2014年3月16日日曜日

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の方との関わり

DSM 5では、アスペルガー症候群という言葉は用いられなくなり、自閉症スペクトラム(ASD: autism spectrum disorder)という言葉が用いられる。この中で、従来自閉症と呼ばれていたもの、特に知的障害を伴うものも含まれています。このような中で、知的障害や、言語発達の障害を伴わず、「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害」を主な特徴とした、従来アスペルガー症候群と呼ばれている人たちとの関わりについて書いてみます。

外来で、こういった方たちと接する機会は多くありますが、コミュニケーションの障害の結果、診察が長くなるということがあります。外来では、順不同で患者さんを診察していきますので、うつ病の患者さんが続いた後に、このようなASDの患者さんになることがあります。安定したうつ病の患者さんでは、ざっとここのところの様子を聞いて、薬の処方や生活のアドバイスをして終わります。ところが、ASDの患者さんの場合は、ここのところの生活の様子を聞くと、その周辺の状況から始まって、事細かに話し始めます。

このようなことは、やむを得ないと思っています。障害がある方を診察しているわけですから、これで「もう少し手短にお願いします」では、一般社会の対応と同じになってしまいます。ひと通りの話を聞いたあとに、お話するのは、問題となっていることをもう少し大局的に見る視点です。これをASDの方に持てるようにしてもらうことは困難ですが、個別の問題について、「いまやっていることの大きな目的はなんでしょうか。」などと話をして、ある事柄について何が正しいかよりも、その問題を通して関わる人がスムーズに仕事が進むようになることのほうが、全体としての利益が大きいということを丁寧に説明し、そのために何をするのが良いかをお話します。

具体例としては、例えば「自分はある企画の説明をしなければならないが、その中には専門的な細かい内容を説明しなければみんなに意味がわかってもらえないのではないかと思う。そうすると、パワーポイントもたくさん作らなければならないし、話も2時間位になってしまうのでどうすればよいか。」という質問です。まず、この質問に到達する前に、事細かに企画の背景についても話をするので、この説明にずいぶん時間がかかります。さて、こういう質問をされた時に、いくつかの質問をします。「聞いている人たちは、何分くらいの話だったら聞いてもらえるのだろうか。」「そのためには、スライドを何枚に抑えなければならないだろうか。」そうすると、これまでの経験から15分位。スライドも10枚から15枚位という風に答えることはできます。そして、まずは10枚にする。その中には大事なものをいれる。入らないものは、しょうがないので捨てる。それによって第一には全体の概要を知ってもらうようにするのが良いということをアドバイスするわけです。

このアドバイスで、物事がどれだけうまくいくようになるかはわかりません。しかし、このような事柄はASDの患者さんにとっては、毎日の生活の中でつねに起きてきていることです。外来では、そのことを取り上げて、説明するようにします。そうすることによって、少なくとも患者さんは方向が見えて安心します。結果として、どれだけうまく出来たのかは確認もできない場合が多いのですが、それでも患者さんは、安心される場合も多くあります。

ASDは、ADHDのような治療薬と呼べるものがなく、治療法も確立されているとは言えません。また、社会の理解をと言っても、なかなか職場の理解を得ることも難しいと思います。しかし、根気強く、このようなアドバイスを繰り返すことは、日々の患者さんのストレスを軽減する方向には働いていると思っています。


加藤進昌先生の本は参考になりました。


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