2014年8月11日月曜日

SSRIによるアパシー(無気力状態)

先日、持田製薬・田辺三菱製薬・吉富薬品の主催による講演会で、東京女子医科大学講師の高橋一志のお話を聞く機会がありました。この中で、SSRIによるアパシーについてのお話があったので紹介します。SSRIの副作用として、無気力状態が作られるという事です。

文献を調べてみると、いくつかの文献が出てきます。医学文献検索サイトPubMedにて、ApathyとSSRIで検索すると、Results: 1 to 20 of 62となります。62個の文献なので、非常に確立された知見とは言えないかもしれません。もう少し詳細に調べてみようと思い、SCOPUSという文献検索サイトに行き、タイトル、アブストラクト、キーワードから検索すると、43 document resultsでした。引用数の多い上位5つを参考までにリストします。一番多いのは、103引用で前頭葉型の認知症に対してパロキセチンが認知機能を低下させるというもの。次が83引用で、抗うつ剤の潜在的な悪い副作用について、3番目にSSRI誘発性のアパシー症候群で、これが56引用です。この引用数で重要度を判定するのは適当でないかもしれませんが、非常に多く知られている知見でもないようです。

その中で、
Barnhart, W.J., Makela, E.H., Latocha, M.J.
SSRI-induced apathy syndrome: A clinical review
(2004) Journal of Psychiatric Practice, 10 (3), pp. 196-199.
を読んでみることにしました。

この文献は、これまでに出版されたSSRIによるアパシーの論文をまとめた総説です。よくまとまっていると思いました。これまでの論文は、多くがケースレポートです。つかわれていた薬剤は、fluvoxamine, fluoxetine, paroxetineなどのクラシックなSSRIです。このうち、fluoxetineはプロザックという商品名ですが、日本では発売されていません。これらの薬物を使用するなかで、うつ病の疾患としての症状でなく、薬物の副作用としてアパシーがでて来るというものです。

ここで、アパシーについての定義も紹介されています。Marin RS(1991)の定義ですが、「モチベーションが無く、これに認知障害、気分の障害、意識の低下が伴っていないもの。」という事です。意欲だけが低下しているということです。ここで、高橋先生はPainfulでないということを強調されていました。自分自身の辛さは、感じないということです。

このような病態は、前頭葉機能の低下と考えられているようです。症状からして、その可能性は十分あります。前頭葉機能低下がSSRIで起きるメカニズムは、セロトニン神経の活動の活性化によって、直接的影響があるのか、あるいは中脳のドパミン神経が関連しておきてくるのかどちらかであろうということでした。

このような状態に陥ったならば、薬物をやめるか、あるいはSSRIを補う薬物を投与するかということが書かれています。この場合、補う薬物としてはbupropionも良いようです。この薬は日本では発売されていませんが、ノルアドレナリンとドパミンの両方の再取り込み阻害作用がある薬です。つまり、セロトニンの活性化だけでなく、同時にノルアドレナリンやドパミンを活性化することでこのアパシーは改善されるということです。高橋先生は、新しく開発されたSSRI=レクサプロに変更するのも良いと紹介されました。

では、実際の臨床の場で、SSRIをSNRIに変更してアパシーが改善した場合に、これは薬物によるアパシーなのか、うつ病の残遺症状としての意欲低下がSNRIによって改善したのかは、判断できるでしょうか。これは、なかなか難しいと思います。診断をきちんとするという意味では、一旦薬をやめてみた時にこれが改善すれば、薬物によるアパシーである可能性が高いと考えて良いと思います。しかし、臨床の中で診断を優先するか治療を優先するかと言えば、治療を優先する場合のほうが多くなると思います。

何れにしても、こういうことを言っている人達がいるということは、頭に置いておいて良いと思います。そして、随分良いように思えるけれども、気力が出ないという患者さんに出会った時には、減量あるいは、SNRIへの置き換えをしていくようにしていくと良いと思いました。良い勉強ができた講演会でした。


===参考文献===
Scopus
EXPORT DATE:08 Aug 2014

Deakin, J.B., Rahman, S., Nestor, P.J., Hodges, J.R., Sahakian, B.J.
Paroxetine does not improve symptoms and impairs cognition in frontotemporal dementia: A double-blind randomized controlled trial
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http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-2442492769&partnerID=40&md5=d3a6eba6ed93bf3f9dca99dde5b8bea0
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Antidepressant drugs: Disturbing and potentially dangerous adverse effects
(1998) Journal of Clinical Psychiatry, 59 (SUPPL. 16), pp. 25-30. Cited 83 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-3543114251&partnerID=40&md5=39ce97d31eaf85b9c6c5f3c76a8b20c5
DOCUMENT TYPE: Review
SOURCE: Scopus

Barnhart, W.J., Makela, E.H., Latocha, M.J.
SSRI-induced apathy syndrome: A clinical review
(2004) Journal of Psychiatric Practice, 10 (3), pp. 196-199. Cited 56 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-2442686636&partnerID=40&md5=bcdb2ae98dcd14aab9f2cd71e233e9cc
DOCUMENT TYPE: Review
SOURCE: Scopus

Murphy, T.K., Segarra, A., Storch, E.A., Goodman, W.K.
SSRI adverse events: How to monitor and manage
(2008) International Review of Psychiatry, 20 (2), pp. 203-208. Cited 40 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-41749095678&partnerID=40&md5=b99404b3c1370ed4972e9c70cc5cc466
DOCUMENT TYPE: Review
SOURCE: Scopus

Wongpakaran, N., van Reekum, R., Wongpakaran, T., Clarke, D.
Selective serotonin reuptake inhibitor use associates with apathy among depressed elderly: A case-control study
(2007) Annals of General Psychiatry, 6, art. no. 7, . Cited 39 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-33947099919&partnerID=40&md5=a8a16c1ed2ad1753602bc79c4ecb8288
DOCUMENT TYPE: Article
SOURCE: Scopus

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