2012年9月27日に出版された、「Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study(ベンゾジアゼピンの使用と認知症の危険性:前向き集団研究)」というフランスの研究者の論文を読んだので解説します。タイトルの後半の、前向き集団研究というのは、集団を対象とした研究で、ある集団をフォローアップしてその後どうなったのかをもう一度調べて比較検討したものという意味です。精神科のクリニックでは、ベンゾジアゼピンを投与する機会が多いので、興味がありました。
原典のURL: http://www.bmj.com/content/345/bmj.e6231
研究のデザインは、まずは、5年間の観察期間をおいてその間にフォローする人たちに、ベンゾジアゼピン系薬物が投与されていないこと、そして、認知症がないことを確かめます。そして、その後15年間にわたってその人達をフォローしています。この研究では、狭義のベンゾジアゼピン系薬物だけでなく、マイスリーやアモバンというような、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬なども含まれています。ノンベンゾジアゼピン系の薬物は化学構造が違うだけで、ベンゾジアゼピンと同じような薬理作用を持っているからです。
この研究の特徴は、スタート時平均年齢78.2歳という高齢者を対象とした点です。ベンゾジアゼピン系薬物は、早ければ10代の人から投与されますので、この研究がすべての年代に当てはまるかどうかは不明である点も注意が必要です。
結果として、対象となった1063名(スタート時平均年齢78.2歳)のうち、15年間のフォローアップで、252名が認知症になったと確認されました。そのうち、ベンゾジアゼピンを使っていた人の割合は、使っていない人よりも多いというものです。下記に、原典のグラフを示します。横軸がフォローの年数で、縦軸は最初を1として、認知症になっていない人の割合がどのように変化していくのかを示しています。赤の点線のベンゾジアゼピンを使っていない人よりも、青のベンゾジアゼピンを使っている人のほうが、認知症になっていない人は早く減少しています。つまり、認知症になった人の割合が早く増えているということです。
著者らや、この研究で、ベンゾジアゼピンを連用していると認知症のリスクが高まると指摘しています。しかし、別の考え方をすれば、ベンゾジアゼピンを投与される結果になった人たちのなかには、認知症に関連する精神症状が前駆症状あるいは初期症状として出現し、医師がそれに対してベンゾジアゼピンを投与した可能性もあるわけです。つまり、認知症が発症した人に最初はわからずベンゾジアゼピンを投与したということもあり得るわけです。
では、このような研究でどうしたらはっきりとベンゾジアゼピンが認知症の発症に関連したといえるのでしょうか。もっともクリアなデザインは、スタートの時点で全く同じ特徴をもった2群の人たちを作って、片方にはベンゾジアゼピンを投与し、もう片方には投与せずに15年経過を観察するというような研究です。しかし、このような研究は、不必要な人たちにベンゾジアゼピンを長期投与することになり、実際には不可能です。
これが、この研究の解釈をする上での限界になるように思います。つまり、この研究からはベンゾジアゼピンが認知症のリスクを高めるとまでは言えないということです。
しかし、臨床的には、やはり高齢者には特にベンゾジアゼピンの使用は慎重になっておいたほうが良いと思います。筋弛緩やだるさ等から歩くのが億劫になり、高齢者にみられる筋肉量の低下に拍車がかかり、歩行が困難になる原因にもなり得ると思われます。このような状態が長く続く中で、認知症のリスクが高まる可能性も有り得ます。
一方で、確実にベンゾジアゼピンが認知症を起こすということも言えず、特に若年者にベンゾジアゼピンを投与することを、過剰に心配する必要もないとも思います。たとえば、30代の人で不安や睡眠障害のある人に、少量のベンゾジアゼピンを一定期間投与するということは認知症のリスクを高めるのでやめた方が良いということは言えないということです。
このような研究は、批判的に読むだけでなく、参考になる知見についても評価して、実際の臨床に知識のエッセンスを生かしていくのが良さそうです。
原典のURL: http://www.bmj.com/content/345/bmj.e6231
研究のデザインは、まずは、5年間の観察期間をおいてその間にフォローする人たちに、ベンゾジアゼピン系薬物が投与されていないこと、そして、認知症がないことを確かめます。そして、その後15年間にわたってその人達をフォローしています。この研究では、狭義のベンゾジアゼピン系薬物だけでなく、マイスリーやアモバンというような、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬なども含まれています。ノンベンゾジアゼピン系の薬物は化学構造が違うだけで、ベンゾジアゼピンと同じような薬理作用を持っているからです。
この研究の特徴は、スタート時平均年齢78.2歳という高齢者を対象とした点です。ベンゾジアゼピン系薬物は、早ければ10代の人から投与されますので、この研究がすべての年代に当てはまるかどうかは不明である点も注意が必要です。
結果として、対象となった1063名(スタート時平均年齢78.2歳)のうち、15年間のフォローアップで、252名が認知症になったと確認されました。そのうち、ベンゾジアゼピンを使っていた人の割合は、使っていない人よりも多いというものです。下記に、原典のグラフを示します。横軸がフォローの年数で、縦軸は最初を1として、認知症になっていない人の割合がどのように変化していくのかを示しています。赤の点線のベンゾジアゼピンを使っていない人よりも、青のベンゾジアゼピンを使っている人のほうが、認知症になっていない人は早く減少しています。つまり、認知症になった人の割合が早く増えているということです。
著者らや、この研究で、ベンゾジアゼピンを連用していると認知症のリスクが高まると指摘しています。しかし、別の考え方をすれば、ベンゾジアゼピンを投与される結果になった人たちのなかには、認知症に関連する精神症状が前駆症状あるいは初期症状として出現し、医師がそれに対してベンゾジアゼピンを投与した可能性もあるわけです。つまり、認知症が発症した人に最初はわからずベンゾジアゼピンを投与したということもあり得るわけです。
では、このような研究でどうしたらはっきりとベンゾジアゼピンが認知症の発症に関連したといえるのでしょうか。もっともクリアなデザインは、スタートの時点で全く同じ特徴をもった2群の人たちを作って、片方にはベンゾジアゼピンを投与し、もう片方には投与せずに15年経過を観察するというような研究です。しかし、このような研究は、不必要な人たちにベンゾジアゼピンを長期投与することになり、実際には不可能です。
これが、この研究の解釈をする上での限界になるように思います。つまり、この研究からはベンゾジアゼピンが認知症のリスクを高めるとまでは言えないということです。
しかし、臨床的には、やはり高齢者には特にベンゾジアゼピンの使用は慎重になっておいたほうが良いと思います。筋弛緩やだるさ等から歩くのが億劫になり、高齢者にみられる筋肉量の低下に拍車がかかり、歩行が困難になる原因にもなり得ると思われます。このような状態が長く続く中で、認知症のリスクが高まる可能性も有り得ます。
一方で、確実にベンゾジアゼピンが認知症を起こすということも言えず、特に若年者にベンゾジアゼピンを投与することを、過剰に心配する必要もないとも思います。たとえば、30代の人で不安や睡眠障害のある人に、少量のベンゾジアゼピンを一定期間投与するということは認知症のリスクを高めるのでやめた方が良いということは言えないということです。
このような研究は、批判的に読むだけでなく、参考になる知見についても評価して、実際の臨床に知識のエッセンスを生かしていくのが良さそうです。