスリーなども5mg錠というのが最も少量の剤形ですが、この半分量を使うことも多くあります。睡眠薬は増やすと、時に患者さんの方で減らすのが不安だということに容易になってしまうので、効果があることをきちんと説明して少量からスタートします。

薬剤の選び方は、半減期と筋弛緩作用などのバランスから選びます。まずは、短時間型から選ぶのも良いと思います。中途覚醒や早朝覚醒のある人については、作用時間が比較的長いものを用いることもあります。この場合に、筋弛緩作用という副作用が少ない薬物ということで、ノンベンゾを第一選択として考えることが私は多くあります。つまり、ゾルピデム(マイスリー)あるいはエスゾピクロン(ルネスタ)です。

筋弛緩作用を引き起こすベンゾジアゼピンの作用部位は、抗不安効果の作用部位と同じなので、あえて筋弛緩作用もある程度ある中間作用型の薬物を投与することもあります。例えば、血中半減期が24時間のフルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレースなど)は、血中濃度としては朝残っています。時にふらつきなどの副作用がみられますが、抗不安作用もあるので翌日の日中も低容量の血中濃度が抗不安作用として働く可能性もあります。

睡眠薬は、通常の服用量では、頑張って起きていられなくなることは少ないです。また、24時間の半減期でも、朝はきちんと起きられます。これは、睡眠は24時間の体内時計によって制御されているためで、睡眠薬を飲んでいても、明け方からはコルチゾールが分泌され、メラトニンの分泌は減少し、体温が上がってきます。したがって、体は起きる準備ができ、なおかつ睡眠薬によって十分な睡眠がとれているために朝に多少の薬物の血中濃度があっても覚醒は可能なわけです。

このように、睡眠薬は患者さんの不安の度合いや、睡眠障害の種類、あるいは高齢者でふらつきを避けたほうが良いかなど、様々な要因を考慮しながら選ぶのが良いわけです。

この他に、ラメルテオン(ロゼレム)という全く異なった作用機序の薬があります。これは、メラトニンと同じような働きをする薬物ですが、この薬物は、体内時計にも作用します。例えば、寝付きが悪い人にこの薬を夕方少量(例えば半錠)投与すると、飲んだばかりの時の眠気はあまり無いのですが、早い時間に眠くなるようなリズムのシフト(眠気が来る時間が早くなる)がおきます。これによって、入眠困難が解消されるわけです。このような使い方には、時間生物学の知識が必要です。

今後、オレキシン受容体に働く睡眠薬なども発売されるという情報もあります。このような薬物はまたベンゾジアゼピンとは異なった作用があるので、これらをきちんと医学的根拠に則って用いることで、少量の薬物で快適な睡眠が取れるようになることが期待されます。

2014年3月9日日曜日

睡眠相後退症候群

睡眠相後退症候群は、通常の社会生活を営むのに障害になる程度に、生体時計が遅い方向にずれている障害です。この場合、遅い方向にずれているだけなので、その時間帯に睡眠をとれば良く眠れます。典型的な例は、朝の6時から昼過ぎの1時までの7時間の睡眠が、最も睡眠を取りやすい時間帯なるというような場合です。これで生活できる職業についていれば、これで問題無いとも言えます。しかし、多くの場合は朝9時に仕事に行き、夕方から夜には仕事を終わって、帰宅し、12時ころには眠るという生活で、これができないとうまく社会生活が営めないということになります。中高生でも同じような場合があり、遅刻が多くなり、時に精神的な原因による不登校と誤られることもあります。

原因は不明ですが、生体時計をリセットする光にたいする感受性が弱いという体質を持っていることなどが考えられています。このような人は、多くは朝起きるための努力を色々としており、これが精神的な原因による不登校などとは異なっています。私が以前診ていた患者さんは、午後の授業に出席し、夕方のクラブ活動にはかならず出て、積極的に活動していました。

この疾患には、メラトニン、あるいはメラトニン作動薬のラメルテオン(武田薬品:ロゼレム)が著効する例が比較的多く見られます。この薬物は服薬のタイミングが非常に重要です。私は、だいたい午後6時あるいは7時ころに、半錠を服薬してもらっています。これは、このタイミングにメラトニン受容体を刺激すると、時計の位相が前進する(早寝早起き方向に変化する)という時間生物学の理論を当てはめたものです。正常者では、このタイミングは午後4時ころなのですが、このような人ではすでに位相が後退しているので、これよりも遅い時間が良いように考えています。ただ、実際には、ケースによってタイミングを色々と試してみる価値はあると思います。

効果があった例では、2週間後にはしっかりと11時に寝て6時か7時に起きるという生活ができており、午前中の眠気も無くなります。この疾患は、精神疾患ではなく純粋に生物時計の疾患なので、その後の精神科的なフォローは殆ど要りません。あとは、そのケースにあったタイミングで服薬するだけです。

遅刻が多く、授業中に寝ていることが多いケースをみると、睡眠専門医は睡眠相後退症候群が頭に浮かびますが、この時に注意すべき疾患がいくつかあります。ひとつはAD/HD(注意欠如多動性生涯)です。他の睡眠専門外来で睡眠相後退症候群と誤診されていたAD/HDの患者さんが居ました。これは、先に示した不登校と同時に頭においておくべき鑑別診断です。睡眠専門外来は睡眠関連疾患の治療に大きな貢献がありますが、私はしっかりと総合的に精神医学を診ることができる医師が行うべきであると考えています。

拙書 好きになる睡眠医学に更に詳しい解説がありますよ。