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2017年9月11日月曜日

第15回日本スポーツ精神医学会(山形県鶴岡市)

9月8日から10日に、山形県鶴岡市にて第15回日本スポーツ精神医学会が開催されました。私も、理事長(チェアマン)として参加しました。

今年は、山形県立こころの医療センター院長神田秀人先生を会長として、東海林岳樹先生、白石啓明先生らが中心となって開催をしていただきました。

素晴らしい会でした。一般演題にも、うつ病に対する運動療法を実践している方々からの発表があり、またシンポジウムは精神障害者スポーツに関する発表も多くありました。 

特別講演は、元オリンピックフィギュアスケート選手の鈴木明子さんに来ていただきました。このお話は、本当に感銘をうける素晴らしいお話でした。鈴木さんはご存知のように摂食障害を患って、そこから復帰をして再び競技の場にもどり、そしてオリンピック選手にまで選ばれた方です。それは知っていましたが、その状況の中で彼女がどれほど重症の摂食障害を患ったのかはよく知りませんでした。鈴木さんは講演の最初に「今日は、私の経験した摂食障害について包み隠さず話します。」と言われ、その詳細について、素晴らしい記述力と洞察力をもっって話をしていただきました。1時間の講演の最後には、鈴木さんご自身も涙を流すシーンもあり、我々も目頭が熱くなりました。

摂食障害をもっているアスリートは多く居ます。しかし、その人達はなかなか自身の悩みを打ち明けられずに競技をしていると思います。鈴木さんには、オリンピックまで上り詰めたトップアスリートとして、是非このさきもこういった摂食障害に苦しむ後輩たちをにたいして、自分の経験を発信していっていただきたいと思いました。

教育講演をされた大阪体育大学の土屋裕睦教授と
教育講演は、大阪体育大学の土屋裕睦教授でした。私は既知の仲ですが、土屋先生のお話はいつも、楽しくわかりやすいものです。今回は、スポーツにける体罰についてのお話でしたが、この課題はとても大きく大切なものです。土屋先生のような方が、分かりやすく丁寧にこの課題を話していただくことによって、少しずつでも体罰によって将来を奪われてしまう若いアスリートが居なくなっていくことを願っています。

鶴岡市には私は初めて行きましたが、また行きたいと思いました。学会期間中は天候に恵まれ、熱くもなく寒くもなく、カラッとした天気でしたでした。会場近くにレストランなどが無いということから、山形名物の芋煮会をやっていただき、昼食は皆で青空の下で食べました。また、懇親会もひろい畑を前にしたオープンエァのイタリア料理で、とてもおしゃれな雰囲気でした。


2015年6月10日水曜日

女性アスリートの三主徴 (Female Athlete Triad) ⇒ スポーツにおける相対的エネルギー欠損 Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S)

早稲田大学スポーツ科学学術院では田口素子准教授を中心として、女性アスリートを対象としたサポート研究プロジェクトを行っています。私もメンバーに入れて頂いています。

摂食障害にみられる体型への認知の歪み
これまで女性アスリートに特徴的な障害として、「女性アスリートの三主徴(FAT)」という言葉が使われてきました。英語では、Female Athlete Triadで、略してFATとも称されます。この三主徴とは、無月経、骨粗しょう症、摂食障害なのですが、私は摂食障害の女性アスリートをこれまで少なからず診察しています。

一方、昨年IOCから下記の論文が出版されました。

Mountjoy M, Sundgot Borgen J, Burke L, et al.
The IOC consensus statement; beyond the Female Athlete Triad - Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S)
Br J Sports Med 2014; 48: 491-497.

この論文は、女性アスリートの三主徴を超えて、更に詳細に女性アスリートに見られる特徴的な障害について述べたものです。IOCコンセンサスステートメントというのは、IOCの中のこの委員会で、同意を得た内容を記載したもので、前回は2005年に出版されているようです。

これまでの「女性アスリートの三主徴」を「RED-S」という名前に置き換え、この病態へのリスク評価、治療、競技復帰の決定について述べています。これまでの女性アスリートの三徴候(FAT)という考え方を超えて、全身的な病態としてこれを捉えることは意味があると思いました。特に、三徴候という名前に縛られると他の部分が見えなくなるということは有ることで、その点についてはこのようなエネルギーバランスという点からこの病態を捉えることによって、広く病態を見られるという点では良いと思いました。

一方で、この論文に対する批判も有ります。Br J Sports Med. 2014;48(20):1461-1465. の記事ですが、原典にリンクが張ってあるのでこれも御覧ください。この批判は、三徴候は「女性」に特徴的な症状を浮き出させて示したもので、この名前からこの分野の研究が非常に進んだということも有るということを主張しています。そして、その他の全身的な変化は男性にも見られる変化が多く含まれており、この病態の問題点を不鮮明にするというような内容で批判をしています。

これも、一理あると思いました。自分自身が、どちらの立場を取るのかといえば、女性アスリートの三徴候という言葉は、今後も使っていこうと思っていますが、一方で実際の診療では、他の身体的な変化(成長、代謝、内分泌、免疫など)にも気を配りながら治療を行うという姿勢を取ろうと思います。

しかし、これはなにもこの疾患に限ったことではありません。最近私は、うつ病の身体症状についての講演が多くなっていますが、これも、うつ病の症状として精神症状だけを捉えるのでなく、身体症状も一緒に治療していくという姿勢をしっかりを持たなければ患者さん自身の持っている問題を解決で来ないということがあります。今回のRED-Sと、これに対してFATを養護する2つの論文は、この両方をしっかり意識した診療を行うことが重要であることを示唆していると考えさせられました。


2014年8月1日金曜日

第2回 埼玉県スポーツ精神医学懇話会: アスリートの摂食障害

7月31日木曜日に、大塚製薬株式会社の主催で、第2回埼玉県スポーツ精神医学懇話会が所沢で開催されました。この会は、本年1月に1回目の会を開催し、今回第2回めを開くことが出来ました。主には、埼玉県西部の精神科の先生方にお集まり頂いていますが、第1回めから獨協医科大学の精神科主任教授下田和孝先生にも来て頂いています。お弁当を食べながらのクローズドな会ですが、参加を希望される精神科医あるいはアスリートの治療に関わっておられるスポーツドクターやスポーツ関係の方がおられましたらお知らせください。

会の目的は、アスリートの治療に経験のある精神科医の数を増やしていくことです。そのために、アスリートの診療に関わる情報を、ケーススタディーを通じて共有していくのが大きな目的の一つです。精神的な問題を抱えたアスリートは少なからず居るにもかかわらず、必ずしもその治療が効率的に行われていないという側面があります。これは、いくつかの理由がありますがその一つには、アスリートが精神科にかからないという事、そしてアスリートの診療に慣れた精神科医が少ないということもあります。慣れていない精神科医はアスリートの事情を考慮せずに治療を行うということがあり、そのため、アスリートは一般のスポーツドクターに話をきてもらう時のように、競技に関連した話しが噛み合わないという結果になってしまいがちです。この会で、様々な情報を共有する中で、スポーツに興味をもち、アスリートの治療についての経験を積むスポーツドクターの精神科医が増えると良いと思っています。

今回は、摂食障害を取り上げました。会では最初に私がアスリートの摂食障害(Anorexia Athletica)についての概論をお話し、二人の治療者が一例ずつのケーススタディーを行いました。女子アスリートに摂食障害は比較的多くみられ、特に審美的要素のあるスポーツ、重量階級制のあるスポーツ、体重が減ると競技力が伸びるスポーツなどに多いと言われています。しかし、実際に診察をしていると必ずしも、そういった競技だけでもないように思われます。

最初の概論では、以前の大学院生が行った女子アスリート(新体操、体操、一般学生)の質問紙による調査の結果もお話しました。この研究は、2005年に行ったもので、対象は関東にある大学に在籍する女性158名で、無記名式の質問紙調査を実施したものです。そのうち67名は体育大学の運動部(新体操45名、体操競技22名)91名は運動部に所属しない一般学生でした。調査には、EDI-2という摂食障害研究でよく用いられる質問紙と、独自に作成した質問紙を用いました。

いくつかの興味深い結果があったのですが、そのうちいくつかをまとめると以下のとおりです。
・ 新体操選手では、BMI 18.5以下の割合が他よりも有意に多い
・ 一般学生に比べて、体操、新体操選手では初潮年齢が有意に高い
・ 新体操選手は、多食の傾向が強い
・ 身体への不満は、体操群で低く、新体操と、一般学生で高い
などのことが分かりました。

この中で、初潮年齢の問題は、育ち盛りの小中学生が、競技を優先するために充分な発育ができないという現状が示唆されたようにも思います。初潮年齢を優先すれば、しかし、競技力が十分伸びず、結果として競技で勝てないということがあれば、何のために競技をやっているのかわからないという意見もあると思います。いずれにしても、この問題はエビデンスはしっかり共有しながら、議論を進めていくべき問題だと思っています。