2014年7月23日水曜日

完治する統合失調症

Psychiatry Times(精神医学新聞)というアメリカのウエッブジャーナルに、完治する統合失調症についての記事が出ていました。統合失調症は、非常に多い疾患で、時代や文化によらずだいたい150から200人に一人くらい見られると考えられています。一般的には、慢性的に経過し、徐々に進行すると考えられていますが、この記事には完治するケースについて書かれています。Better Off Without Antipsychotic Drugs?という題名の、Fuller Torreyという精神科医の記事なのですが、ざっと要約すると以下のようです。

例えば、ワシントンポストに昨年掲載された記事では、薬を止められる統合失調症がいるという記事が、新しい発見のように載っているが、その様なことは随分前から知られている。1939年の抗精神病薬が開発される前から報告がある。これまでの報告を見て見ると、だいたい2割から3割弱の統合失調症の患者さんは、(抗精神病薬を投与しなくても)完治するようである。しかし、発症時に完治するものかどうかの判断はできないので、まずは抗精神病薬を投与し、症状が消退したあとどうするかを考える。薬を全くやめてしまっても良い症例は少なからずいると思われる。多くの場合は、少量投与し、再発が見られなければやめるということである。初発の場合では、症状が消退したら、比較的すみやかにやめても良いかもしれない。

このような記事を読むと、自分の診た患者さんを思い出します。最も印象に残っているのは、研修医を終えたあと、市中の精神病院に務めた時の患者さんです。20代の若い女性で、知的レベルは高く有名大学の4年生でした。特にこれというきっかけは無かったようですが、短期間のうちに引きこもりがちになり、大学のサークルの人達が自分を陥れようとしている。家に盗聴器が仕掛けられている。テレビでも、どうも自分の人を言っているようだ、というような典型的な幻覚妄想状態でした。夜は眠れず、外来ではオドオドしているような様子でした。

私と年齢も数歳しか違わなかったと思うので、今から思うと向こうのご家族も、私が担当となり頼りないと思っていたのかもしれませんが、きちんと私の診察を受けてくださいました。私は、なるべく時間をかけてお話をし、本人にはそのような大変なことがあっては心配で眠れないだろうから、まずはしっかり眠るほうが良い。また、すぐに警察に行っても証拠がなければとり合ってもらえない可能せがあるから、まずは自分がしっかり休息してこれからどうするのが良いか一緒に考えよう、体力をまずは回復させましょうと言って、ハロペリドールを処方しました。

一週間後にまた、両親と来院された時は、すでに大分落ち着いていました。ご両親には非常に感謝されました。しかし、妄想については、最近そういうことははっきりしないが油断はできないというような話をしていたように思います。その後、少量の抗精神病薬を投与続けたところ、2ヶ月位ですっかりとよくなり、大学にも復帰しました。その際に、妄想のことを聞いてみたのですが、本人は、「ああいうことはやはりあったと思う。しかし、どうしてから分からないが、病院に来るようになってからそういうことが無くなってきた。また、最近はあまり気にならなくなってきた。」とお話になりました。

その後、2年ほど診察したでしょうか。ずっと安定した状態が続いており、薬も減量しました。そして、安定して落ち着いた状態が続いているところで、最終的には服薬をやめました。服薬をやめてからも、2ヶ月後、半年後くらいに診察をしたと覚えていますが、問題なく、もし万が一同じようなことが起きる気配があれば、すぐ受診するように話して、治療を終結しました。

多分、このようなケースは少なからずいるというふうに考えてよいでしょう。私も他にも、完治したり、症状がなくなってからその後来なくなってしまったりするケースが多く居ます。一方で、慢性化する人たちとは長く付き合うので、慢性疾患としてのイメージが強くはなってしまいます。

気になるのは、初診時の治療的アプローチが、その人のその後の経過にどのような影響をおよぼすかです。良い治療をすれば、完治し、そうでなければ慢性化する、もしそういうことがあるのであれば、精神科医の責任は重大です。今のところは、初診時の治療アプローチの影響が非常に大きいとはいえないのではないかと思っては居ますが、しっかりと明らかにしたいことの一つでもあります。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ

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