中外医学社から『睡眠のトリビア』という本が発売されました。編集は、宮崎総一郎先生(滋賀医科大学 睡眠学講座)です。私は、この中の三分の一を担当しました。宮崎先生、林光緒先生(広島大学)と私が編者です。
この本は、睡眠にはこんなことがあるのぉ、という興味深いトピックを取り上げて解説しています。宮崎先生は、もともとは耳鼻科医で睡眠時無呼吸症候群が専門でしたが、今は、睡眠教育に意欲を注いでおられます。林先生は、人間科学、心理学的な立場から睡眠の研究を精力的にやっておられる、研究者です。私は、精神科医です。その他に、睡眠研究者の北浜邦夫先生、田中秀樹先生も執筆されています。それぞれの立場から、幅広いトピックを取り上げて、解説している面白い本です。各単元は比較的コンパクトにまとまっていて、読みやすいと思いますので、是非お買い求めください!
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中外医学社ホームページより
はじめに
ギリシャ神話のなかで,ヒプノスは眠りの神でした.ヒプノスが語源となって,睡眠薬を英語でhypnotic,催眠術はhypnosisと呼ばれています.そのほか,眠りに関係した神々として,パンタソスやモルフェウスがいました.パンタソスは物体の形で現れ,ややこしい非現実的な夢を生み出す神でした.みなさん,ファンタジーという言葉をご存知ですね.パンタソスはこのFantasyの語源となっています.モルフェウスは,あらゆる人間に変身して夢に現れる神であることから,薬物のモルヒネの語源となっています.我が国では,眠りに関係した仏像といえば法隆寺の「夢違(ゆめたがい)観音」が有名です.この観音は悪い夢を良い夢に読み替えたり,悪い夢を無力化したりできると考えられていました.
さて,21世紀のいま,睡眠への関心がとても高くなっています.たとえば,良く眠るためのハウツー本,眠りに良い寝具やパジャマ,寝つきの良くなるアロマ,薬局で簡単に買える睡眠薬等,快眠産業は2兆円以上と試算されています.人々がこれほど,睡眠に関心を持ったり悩んだりした時代は,過去にはありませんでした.50年ほど前は,だれも睡眠に関心を払いませんでした.睡眠研究の先達である,東京医科歯科大学名誉教授の井上昌次郎先生は,「どうやら,現代人は史上まれにみる『眠り下手(べた)』になってしまった」とその著書「眠る秘訣」の中で指摘されています.
『眠り下手』になった理由の一つとして,健康や睡眠にかかわる情報の氾濫があげられています.人の脳の研究が進歩し,睡眠の役割が明らかになるにつれ,脳や健康にとって睡眠がきわめて重要な役割を演じていることが明らかになってきたからです.それまでの常識では,睡眠の評価はごく低いもので,極端な場合には無駄な時間とみなされていました.それが一転して,睡眠は無意味どころか極めて有用であり,高等生物は睡眠なしには生きていけないことがわかってきました.しかし,睡眠の大切さが適切に理解されればよかったのですが,科学的な情報を安易に拡大解釈し,睡眠を思いどおりに操作できるとする,まちがった情報も発信されるようになっています.たとえば,「睡眠は4時間半で十分!」とか,「睡眠時間を短くする方法」といったものです.そういう正しくない眠りに関する情報に,私たちは惑わされています.また逆に,7時間は眠らないと健康を害してしまうと思い込み,不眠に対して過剰なまでの反応をしてしまっている方々も多くおられます.
この「睡眠のトリビア」企画にあたっては,楽しくわかりやすい形で,睡眠学に関連した知識を提供できるよう,編著者で相談し,「へーっ!?」といった知識から,臨床に役立つ情報まで含めました.この本が,日々の睡眠に思いをはせるきっかけや,睡眠診療や不眠の方の相談のヒントになれば幸いです.
2014年4月 春眠を感じながら
宮崎総一郎
林 光緒
内田 直
この本は、睡眠にはこんなことがあるのぉ、という興味深いトピックを取り上げて解説しています。宮崎先生は、もともとは耳鼻科医で睡眠時無呼吸症候群が専門でしたが、今は、睡眠教育に意欲を注いでおられます。林先生は、人間科学、心理学的な立場から睡眠の研究を精力的にやっておられる、研究者です。私は、精神科医です。その他に、睡眠研究者の北浜邦夫先生、田中秀樹先生も執筆されています。それぞれの立場から、幅広いトピックを取り上げて、解説している面白い本です。各単元は比較的コンパクトにまとまっていて、読みやすいと思いますので、是非お買い求めください!
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中外医学社ホームページより
はじめに
ギリシャ神話のなかで,ヒプノスは眠りの神でした.ヒプノスが語源となって,睡眠薬を英語でhypnotic,催眠術はhypnosisと呼ばれています.そのほか,眠りに関係した神々として,パンタソスやモルフェウスがいました.パンタソスは物体の形で現れ,ややこしい非現実的な夢を生み出す神でした.みなさん,ファンタジーという言葉をご存知ですね.パンタソスはこのFantasyの語源となっています.モルフェウスは,あらゆる人間に変身して夢に現れる神であることから,薬物のモルヒネの語源となっています.我が国では,眠りに関係した仏像といえば法隆寺の「夢違(ゆめたがい)観音」が有名です.この観音は悪い夢を良い夢に読み替えたり,悪い夢を無力化したりできると考えられていました.
さて,21世紀のいま,睡眠への関心がとても高くなっています.たとえば,良く眠るためのハウツー本,眠りに良い寝具やパジャマ,寝つきの良くなるアロマ,薬局で簡単に買える睡眠薬等,快眠産業は2兆円以上と試算されています.人々がこれほど,睡眠に関心を持ったり悩んだりした時代は,過去にはありませんでした.50年ほど前は,だれも睡眠に関心を払いませんでした.睡眠研究の先達である,東京医科歯科大学名誉教授の井上昌次郎先生は,「どうやら,現代人は史上まれにみる『眠り下手(べた)』になってしまった」とその著書「眠る秘訣」の中で指摘されています.
『眠り下手』になった理由の一つとして,健康や睡眠にかかわる情報の氾濫があげられています.人の脳の研究が進歩し,睡眠の役割が明らかになるにつれ,脳や健康にとって睡眠がきわめて重要な役割を演じていることが明らかになってきたからです.それまでの常識では,睡眠の評価はごく低いもので,極端な場合には無駄な時間とみなされていました.それが一転して,睡眠は無意味どころか極めて有用であり,高等生物は睡眠なしには生きていけないことがわかってきました.しかし,睡眠の大切さが適切に理解されればよかったのですが,科学的な情報を安易に拡大解釈し,睡眠を思いどおりに操作できるとする,まちがった情報も発信されるようになっています.たとえば,「睡眠は4時間半で十分!」とか,「睡眠時間を短くする方法」といったものです.そういう正しくない眠りに関する情報に,私たちは惑わされています.また逆に,7時間は眠らないと健康を害してしまうと思い込み,不眠に対して過剰なまでの反応をしてしまっている方々も多くおられます.
この「睡眠のトリビア」企画にあたっては,楽しくわかりやすい形で,睡眠学に関連した知識を提供できるよう,編著者で相談し,「へーっ!?」といった知識から,臨床に役立つ情報まで含めました.この本が,日々の睡眠に思いをはせるきっかけや,睡眠診療や不眠の方の相談のヒントになれば幸いです.
2014年4月 春眠を感じながら
宮崎総一郎
林 光緒
内田 直
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