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2015年2月20日金曜日

慢性の痛み

日経メディカルに2015年2月9日付けで「痛みは脳や体に記憶される」という記事が出ていたので興味深く読みました。私自身は、うつ病の痛みに興味をもって、臨床的にはなるべく患者さんにそのことを尋ねるように心がけています。多くのうつ病患者さんが痛みをもっており、これをうつ病の症状でないので、ここで話す必要はないと思っています。痛みは、うつ病の一つの症状でありえるし、もしそうでないとしても、痛みについて一緒に考えて必要あれば他の専門医の受診を一緒に考えるという立場で患者さんに接することで、患者さんの生活全体を改善するという本来の治療アプローチが出来るようになるからです。

さて、日経メディカルの記事をみると、うつ病にかぎらず慢性の痛みがあると、生活の様々な側面がが障害されることが示されています。また、更には痛みが慢性に続くと、神経末端からの神経伝達物質の放出が促進され、痛み感覚が亢進されるということです。また、痛みが記憶されることも示されています。したがって、痛みが記憶されるまえの初期の段階できちんと痛み治療をしていくことが、慢性化させないために重要であるということです。

痛みには、心理的な要素も大きく関わっています。痛みの研究をするときに難しいのは、痛みが主観的なものであるという点です。ちょっとの痛みに対しても、「痛い痛い」と叫び声を上げる人も言えれば、じっと我慢できる人もいます。しかし、それぞれのレベルで、痛みは生活に負の影響をあたえ、生活の質を悪くするということがあるわけです。

さて、精神科医である私の立場からすれば、精神科の患者さんのもっている痛みの訴えをどう取り扱うかということです。痛み症状を持った人を、身体表現性障害として捉えて、精神的な問題に直面化させるというような方法とともに、注意深く観察しながらも、痛みに対しては積極的な治療をするという方法も合わせて重要であるように思います。また、うつ病の痛みに対しては、これをしっかりと把握し、慢性化する前にしっかりと治していくことも重要になると思います。

これらの治療は、薬物療法ととともに、生活を改善する生活療法、精神分析的な精神療法などを合わせて行うことですが、この中では痛みを軽減されるという視点は常に頭においておくことが大事であると思います。

2014年10月3日金曜日

軽症うつ病 と 薬物療法

先日日本イーライリリーの会で、大坪天平先生の「軽症うつ病に関して」というお話を伺いました。大坪先生は、多くの講演をされている先生ですが、私はこれまではWeb講演会でお話を伺ったりするくらいで、あまり直接にお話を伺う機会は少なかったように思います。今回は、「軽症うつ病に関して」という非常に自由度の高い演題でのお話で、どんな話が聞けるのかと楽しみでしたが、期待以上に共感できる話でした。

現在、うつ病の薬物療法に関しては、これまでにもこのブログでも書いてきているように、製薬会社のキャンペーンによって必要以上に抗うつ薬が用いられており、適正に使用すべきだという意見があります。さらには、製薬会社の利益供与が薬物の使用を歪めているという指摘もあります。

このようなことから、一部の文献を引用して軽症うつ病には抗うつ薬は効かないということを主張する研究者もいます。このような主張には、私は疑問を持っていました。それは、うつ病は均一な疾患ではなく、様々なタイプが混在する疾患だからです。しかし、問題はまだ研究によってその不均一性がどのような形のものがあるのかは明確になっていません。ただ現実には、ある薬物はあるタイプのうつ病には効果があるけれども、他のタイプのうつ病には効果が無いということはあると思います。抗うつ薬の効果をみる場合、うつ病のタイプを選んで、抗うつ薬の治験を行うということは通常は行わないので、そうすると効果を特定できないということも有ります。

今回の大坪先生の講演は、軽症うつ病に対して薬物が有効でないという研究は、いくつかの点で不完全な研究だという指摘をしました。それらのポイントについては、大坪先生がお書きになるものや講演を見ていただくのが一番なのですが、私が印象に残ったものは、

1.うつ病が軽症であるとしても、生物学的に病的レベルが高くないものもあれば、患者さん自身の適応性が良いために生物学的に病的レベルが高くても軽症に見えるものもあるということ。
  これは、まさにそのとおりだと思いました。特に、うつ病(だけでなく他の精神疾患もそうだと思いますが)生物的=精神的=社会的(Bio-psycho-social)な要因によって疾患が成り立っていることを考えると、やはりしっかりと症状を吟味して治療を考えることが重要であろうということはそのとおりだと思いました。

2.初期値が軽症であると、薬物効果に有意差が出にくいということ。
  これも、そうであろうと思いました。これは純粋に方法論的な指摘です。

3.薬物の効果の評価に、うつ病評価尺度の合計をつかうのはあまりよい方法でないということ。
  これについて、そうかもしれないなと思いました。

特に、1については、非常に強く共感するところで、結局のところは、軽症のうつ病に対してもしっかりと病態を見ていかなければ、いけないということです。このような視点は、しかし、薬物の過剰な使用に警鐘を鳴らす人たちも、同様に指摘している点であり、結局のところ、2つの立場は主張の方向は違っても最終的な到達点は同じと言えなくも無いようにも思います。

このような問題については、主張の方向が明確な方が、議論、特にディベートなどは面白いのですが、結局のところこのような主張を強くする先生方は、しっかりと臨床を見つめているという面もあって、到達点は同じになるということかもしれません。臨床家として最も大事なことは、自分で考え、コマーシャリズムに流されないということではないでしょうか。

2014年6月16日月曜日

日本老年精神医学会 シンポジウム 老年期うつ病の臨床

日本老年精神医学会の老年期うつ病の臨床というシンポジウムにご招待を受けて、6月13日金曜日に話をしてきました。座長は、首都大学東京の繁田雅弘先生と舞子浜病院の田子久夫先生でした。演者は、5名で

1.身体症状、睡眠障害とうつ病  内田直 (早稲田大学)
2.老年期うつ病と薬物療法: 個別の細やかな対応を目指した治療戦略について考える 堀輝 (産業医科大学)
3.高齢者のうつ病に対するECT 上田諭 (日本医科大学)
4.高齢者のうつ病と認知行動療法 渡辺範雄 (国立精神神経医療センター)
5.老年期うつ病の臨床:精神療法の視点から 繁田雅弘 (首都大学東京)

でした。






それぞれの先生の発表はとても興味深く勉強になりました。2番めの堀先生は、日本スポーツ精神医学会でも活躍して頂いています。非常に優秀な先生で、まだ30代だと思いますが、ポールヤンセン症なども受賞されて、薬理学に長けた先生です。老年期のうつ病における、薬の使い方について細かく教えていただきました。特に、抗鬱剤の維持療法についてのディスカッションが興味深いと思いました。抗鬱剤の維持療法については、私自身は自分の治療法としての考えが少しずつ固まってきているので、そのうち書いてみようと思っています。

次の上田先生は、東京医科歯科大学の医局の後輩で、ずいぶん以前から知っている先生でしたが、こんなにECT(電気けいれん療法)について詳しいとは知りませんでした。私自身は、最近は電気けいれん療法は行う施設で働いていないので全くしなくなりましたが、有効な治療法であること、また施行上の注意すべき点などがよく分かりました。

渡辺先生は、認知行動療法についてお話になりました。私は、認知行動療法には非常に興味があり、認知行動療法について是非今後も渡辺先生に教えを請いたいと思っています。彼は、うつ病の認知行動療法だけでなく、不眠症の認知行動療法などについてもプログラムを統括しており、様々な少佐な知識を持っていました。このような治療法は、一般臨床の中にもっと取り入れていくべきもので、このような自分の中でも運動療法と同様どのように実践するかを今後も考えていきたいと思っています。

最後に繁田先生が統括されましたが、精神療法という視点から、繁田先生自身の長年の経験に基づいた、深みのあるお話を聞くことができまいした。それぞれの演者が熱弁したために、総合討論の時間が少なくなってしまいましたが、それでもとても有意義な会だったと思います。


2014年5月21日水曜日

軽うつと身体症状

昨日は、イーライリリーの主催する、ウェブ講演会で座長をさせていただきました。講演は、村上医院の村上建先生でした。村上先生とは、あべクリニックで診療するようになってから、いろいろな機会にお会いさせて頂いています。江戸川区で開業をされていますが、患者さんを丁寧に診察されるということで、非常に評判の高い先生です。

昨日のお話は、うつ病の患者さんを対象に、重症度による分類を行い、重症度別に、つらいと思われる身体症状と、つらいと思われる痛みがどのように出現しているかをご自身で調査した結果について話されました。ご自身のデータに基づいたお話で、説得力があったと思います。

この中で、私が非常に参考になったのは、このような痛みや身体のつらさに現れる症状は、必ずしも重症になると多くなるというわけではないことです。比較的症状の軽い患者さんでもこのような身体的な症状が非常に多く見られていました。精神科の診療ではこういった身体症状は見逃されがちになるので、軽症の患者さんでも身体症状は頭において話を聞くべきだという思いを新たにしました。

また、このような症状一つ一つを確認することは時間のかかることですが、今回の調査で村上先生が外来で用いた質問紙は、非常に簡便なもので、こういった質問紙を問診の際に用いることも悪くないのではないかと思いました。場合によると、うつだけでなく、その他の疾患においても思った以上に身体症状を持った人が多い可能性もあります。精神科医は、どうしても精神症状に焦点をあてて患者さんの話を聞きがちですが、患者さんの症状全体を捉えて治療するという観点に建てば、精神症状だけを聴いていたのでは片手落ちになってしまいます。

このような身体症状について尋ねる視点は、今後の診療にも活かしていきたいと、私自身も思いました。

2014年4月20日日曜日

うつ病症状の男女差

一昨日4月18日に、甲府で、日本イーライ・リリーの主催でうつ病の痛みと睡眠障害の話をしました。この話は、これまでにも何度もしてきていますが、この講演会では、うつ病患者さんのアンケート調査を再解析しなおしたデータを含めてお話しました。この再解析では、うつ病における痛みと睡眠障害の関係を、男女に分けて解析しなおしています。うつ病は女性により多いことが知られていますが、この研究では症状に男女差があるかどうかを見たわけです。この結果は、現在論文にまとめている最中ですが、痛みの症状も、女性に多く見られました。男性の特徴は、痛みがあると入眠障害が増えるということです。これは、これまであまり知られていないことなので、この所見を含めて、論文にしようと思っています。

さて、このように、うつ病の症状に男女差があるのは、大変興味深いことです。このようなうつ病の症状の男女差については、痛みや睡眠障害だけでなく、その他の症状についてもあると思います。例えば、Kochklerら(2002)は、うつ病の周辺症状の男女差を調べて、女性では食欲不振がより多く見られ、男性では焦燥感が多いということでした。

Kahnら(2002)は、男女の二卵性双生児のペアで、双方がうつ病になった人たちを調べて、症状に差があるかを調べています。これによれば、疲労、過眠、精神運動抑制(動作が緩慢など)は女性に多く見られ、不眠や焦燥感は男性に多かったということでした。

この他にもRomansら(2007)の論文でも、女性では、食欲の増加、しばしば涙をながす、興味の喪失、自殺念慮が多いとしています。食欲の症状などは、Kochklerらとは違いがあり、調査による違いはあるようです。

我々の研究は、痛みと睡眠障害の男女差を見たものですが、様々な違いがあることが分かりました。これらについて詳細にまとめたらまた紹介したいと思います。


Int J Geriatr Psychiatry. 2002 Jan;17(1):65-72.
Gender differences of depressive symptoms in depressed and nondepressed elderly persons.
Kockler M1, Heun R.

Gender Differences in the Symptoms of Major Depression in Opposite-Sex Dizygotic Twin Pairs
Amir A. Khan, M.D.; Charles O. Gardner, Ph.D.; Carol A. Prescott, Ph.D.; Kenneth S. Kendler, M.D.
Am J Psychiatry 2002;159:1427-1429. doi:10.1176/appi.ajp.159.8.1427

Sarah E. Romans, MB, MD,* Jeanette Tyas, MHSc,† Marsha M. Cohen, MD, MHSc,*
and Trevor Silverstone, FRC Psych, DPM‡Gender Differences in the Symptoms of M ajor Depressive Disorder J Nerv Ment Dis 2007;195: 905–911