2014年3月31日月曜日

睡眠薬・精神安定剤などベンゾジアゼピン系薬物を服用していると認知症のリスクが高まるという報告

2012年9月27日に出版された、「Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study(ベンゾジアゼピンの使用と認知症の危険性:前向き集団研究)」というフランスの研究者の論文を読んだので解説します。タイトルの後半の、前向き集団研究というのは、集団を対象とした研究で、ある集団をフォローアップしてその後どうなったのかをもう一度調べて比較検討したものという意味です。精神科のクリニックでは、ベンゾジアゼピンを投与する機会が多いので、興味がありました。

原典のURL: http://www.bmj.com/content/345/bmj.e6231

研究のデザインは、まずは、5年間の観察期間をおいてその間にフォローする人たちに、ベンゾジアゼピン系薬物が投与されていないこと、そして、認知症がないことを確かめます。そして、その後15年間にわたってその人達をフォローしています。この研究では、狭義のベンゾジアゼピン系薬物だけでなく、マイスリーやアモバンというような、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬なども含まれています。ノンベンゾジアゼピン系の薬物は化学構造が違うだけで、ベンゾジアゼピンと同じような薬理作用を持っているからです。

この研究の特徴は、スタート時平均年齢78.2歳という高齢者を対象とした点です。ベンゾジアゼピン系薬物は、早ければ10代の人から投与されますので、この研究がすべての年代に当てはまるかどうかは不明である点も注意が必要です。

結果として、対象となった1063名(スタート時平均年齢78.2歳)のうち、15年間のフォローアップで、252名が認知症になったと確認されました。そのうち、ベンゾジアゼピンを使っていた人の割合は、使っていない人よりも多いというものです。下記に、原典のグラフを示します。横軸がフォローの年数で、縦軸は最初を1として、認知症になっていない人の割合がどのように変化していくのかを示しています。赤の点線のベンゾジアゼピンを使っていない人よりも、青のベンゾジアゼピンを使っている人のほうが、認知症になっていない人は早く減少しています。つまり、認知症になった人の割合が早く増えているということです。






著者らや、この研究で、ベンゾジアゼピンを連用していると認知症のリスクが高まると指摘しています。しかし、別の考え方をすれば、ベンゾジアゼピンを投与される結果になった人たちのなかには、認知症に関連する精神症状が前駆症状あるいは初期症状として出現し、医師がそれに対してベンゾジアゼピンを投与した可能性もあるわけです。つまり、認知症が発症した人に最初はわからずベンゾジアゼピンを投与したということもあり得るわけです。

では、このような研究でどうしたらはっきりとベンゾジアゼピンが認知症の発症に関連したといえるのでしょうか。もっともクリアなデザインは、スタートの時点で全く同じ特徴をもった2群の人たちを作って、片方にはベンゾジアゼピンを投与し、もう片方には投与せずに15年経過を観察するというような研究です。しかし、このような研究は、不必要な人たちにベンゾジアゼピンを長期投与することになり、実際には不可能です。

これが、この研究の解釈をする上での限界になるように思います。つまり、この研究からはベンゾジアゼピンが認知症のリスクを高めるとまでは言えないということです。

しかし、臨床的には、やはり高齢者には特にベンゾジアゼピンの使用は慎重になっておいたほうが良いと思います。筋弛緩やだるさ等から歩くのが億劫になり、高齢者にみられる筋肉量の低下に拍車がかかり、歩行が困難になる原因にもなり得ると思われます。このような状態が長く続く中で、認知症のリスクが高まる可能性も有り得ます。

一方で、確実にベンゾジアゼピンが認知症を起こすということも言えず、特に若年者にベンゾジアゼピンを投与することを、過剰に心配する必要もないとも思います。たとえば、30代の人で不安や睡眠障害のある人に、少量のベンゾジアゼピンを一定期間投与するということは認知症のリスクを高めるのでやめた方が良いということは言えないということです。

このような研究は、批判的に読むだけでなく、参考になる知見についても評価して、実際の臨床に知識のエッセンスを生かしていくのが良さそうです。

2014年3月30日日曜日

睡眠日誌

診療ではどのような場合もそうですが、その患者さんがどのような問題を抱えているのかを総合的に評価し、患者さんの状態を把握することが大切です。精神科の診療では、患者さんの様子を伺うときに、たとえば、「よく眠れていますか?」と質問して、「よく眠れるようになりました。」と患者さんが答えると、カルテには、「よく眠れるようになった。」と記載するというような具合で、客観性に乏しい面があります。

睡眠障害に治療をする場合に、このような主観的な記述でなく、少しでも客観的に患者さんの睡眠状況を把握するために、睡眠日誌をつけてもらっています。睡眠日誌は、簡単なもので、以下のURLにたくさんそのサンプルがあり、ダウンロードすることができます。

睡眠日誌をつけるとわかることはいくつかあります。一つは、毎日の平均睡眠時間がどのくらいであるのか。またこれは、毎日同じくらいの時間眠っているのか、それとも長かったり短かったりばらつきが大きいのか、ということも含まれます。ある患者さんは、時々朝早く起きてしまうのでどうしたらよいかという訴えをされました。睡眠日誌を見てみると、時には10時間、時には6時間と、毎日の睡眠時間がまちまちでした。長く眠った次の日には、早く起きてしまったという記録でした。そこで、毎日の就寝時刻と起床時刻を一定にするように指導をして、これは良くなりました。

さらには、どのような時間帯に睡眠をとっているのかも、睡眠日誌でわかります。これは、概日リズム睡眠障害の治療にはとても役に立ちます。毎日明け方の5時から眠って、昼頃に起きるという生活をしている方の場合は、このような疾患の可能性があります。たまたま早く起きても、午前中はぼーっとしているというような場合です。あるいは、高齢者で午後の遅い時間帯に昼寝をしている様子がわかる場合もあります。これにより、夜間不眠が起きていることもあります。

睡眠日誌に、食事や運動の時間帯を書き込んでもらうこともあります。そうすると、毎日の生活の様々な様子がさらにわかることもあります。

みなさんも、自分の睡眠の状況を把握するためにつけてみてはどうでしょうか。自分の睡眠に注意が向き、睡眠時間の改善に役立つかもしれません。


国立精神神経医療センター
http://www.ncnp.go.jp/pdf/hos_guide_s_outpatient_detail07_02.pdf

日本大学医学部部附属板橋病院睡眠センター
http://www.med.nihon-u.ac.jp/hospital/itabashi/sleep/sleepdiary_2weeks.pdf

過眠ランド
http://kaminsho.com/professional/tool/diary.html

SUIMIN-net 可愛らしいもの
http://www.suimin.net/topics/yamane/suiminnisshi.pdf

2014年3月29日土曜日

パニック障害の認知行動療法

西埼玉心と体の研究会という、私が世話人をしている会が先日あり、千葉大学の清水栄司先生から、パニック障害の認知行動療法についてのお話を伺いました。

まず、名称ですが、パニック障害にせよ他の障害にせよ、英文名のDisorderを障害と訳すのは、患者さんにとっては抵抗があるため、清水先生たちはこれを変更するように学会に働きかけているそうです。我々も、患者にお話しするとき、障害という名称でお話するのは、やや抵抗があります。これを、たとえば「パニック症」などという翻訳名に変えるわけです。これは採用されそうだとう事でしたが、良いことだと思います。

パニック障害はパニック発作によって特徴付けられる病態ですが、パニック発作はDSM5の診断基準では、

「下記のうち4つ以上の症状を含む強い恐怖あるいは強い不快感が突然起こり、10分以内にその頂点に達する。(A discrete period of intense fear or discomfort, in which four (or more) of the following symptoms developed abruptly and reached a peak within 10 min) 」 (拙訳)

となっています。症状は13個あり、

1.動悸,心悸亢進,または心拍数
2.発汗
3.身震い,または震え
4.息切れ,または息苦しさ
5.窒息感
6.胸痛,または胸部不快感
7.嘔気,または腹部不快感
8.めまい感,ふらつく感じ,頭が軽くなる感じ,ま
たは気が遠くなる感じ
9.冷感(悪寒),または熱感(hot sensations)
10.異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
11.現実感喪失(現実でない感じ)
12.コントロールを失うことに対する,または気が狂
うことに対する恐怖
13.死ぬことに対する恐怖

(塩入:精神経誌(2012)より訳語引用)


このような発作は、パニック障害の患者さんで繰り返し起こるということが診断の基準になっています。そのために、患者さんは外出を控えるようになったり、電車などに乗れなくなったりし社会生活が大きく障害されます。

このようなパニック障害の治療には、薬物療法が著効する例も多くあります。一方で、パニック障害の認知行動療法が治療的効果をあげることはよく知られています。しかしながら、この認知行動療法は、診療報酬点数化されていないために、治療として外来でしっかりと認知行動療法が行われることはあまり多くありません。

清水先生たちは、厚生労働省に働きかけて認知行動療法が点数化されるよう活動されています。また、一方で治療効果のエビデンスを明らかにするために、千葉大学の施設で認知行動療法の治療も行っています。

下記のURLが、その臨床研究のホームページで、無料で最高水準の認知行動療法を受けられるようです。お近くの方は、ぜひ試されると良いと思います。

http://www.chibasad.com/pd/index.html

また、清水先生の本もためになりそうです。私も読んでみようと思います。


2014年3月28日金曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (2)

以前にもこの問題について書きましたが、その後も発達障害を専門としている先生にお話を伺ったりして、やはり昼間の眠気だけでなく、様々な睡眠障害のケースがあるようでした。ここのところ、睡眠専門外来にも、同様の主訴の方が多く見えて、治療にあたっています。高校生女子の割合が比較的多く、ADHDの症状は、様々です。診断できるかどうかのボーダー程度で、さほどADHDの症状で日常生活が障害されているほどではないが、幼少時のことを伺うと、その傾向がありそうだという方から、学校生活に支障をきたしている方までです。高校2年生が多いのは、これから受験でこのままでは勉強が難しいということからでもあるようです。

しかし、日中の眠気は同様で、眠気のパタンは、夜遅くまで起きていて日中は眠いという、睡眠相後退症候群(DSPS)に類似しているような訴えです。夜中のほうが頭が冴えているので、明け方近くまで起きていて眠る。眠ると相当長く眠って、休みの日などは午後になってしまうこともある。学校にいくと、眠気がひどく眠ってしまう。遅刻も多いということです。ただ、純粋なDSPSに比べると、テストの日など行かなくてはいけない日は、きちんと起きられたり、テストも受けられたりします。したがって、DSPSとは病態は異なっていると考えています。

この治療は、多くの場合、病態や治療について現状で考えられることを十分に患者さんと保護者に説明をして、治療へのモチベーションを確かめます。治療へのモチベーションを高めるように、高校生本人の今後の進路への希望なども聞いて、それを実現する目的に沿った治療をするということもお話するようにします。また、保護者にも治療の方針を説明します。

睡眠は、早く眠ることが可能なケースもあるので(ここが、DSPSと異なるところ)、早く眠るようにしてもらいます。それでも、昼間眠いという場合もありますが、生活習慣としてそのようなことを続けるというところから始めます。比較的長時間睡眠者出る可能性もあるので、一定期間は睡眠時間を延長して、日中の眠気がどう変化するかについても聞いてみます。入眠困難がある場合には、メラトニン受容体刺激薬(ラメルテオン)を用いたり、睡眠導入剤などを少量用います。同時に、睡眠日誌をつけてもらい、それによってどのような生活をしているのかをモニターし、同時に本人に生活習慣を改善するモチベーションにもしてもらいます。睡眠が改善した上で、どのくらい生活が改善するのかをみて、更に必要であれば、ADHDに対する薬物療法をするというようにします。

前回も書きましたが、このようなケースについて睡眠専門外来では、誤診されることが多くあると思います。また、ADHDと独立した睡眠障害が併存していて、確実に誤診かどうかわからないケースも有ります。2006年に出版された、「ADHDの小児における睡眠覚醒について」という総説論文では、この問題についての知見は、まだ充分でないとの見解でした。実際に、発達障害の専門家の先生方と話をしても、十分に明らかになっていないという印象です。しかし、患者さんは、特にこれから受験を控えた患者さんは困っていて、このようなケースに対する治療ストラテジーが早く確立されると良いと思っています。

2014年3月27日木曜日

うつ病において、重要な判断をするタイミング

うつ病の患者さんでは、多くのケースで職場での問題があります。問題は、勤務時間の問題から、上司や同僚との問題、仕事の内容が自分に合わないなど、さまざまです。そういう中で、いろいろなストレスを感じ、うつ状態になり会社を休職するということになるケースが多くあります。そういった中で、これではだめだ。職を変えよう。という判断をされる方がいます。

こういうときに、なるべく症状が良くなってから最終的な決定をするようにお勧めしています。具合悪いときは、現状を客観的に正確に把握することが難しい場合も多いからです。たとえば、同じやめるにしても、傷病手当をもらって、しばらくは会社に所属し、その後退社して失業手当をもらうことになれば、しばらくはある程度の収入が確保できるということもあります。また、会社の方でも様々な福利厚生があり、時には配置転換を考えてくれて、その後働きやすい部署に異動できることもあります。

このような、様々な可能性について、落ち着いて考え、判断する力は、うつ状態がひどいときには必ずしも十分ではありません。そういう中で、仕事を辞めてしまって、つらいストレスを切り離してしまいたいという気持ちから、決断をしてしまうことがありますが、そういうときには、私は積極的に介入します。可能であれば、家族とも話をし、そのような判断が客観的にも妥当かどうかの意見を聞き、先に延ばすことができるのであれば、そのようにして、良くなった上でも退職が妥当であればそうすれば良いとお話しします。

そのような中で、安全で妥当な道を選べるようになるケースは少なからずあります。

2014年3月26日水曜日

眠っているときに起き出して、横で眠っている奥さんを殴る - レム睡眠行動障害

「眠っているときに起き出して、横で眠っている奥さんを殴る」という疾患があります。必ずしも奥さんを殴るのが症状ではなく、軽症であれば寝言、さらには起き出して壁を殴って手をけがする、階段から落ちてけがをするなどということもあります。

「レム睡眠行動障害(RBD: REM sleep Behavior Disorder)」という疾患です。この疾患は、バーキンソン病など脳の変性症(神経内科の疾患)の始まりの症状として出てくることもありますが、私が診ている多くの患者さんは、必ずしもそのような疾患に発展していません。多分、そのような患者さんは、変性疾患による神経症状も出現して、主には神経内科に受診しているのではないかと思います。

症状は、軽いものでは寝言。小声の寝言だけでは、治療の対象とはならないと思いますが、大声で怒鳴るような寝言であれば治療の対象になり得ます。さらに重症になると、ベッドの上に座る姿勢になり、寝言を言う。殴るような行動をする。さらには、起き出してまとまりのあるような行動をする。多くの場合は、暴力的、攻撃的な行動です。背景にストレスがあるように思えることもあります。配偶者は、このような行動が自分に対する深層心理の憎しみを表しているのではないかと悩むこともありますが、これは必ずしもそうでないように思われます。

私の患者さんで多いのは、飲酒習慣のある方です。このような方は飲酒の習慣をやめると、多少症状が改善することもあります。しかし、多くの場合は薬物を用いて治療します。用いる薬物は、ベンゾジアゼピン系薬物です。多くの場合は、クロナゼパムという薬物を寝る前に服用します。これを服用すると、9割方の患者さんでは症状が改善します。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はレム睡眠を抑制するので、これも効果が出るメカニズムの一つになっていると思います。パーキンソン病の場合は、この治療を行うことで改善することもあります。

治療の目標としては、行動があったり、大声でねごとを言うという症状であれば、少量の薬物で症状が消失すればよいですし、行動がある人の症状が、時々寝言を言うくらいまで改善すれば、それでよしとしています。クロナゼパムには、ふらつきなどの副作用があるので、症状を完全になくすことを目標にすると、過剰投与になってしまい、夜トイレに起きたときに転んで怪我をするなどの危険があるためです。

2014年3月25日火曜日

STAP細胞その後 (1)

STAP細胞に関連したさまざまな報道をなるべく読むようにしていますが、ゴシップネタのものが多いです。驚いたのは、朝日新聞デジタル版に3月24日に掲載された、『小保方さん、『大人AKB48』で歌手デビュー!(うそ)』という記事。朝日新聞までも、このような揶揄を乗せるのかと思うと、愕然とします。科学者がこのような、下品なコラムに取り上げられること自体が、信じられない思いです。

【*その後朝日新聞からお詫びが出ています:
おわび 「ウソうだん室」について 2014年3月26日
 3月24日に掲載した連載「ウソうだん室」第3回は不適切な内容と判断し、同日中に削除しました。理化学研究所の小保方晴子さんを取り上げましたが、小保方さんをはじめ、関係者のみなさまにご迷惑をおかけしたことをおわびします。】

その中で、日本経済新聞は、科学の本質を追っていて読んでいて実質的な情報が得られます。『STAP細胞、解明へのシナリオ 遺伝子解析 決め手 』という記事ですが、STAP細胞の報告が、報告の通りであるとすれば、どのような実験的事実を集めなければならないかを、比較的わかりやすく書いてあります。

STAP細胞研究の詳細について、私自身は十分な知識があるとはいえませんが、このような再生医療につながるこのような基礎研究は、非常に重要なものであることに間違いはありません。科学研究の最前線で、いい加減なデータによって、事実でないものを事実と報告することは許されないことですが、内容も理解せずそのような研究の本質がくだらない周りの圧力でつぶされてしまうということも残念なことです。

理研や日本の科学者の善意を信じて、一部の問題点を解消できる機会とし、医学の進歩のための本質的な発見の芽を摘み取らないようにしていかなければいけないように思います。

2014年3月24日月曜日

障害者雇用対策

障害者雇用対策は、「障害のある人が障害のない人と同様、その能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指し、障害のある人の雇用対策を総合的に推進(厚生労働省)」するものです。各企業は、雇用者の2.0%に相当する障害者を雇用することが義務付けられています(障害者雇用率制度)。これに満たない企業は、納付金を納めることが求められ、これを資金にして障害者雇用をしている企業に調整金を支払ったり、障害者雇用のための施設設備費等に助成をしています。

このような制度は、主には身体障害者を対象(1976年)として始まり、次第に知的障害者(1987年)、そして精神障害者に枠が広げられてきました(2006年)。このような変化は、障害者スポーツにおける変化とも似ています。精神障害者が後回しになるのは、このような歴史が明らかにするところですが、しかし、現状では精神障害者も障害者雇用の対象となり、これによって仕事をする機会が実際に多くなっています。

私の患者さんたちも、このような制度を利用して仕事をすることがしやすくなっています。これまでにも、多くの患者さんが、このような障害者雇用で仕事についておられます。このような障害者枠を多く持っている企業は、大きい企業で、障害者雇用でも通常の雇用と同様の福利厚生がつきますので、非常に良い条件で仕事をすることができている方もいます。このような制度があると、仕事について社会の中で活躍し、労働によって自立する生活がしやすくなり、生活の質が向上します。これは、生きがいにもつながり、多くの患者さんがやりがいのある人生を送れるようになります。最近この雇用で職を得た患者さんも、とても生き生きとうれしそうにしておられました。

2014年3月23日日曜日

うつ病の痛み

本日は、イーライリリー主催のシンポジウムに午前中に参加してきました。その中で、興味深かったこと。

平成22年に、厚生労働省の「慢性の痛みに関する検討会」から提言が出ていて、その中で「痛みの自覚においては、精神医学的・心理学的な要因が少なからず関与しており、客観的所見があっても、精神医学的・心理学的要因が大きく影響していたり、客観的所見と主観的症状に乖離が生じていたりする事例に対しては、身体疾患に対する治療だけでなく、精神医学的・心理学的な介入も必要になる。現状では、精神科や心療内科の医師が、痛み診療に早期に介入することは極めて少なく、精神医学的・心理学的アプローチは広く普及していない。また、患者側も、精神医学的・心理学的な要因が、痛みの成立に影響を及ぼし、慢性化、遷延化を招き得ることについて、認識が乏しいと考えられる。 」という内容が含まれていること。この提言は、少し前のものですが、よい内容が含まれていると思いました。

藤田保健衛生大学の岩田先生が、同大学で行われた、痛みに関する調査で、うつ病患者さんの63.8%に痛みが見られたということを発表しておられた。これは、我々が外来で行った調査(約40%)よりも多い値です。そして、うつ症状の重い人に、痛みがより多く痛みがあるということも示されていました。さらに興味深かったのは、正常者でも4割くらいの人に痛みがあったということ。痛みというのは非常に主観的な症状なので、多分調査法によってもいろいろと違いが出てくるのであろうと思いました。

うつ病の患者さんに、さまざまな痛みが伴うことは、以前より知られていましたが、最近イーライリリーがこれに関連したキャンペーンをやっているために、より広く認識されるようになったと思います。製薬会社のキャンペーンなので、この会社のサインバルタ(デュロキセチン)というSNRI(セロトニンとノルアドレナリンの両方の神経伝達物質の機能を改善させる薬)が、うつ病の痛みに効くようなキャンペーンと捉えられている節もあり、そういうキャンペーンは良くないという批判もあります。しかし、うつ病の身体症状としての痛みが非常に多く見られ、これも医者がしっかりと認識するということは大切であるように思われます。基本は、うつ病の治療であって、痛み止めのように抗うつ剤を使うということではありません。その点はしっかりと抑えておく必要があると思います。


2014年3月22日土曜日

睡眠時無呼吸症候群とうつ病 (2)

本日、この題名で医者向けに講演をします。すでに、同名のエントリーで概要は書いているので、今日話すにあたっての新しい内容のみです。

すでに、日中のうつ症状の背景に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)があるということは、様々なところで報告がありますが、今回調べてみてわかったのは、多くの研究が睡眠時無呼吸のある人に、どの程度の割合でうつ状態があるかを調べた研究が主体だということです。例えば、Sharafkhanehらによる2005年の研究では、OSAがある人達では、21.75%、ない人たちでは9.43%にうつ状態が認められています。

また、ヨーロッパでの調査は、電話による聞き取り調査ですが、18,980名(15-100歳)を対象とした構造化された質問(質問事項を最初から決めてある)によって、健康状態および精神状態、睡眠時呼吸障害について調べています。その結果、2.1%がOSA. 2.5%が何らかの睡眠時呼吸障害。
0.8%に呼吸障害とうつ病の合併が見られたということでした。うつ病の18%に睡眠時呼吸障害が見られ統計的には、うつ病の患者には、5.26倍無呼吸が多く見られたという結果です。

私が経験する中でも、うつ病の患者さんに無呼吸の検査を行い、これが発見された無呼吸の治療をおこなうことで、日中の意欲の低下やだるさが非常に改善され、投薬が必要なくなった人たちもいます。この点は、ぜひ精神科だけでなく内科の先生方にも知ってもらいたいことだと思っています。

2014年3月21日金曜日

アスレティックトレーナーのメンタルヘルス (2)

前回アスレティックトレーナー(AT)のメンタルヘルスについて書いたところ、閲覧回数が1000を超えました。これまで、1000を超える閲覧回数のものはなかったので、ずいぶん反響があったわけです。この問題はどのように捉えられているのか、できたら簡単なコメントがいただけるとありがたいです。前回のエントリーは、主にはこの話題の紹介でしたので、もう少し立ち入ったことを書いてみようと思います。もし読まれた方は、可能であればコメントしていただけると幸いです。その時に、

1.ATかどうか。
2.年齢 性別
3.活動している国(海外の方も居たようなので)
4.活動している競技の種類
5.感想など

を書いていただけると、非常に参考になります。もし、この問題が非常に重要であれば、何らかの調査をしてみても良いかもしれないと思っています。

前回、ATのメンタルヘルスに関連した問題について、

1.一般に、スポーツの現場では勝利につながる選手のメンタルヘルスを含めた健康については、非常に大事にされるが、ATは試合結果に繋がるものではないので、重要視されない。

2.ATは、選手のために(自己を犠牲にして)働こうという意識が強く、不平不満を言わず働く傾向があり、メランコリー親和型性格(このブログのエントリー参照)であることが比較的多くある。

というふうに書きましたが、1.については、例えばSCOPUSという学術論文検索サイトで、Athletic TrainerとDepressionというキーワードで検索しても、出てくるものは、アスリートのメンタルヘルスに関するものばかりで、それをATがどのように取り扱うべきたというような内容が主体です。ATのメンタルヘルスに関するものは皆無でした。しかし、現実には、ATで調子を崩す人は、少なくとも日本の学生スポーツの中には少なからず居ます。日本の実業団あるいはプロスポーツに関しては、そういう相談を受けたことはありますが、多いのかどうかはわかりません。

アメリカなど、ATが活躍している国はどうなのでしょうか。アメリカ人の気質から、そのようなことは無いのでしょうか。通常は、あまり関係がない気もします。また、私自身も2年ほどカリフォルニアで生活しましたが、アメリカ社会もストレスの強い社会ではあります。

2.については、ATにメランコリー親和型の特徴を持った人がほんとうに多いのかどうかは不明です。そうでない人も、勿論居ますので実際に何らかの調査をしてみないと、ATの中にメランコリー親和型性格が多くいるのかどうかわかりません。しかし、そのような人がAT活動の中で、自己不全感からうつ状態に陥るケースは少なからずいるようには思います。

このような問題の解決策というのは、特にATに関わる特別のものはないと思います。産業医学で言われている、一次予防、二次予防、三次予防、ラインケア、セルフケアなどというものが、スポーツの現場に適応されると良いように思います。下記のリンクに、これらについての良い説明があります。

茨城産業保健推進連絡事務所

スポーツの現場も、職場のメンタルヘルス管理の仕組みを参考にしてこういった仕組みを作ることは可能であるように思います。ただ、チームは監督が全体の管理者であり、目的は試合で勝利することで、その中でこのようなメンタルヘルスの管理にたいしての理解がうまく作っていけるかどうかということについては、ずいぶん時間は掛かりそうだという気もします。

メンタルヘルスの問題が、きちんと取り扱われれば、少なくとも長期的な展望の中では、チームの競技力向上に繋がることは間違いないと思います。ただ、これも産業医学の状況がそのまま当てはまるのですが、いわゆるブラック企業のように、そんな余裕はありませんという状況のチームもあり、その場合にはなかなかこれが難しい状況になります。

いずれにしても冒頭に書いたように、閲覧数がこれだけ多くなるこの話題ですから、ぜひどのような興味やニーズによって、閲覧数が増加したのか、匿名で結構なのでコメントを寄せていただけるとありがたく思います。

2014年3月20日木曜日

木の芽時(このめどき)と精神科外来

そろそろ春を感じる季節になりました。この季節は「木の芽時」とも呼ばれていますが、木の芽時には、暖かくなったかと思えば寒くなったりして、体調を崩す方も大勢いるので注意が必要です。精神科の外来でも、この季節に調子が悪くなる方も多いような印象は受けます

患者さんにそのことを訪ねてみると色々な答えが帰ってきます。多くは、年度の変わり目に関連したことです。例えば、学生時代にはこの時期になるとクラス替えがあるということがあり、そのことで緊張感が高まるというようなこと。これは、多くの人にとっては楽しみでもあるかもしれませんが、新しい環境への適応が難しい素因をもっている方々にとっては、変化の季節であまり歓迎できない季節なのかもしれません。また、会社では部署の異動などもあります。そのような場合も、新しい部署で今度はどのような人たちとどのような仕事をするのだろうかという不安と緊張が訪れるということもあります。

木の芽時の季節としての特徴が、精神症状を悪化させるということは、もしかするとあるのかもしれませんが、これについての明確な説明はあまり聞いたことはありません。多分、気候の急激な変化によって、自律神経系や内分泌系(ホルモン)がそれについていけないということから体調をくずすという事はありそうで、これが精神症状にも影響をあたえるということであれば、それは納得できる説明にもなると思います。

一方で、この時期に良くなる人も居ます。冬期うつ病(季節性感情障害)の患者さんは、この時期になると次第に回復してきます。患者さん自身にとっては、待ち遠しい時期でもあるでしょう。

新しく始まる4月からの年度への期待も膨らむ時期ですが、精神科の患者さんにとっては、複雑な気持ちが交錯する時期でもあるわけですね。

2014年3月19日水曜日

睡眠の日

昨日、ある講演会で座長をしまいた。その時に、精神・神経科学振興財団の高橋清久先生に久しぶりにお会いして、お話をさせていただきました。高橋先生は、国立精神・神経センター 総長もされた、睡眠の大家です。

さて、その会で高橋先生から睡眠の日についてのお話がありました。睡眠の日は、年に2回あります。一日春の睡眠の日で3月18日、もう一日は秋の睡眠の日で9月3日です。春の方は、World Sleep Dayに連動させて設定したようですが、World Sleep Dayは、3月18日に固定されているわけではなく、毎年その辺りの日程で行われています。2014年は3月14日だったようです。一方、秋の睡眠の日は9月3日で、これは日本独自のものです。この理由は、グッスリ(キュウ スリー=9月3日)という語呂合わせから来ているようです。

健康的な生活のために、運動、睡眠、食事は非常に大切ですが、この機会に睡眠の大切さについて、もう一度考えてみるのも良いかもしれませんね。

World Sleep Day

睡眠の日



2014年3月18日火曜日

藤沢保健所での講演(うつ病の運動療法、 うつ病の痛みと睡眠障害)

先週、藤沢保健所での講演を頼まれて話をしました。2つの話をしたが、ひとつは「うつ病運動療法の可能性」。もう一つは「うつ病の痛みと睡眠障害」についてです。これらの話は、今まで主には医療関係者を対象にしてきたのですが、今回は一般の方々、および当事者(患者さん)やご家族むけにしました。同じように睡眠の話を、所沢市の並木公民館でも少し前にしましたが、こういう講演会では、講演の後の質疑応答がわりと活発になります。

ここで難しいのは、診療と同じようにならずに一般論として話をすることです。質問は、時に非常に個人的なことになりますが、それを皆さんの前でやりとりして答えたりすることは、無理があるので、その問題を一般的な問題としてとらえて回答するのが良いと思っています。しかし、それでもそれを丁寧にすれば、質問されたご本人にも、あるいは聴衆の方々一般にも役に立つ面があります。

この場合、やはり基本になるのは、うつ病の患者さんを治療するときに、症状だけをお聞きするのではなく、生活全体をお聞きすることです。何時に寝て何時に起きるのか、朝ごはんは食べるのか、運動はしているのか、人との交流はどうか、などです。これらをお聞きして初めてその方の生活が分かります。質問の際には、あまり個人的にならずさらっと一般的なこともお聞きして、一般論としてお話します。その中で、質問された方も、他の聴衆の方も自分に当てはまるエッセンスを持ち帰っていただけると思っています。こうして、答えると質問がたくさん出ます。時に30分位になり、時間でそこまでになることもあります。

表題にあるような様々なうつ病の症状や、これに係る生活状況は、個人個人でできることが異なっています。したがって、実際の診療の中ではそれを詳しく聞いて、様々な医学的知識をもとにできることをやっていくということになります。それを、患者さんにわかっていただくのが、こういった講演の一番の目的になります。

2014年3月17日月曜日

アスレティックトレーナーのメンタルヘルス (1)

アスリートのメンタルヘルスについて語るときに、忘れてはならないのはアスレティックトレーナー(AT)のメンタルヘルスについてです。以前、ベースボール・マガジン社のコーチングクリニックに「アスリートの心の悩み相談室」というのを連載をしていた時にも、このテーマを掲載しました。この特集は、ニューロック木綿子さんという漫画家さんに、アスリートのケースを幾つかお話し、それを元に漫画のお話を作ってもらい、それに私が解説をつけるという趣向です。



ATのメンタルヘルスを考えるときの、要素は2つあります。

1.一般に、スポーツの現場では勝利につながる選手のメンタルヘルスを含めた健康については、非常に大事にされるが、ATは試合結果に繋がるものではないので、重要視されない。

2.ATは、選手のために(自己を犠牲にして)働こうという意識が強く、不平不満を言わず働く傾向があり、メランコリー親和型性格(このブログのエントリー参照)であることが比較的多くある。

このようなことから、ストレスが募りうつ状態になるATは少なからず居ます。そのような人たちは、それでも休まず働くということが多くあり、非常に痛々しい状態がしばしばおこります。

この点は、スポーツ医学に関わる方々はよく理解しておく必要があると思います。ATのメンタルヘルスの問題は、つい後回しにされがちです。チーム管理者はぜひこの点を頭においてほしいと思います。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ


2014年3月16日日曜日

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の方との関わり

DSM 5では、アスペルガー症候群という言葉は用いられなくなり、自閉症スペクトラム(ASD: autism spectrum disorder)という言葉が用いられる。この中で、従来自閉症と呼ばれていたもの、特に知的障害を伴うものも含まれています。このような中で、知的障害や、言語発達の障害を伴わず、「社会性の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害」を主な特徴とした、従来アスペルガー症候群と呼ばれている人たちとの関わりについて書いてみます。

外来で、こういった方たちと接する機会は多くありますが、コミュニケーションの障害の結果、診察が長くなるということがあります。外来では、順不同で患者さんを診察していきますので、うつ病の患者さんが続いた後に、このようなASDの患者さんになることがあります。安定したうつ病の患者さんでは、ざっとここのところの様子を聞いて、薬の処方や生活のアドバイスをして終わります。ところが、ASDの患者さんの場合は、ここのところの生活の様子を聞くと、その周辺の状況から始まって、事細かに話し始めます。

このようなことは、やむを得ないと思っています。障害がある方を診察しているわけですから、これで「もう少し手短にお願いします」では、一般社会の対応と同じになってしまいます。ひと通りの話を聞いたあとに、お話するのは、問題となっていることをもう少し大局的に見る視点です。これをASDの方に持てるようにしてもらうことは困難ですが、個別の問題について、「いまやっていることの大きな目的はなんでしょうか。」などと話をして、ある事柄について何が正しいかよりも、その問題を通して関わる人がスムーズに仕事が進むようになることのほうが、全体としての利益が大きいということを丁寧に説明し、そのために何をするのが良いかをお話します。

具体例としては、例えば「自分はある企画の説明をしなければならないが、その中には専門的な細かい内容を説明しなければみんなに意味がわかってもらえないのではないかと思う。そうすると、パワーポイントもたくさん作らなければならないし、話も2時間位になってしまうのでどうすればよいか。」という質問です。まず、この質問に到達する前に、事細かに企画の背景についても話をするので、この説明にずいぶん時間がかかります。さて、こういう質問をされた時に、いくつかの質問をします。「聞いている人たちは、何分くらいの話だったら聞いてもらえるのだろうか。」「そのためには、スライドを何枚に抑えなければならないだろうか。」そうすると、これまでの経験から15分位。スライドも10枚から15枚位という風に答えることはできます。そして、まずは10枚にする。その中には大事なものをいれる。入らないものは、しょうがないので捨てる。それによって第一には全体の概要を知ってもらうようにするのが良いということをアドバイスするわけです。

このアドバイスで、物事がどれだけうまくいくようになるかはわかりません。しかし、このような事柄はASDの患者さんにとっては、毎日の生活の中でつねに起きてきていることです。外来では、そのことを取り上げて、説明するようにします。そうすることによって、少なくとも患者さんは方向が見えて安心します。結果として、どれだけうまく出来たのかは確認もできない場合が多いのですが、それでも患者さんは、安心される場合も多くあります。

ASDは、ADHDのような治療薬と呼べるものがなく、治療法も確立されているとは言えません。また、社会の理解をと言っても、なかなか職場の理解を得ることも難しいと思います。しかし、根気強く、このようなアドバイスを繰り返すことは、日々の患者さんのストレスを軽減する方向には働いていると思っています。


加藤進昌先生の本は参考になりました。


2014年3月15日土曜日

運動がけん引する睡眠と食事-生活習慣病としてのうつ病

健康に関連する生活習慣の3要素として、運動、睡眠、食事があります。しかし、これらの3つは同等の位置関係にあるのではありません。たとえば、たくさん睡眠を取れば運動す量になったり、食欲が出たりすることはありません。また、食事をとれば運動したり、よく眠ったりするわけでもありません。しかし、運動を良くする、運動習慣をつけると、お腹が空き食欲が増し、睡眠の質が向上します。このように、運動は、他の要素をけん引する生活習慣の本質を占める要素であると考えられます。

生活習慣の乱れから起きてくる疾患を、「生活習慣病」と呼んでいます。厚生労働省のホームページをみると、生活習慣病として6つの疾患が挙げられています。それらは、糖尿病、脳卒中、心臓病、脂質異常症、高血圧、肥満です。

私は、ここに「うつ病」を入れたいと思っています。うつ病はご存知のように高強度のストレスが長期間続いて起きてくる、抑うつ状態ですが、現代時の日々の生活にはストレスがつきものです。そのようなストレスの中でも、うつ病にならない人は居ます。これは、体質の違いと大きくくくっても良いかもしれません。そう考えると、例えば、必ずしも良い生活習慣でなくても生活習慣病を発症しない人もいるということと似ています。

他の生活習慣病と同様に、各個人の体質と環境の両方が関連してうつ病は発症してきます。人によっては、うつ病を発症しないケースも有りますが、生活習慣を整えることによって、うつ病の発症は、全体として減ると思っています。また、うつ病になった人たちについても、生活習慣を整えることが、治療的な意味があると思っています。

そのためには、生活習慣に運動を取り入れることがとても大事です。運動は、決してジャージを着て、激しいスポーツをすることだけではありません。日々の生活の中で、階段を使ったり、歩く距離を増やしたりすることも大切です。そして、それにけん引されて、バランスの良い食事と、良い睡眠を確保することも合わせて行わなくてはなりません。これによって、身体的な健康と、良い精神状態が保たれるようになることが期待できます。

このような、生活習慣病としての側面をもったうつ病について、実際の臨床では、薬物療法に合わせて、細かな指導をすることで、寛解に早く至り、良い状態を維持することができるようになるケースが多くなると考えています。


2014年3月14日金曜日

季節性感情障害(冬季うつ病)

季節性感情障害(冬季うつ病)は、多くは冬場に(まれには夏場に)うつ状態になる気分障害のタイプです。多くは10月中旬くらいからうつ状態が始まり、3月中旬ころには良くなります。この期間をみても、日照時間と関連があることが分かりますし、冬場に日照時間が極端に短くなる、緯度の高い地域で多いことも知られています。冬場に何らかの理由で(例えば年末や年度末で忙しくなるなど)そのことが原因でうつ状態になるとすれば、そういったケースは季節性気分障害には当たりません。英語では、Seasonal Affective Disorderという言葉が使われ、略してSADとされています。Sad = 残念に思う、悲しげだなどの意味の単語と同じなので、よくこの言葉が使われます。しかし、現在うつ病や躁うつ病を含むカテゴリーは、気分障害Mood Disorderという言葉が使われているので、Seasonal Mood Disorderが良さそうですが、SADのほうが通りが良いためかこの言葉がよく使われます。

この疾患も、うつ期には抗うつ剤を服用します。また、予防的に秋ころから服用するケースも見られます。私が担当した患者さんも、このように秋ころから気分が低下する方が何人かいて、春になると元気になります。したがって、冬場には抗うつ剤を服用するのですが、この他に光療法が有効なケースが少なからず居ます。光療法器をいくつか、Amazonから探してみましたが、1万円台からあります。人によっては、卓上の蛍光灯やLEDのスタンドなどを幾つか並べて使っている人もいますが、これも有効でした。

光の波長は400nmあたりの青白光が有効であると分かっていますが、この波長が含まれている白色光であれば効果があります。明るさは、最低でも2000ルクスは必要だと思っています。できれば5000ルクスあると良いと思います。ルクスというのは、光源の明るさでなく、感じる場所での明るさですので、目に5000ルクスの光が入ることが大事です。この光を、早朝に1時間ほど浴びます。タイミングも重要で、もしこの時間に眠ければ、布団の中で目を閉じて、顔の目の前に光療法器があるようにしておいても効果があるとは思います。ただ、目を開けていたほうが光は多く網膜に達するので、そのほうが効果的であるでしょう。これに合わせて運動指導なども良い面があると思っています。

このような、光療法を含めた非薬物療法は、この疾患には効果があるので自分がそうかなと思う方は専門医に相談してみるとよいでしょう。



2014年3月13日木曜日

STAP細胞論文と小保方さん

小保方さんがSTAP細胞の論文を発表したというニュースが流れた1月30日に、そのニュースの中に、小保方さんが早稲田大学のラクロス部で活躍していたという内容があったので、ラクロス部のOGに知っているかどうか尋ねてみました。このOGは、私が早稲田大学に行って初めてのゼミ生でしたので、すでに卒業して何年も経ちます。ちょうど小保方さんと同じくらいの年齢だと思ったので、同じチームに居たのかどうかも尋ねてみました。そうしたところ、小保方さんは一年下で私が見に行った試合にも出ていましたよとのことでした。とても頑張り屋だったのでこういうニュースが流れて嬉しいとも付け加えて返事が来ました。小保方さんは、理工学部ですが、体育会のラクロス部で活躍していたということで、親近感をもって嬉しく思いました。

ところが、最近のニュースではこの発表された論文に矛盾があるということが指摘されているようです。私もこの分野には詳しくないのですが、STAP細胞を作る過程でT細胞を経てSTAP細胞ができるのか、経ずにSTAP細胞ができるのかが曖昧であるのがポイントのようです(日経メディカル記事を参照しました)。しかし、その他にも図を使い回しをしている、更には小保方さんの博士論文の引用文献にコピーペーストの跡があるようだなど、様々な指摘が出ています。

私は、この件に関しては一般報道以外は何も情報も持っていないので、ただ見守るしか無いと思いますが、小保方さんのような若い研究者がその才能を伸ばすには、上級研究者の丁寧な指導が欠かせません。若い研究者はやる気と才能と、更には時に上級研究者を負かしてやろうという野心があり、そういうものはとても大切なものなのですが、一方でそこで人間関係がギクシャクしたものになることもあります。私自身も10年間研究所で仕事をしたので、さまざまなことを見てきています。上級研究者が若い研究者の才能を見抜いて、それをしっかり伸ばしてあげる環境をつくることは、科学の発展に何より大切です。そのためには、上級研究者の大きな器が必要だなと思うことも多くあります。

このSTAP細胞論文の行方は、興味をもって見守りたいと思いますが、同時にどのような結果になっても、やる気と才能のある研究者がその能力を活かせるような環境で仕事を続けられる配慮がなされることを願っています。

2014年3月12日水曜日

埼玉県精神保健福祉協会

埼玉県精神保健福祉協会の理事をしています。昨日理事会がありました。代表理事は、埼玉医科大学の山内先生です。私は、この会には、埼玉国体(2004)のあとの障害者スポーツ大会のお世話をしたのがご縁で参加しています。この時は、昼のエキジビションに、ゼッターランド・ヨーコさんに来て頂いて、こばとんとバレーボールをしてもらいました。もう10年も前の懐かしい思い出です。

さて、この埼玉県精神保健福祉協会は、埼玉県内の精神医療、保健、福祉の向上に役立つ仕事を多くしています。具体的にはさまざまな啓蒙活動としての講演会の開催、精神障害者のスポーツ活動、芸術活動の開催、またこのような活動をしている団体へのサポートなどです。

2014年6月21日には、聖学院大学学長 姜尚中 (カン・サンジュン) 氏の講演会を、大宮ソニックシティーで開催する予定もあります。

2014年3月11日火曜日

睡眠薬の使い方

このブログは、一般向けに書いているつもりですが、時々専門的になってしまうこともあります。こちらの意図としては、例えば受診中の患者さんが、自分の診療とほかの診療を比較してみることができて、セカンドオピニオン的な情報が得られる情報を提供できると良いというところもると思います。このエントリーもそのような視点で書いています。

睡眠薬については、精神科一般外来ではよく用いられていて、睡眠薬の使い方についてはいろいろと考えてきました。まずは、睡眠薬の一般て知識として睡眠薬の種類について。

バルビツール酸系  ラボナ、イソミタールなど
   これは、外来では使いません。眠くはなりますが、良くない副作用も多いので。
ベンゾジアゼピン系 ハルシオン、レンドルミン ~ ロヒプノール、ベンザリンなど
   多く用います。この使い方が大切です。
ノンベンゾジアゼピン系  マイスリー、ルネスタ、アモバン
   ベンゾジアゼピン受容体に作用するという点では、ベンゾジアゼピン系と同じ。化学構造が異なっている。
メラトニンアゴニスト  ラメルテオン(ロゼレム)
   副作用が少なくて良い薬だと思っています。リズム障害にも著効例があります。
(発売予定と聞いているオレキシンアンタゴニスト)
   まだ使ったことが無いのでわかりませんが、期待できると思っています。

この中では、ベンゾとノンベンゾが最もよく使われています。これらの薬は、まずは少量から使うのが基本です。例えば、マイスリーなども5mg錠というのが最も少量の剤形ですが、この半分量を使うことも多くあります。睡眠薬は増やすと、時に患者さんの方で減らすのが不安だということに容易になってしまうので、効果があることをきちんと説明して少量からスタートします。

薬剤の選び方は、半減期と筋弛緩作用などのバランスから選びます。まずは、短時間型から選ぶのも良いと思います。中途覚醒や早朝覚醒のある人については、作用時間が比較的長いものを用いることもあります。この場合に、筋弛緩作用という副作用が少ない薬物ということで、ノンベンゾを第一選択として考えることが私は多くあります。つまり、ゾルピデム(マイスリー)あるいはエスゾピクロン(ルネスタ)です。

筋弛緩作用を引き起こすベンゾジアゼピンの作用部位は、抗不安効果の作用部位と同じなので、あえて筋弛緩作用もある程度ある中間作用型の薬物を投与することもあります。例えば、血中半減期が24時間のフルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレースなど)は、血中濃度としては朝残っています。時にふらつきなどの副作用がみられますが、抗不安作用もあるので翌日の日中も低容量の血中濃度が抗不安作用として働く可能性もあります。

睡眠薬は、通常の服用量では、頑張って起きていられなくなることは少ないです。また、24時間の半減期でも、朝はきちんと起きられます。これは、睡眠は24時間の体内時計によって制御されているためで、睡眠薬を飲んでいても、明け方からはコルチゾールが分泌され、メラトニンの分泌は減少し、体温が上がってきます。したがって、体は起きる準備ができ、なおかつ睡眠薬によって十分な睡眠がとれているために朝に多少の薬物の血中濃度があっても覚醒は可能なわけです。

このように、睡眠薬は患者さんの不安の度合いや、睡眠障害の種類、あるいは高齢者でふらつきを避けたほうが良いかなど、様々な要因を考慮しながら選ぶのが良いわけです。

この他に、ラメルテオン(ロゼレム)という全く異なった作用機序の薬があります。これは、メラトニンと同じような働きをする薬物ですが、この薬物は、体内時計にも作用します。例えば、寝付きが悪い人にこの薬を夕方少量(例えば半錠)投与すると、飲んだばかりの時の眠気はあまり無いのですが、早い時間に眠くなるようなリズムのシフト(眠気が来る時間が早くなる)がおきます。これによって、入眠困難が解消されるわけです。このような使い方には、時間生物学の知識が必要です。

今後、オレキシン受容体に働く睡眠薬なども発売されるという情報もあります。このような薬物はまたベンゾジアゼピンとは異なった作用があるので、これらをきちんと医学的根拠に則って用いることで、少量の薬物で快適な睡眠が取れるようになることが期待されます。

2014年3月10日月曜日

マスクと精神科の患者さん

この季節になると、花粉の影響で街にはマスクをしている人たちがあふれています。こんなにマスクをしている人が多い国は珍しいと思いますが、最近は北京などもPM2.5の影響でマスクしている人は多いようですね。精神科の患者さんもたくさんの人がマスクをしてきます。患者さんによっては、花粉症の薬出してくださいとおっしゃいます。先日の日経メディカルには、下記のような記事が出ていました。眠気の少なさを考えると、アレグラが良さそうですね。

医師1067人に聞いた「お気に入りの抗ヒスタミン薬」
花粉症医師の8割が抗ヒスタミン薬を服用
一番人気はアレグラ、続いてザイザル、アレロック
2014/2/28 田島健=日経メディカル

さて、ここでマスクを話題にしたのは、花粉症のことではありません。精神科の患者さんの中でマスクをしてくる人は、殆どと言って良いくらい顔を隠すためにマスクをしています。そういう意味で、この季節は患者さんにとっては、特別目立たずにマスクをできる良い季節かもしれません。マスクをしてくる患者さんの多くは、社交不安障害の方です。その他の疾患もありますが、外にでるときにマスクをしたりサングラスをすると、自分自身をみられずに安心できます。

そういう患者さんも、診察室の中ではマスクを取ってもらうようにしています。取るのが面倒くさくてそのままになっていたり、マスクを外してもらったことが何度もあるので、マスクをしていてもバリアにならないような患者さんの場合には、わざわざ、聞きませんが、初診の患者さんや、表情をよく知りたい患者さんの場合には、少し話をして慣れてきたら、「マスクを外すことができますか?」とお聞きします。

ほとんどすべての患者さんが、マスクを外してくれます。多くの患者さんは、自分自身がそういう問題を持っていて、そのことを相談する相手としての治療者に対しては、マスクは必要ない場合が多いです。逆に治療者に対しても顔を隠したい場合は、まだ十分な治療関係ができていないと考えても良いのではないでしょうか。

治療がうまくいくと、マスクが取れることもあります。マスクがとれて、イキイキとした顔を見られる患者さんは、この状態を是非維持するために、精神的なサポート、薬物治療、両方においてより気を抜かずにやっていかなければならないとも考えています。

2014年3月9日日曜日

睡眠相後退症候群

睡眠相後退症候群は、通常の社会生活を営むのに障害になる程度に、生体時計が遅い方向にずれている障害です。この場合、遅い方向にずれているだけなので、その時間帯に睡眠をとれば良く眠れます。典型的な例は、朝の6時から昼過ぎの1時までの7時間の睡眠が、最も睡眠を取りやすい時間帯なるというような場合です。これで生活できる職業についていれば、これで問題無いとも言えます。しかし、多くの場合は朝9時に仕事に行き、夕方から夜には仕事を終わって、帰宅し、12時ころには眠るという生活で、これができないとうまく社会生活が営めないということになります。中高生でも同じような場合があり、遅刻が多くなり、時に精神的な原因による不登校と誤られることもあります。

原因は不明ですが、生体時計をリセットする光にたいする感受性が弱いという体質を持っていることなどが考えられています。このような人は、多くは朝起きるための努力を色々としており、これが精神的な原因による不登校などとは異なっています。私が以前診ていた患者さんは、午後の授業に出席し、夕方のクラブ活動にはかならず出て、積極的に活動していました。

この疾患には、メラトニン、あるいはメラトニン作動薬のラメルテオン(武田薬品:ロゼレム)が著効する例が比較的多く見られます。この薬物は服薬のタイミングが非常に重要です。私は、だいたい午後6時あるいは7時ころに、半錠を服薬してもらっています。これは、このタイミングにメラトニン受容体を刺激すると、時計の位相が前進する(早寝早起き方向に変化する)という時間生物学の理論を当てはめたものです。正常者では、このタイミングは午後4時ころなのですが、このような人ではすでに位相が後退しているので、これよりも遅い時間が良いように考えています。ただ、実際には、ケースによってタイミングを色々と試してみる価値はあると思います。

効果があった例では、2週間後にはしっかりと11時に寝て6時か7時に起きるという生活ができており、午前中の眠気も無くなります。この疾患は、精神疾患ではなく純粋に生物時計の疾患なので、その後の精神科的なフォローは殆ど要りません。あとは、そのケースにあったタイミングで服薬するだけです。

遅刻が多く、授業中に寝ていることが多いケースをみると、睡眠専門医は睡眠相後退症候群が頭に浮かびますが、この時に注意すべき疾患がいくつかあります。ひとつはAD/HD(注意欠如多動性生涯)です。他の睡眠専門外来で睡眠相後退症候群と誤診されていたAD/HDの患者さんが居ました。これは、先に示した不登校と同時に頭においておくべき鑑別診断です。睡眠専門外来は睡眠関連疾患の治療に大きな貢献がありますが、私はしっかりと総合的に精神医学を診ることができる医師が行うべきであると考えています。

拙書 好きになる睡眠医学に更に詳しい解説がありますよ。

2014年3月8日土曜日

年をとると睡眠の質は悪くなる

10代20代の睡眠は一般にはぐっすりです。(勿論眠れないという人もいると思いますが。)眠り始めたら、布団に溶けこむように眠ってしまう。途中で覚醒することも殆ど無い。しかし、年をとると次第に睡眠は変化します。変化の仕方は以下のとおりです。

1.寝付きはさほど悪くはならない。
2.深い睡眠が少なくなる。更に高齢になるとちょっとした物音でも起きる。
3.中途覚醒が多くなる。夜中に何度も起きる。
4.早寝早起きの傾向になる。

このような変化は、加齢による生理学的な変化なので、受け入れざるを得ません。50歳になっても20歳の頃のような肌ツヤでいられたらよいですが、なかなかそういうわけにもいかず、それを受け入れざるをえないのと同じです。

こういう状態を病的だと思う人も居て、中途覚醒があるために睡眠薬を飲みたいという人も多く居ます。しかし、まずは生理学的なこういった睡眠の変化について詳細に説明すると、納得してしょうがないと思う方もいるので、安易に睡眠薬を投与することは控えたほうが良いわけです。

こういう加齢による睡眠の変化を、少しでも若返らせる方法としては、運動があります。運動は、上記の1-3の変化を若返らrせる方向に変化させます。運動と睡眠の関係については、また別項目で詳しく解説しようと思います。

2014年3月7日金曜日

ムズムズ脚症候群と周期性四肢運動障害

ムズムズ脚症候群(=レストレスレッグス症候群)は、最近名前が知られているようには思う。症状は、眠ろうと思って布団に入るなど、じっとする状態になると、脚がムズムズして動かさずには居られないような感覚が出てきて、動かすと治まるのだが、またじっとしていると出現するという厄介なものである。人によっては日中、講義や会議でじっとしていたり、こたつに入っている時に出現することもある。ムズムズの場所も足腰だけでなく、体幹などに出る人もいる。

以前は、ずいぶんといろいろな病院を巡って私の睡眠外来にやってこられた方が居た。「そんなの病気じゃないんじゃないの。」と多くの医師に言われて、一般的な睡眠薬投与で終わっていた。この疾患は、多くのケースで薬物が即効する。薬物を飲んだ日からすごく良くなる。最近はパッチ薬もある。ドパミンという神経伝達物質の活動を上げる薬物を使うわけだが、ごく少量で劇的に軽快する人も多い。

これと合併しやすいのが、周期性四肢運動障害だ。周期性四肢運動障害は、脚がぴくぴくと動く疾患で、自分ではよくわからないが、一緒に寝ている人がいるとわかる。蹴っ飛ばすような大きな動きのこともある。こちらには、ベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬を投与する。クロナゼパムという薬物である。この薬によって、朝の眠気があったりする場合は、量を減らしたり服薬時刻を早めにするなど、細かく工夫してみるとよい。

これらの疾患は、しっかりと治療できる場合が多いので、十分な知識をもってしっかりと個人の生活(睡眠時間帯や長さ、日中の生活など)も合わせて治療を指導してくれる専門医に受診すれば、生活は非常に改善して、快適になるだろうと思う。



下記の井上先生の本は一般向けにわかりやすそうです。

2014年3月6日木曜日

外来精神療法の意味

患者さんが外来にみえると、お話をして処方をするというのが通常のパタンである。この、「お話」の部分が外来精神療法(通院精神療法=通精)というものであるが、この治療にはどのような意味があるのだろうか。多分、精神科医はそれぞれのスタイルを持っていて、そこでどのような話をするのかには、精神科医それぞれの考えがあると思われる。

薬物療法について相談することも多くある。薬物療法は、精神科医療については欠かせないものなので、これについて相談することは大切である。副作用は出ていないか。患者さんが副作用と気づいていないことが実は副作用であることもある。精神的な症状と気づきにくい、様々な身体的な訴えについても丁寧に聞いて、必要であれば薬物療法を変更する。ただし、これだけだと患者さんの側から見れば、自分のことよりも薬の調節に興味があるということになるし、また実際そのような治療になってしまう。

薬物療法よりも更に大切と思われることは、その人がどのような生活をしているか、どのような内的な世界にいるのかを確認することだと思う。確認するだけでなく、それにコメントする。コメントは、多くの場合微調整を含む。この微調整は大きな意味を持っている。例えば、「退職など具合悪い時には人生の大切なことを決定しないほうが良いですよ。」などということである。そういうことは、外来に来ていなければ患者さんは、自分の考えで進めてしまうことも多い。そういうコメントをすると、ちょっと思い留まる。その会話は1分以内のことなのだけれども、これが後の人生に影響をあたえることも少なくない。

以前、あるスポーツチームの有名な監督と話をする機会があって、どんな指導をしているんですかと聞いた。そうしたところ「毎日、練習に行って、これは良い、これは悪いって言うだけですよ。」と話しておられた。これはとても大事なことで、そんなことを通じて、選手は良い方向が何かを日々の練習から確実に、そして確固とした方向として自分の中に位置づける事ができる。これは、大学院生の指導をしていてもそうだが、日々少しずつの微調整が、効率的で良い研究活動に繋がる。

このような指導は、一つ一つは本当に僅かなものであるが、これがないと誤った方向にどんどんと進んでしまう。そして、半年たったところではとんでもなく離れたところに行ってしまうこともある。それからの修正は大変である。

2週間に一度の外来精神療法はそのような意味を持っていると思う。まあ、先生の言うとおりだ。だけども、自分もそう思っていた、と患者さんは思うことは多いと思う。ただ、そうでもないことも時にはある。このような共同作業を続けることで、患者さんの良い自己決定ができるようになってくるということが外来精神療法の意味なのかなと思っている。

2014年3月5日水曜日

睡眠時無呼吸症候群とうつ病 (1)

北陸道のバス事故の原因が睡眠時無呼吸症候群かどうかは分からないが、この疾患は、すぐに治療しないと命にかかわるものではないが、放っておくと大きな問題となる疾患なので、きちんと治療しないといけない。

睡眠時無呼吸症候群は、眠っている時に呼吸が止まる疾患で、多くは閉塞性とよばれる、呼吸の際に空気の通る咽頭のあたりがペタッと(この表現が良いのかはわかりませんが、イメージとして)閉じてしまい、呼吸ができなくなるものが最も多く見られます。また、家族から見ると「いびき」も非常に特徴的です。完全に閉塞する前にかろうじて呼吸する空気が咽頭をブルブルと震わせるその音が、大きないびきとなるわけです。原因は、肥満により体脂肪率が高いということや、顎が小さく、後ろに引いているため仰向けで眠ると気道が閉じやすいという生まれながらの特徴があること、などが挙げられます。

この疾患の特徴は、眠っている間に息が止まって苦しいという自覚がないことです。したがって、「眠っている間に息が止まって苦しいので、睡眠時無呼吸症候群かと思い来院しました。」という患者さんは、そうでないことが多いです。

では、どのような症状で来院するかというと一番は日中の眠気です。その他に、起きた時の頭の重さ、頭痛、喉の痛みなど。睡眠中の症状としては、何度も目が覚める、何度もトイレにいくなどということが見られます。

日中の眠気は、エプワース眠気スケールで評価することが多いですが、眠気よりも最近私が憂慮しているのはうつ状態です。眠気があると脳機能は十分働かず、これはストレス耐性を低下させます。睡眠不足がストレス耐性を低下させるのは、国立精神神経医療センターの三島先生の研究が示すところです。そのため、ストレス状態が続き、うつ病になります。そして、精神科の外来ではうつ病の治療をするわけですが、休職などによってある程度良くなります。しかし、睡眠時無呼吸に気づかれていなければ、やはり復職するとストレスを強く感じます。

私が外来をしているクリニックでは、うつ状態の患者さんを診察するときに、必ずこの点を頭においています。この患者さんには睡眠時無呼吸があるかないか。ありそうであれば、必ず簡易型の検査をします。簡易型の検査は、器具を家に持って帰って一晩測定するだけの簡便なもので、費用は保険でカバーされます。これで、たくさんの睡眠時無呼吸を見つけました。ある患者さんは、長年抗鬱剤治療を受けていて、検査の結果睡眠時無呼吸が判明し、CPAPという無呼吸の治療を開始したところ1ヶ月で完全に服薬を中止できました。

睡眠時無呼吸が重症の人は、生命予後も良くないという結果が報告されています。昼間の眠気、うつ状態。治療者は、睡眠時無呼吸症候群も頭に置きたいところです。

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中程度以上(一時間に平均20回以上無呼吸がある人)は、生命予後も不良です。横軸は、発見されてからの年数。20回以上の場合は、死亡する割合が高いです。このデータによれば、9年で4割程度。(He J, et al, 1988)(図は、帝人ファーマのサイトで引用していたもの)

2014年3月4日火曜日

声優と社交不安障害

社交不安障害は、人前で自己紹介をしたり、権威ある人と話をしたり、レストラン等で人と食事をしたり、周りの人のいるときに電話をしたり、人前で文字を書いたりするときに非常に高い緊張感を感じてしまい、自然にそういった状況を避けるようになってしまう障害です。このような障害の人は、人前で話をしたりすることがとても苦手なのですが、社交不安障害の患者さんたちの状況を聞いていると、多くの人達が必ずしも常にそうではないと話しています。

例えば、テーマパークなどのアトラクションの説明の仕事ですが、社交不安障害の人はとてもできそうにないとも思うのですが、必ずしもそうでもないようです。話を聞いてみると、全く別の人になって言うことが決まっているので大丈夫だというのです。別の患者さんは、声優の仕事ならできると思ってそうなろうかとおっしゃっていました。声優は大丈夫という人は、複数居て、顔が出ずまた別の人になれるということで、むしろ安心できる場所ということになるのだと思います。

社交不安障害にはセロトニン神経系の活動を高めるSSRIという薬物が非常に有効ですが、一方で生活指導も大切です。このような、社交不安障害の特徴をよく理解して、無理の無い職業から入って行くようにするのが良いと思います。ある患者さんは、それができるのですが、しかし仕事の場面ではそれをずっと続けなくてはならず、突然やめてしまうということも起きていたようです。安定して継続した生活を維持することを目標にするのが良いですが、そこには本人の主観的な内的世界をよく知った上でのアドバイスも生きてくると思います。

2014年3月3日月曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (1)

このエントリーはより新しいエントリーが有ります。

より新しいエントリー      『ADHD(注意欠如多動症)の日中の眠気』
こちらも合わせてお読みください 『日中とても眠くて困っています』

睡眠専門外来を2つの医療機関で担当しています。そこには、様々な患者さんが来ます。日中の眠気で訪れる患者さんを睡眠障害の視点から、発達障害に発想を転換する必要があるケースに多くであいます。いくつかの症例をまとめて修飾してですが例としてあげますと30代の女性が他院の睡眠専門外来で過眠症で治療を受けていた。ベタナミン(覚醒作用のある、過眠症に用いられる薬剤)を投与されていまし。いまひとつ良くならないというので、睡眠専門外来を変えてみようということで来院されました。よくよく話を聞いてみると、仕事を順序立てるのが苦手で、休みの日などはぐったりと一日寝てしまうということでした。また、別の患者さんも、昼間の眠気で来院されました。この方の場合、遅刻が多い、日中の眠気などから、睡眠相後退症候群(生物時計の障害)と誤診されていました。その他にも、小学校高学年から中学生の患者さんで、学校で居眠りが多いということで指摘を受けて来院した人が何名かいます。小さい頃の様子など詳細に聞いてみると、怪我が多い、忘れ物が多いなどということも多くあったようです

【追記】このような患者さんに、ストラテラ(アトモキセチン)を投与すると、興味深いことに睡眠が改善するといいます。よく眠れるようになった。寝起きの悪さが治ったということをいう方が多くいます。ストラテラは通常、朝投与しますので、睡眠に対する直接的な効果は少ないと思われます。しかし、睡眠が改善するということは日中のノルアドレナリン系の機能亢進が、二次的に睡眠のメカニズムに好ましい影響を与えている可能性があるのかもしれないと思います。また、日中の眠気も改善します。これは、夜間睡眠の改善が日中の睡眠の改善に関わっているのか、それともストラテラの直接作用なのか、あるいはその両方なのかはわかりません。脳幹部の青斑核という部分にノルアドレナリンをつくる神経細胞があるのですが、この細胞の働きが、注意を集中するときには活発になります。アトモキセチンはこのノルアドレナリン神経系の働きを高めるため、日中の覚醒度が上がり、その二次的結果として夜間睡眠が改善するというのが考えられる作用機序です。

 先日日本に来ていて、たまたま講演を聴く機会のあった、Umesh Jain先生(カナダ人でAD/HDが専門家)に、講演後の食事会で話しを聞いてみたことがあります。自分は睡眠が専門というと、彼もAD/HDの睡眠をやっているといことで、論文を幾つか紹介してくれました。


Sleep and daytime function in adults with attention-deficit/hyperactivity disorder: subtype differences / Yoon-SYR, Jain-UR, Shapiro-CM / Sleep Medicine 14 (2013) 648–655


 この論文は、成人のAD/HDの眠気について質問紙調査したものです。これによると、なんと約85%の患者さんが昼間の眠気や睡眠の質の悪化を訴えています。夜間睡眠については、入眠困難、睡眠の中断、睡眠中の暑さなどです。ADHDにはサブタイプがあって、Inattentive(注意欠如が主体)とCombined(多動もあり)に分けて結果を解析していますが、Inattentiveタイプの方が、睡眠の問題や日中の疲労感があるようです。また、男女では日中の疲労感はInattentiveの女性が一番強いようです。

 このように考えると、注意欠如障害のひとの日々の生活の質を向上させるための治療は、注意欠如の症状だけでなく睡眠覚醒を含めて総合的に行うのが良さそうです。それで、私は、運動などもお勧めしています。コンサータなどは覚醒系の薬物なので、夜間には効果は切れているかもしれませんが、影響が出る可能性はあります。ここで、眠剤を投与することが誤りではないかもしれませんが、生活指導として運動などを取り入れながら、生活リズムを整え、夜間睡眠の質を生活から向上させることも大切であるように思われます。


しかし、何よりも、睡眠専門外来に来ても、睡眠の障害以外の可能性も考えて、きちんと診断することが、それ以前のこととしてもっとも重要であることは、言うまでもありません。専門外来は、専門的な診断治療という意味では良いのですが、このような他の疾患を見逃す可能性については、十分に注意しておくことも大切であるように思われます。

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2014年3月2日日曜日

アスリートのモチベーションから学ぶこと

アスリートやアスリートのメンタルサポートをしている人たちに関わっていると、精神科臨床でも役に立つ様々なことが学べる。先日、埼玉スポーツ精神医学懇話会を立ち上げて、少人数の地域の精神科の先生に集まっていただく会合をした。その時に、所沢メンタルクリニックの児玉芳夫先生にお話をいただき、その中で「自我目標」と「課題目標」という内容を伺った。この概念は、私は詳しくなかったので調べてみたところ、新しいところで「城西国際大学 紀要 2013 深山元良先生の論文」があった。そこから下に図を引用します。

おおまかに言えば、自我目標というのは、今度の大会で3位に入ったらみんなが喜んでくれるのでがんばろうというようなもの。しかし、これは、3位に入れない大会は、出ないでおこうということにも繋がるという。一方で、課題目標は、次は今のベスト記録を0.5秒縮めることだというようなこと。これであれば、常に前に進むモチベーションに繋がる。したがって、アスリートが課題目標を持てるように指導するのが良いという。

これで思い出すのは、以前に早稲田大学のラグビー部の医事関係のしごとをしていた時の経験だ。私が早稲田大学に移動した2003年ころ、ラグビー部は清宮監督になった。そこで変化があったのかどうかまでは知らないが、そのことラグビー部の合宿所に行くと、定期的に行われる測定(50mダッシュとか、ベンチプレスとか)の全部員の値がトレーニングルームに貼りだしてある。このような測定をひと月ごとにやり、自分の測定値と部内の順位が数値として分かるようにしてあるということだった。ラグビー部は部員数も相当多く百数十名いる。その中で、トップチーム(赤黒を着る、と言うようだ)に入れるのは、20名ほどであろう。その他の大多数の人たちのモチベーションをどう保つのか。みんな、強い向上心を持っているとは思うが、このような工夫はそれを更に高めるのだと思った。

精神科医療にも結びつく。両親に褒められることを自分の中心においているために、自分の道を見失ってしまう患者さんは少なからずいる。両親の子供に対する対応に、一貫性が無いため、これをしたら叱られないこともあれば、強く叱られることもあるということがあるために、どうして良いかわからなくなってしまう幼少時を過ごしたりする。その結果として、いつも「これでよいのか」という不安から逃れられない全般不安の状態になってしまうということもある。そういう患者さんには、課題目標を与えてあげることも大切だ。課題目標という名前は知らなかったが、そのようなことはしてきていた。揺るぎのない、自分自身でしっかりと捉えられる課題目標を持っていれば、それに向かって自分のペースで努力をすればそれで大丈夫。うまく行かなければ、うまくいくまで努力すればよいだけのことだ。それを、丁寧に励ますのが精神科医の仕事だ。

アスリートから学ぶことは多い。



2014年3月1日土曜日

電子カルテ

最近は、多くの病院、クリニックで電子カルテが導入されています。マーケットはワープロに比べて大きいと言えないので、ワープロほど使い勝手が良いとはいえませんが、紙のカルテに比べて格段に良いと私は思っています。もっとも、これは私の意見で、電子カルテなんか全然ダメと思っている先生方も多くいらっしゃると思います。

私が臨床をしているあべクリニックは電子カルテを用いています。自分が電子カルテが良いと思う理由は、少し自慢になってしまうかもしれませんが、私はブラインドタッチのタイピングが得意です。時に患者さんが、「全然見ないで大丈夫なんですかァ…。」というくらい早く打てます。したがって、患者さんと話をしながら、その会話を殆ど記載することができるわけです。もちろん、話が込み入った時には手を止めて話をし、その後要点をまとめるようにしています。しかし、紙に書くよりもよっぽどたくさん事を記録できます。

最近はサマリーを作ってそれを見ながら診察するようにしています。電子カルテでは、サマリーのパネルを出しておくことができます。これは、なかなか便利です。初診の時は患者さんの、生育史や背景について沢山の事をお聞きします。その中には、多くの場合特徴的なことがいくつもあります。両親との関係、幼少時の家庭環境、中学高校時代のこと、大学の過ごし方、どこの大学に行ったかなどです。更に仕事の変遷、結婚などなど、プライベートのことそのものをたくさんお聞きするので、初診の時のことをしっかりと把握することが大事です。そのようなことは、その後の診察時にしっかり背景に置きながら現在の話を進めていくのが理想です。しかし、たくさんの患者さんと話をしていると、細かい部分については失念することもあります。そんな時にサマリーを出しておき、診察時にそこに新しいことがあれば付け加えるようにすると、話がしっくりいきます。患者さんの側から見ても、自分が話したことをあまり覚えていない先生では、たよりなく思われることでしょう。

もう一つは、書類書きの簡便さです。精神科では、たくさんの書類が回ってきます。例えば、自立支援医療の書類や介護認定に関わる意見書などです。このような書類は、定期的に提出しますが、かなりの部分は前回と同じことも多くあります。例えば、病歴などは変わるものではないので、そのようなものの記載です。そんな時に、電子カルテでは、前回のコピーからスタートして訂正すれば良いので、非常に記載が楽です。

事務の側から見れば、電子カルテは場所をとらず、取り出しに時間もかからないので、とても楽で、これも大きなメリットだと思います。紹介状や、患者さんのメモなどもスキャンして保存しておきます。紙ベースのものは、一定期間保存して焼却処分とします。しかし、電子ベースのものは残るので、時間がたっても参照できる、場所をとらないので、廃棄しないで済むという利点があります。

クリニックや病院の電子システムは、インターネットには接続しないのが原則です。したがって、システムの中に外部から侵入されることは絶対にありません。最近は、訪問医療などで便利なようにクラウドシステムがあるという話を聞いたことがありますが、セキュリティーはどうなっているのだろうか。患者さんの大事な個人情報は絶対に外部からの侵入は無いようにしないといけないと思うので、自分としてはクラウドシステムはよほどきちんとした保証がない限りは使えないと思っています。

最近、阿部院長がキーボードを新しいのに取り替えてくれました。特に相談もなかったが、Microsoft Sculpt Ergonomic Desktop L5V-00022にしてくれました。エルゴノミクスキーボードで、最初ちょっと慣れが必要なのですが、慣れると非常に打ちやすくて、大変便利に使っています。これで、いつも患者さんとお話しながらパチパチとやっている今日このごろです。