2015年4月15日水曜日

うつ病の精神病理学、概念の変化

病院にはいろいろなところから、情報誌が持ち込まれますが、最近、Depression Strategyという先端医学社の情報誌をいただきました。 この中に、下記の文章が有り、これがとてもおもしろかったので紹介したいと思います。


著者の古茶先生は、若手の精神病理学者で、私も直接講演を聞く機会が以前あった方です。慶応大学の精神科で仕事をしておられます。病理学というと、脳の切片でも見ているような仕事と思われる方も居るかもしれませんが、精神病理学というのは、精神の様々な現象を詳細に観察し、精神疾患に潜む精神現象のメカニズムを明らかにするというような学問です。哲学の影響を受けたり、精神分析学の影響を受けたりで、どちらかと言えば、文系の考え方と行っても良いかもしれません。しかし、こういった考え方の研究をしている人は、非常に詳細に患者さんを観察しますし、患者さんの言動についても詳細に分析するので、臨床的には非常に役に立つ研究であると思っています。

古茶先生は、この論文でいくつも興味深いことを言っておられますが、ひとつは、正常の悲しみをうつ病と過剰診断してしまう可能性についてです。これは、精神科以外の人から見れば、「精神科がそんなバカな」と思うかもしれませんが、薬に頼りすぎている精神科医にはそういうミスを犯す可能性はあると思います。

更に現在のうつ病概念の問題点として、3つのポイントをあげています。
1.体験反応(心因反応)の混入
2.「精神病理性」「妄想性」うつ病の位置づけ
3.仮面うつ病を見落とす可能性

これらのポイントは非常に興味深いです。詳しくは、古茶先生のオリジナルを呼んでいただきたいと思うのですが、1.の中で触れている「はて、心理的ストレスは、いつから’うつ病の主たる原因’となったのであろうか。(原文では、’ ’内は傍点)」という一節は、はっとさせられます。確かに、うつ病は、内因性精神疾患の一つと考えられていました。もし、ストレスが原因であれば、心因反応とされるべきなのでしょう。このような、精神疾患の病因に関わる議論は最近なされなくなってきているかもしれません。これは、古茶先生の文章にも述べられているように、DSMなどの操作的診断が用いられるようになってきたのが一因だと思います。

私も、うつ病が内因性かストレスによる心因性かについての概念は大学で講義をしながら、やや説明が曖昧になってしまっています。現代のクリニックに来る多くの患者さんは、職場でのストレスからうつ病になっているケースです。しかし、大きなストレス要因がはっきりしないながら、うつ状態を呈する人も居ます。内因性のうつ病(メランコリー型うつ病製障害)というものですが、これはストレス関連疾患とは必ずしも言えず、この点を鋭く指摘されていると思い、非常に興味深く読みました。

さて、巷ではDSM5が席巻しています。しかし、これにばかりとらわれて、最近の精神科医はすっかり精神病理学的考察を忘れてしまっているようにも思います。精神病理学者の書く文章は、こういう意味からも、考えさせられることが多いと思いました。なかなか、楽しめる文章でもありました。

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