2014年5月30日金曜日

イップス (Yips) (1)

ある新聞社からイップスについての問い合わせがあったので回答しました。イップスについては、スポーツと精神医学の関わりで非常に興味深いところなので、時々書いてみようと思います。まずは、その回答について。

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・「イップス」とはどんなものなのか。定義は。
イップス(Yips)は、元来はゴルフのパット動作の際に、自分の思うような体の動きに反して、主に手首に不随意の力が加わり的を外してしまうということを示した言葉でした。その後、このような現象は様々なスポーツで認められるようになり、広く(多くは精神的な緊張を伴う、多分比較的時間をとれる場面で)不随意な運動により失敗をしてしまうことを示すようになっています。
定義は、上記のようなものだと思います。米国のメイヨークリニックのホームページを御覧ください。比較的信頼できる説明が出ています。
http://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/yips/basics/definition/con-20031359

・医学的な「症状」なのか。
実際のケースをみていると、いわゆる「書痙」と同様の機序のものであるように思われます。
あまりよい解説ではありませんが、書痙についてはWikipediaも御覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B8%E7%97%99

・治すことができるのか。
治療は、薬物療法と非薬物療法にわかれます。薬物療法には、一般に神経症に用いる薬物、例えばベンゾジアゼピン系抗不安薬、選択的セロトニンとり込み阻害剤(SSRI)などが効果があることがあります。また、非薬物療法は精神療法と行動療法にわかれます。精神療法では背景にある過度の不安をおこす精神的なメカニズムがあるかどうかについて明らかにし、これを解決する方向で行います。行動療法は、様々な方法がありますが、私の研究室の卒業生の石原心(アスレティックトレーナー:NHK出演歴あり)が開発した方法が良いように思います。彼は、とくに野球の投手のイップスの治療に効果を上げる方法をもっています。方法については、必要あれば本人に直接お問い合わせください。
http://www.havana-trainers-room.com/

・メカニズムなど。
不明です。私が考えるメカニズムとしては、運動は一般に練習によって大脳基底核や小脳などを含んだ皮質下の構造に、無意識の運動の回路ができます。この回路がスムーズに動けば、トレーニングによって養われたスムーズで正確な運動ができるわけです。一方このような回路は、ヒトが意識できる大脳皮質の働きによっても制御されています。イップスでは、このような大脳皮質の活動が、多分不安などの要因で過度に皮質下のメカニズムに影響を与えてしまうために、元来あった好ましい回路が十分に作動せず、不随意な運動となってしまう可能性があると思います。過度の意識が、運動学習された好ましい回路を阻害してしまうというメカニズムです。イップスが、不安が高い時に強く出て、治療によって不安が解消すると改善することもこの事と一致しています。

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