2014年12月31日水曜日

映画: マジック・イン・ムーンライト  ウディー・アレン監督 (2014)

東南アジアに行った飛行機で、表題の映画をみました。飛行機にのると、時差対策として起きていて良い時は必ず映画を見ますが、今回は東南アジアの日中の便で、時差も最大で2時間でしたので、時差ボケはありませんでした。それで、いろいろと映画を吟味したのですが、私はどうしても戦争ものとか選びがちなのですが、今回はウディー・アレン監督の新作ということで、これを見ました。



とてもおもしろかったです。なんというか、やはりひねりの効いたストーリーで、また人の深層心理にぐいっと突っ込むようなところもあって、さらには、こんなにさらっとしたことが現実に有るのかなと言うほどさらっとしたところがあって、なんともユーモラス。

科学万能主義のマジシャンと、若く美しい霊能者。この間に繰り広げられる駆け引きが、なんとも楽しい作品です。

公開前なのでこのくらいで…。

2014年12月29日月曜日

「STAP細胞論文に関する調査結果」についての記者会見

会見の一部をニコニコ動画で見ました。委員長の桂氏は、なかなか立派な人物のように思えます。

正直、この一連の流れについては、残念な気持ちです。私は、個人的には若い研究者を応援したい気持ちですが、この流れをみると、やはり研究に対する基本的な、真実に対して真摯に取り組むという構えは、この一連の作業の中には、なかったという気がします。エビデンスの前にストーリーがあって、それを作っていくための部品を、莫大な額の国税を使ってやったということになると思います。調査委員会は、良い仕事をしたとは思います。

何が良くなかったのか?自分なりに思うことは、

1.科学競争。真実を求めるのではなく、競争に勝つことを目的にしてしまったこと。
2.若い研究者を、教育することが十分にできていなかった。多分、大学院の頃から。
3.真摯に研究に取り組み、なかなか結果が出せないが、コツコツと積み上げている研究者でなく、いわば派手に振る舞う研究者が評価される構造

莫大な額の国税を使ったということは、本当に肝に銘じて欲しいと思います。我々も、科研費をとったら、それが自分の研究が良いからもらえたと思いがちですが、その国税を使って、広い意味では国民や世界の人のために研究をやらせてもらって居るんだという意識も、しっかりと同時に持つべきだと思いました。自分自身への、気持ちの引き締めです。

対岸の火事でなく、教育のレベルからこの事件を教訓として前に進めればと思います。


会見スケジュール

①「STAP細胞論文に関する調査結果について」 10時00分~11時30分予定
【調査委員会 出席者】
桂勲 調査委員長(情報・システム研究機構 理事、国立遺伝学研究所 所長)
五十嵐和彦 委員(東北大学大学院 教授)
伊藤武彦 委員(東京工業大学大学院 教授)
大森一志 委員(大森法律事務所 弁護士)
久保田健夫 委員(山梨大学大学院 教授)
五木田彬 委員(五木田・三浦法律事務所 弁護士)
米川博通 委員(東京都医学総合研究所 シニア研究員)

②「STAP細胞論文に関する調査結果を受けて」 11時45分~12時30分予定
【理化学研究所 出席者】
川合眞紀 理事
有信睦弘 理事
加賀屋悟 広報室長

2014年12月26日金曜日

浦和レッズ クラブハウス訪問


浦和レッズのチームドクター 関芳衛先生にお招きいただいて、浦和レッズのクラブハウスを訪問しました。私は、浦和レッズのサポーターです。以前は、「レディケットイーターズ」というサポータクラブを、中学校時代の友人たちと作っていて、埼玉スタジアム2002にも、レディケットイーターズのタイルが有るはずです。(今度、探して写真をとっておこう。)家にも何本も応援旗があります。

さいたま市大原のレッズクラブハウス


関先生とは、主には選手の睡眠についてのお話をしましたが、このような現場のスポーツドクターが、睡眠管理にも興味を持っていただけるのは本当にありがたいと思いました。スポーツにはトレーニングは勿論大事ですが、睡眠はそれを下から支えるとても大事な要素でも有ります。このことが理解され、睡眠の知識が、スポーツ界に広まっていくと良いと持っています。

レッズは、エアウィーヴとも契約しており、私もエアウィーヴの受託研究をしたことが有るということから、ご縁を感じました。また、睡眠に対する意識の高いクラブと再認識しました。

しかし、浦和レッズは当のリーグ戦では、今シーズンは最後に腰砕けになって、優勝を逃しました。シーズン後半で崩れてきたということも、良い体調を保つという意味で、睡眠の重要性を示唆するものかもしれません。

しかし、なんとかアジア・チャンピオンズリーグには出場権を得たそうです。その話にもなり、私も観戦に行ってみようかと思っています。


  • グループG
    1. ブリスベン・ロアー(オーストラリア)
    2. 浦和レッズ(日本)
    3. 水原三星ブルーウィングス(韓国)
    4. 東地区プレーオフ勝者4
      [北京国安(中国)/バンコク・グラス(タイ)/ジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)/ベンガルルFC(インド)]
    試合日キックオフホームアウェイ試合会場
    2月25日(水)未定水原三星ブルーウィングス浦和レッズ未定
    3月4日(水)未定浦和レッズブリスベン・ロアー未定
    3月17日(火)未定東地区プレーオフ勝者4浦和レッズ未定
    4月8日(水)未定浦和レッズ東地区プレーオフ勝者4未定
    4月21日(火)未定浦和レッズ水原三星ブルーウィングス未定
    5月5日(火)未定ブリスベン・ロアー浦和レッズ未定

2014年12月24日水曜日

スポーツとスポーツ科学の国際化 (8) 台湾とタイを旅してみて

台湾(中華民国)は日本から見れば、沖縄の先の国ですが、東南アジアから見ると一番北の国とも言えるところです。台湾は、東南アジアというよりは、東アジアに所属しているとも言えますが、バンコクまで3時間の飛行を考えると、東南アジアからは随分と親しい国に思えます。

一方、バンコクでいくつかの大学を訪問したのですが、タイはインドシナ半島では最も先進的な国で、ASEANをリードしているように思いました。タイは、多分ラオスやミャンマーなどと今後は手を組みながら、経済文化圏を作っていくのではないでしょうか。

日本食レストランや日本製品があふれているところをみると、親日的でも有り、日本への期待は大きいと思いますが、日本語という点では、コミュニケーションは(一部の観光関連の人たちを除いて)難しいと思いました。共通語は何かとも考えますが、アジアの共通語は英語か中国語なのではないかと思います。しかし、中国語は、日本、韓国にとってはハンディーがありますし、そう考えるとやはり英語のコミュニケーションがここでも必要になるのではないでしょうか。

日本とこういった国々との関連は、今後強まっていくことは間違い無さそうですが、日本はそういった国々と、力を合わせていくという姿勢を持たなければいけないと思います。台湾は、非常に親日的で、その間に立って、大きな役割を果たしてくれるのではないかとも思います。

東南アジアとの関係は日本は良好であるように思います。多くの素晴らしい学生たちも、居ます。今後、様々な関連の中で相互の交流が発展することを期待していますし、自分自身もこれを推進していきたいと思っています。

2014年12月22日月曜日

ムエタイ

実はタイで夜時間が合ったので、ムエタイ(タイ式ボクシング、キックボクシング)を見に行きました。バンコクには、ムエタイのスタジアムが2つあり、一つはルンピニー、もうひとつはラジャダムナンという名のスタジアムです。これらのスタジアムでは同時に試合は行われないらしく、交代に行っているようでした。当日、ホテルのコンセルジュに聞くと、その日はラジャダムナン・スタジアムでの試合でした。入場料は、リングサイド席で2000バーツ、約8000円ということです。高いなぁとは思いましたが、せっかくなので同行の先生と一緒に行くことにしました。

試合は18時半からですが、19時ころに行けば良いということ、また食事は露天の食事は周りにあるけれども、レストランはないので、ホテルの周りで食事をするか、持っていったほうが良いと言われたので、食事をしてからタクシーで行くことにしました。

会場につくと、リングサイド席というのは観光客用で、そこには、日本人と白人と、お金持ちそうなタイ人しか居ませんでした。5ラウンド制で、全部で9試合ありましたが、どうも第7試合がメインイベントのようで、タイ語でなんかプログラムに書き加えてありました。タイ語は、見たことがある人は多いと思いますが、サンスクリットのような感じの文字で、全く読めません。文字は全部で40幾つかあるそうです。

ラジャダムナンスタジアムでの試合


リングサイド席の外側に、一般の席があり、その後ろに金網が張ってあって、更にもう一区画席があります。これらの席は、タイの人たち用で、自分たちもうんと慣れていれば行けるのかもしれませんが、とにかく博打用という感じでした。一人、1000バーツ位あるいは、もっとかけているのか、とにかく相当熱狂します。

試合は、第1ラウンド第2ラウンドはまあ流して、第3ラウンド第4ラウンドになると相当熱くなってきます。これで、自分が応援する選手のキックに合わせて、イー、イーという掛け声を言うのですが、自分にはイーと聞こえるこの意味はなにか分かりません。

何試合かはOKでしたが、なかなかの迫力でした。というよりも、博打をやっているオヤジ達の勢いがすごいので、圧倒されました。

タイのスポーツ文化に触れた一夜でした。

2014年12月19日金曜日

スポーツとスポーツ科学の国際化 (7) タイ

バンコックでは、2つの大学の先生方と交流をしました。タイのスポーツ科学はまだ黎明期だと思います。しかし、私が訪問した2つのトップ大学の教育レベルは高いように思います。今後、早稲田大学のスポーツ科学学術院が国際化していく中で、タイとの交流は重要な一になっていく可能性があると思いました。

タイは、2000年にアジア睡眠学会で来たことが有ります。14年後の再訪ですが、さほど大きな違いは感じられませんでした。人々は非常にフレンドリーです。しかし、英語は思ったほど街では通じませんでした。そういうものかなと思いますが、私はもっと英語が通じるのかと思っていました。

しかし、アカデミックなレベルの高い人は、英語の教養が有り、多くの人がアメリカやイギリスの博士課程を卒業しています。今後は、もっと多くの人が、日本と交流する仕組みを作っていく必要があると感じる訪問でした。

12月の気候は良好です。日本では雪が降っていると着いて、この時期にタイに来てよかったと思いました。帰ったら風邪を引かないように気をつけたいと思います。

2014年12月18日木曜日

新しい睡眠薬 (6) ベルソムラ(スボレキサント) 若年者の日中の眠気

未だ、少数例の経験しかありませんが、日中の眠気について気づいた症例があったので、ごく簡単に報告したいと思います。いずれも若年者で、高校生から20代前半くらいの人たちです。あくまでも少数例なので一般化はできないと思いますが、朝だけでなく日中の眠気が強いので、服用を中止したというケースが有りました。

オレキシンの作用の度合いは勿論人によって違う可能性がありますが、年令によっても違うかもしれません。また、これらの症例に注意欠如多動性障害(ADHD)を疑われるものが入っていたので、もともとノルアドレナリン系の作用が弱めであるところに、ノルアドレナリンの促進因子であるオレキシンをブロックしてしまうと日中の眠気が一段と強くなるということも有るかもしれません。これは病態生理による作用の違いということになるかも知れません。

以前から思っていることですが、例えばメチルフェニデートはADHDの治療薬でもあり、ナルコレプシーという過眠症の治療薬でもあるので、これはたまたまそうであるのではなく、日中の眠気というキーワードで何らかのメカニズムが繋がる部分があるのではないかとも思います。つまりADHDは、睡眠について、病態を合わせて考えた方が良いかも知れないと言うことです。

いずれにしても、何度も言いますが、まだ少数例なので、確かなことは言えません。しかしこの点を頭に置きながら、常に慎重に患者さんへの説明を丁寧にしながら、用いていくべき薬物であると思います。

2014年12月15日月曜日

スポーツとスポーツ科学の国際化 (6) 台湾

大学の仕事で台湾に来ています。台湾は3回めですが、1回めは約30年前、2回目は確か2年前の秋、アジア睡眠学会で来ました。2年前に来た時も思いましたが、台湾は本当に親日的で、とても嬉しく思います。こういった隣国と仲良くしていくことは、結局のところ東アジアの発展につながり、そして東アジアの人々がそれぞれの地域の独自性を保ちながら、ともに発展していくことにつながっていくと思います。日本は、台湾が日本に対するほど台湾への親和性を強く意識していない麺があるかもしれませんが、私は、スポーツ科学の分野で、台湾としっかりと手を結ぶことが次の世代への大きな資産になるように思いました。



食事も美味しいです。近所の普通の台湾食堂で食べましたが、一緒に来た同僚の先生と結構楽しめました。人々はとてもフレンドリーです。テーブルに話をしに来るおばちゃんも居れば、いろいろと世話をしてくれるおじさんもいます。台湾ビールと、台湾料理でとても楽しめました。


2014年12月12日金曜日

新しい睡眠薬 (5) ベルソムラ(スボレキサント)を臨床で使ってみて。

スボレキサントが発売されて二週間ほどですが、良い印象を持っています。様々な患者さんに用いました。スボレキサントは、就寝前に服用することとなっていて、だいたい30分くらい前までには飲むように指導がされています。しかしながら、スボレキサントの作用機序は、オレキシン受容体へスボレキサントが結合し、その結合がノルアドレナリンなどの神経伝達物質への神経活動の促進をブロックし、その結果として眠気が出るというものです。そう考えると、これまで使われてきた、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が、直接的に脳に有る神経細胞の活動性を全般的に下げるというメカニズムとは異なっています。ベンゾジアゼピンの一段階の作用に比べ、スボレキサントが二段構えの作用であることを考えると、作用が開始するのに服用してから、より時間がかかるのではないかと、私は考えています。

これまで、患者さんには、就寝時刻の1時間半程度早めに飲んで、どのくらいで眠くなるのかの時間を教えてくださいとお話してあります。これまで、まだ少数例ですが、服用直後はほぼ眠気は出ないといいます。しかし、だいたい1時間から1時間半くらい経つと、眠気が出てきてこのタイミングで布団に入ると、自然に眠れるという話を多く聞きます。また、中途覚醒があっても、また再入眠しやすい、ということもだいたい共通した印象であるようです。

このような、投与前の説明は大変意味があります。これまで飲んでいた睡眠薬とは違う働き方をするけれども、自然な睡眠を導入するということを丁寧に説明することで、患者さん自身も、使うタイミングを自分で探すという能動的な姿勢になります。

副作用としては、朝は眠気が有る、ちょっと起きにくいというものもあります。しかし、おきられないということはないということです。

これまでの少数例の印象では、

1.少し早めに飲んだほうが良い。
2.中途覚醒に対しては、良い効果がある。
3.朝の眠気は多少あるので、それが強い場合は、より早めに飲むか、15mgの服用にする。

などのことが良さそうに思っています。

2014年12月10日水曜日

睡眠時無呼吸症候群の口腔内装具(マウスピース)

滋賀医大の宮崎先生が中心になっている、睡眠指導士の講習会で話をした時に、赤坂で歯科のクリニックをやっておられる古畑先生という方にお会いしました。古畑先生は、睡眠時無呼吸症候群の大家で、歯科の領域で活躍しておられます。

古畑先生とお会いして話を伺ったところ、シドニー大学で開発された、睡眠時無呼吸症候群用の歯科装具の具合が非常に良いということでした。私は、簡易型で測定したところ、無呼吸低呼吸指数が9程度の軽症の睡眠時無呼吸が有ることはわかっていましたので、運動して減量にトライしたり、横向きねをするようにしたりしていました。そのことを古畑先生にお話したところ、この装具を作ってくださるというのでお願いしました。先日、この口腔内装具(マウスピース)ができて、しばらく使ってみましたのでその感想です。製品は、ソムノデントとう名称のものです。

私のマウスピース(洗ってあります)

初日は、随分と気になりました。夜中に起きるたびに、口になにか入っているなぁという感じで、その上に下顎が前に引っ張られるので、朝起きた時に、顎の関節に違和感も有りました。二日目は、大分楽でしたが、明け方起きた時に外してしまいました。三日目も明け方外しましたが、気にならずよく眠れた気がします。四日目からは、朝起きるまでつけられるようになりましたし、顎の違和感もあまりありません。

睡眠は、確実に改善しています。朝、スッキリと早くおきられるので、妻も驚いていました。睡眠の質がやはり良いようで、日中の眠気も、今まであるとは思っていませんでしたが、随分とスッキリした感じもあります。

以前、読んだ文献では、正常な人でもCPAPをすると、うつ状態が改善するとういものがありました。これを考えると、睡眠時の呼吸をきちんと管理することが、本当に日中の精神状態を改善するんだなぁという気がします。

この口腔内装具は、CPAPの機械に比べて小さく持ち歩けるので、出張などにも持っていけます。とても便利なので、毎日使うつもりです。畑中先生には本当に感謝しています。

この装具は、自費診療の範囲ですが、畑中先生のクリニックでは保険診療でカバーされるものも取り扱っています。

軽症の睡眠時無呼吸の患者さんには、是非薦めたいと思っています。

2014年12月8日月曜日

ラグビー早明戦

ここのところ、忙しくてあまりスポーツの試合を見に行けませんでしたが、今年は秩父宮ラグビー場開催となった、ラグビー早明戦を久しぶりに見に行きました。昔、今はNECに居る権丈太郎がゼミ生だった頃は、よくラグビーを見に行ったが、今はラグビー部のゼミ生もいないので、最近はしばらくご無沙汰だったということもあります。

5分ほど遅れて入っていったのですが、そうしたら既に早稲田はワントライ入れられていて、ありゃっという感じでした。席は、メインスタンドの良い所で、全体を見渡せる良い位置でした。



















しかし、その後の展開はなかな良い展開で、まもなく逆転。その後も、明治の良い時間帯は有りましたが、概して早稲田大学が優勢で逃げ切りました。最後の最後にワントライ決められたのは、ちょっと残念でしたが、試合後、都の西北を歌って、気分よく帰宅しました。

早稲田大学   明治大学
37      24

2014年12月5日金曜日

向田邦子さんのこと (2)

向田邦子さんについて調べてみると、向田さんは、飛行機事故でなくなっているようです。享年51歳ということなので、私よりも若い年齢でなくなっています。非常に惜しい人をなくしたという気がします。

私が読んだ本は、「父の詫び状」ですが、これは向田さんのご家庭の様子やご家庭に関連した様々エピソードをその鋭い感性のもとに書いておられる作品です。向田さんのお父様は保険関連の会社で、コネもない中で努力され非常に出世されたようです。しかし、家庭ではワンマンであったと書いています。向田さんのご家庭は、ご両親と妹さんと弟さん、そして父方のご祖母様が済んでおられたようですが、このご祖母様は、いわゆるシングルマザーだったようです。かなり自由奔放な方であったようですが、この点については感受性の強い向田さんが、様々な面白い描写をしています。人生を自由に生きて、非常に楽しんだ方のようですが、向田さんが子供の頃に浦島太郎の話を聞かせた際に、最後の部分で、玉手箱を開けて「白髪のおばあさんになった」と(多分)言い違えた部分があって、それを向田さんがおじいさんでしょと訂正されたようですが、その時にお祖母様は呆とされていて、答えなかったそうです。それを向田さんは、自由奔放に生きて年をとったら、知らないうちに白髪の年令になってしまった自分と重ね合わせたのではないか、というような考察をされています。

また、お父様も、かなりくせのある方だったようです。会社では、常に気を配り上司には、平身低頭の態度で仕事をしていたように書かれています。一方、自宅では相当なワンマンで、向田さんのお母さんを常に叱り飛ばすようなことが多かったようです。ただ、そこに愛情がなかった言うことではないく、そういった態度の節々に醸しだされる、愛情を向田さんも、そしてお母さんも、充分に感じ取っていた節はあります。

さて、向田さんは、自分のエピソードについても様々なことにふれていますが、計画を順序立ててやるのがものすごく不得意、やらなくてはならないことを、先送りすることが多い、仕事がどうしてもぎりぎりになってしまう、などの自分の性分が、この随筆のここそこに書かれています。このような特徴を見て、診断をするのも、気恥ずかしい思いですが、向田邦子さんのように、このような特徴を併せ持つ人が、きらめく才能を持っていることが多いのも間違のない事実だと思います。

自由奔放で面白おかしく、しかし、なかなかきちんとはやりにくい、しかし、出来上がったものを見れば、本当に光り輝く魅力のあるもの、そういう人たちがうまく社会の中で成功してくれると良いと、常日頃の仕事の中でも思ってしまいます。


2014年12月3日水曜日

DSM5 (5) Hanah Deckerの書いたDSMの歴史 解説 - その1

以前にブログに書いた、Hanah DeckerによるDSM(米国精神医学会による診断基準)の歴史についての短いコラムを紹介したいと思います。このコラムは、短いながらこれまでの米国の精神科診断基準DSM(診断と統計マニュアル)についてのオーバービューをするには非常に良い文章です。DSM-5に対しては、批判的なバイアスがあるとは思います。

Mad in Americaというサイトのコラムなので、英文を読むのであれば原文を読まれるのが良いと思います。ここでは、翻訳は著作権上の問題があるでしょうから、内容を紹介しながらコメントするように致します。

原文タイトル:
Why the Fuss Over the DSM-5, When Did the DSM Start to Matter, & For How Long Will it Continue to?
Hannah S. Decker
June 6, 2013

Fuss overという単語の意味を知らなかったのですが、「大騒ぎをしておせっかいを焼く」というような意味のようです。DSM-5はいろいろな意味で物議を醸していて、この問題は精神科医として非常に興味深いので、この問題をフォローしながら勉強しているところです。

この文章の最初の部分に「どうしてRobert Spitzerは、2007年という早い時期に、この編集に関わる秘密主義に抗議したのか?」と書かれています。私のアメリカの恩師のFeinberg先生が、DSM-5について色々と話されていたのは、あれは、2007年よりは後だったと思いますが、編集を始めたかなり初期から、編集方針に対して、批判が有ったことが判ります。また、Allan Frances(DSM IVのエディター)が、2009年にアメリカ精神医学会(APA)がDSM-5のゴールを発表した際に批判的であったこと、そして、彼を含め多くの精神医学者が、なぜ”Medicalization of Normality”という点でのDSM-5の批判をしたのか、という問が書かれています。

Medicalization of Normalityとは、正常の医療化とでも訳すのがよいでしょうか。つまり、病気でもない人を病気にしてしまって、治療する。そうすれば、医療のマーケットは大きくなり、医療全体が儲かるということです。

このようなことに関連して、DSM-5への批判として2つの事を述べています。

ひとつは、アメリカの保険制度として、病院での医療に対する保険の支払は、現場の医者が何という診断をつけるかによって、保険でカバーされる推奨すべき治療法が決まってくるということで、患者も自分の診断に非常に注意深くなるということ。

もう一つは、DSMがアメリカだけでなく、海外の言語にも訳されて、DSMによる診断は米国だけでなく世界中の人たちの生活に影響をあたえるということが書いてあります。これは、この診断によって、例えば障害者枠の雇用が可能になるかどうかや、子どもたちがどのような教育を受ける方決まってくるというようなことを示しているようです。確かに、日本でも障害者雇用の枠は広がっていて、職を求めるために、障害者の認定を受けようと積極的に考える患者さんも増えているように思います。このように、精神障害のある人達の社会への進出が増えることは、好ましいと思いますが、DSM-5がこれに影響をあたえるということは、有るのだと思います。それは、確かに注意しておくべき一面である気がします。(続く)


2014年12月1日月曜日

睡眠は、年をとると本当に短くなりますか? 読売Online(日本語版、英語版)で紹介されました。

以前、このブログに書いた、睡眠は、年をとると本当に短くなりますか?について、このレター論文を紹介する私のコラムが、読売新聞のYomiuri Onlineに掲載されました。日本語版、英語版の両方なので、広く読んで頂けるとと思い、嬉しく思っています。

もしよろしければ、御覧ください。


日本語版へのリンク

英語版へのリンク


2014年11月28日金曜日

ミルタザピン (3) 抗ヒスタミン作用

これまでの図にはありませんでしたが、ヒスタミンに対してもミルタザピンは非常に強い作用があります。ミルタザピンの副作用には眠気が有りますが、眠気を起こす作用は、不眠を伴う患者さんに対して使いやすいということが有ります。眠気はヒスタミンのH1受容体遮断作用によるものです。このヒスタミン受容体への遮断作用は、非常に強いものです。したがって、ごく少量のミルタザピンでもヒスタミンへの遮断作用がおきます。ヒスタミンの遮断は、非常にシャープな睡眠導入作用ではないかもしれませんが、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を安易に使うことを考えれば、不眠症状のあるうつ病患者さんに対して、ミルタザピンを試すのは良い選択かもしれません。

ただ、食欲に対しての少し厄介な副作用も有ります。ヒスタミンは、視床下部の食欲をコントロールする部位を刺激して、食欲を抑える働きがあります。ヒスタミンをブロックすると、この部位が働かず、満腹感が起こりにくいために食欲が増加するということが有ります。このため、ドカ食いをしてしまうということも起こるわけです。ミルタザピンを服用しはじめて、非常に太ってしまったとおっしゃる患者さんは多く居ます。したがって、この副作用は投与する前に予めお話しておいたほうがよいでしょう。

一方で、この副作用は、食欲のない患者さんに対しては治療的な効果としても発揮されるわけで、詳細に症状を聞きながら、処方を行っていくと、非常に効果的にミルタザピンを使える可能性も出てきます。

このように、ミルタザピンは非常に様々な作用を持った薬物ですが、使い方によっては一度に多くの症状を改善するという可能性もあり、臨床においても治療のための良い薬物として頭においておきたいと思っています。

2014年11月26日水曜日

大学院生合宿

毎年、この季節に大学院生の合宿をしています。今年は、早稲田大学鴨川セミナーハウスに行きました。千葉県の鴨川市(安房鴨川)にありますが、意外と遠いので驚きました。東京駅から安房鴨川まで、特急わかしおで1時間50分です。

4時頃に鴨川セミナーハウスで、勉強会をして、夜は飲み会。人間科学部から参加してくれた中国の留学生が、中国のお酒をもってきてくれて、それを少し飲みました。マオタイ酒のような白酒ウーリャン液ですが、なかなか強いお酒です。

勉強会は、「メラトニン分泌のメカニズム」「呼吸商について」「運動と睡眠の関係について」という3つのテーマについて勉強しました。

大学院のみんなと海ホタルで


翌日は、テニスをして、昼過ぎに鴨川の漁港のそばで食事をしました。私は、サザエ丼をたべて、帰りは、学生の車で東京まで送ってもらいました。その途中で、東京湾アクアラインの海ほたるに寄りました。海ほたるは初めてでしたが、とても景色のようところで、楽しめました。

なかなか良い合宿でした。

2014年11月24日月曜日

睡眠文化の講義 (鍛冶恵先生)

私が早稲田大学の秋学期に、全学向けに行っている講義「睡眠の医学」では、昨年から睡眠文化研究会事務局長の鍛冶恵先生をお招きして、睡眠文化の講義を毎年お願いしています。今年もお話をお聞きして、非常に興味深く思いました。

お話は、睡眠文化というものの考え方、寝具のお話、「ねむり衣」という睡眠文化学の言葉=眠るときに着るものの時代文化的変遷、眠りに関しての文化的背景など、大変盛りだくさんでした。この中で、いくつも興味深いことがあったのですが、一つ印象に残ったことを書きたいと思います。

北米のアメリカ原住民の文化の中に、装飾品でドリームキャッチャーというものがあります。これは、図に示すようなものなのですが、実は私も大きなのを一つ持っています。北米に住んでいた時に、アメリカ原住民の民芸店で買ったものです。しかし、これが正確にどのような意味があるのかは、よく知りませんでした。

鍛冶先生の説明によれば、ドリームキャッチャーは、言い伝えとして悪い夢を捕まえてくれるものであるということでした。このことから、北米の原住民の文化の中では、夢は外から入ってくるものと考えられているということです。


一方で、夢は眠っている間に自分自身の精霊が体から抜け出て、動きまわる間に経験するものと考えている文化も有るようです。体外離脱というようなもののようですが、鍛冶先生は眠っている人の顔にいたずらに何か書いたりすると、自分の体に精霊が戻れなくなってしまうので、それは駄目だと戒めている文化も有るという話もされていました。それがどこなのかは、聞き逃しました。

2014年11月21日金曜日

ミルタザピン (2) セロトニン(5-HT)に関わる作用

ノルアドレナリンに関わる作用を(1)で解説しましたが、ここではセロトニン(5-HT)に対する作用を解説したいと思います。解説を書くということは非常に勉強になるので、自分の勉強でもあるわけです。もう一度図を掲載します。



セロトニンへの働きは、図の②③④に示されたものです。

まず、②ですが、これは厳密にはミルタザピンそのものの作用ではありません。先に述べたように、ミルタザピンはノルアドレナリンの分泌を促進します。このノルアドレナリンは、セロトニンニューロンを興奮させセロトニンの分泌を促進するわけです。これが一つの、セロトニン分泌促進作用です。

次に③ですが、これはノルアドレナリンの分泌促進作用と同じようなものです。セロトニンニューロンにもα2ヘテロ受容体とよばれる自己受容体が有り、そこへはノルアドレナリンが作用して、セロトニンの分泌を抑制します。ノルアドレナリンは、分泌が促進されているのでこれをブロックしないとセロトニンの分泌は抑制されてしまいますが、ここをブロックするために、α2ヘテロ受容体からのセロトニンの分泌抑制がかからず、セロトニン分泌が促進されます。しかし、この他にも5-HT1B受容体というセロトニン自身の自己受容体もあり、これはブロックされません。

そして、④の作用ですが、これはセロトニン分泌促進作用ではなく、遮断作用です。ただ、これがうつ病の病態で弱まっている5-HT1A受容体は遮断せず、その他の2A, 2C, 3受容体を遮断するため、セロトニンは1A受容体に集まって作用することになり、相対的にセロトニンの働きを強めることになります。

この3つの作用は、どれも単純なものでなく、なかなか覚えられないのですが、大分自分の中でも整理されたように思います。

2014年11月19日水曜日

ミルタザピン (1) ノルアドレナリンに関わる作用

ミルタザピンは、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬で、NaSSAとも呼ばれている抗うつ薬です。日本で発売されて5年になり、私も使用しています。この薬の薬理作用は、なかなか興味深く、自分自身も常に明確に頭のなかにそれが整理されているかというと、あやふやになる部分があるので、すこしそれを整理してみたいと思っています。

ノルアドレナリン、セロトニンの他にもヒスタミンについても作用があり、これらを順番に取り上げようと思います。下記は、明治製菓ファルマが提供している、ミルタザピンの薬理作用の略図です。ミルタザピンは、日本では明治製菓ファルマからはリフレックス、MSDからはレメロンという商品名で発売されており、開発はMSDです。


まず、ノルアドレナリンに関しては、α2受容体への遮断作用があります。図の青いニューロンですがα2は自己受容体で、ノルアドレナリンを分泌するニューロン自体にくっついています。これにノルアドレナリンが、くっつくと、もうノルアドレナリンを分泌するなという分泌抑制作用として働きます。ミルタザピンはこれをブロックするので、分泌するなという作用が働かず、ノルアドレナリンがより多く分泌されるようになるわけです。

これが主なノルアドレナリンに対する作用です。ノルアドレナリンの作用が強まるという意味では、デュロキセチンに代表されるようなSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と同じようにノルアドレナリンの作用を強めますが、SNRIは取り込みを阻害するのに対して、ミルタザピンは自己受容体を介して、分泌抑制を弱めるため分泌量が多くなるという違いが有ります。

このように、ミルタザピンのノルアドレナリンに対する作用は、比較的単純です。しかし、セロトニン(5-HT)に対する作用は、非常に複雑で、これについてもまた整理してみます。

2014年11月17日月曜日

コバニ Kobani の状況を見て思うこと

トルコ、シリアの国境の街、コバニで、現在激しい戦闘が繰り広げられています。私は、この地域の紛争がどのよう収束していくのか興味があってロイターなどの報道を読むようにしています。また、コバニについては、Twitterでも検索してフォローしていましたが、本当に日夜を通じて激しい銃撃戦がこの小さな町を舞台に続いているようです。

この街には、イスラム国が侵入してきたのが9月中旬でしょうか。それ以来、街で暮らしていた人たちは難民としてトルコになだれ込みました。この地域が複雑なのは、コバニに住むクルド人はこの地域での独立を望んでいて、これはトルコにとっては厄介な存在です。トルコはこの独立運動をテロリストと考えています。

一方で、コバニに侵入してきたイスラム国もテロリストと考えられていて、トルコにしてみればテロリスト同士で戦っているように思われるわけです。したがって、当初(多分、現在も)トルコは、積極的にクルド人を援助はしていません。一方、イスラム国の排除には、現在はイラクからのクルド人も参加しているようです。トルコは当初このグループにトルコ国内を通過させないようにしていましたが、アメリカがイスラム国を排除するために、クルド人を支援し、トルコに圧力をかけ、トルコは通過を認め、現在は、イラクのクルド人がトルコを通ってコバニに入っています。また、シリアでは、自由シリア軍というアサド政権への反政府勢力が有り、これもイスラム国に対峙するように、一部参戦しているようです。また、もともとシリアに居たアルカイダ系の勢力は、これはイスラム国と協調しているようです。

このような、非常に複雑な構図になっているのですが、私が一番感じたのは、何と言っても戦争の悲惨さです。この街はここ2ヶ月、毎日毎日が破壊と殺しあいの連続のようです。街は、Twitterなどに掲載される写真を見ても本当にボロボロに崩壊しています。毎日、一つの通りを占拠した、また取られたという一進一退の状況がもう2ヶ月近くも続いています。

東アジアも、時に尖閣諸島の問題などが絡んで緊張が高まることも有ります。しかし、戦争は絶対に始めてはいけないと、このような状況をみて改めて思いました。地上戦は相手に向けて銃を発砲し、毎日毎日殺し合いをする日々です。それが毎日の全てです。やがて砲弾で街は全くの廃墟になっていきます。これまで人々が作り上げてきた街が短時間で瓦礫の山に化してしまうのです。

本当に胸が痛み、もうやめて欲しいと思うような状況がそこにあります。私は、東ウクライナの状況についてはあまり報道を追っていませんが、世界の紛争地域はすべからくそうなのでしょう。自分たちは戦争を経験していない世代ですが、親の世代から言われたことの大切さが、コバニの報道を追いながら、ひしひしと感じられました。

2014年11月14日金曜日

フルニトラゼパムの血中濃度半減期

フルニトラゼパムは、中間作用型の睡眠薬に分類されていますが、フルニトラゼパムの血中濃度の半減期は、6.8時間と書いてある正書もあって、そうであれば、短時間型に分類されるのかと思っていました。しかし、フルニトラゼパムの血中濃度の減衰曲線は二相性で、最初の12時間でみると比較的速やかに血中濃度がさがるようですが、その後の推移も見ると24時間とも考えられるということでした。


サイレース添付文書より



更に、フルニトラゼパムの代謝物は活性(睡眠薬としての働き)をもっており、この半減期を考えると、36-200時間くらいになるということでした。このことを考え合わせると、フルニトラゼパムの投与は、常にあるレベルの血中濃度が日中にもあるということを考える必要があります。

この薬物はω2ベンゾジアゼピン受容体にも作用します。この受容体に薬が作用すると、抗不安作用が発揮されるため、日中に一定の血中濃度を保つことは、日中の不安を和らげる作用もあるわけです。時に、不眠の患者さんは睡眠に対しての不安が強い場合が多く、このような不安を和らげる意味ではこの薬物を使う意味はあるようにも思います。

よく効く薬なのですが、アメリカでは持ち込み禁止薬物でもあり、慎重に量が増えないように、血中濃度の推移や依存について患者さんにも話しながら使っていく種類の睡眠薬であろうと思っています。



参考
http://www.chm.bris.ac.uk/motm/rohypnol/rohypnolh.htm

2014年11月12日水曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (4) 精神病理学的解釈

注意欠如障害に昼間の眠気が見られるということを、先日臨床心理の先生にお話しました。そうしたところ、眠気は授業中など、注意の転動があると困ってしまうのを無意識的に回避するための行動かもしれないということをおっしゃっていました。これは、確かにそういういう面もあるかもしれないなと思いました。こういった、社会性をまだもつ前の子供では立ち上がって動きまわったりするかもしれませんが、それはいけないことということが分かると、起きているといろいろなものが気になってじっとしているのが非常に辛いということになり、眠ってしまったほうが楽だということになるわけです。

これだけで、そのメカニズムを説明はできないかもしれませんが、眠気の強い子供でも好きなことに対して、周りが目にはいらないほど熱中してやるということは見られるので、このような解釈も成り立つのかもしれないと思いました。

2014年11月10日月曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (3) ドパミンの仮説

注意欠如障害の治療薬であるコンサータは、メチルフェニデート(リタリン)の徐放剤で、血中濃度の急激な上昇をさせずに、12時間程度の作用時間を保つように設計されている薬です。この薬は、下記に示すようにノルアドレナリンとドパミンの取り込みを司るトランスポーターの働きを抑えて、シナプス間隙のドパミンまたはノルアドレナリンを増やします。







脳の側坐核という部分のドパミンの放出が増えると、これが快刺激となって依存が形成されると言われています。メチルフェニデートはドパミンの作用を増強させるので、依存性がある薬物ですが、コンサータは徐放剤であるために急激な血中濃度の上昇がなく、比較的依存性が少ないと言われています。

さて、日中の眠気に関してこのドパミンはどのように働いているのでしょうか。ドパミンは、直接的にどのように睡眠覚醒に関与しているのかは、まだ良くわかっていないようです。しかし、細胞外のドパミン濃度が睡眠時よりも覚醒時に増加することが知られています。更にドパミントランスポーターが生まれつき無い動物では、ドパミンがより強く働いていることが推察されますが、そのような動物では覚醒時間が増加するといわれています。このようなことから、ドパミンは覚醒を起こさせる作用があるようにも考えられています。

従って、このようなドパミンの機能低下が場合によるとADHDの日中の眠気に関与している可能性もあります。

ところで、メチルフェニデートは、日中の睡眠発作を主症状とする過眠性疾患であるナルコレプシーにも用いられる薬物で、これを投与すると日中の眠気はとれます。多くの場合は、強い日中の眠気を呈するADHDの患者さんにコンサータを投与すると、眠気はとれます。この場合に、この眠気の改善に一体どのような神経メカニズムが関与しているのかは、非常に興味が有るところです。ナルコレプシーに欠けているオレキシンは、ノルアドレナリンにもドパミンにも作用してこれらの働きを増強させます。従ってADHDの眠気には、一般的に覚醒系全般の機能低下が関わっているのかも知れません。今後の研究が期待されるところです。



参考
ドパミンと睡眠に関わる研究の例
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6000

2014年11月7日金曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (2) ノルアドレナリンの仮説

このエントリーは前回3月に書きましたが、その後も睡眠専門外来には、日中の眠気で訪れて、注意欠如障害の症状を呈する患者さんが多く訪問しています。このようなケースに関して、推察される神経メカニズムと治療について、最近考えるところがあるのでまとめてみようと思います。

注意欠如障害は、ノルアドレナリンおよびドパミンという神経伝達物質(神経細胞同士の信号を伝達するための物質)の低下が背景に想定されます。これは、注意欠如障害治療薬の作用機序から推測されるものですが、ご存知のようにストラテラはノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、ノルアドレナリン機能を高めます。また、メチルフェニデートは、主にはドパミンの再取り込みを阻害して、ドパミン機能を高めます。

これらの薬物が関与するノルアドレナリンやドパミンは、睡眠覚醒にも関与しています。

ノルアドレナリンを神経伝達物質とする神経細胞は、脳幹部にある青斑核という神経細胞群に多く含まれています。青斑核は、ですので、ノルアドレナリンの起始核とも呼ばれています。青斑核にあるノルアドレナリン神経細胞は、長く軸索(神経線維)を伸ばして、大脳皮質全体に投射するようにノルアドレナリンを送っています。ノルアドレナリンは軸索をとおって脳全体に送られ、そこで他の神経細胞に対して影響を与えるわけです。

日本財団のホームページに良い画像があったので、転載します。


この画像をみると、脳幹部の青斑核から大脳全体にノルアドレナリン神経が投射している様子が示されています。この図の上部に「覚醒・注意」と書いてありますが、このようにノルアドレナリン神経は、覚醒に関与している神経伝達物質です。

注意欠如障害の患者さんで、日中の眠気を主訴に訪れる方が多いのをみると、一つにはこのノルアドレナリン系の機能低下が関与しているのかとも思います。

ストラテラ(アトモキセチン)を投与して、ノルアドレナリン系の機能を高めると、これが解決する成人のケースはあります。また、割合に多くの患者さんが朝の寝起きがよくなる、睡眠が安定するというようなことを言われます。今後の研究課題として、ADHDの患者さんの睡眠について、投薬前後で終夜睡眠ポリグラフを記録して、比較してみると面白いのではないかとも思いました。

しかし、小児で経験したある症例では、ストラテラではほとんど効果がありませんでした。このように、必ずしもノルアドレナリン系だけが関与しているわけでもないのかもしれません。また、薬物の効果だけで、神経伝達物質を完全に同定することも不可能だとも思います。

いずれにしても、昼間の眠気と神経伝達物質の関係については興味深く感じていますので、いろいろと考えてみたいと思っています。

2014年11月5日水曜日

文京学院 女子中学校・高等学校での講演

先日、文京区駒込駅近くにある、文京学院大学女子中学校高等学校で、講演をしました。この女子中学高等学校の一貫校は、大変ユニークな教育をしており、都内の女子高校では初めてスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されたそうです。また、このAdvanced Scienceというコース他にGlobal Studiesとして、国際化を推進するコースと、Sports Scienceのコースを作りました。来年度から正式な募集を始めるそうですが、この新しいコースの中で、新生文京学院というシンポジウムを行いました。そこに招待されて話をしました。



私は、スポーツ科学は大きく捉えれば、あらゆる学問を包含する応用科学だと思います。その話を中学高等学校の生徒さんたちにしたのですが、その中では、サイエンスだけでなく、スポーツの歴史についても紹介しました。特に、私の親しい同僚の石井昌幸先生(早稲田大学准教授)から、イギリスのフットボールのルールを統一する歴史のスライドをお借りして、多くの人が共通のルールでフェアプレイをするということは、様々な苦労があったという話もしました。

もう一つは、グローバリゼーションにおける問題です。世界がひとつになり、これは良いこともたくさんありますが、困ったことも起きてきています。この中で、Ecological Footprintの概念を取り上げて、お話しました。この概念については、批判も有りますが、しかし注意を喚起するという意味では、とても意味のある概念だと思います。

また、パレスチナ問題についても触れました。パレスチナ問題は、解決策がすぐに見るかる問題では無いのですが、ここで、パレスチナとイスラエルの子どもたちに、一緒に柔道の稽古をするなかで、お互いの融和を図ろうという山下泰裕さんの試みを取り上げました。

全体として、スポーツ科学の自然科学という側面、グローバリゼーションの中で起きてくる問題を、共通のルールでフェアプレイという媒体を使って、人々の心を暖かくし、問題を解決の方向へ導く強い力になるのだということをお話しました。

勿論、そんなに簡単なものではないと思います。しかし、早稲田大学がSGUをとり、我がスポーツ科学学術院が向かっていく方向も、そのようなところにあるのではないかと思っています。

2014年11月3日月曜日

新しい睡眠薬 (4) ベルソムラ(スボレキサント)20mgを実際に服用してみました(その2)

オレキシン受容体拮抗薬で、睡眠薬として新しく発売されたベルソムラ20mgをまた服用してみました。前回と同様、睡眠の質の向上が感じられましたが、いくつかその他のポイントがあったのでまとめてみました。
(なお、2回の服用による個人的な感想なので、一般化できるかどうかは慎重に考えたほうが良いと思います。私自身は、このような主観的な体験は、患者さんの主観的な体験を共有するときの重要な情報にして、臨床に活かしていきたいと思っています。)


1.服用時刻
通常ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、就床の20-30分位前に飲むのが良いと思いますが、昨日は服用してから入浴、その後いつ頃眠くなるかを見るために、スマホで映画を見てみました。一度の経験ですが、入浴中は全く眠気はありませんでした。気持よく入れました。就寝前の入浴は、なるべく浴室を暗くして入るようにしているのですが、それでも眠気はさほど感じませんでした。その後、ひと通り眠る準備をして、スマホは青白光カットモードで映画を見ました。その結果、映画が33分進んだあたりで、かなり眠くなりその後すぐに入眠しました。

一度の経験なので、なんとも言えないですが、オレキシン受容体のブロックが実感されるのは、場合によるとベンゾジアゼピン受容体がGABAのアフィニティーを上昇させる(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効き目が実感される)よりも、もっと時間がかかるのかもしれません。昨日の印象では、就床の1時間から2時間位前に服用するのが良いという感じがしました。しかし、その場合には、その間の行動に、外出などの必要がないほうが安全だと思います。

もう少し経験を積む必要がありますが、いずれにしても、服用時刻については十分に考えて見る必要があるかもしれません。これは、患者さんにそのように説明しないと「効かない薬」と最初に評価が下ってしまう可能性があるからです。トリアゾラム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の超短時間作用型)よりも、眠気に対する切れ味は悪いのかもしれませんが、使い方をきちんと考えれば、患者さんも実感として良い薬と考えてもらえるからです。これは、ラメルテオン(メラトニン受容体作動薬)の場合も同じように感じました。

2.睡眠の維持
睡眠の維持は、もともと中途覚醒に悩んでいる人でないと、実感はしっかりないかもしれませんが、私の主観では睡眠の維持は良かったように思いました。通常、夜中におきることは有りますし、服用時にも中途覚醒はありました。しかしその後の入眠は、ベルソムラ服用時には、さほど意識せず自然に入眠したように思います。逆に、ベルソムラを飲んでいても、中途覚醒が全くなくなるということもなく、覚醒を抑制する薬物としても、何かあってもおきられずに眠りっぱなしで居るということは無さそうです。また、朝の起床時の感覚は、やや眠気が強いようには思いました。普通に起きることができ、活動できますが、若い時に朝眠いなぁと思うようなあの感覚がありました。これは、スボレキサントの血中半減期が12時間ということにも関連があるのではないかと思います。オレキシンと競合して、覚醒がおきるので血中濃度だけで眠気が決まるわけではないということもありますが、それでも朝眠いという感じはあるのではないでしょうか。これは、気持ちのよい眠さでも有りますが、遅刻の要因になるかもしれませんね。

3.服用量
今回は20mgしか持っていなかったので、20mgを服用しましたが、高齢者用の15mgでも(私のような特に睡眠に問題のない人には)十分かなと思いました。長期連用の副作用は、特に注意はされていないのですが、ベンゾジアゼピンのように側坐核のドパミン放出促進をさせないのであれば、依存は形成されず、睡眠の質が向上するという意味では良いと思います。連用の問題は、日中の眠気や認知機能低下があげられると思いますが、この影響がどの程度なのかは今後の課題になりそうです。データでは、認知機能への影響はないと報告されています。

私は、さほど重症でない患者さんには、10mgくらいの低容量を使いながら、日中の活動性上昇や、生活を規則正しくするなどの生活療法を併用しながら、不眠を改善していく方法が良さそうではないかという感覚を、個人的には持ちました。現在、10mg錠はありませんが、高齢者向けに15mg錠はあります。このような低容量投与も含めて臨床的には、実際に利用しながら学んでいきたいと思っています。

受診は: すなおクリニック(大宮駅東口徒歩3分) へ

2014年10月31日金曜日

ベンゾジアゼピン系薬物の依存性とドパミンの放出

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、非常によく使われます。また、ベンゾジアゼピン系の薬物は、精神安定剤、あるいは抗不安薬としても一般の臨床でよく使われます。この薬は、生体内にあるGABAという神経を抑制する神経伝達物資の働きを上げることによって、様々な神経の働きを抑制し、その結果として眠気や、鎮静の作用が出るものです。

この薬は、生命への危険は非常に低い安全な薬と言っても良いと思います。生体内にあるGABAという物質の利用効率をあげるので、最大限でも生体内にあるGABAの働きを最高に高めるという点でいくら飲んでも働きには限りがあるということがあります。ただ、多量に服用すれば確実に強い意識障害の状態になりますので、容量を厳格に守ることは重要です。過量服薬の結果、嘔吐をして気管が閉塞しても意識が低下しているためにそのまま亡くなるケースもありますし、そうでなくても一方の腕を下にして、寝返りなく眠り続けた結果、神経麻痺がおきるケースもまま見受けます。

いずれにしても注意は必要ですが、最も注意を必要とするのは依存性があることです。薬物の依存性は、殆どは腹側被蓋野(VTA)から側坐核(N. Accumbens)に投射するドパミン神経のドパミン放出を促進する作用によるものです。この経路は報酬系と呼ばれていて、これによって気持ちが良くなり、依存が生まれるというものです。

ベンゾジアゼピンの依存に関連した神経経路 VTAからN. Accumbensへのドパミン神経が活性化される

ベンゾジアゼピンは、この経路の活動を強めるため依存が生まれるわけです。したがって、安全だからといって簡単に投与していると、患者さんはやめられなくなるということが有ります。使用法によっては良い薬なので、使用を禁止する必要はありませんが、このような知識は臨床家はきちんと持ちたいところだと思います。

2014年10月29日水曜日

私が監修したヒーリング・ミュージック (5) Refine~赤ちゃんのおやすみ~


赤ちゃんおやすみというタイトルのこのCDは、赤ちゃんが眠れるような工夫をして作ったCDです。疲れて帰ってきたお父さんやお母さんの気持をほぐしてくれる赤ちゃんですが、疲れている中でなかなか寝付かず、イライライしたという経験をお持ちの方も多いと思います。「おおい、もうそろそろ寝てくれよ。」いう思いで、いろいろな工夫をされたことでしょう。このCDは、赤ちゃんがお腹の中に居た時の心臓の鼓動で安心するなどの理論や、赤ちゃんをお持ちのお父様やお母様の経験から、どのような音楽が眠りやすいのかを議論し、それを作曲家の西村真吾氏に伝えた上で、音楽を作成、更に修正を加えて作ったものです。

オルゴールのような、高音を主体にしたものと、胎内の様子を模した低音を主体にした曲の両方が入っています。赤ちゃんの様子を見ながら、赤ちゃんにあった曲を選んでいただけると思います。

是非、お試しください。

下記のリンクからアマゾンでも購入できます。

アマゾンへのリンク




















タワーレコードにも有ります(リンク)!


収録内容

1あなたのオルゴールメリー
2ママとおひるね
3ちいさなおてて
4ずーっといっしょ
5どんなユメをみているの?
6だっこでおねんね
7しあわせみぃつけた
8かわいいねがお

2014年10月27日月曜日

新しい睡眠薬 (3) スボレキサントを実際に服用してみました

スボレキサントの作用機序については、既に述べましたが、MSD社から発売されてサンプルが手にはいりましたので、実際に自分で服用してみました。一度服用しただけですので、一般化できませんし、人によって主観的な経験は異なりますので、まだ使用経験をまして行かないといけないと思います。その上での感想です。


まず、ベンゾジアゼピンとはかなり異なった印象です。眠気が出てくるという点では、あまり強くありませんでした。しかし、睡眠の質は向上しているように思いました。勿論脳波はとっていませんが、睡眠の持続が良いような印象も受けました。

スボレキサントの半減期は短い(約12.2時間)ですが、受容体占有の半減期などが調べられています。また、内因性のオレキシンと競合的に受容体を専有するので、朝起きて、オレキシンが分泌されると、働きが弱くなるということでした。確かに寝起きも悪くはないと思います。いつもよりも、朝起きた時に少し眠くて気持ちが良いなという感じはあったように思いますが、眠くておきられないというようなものではありませんでした。服用したのが10時半ころで、起床したのが6時半ころです。

実際に、不眠症の患者さんに使う場合に、オレキシンの効果をブロックし、メラトニンを高めるという意味で、ラメルテオンと併用してはどうか、あるいは、ベンゾジアゼピンと併用はどうかということが、考えられます。

まだ、使用が可能になったばかりの薬剤なので、慎重に考える必要はありますが、作用機序がユニークな薬剤なので、併用も含めて、使用経験を更に積み重ねたいと思っています。

2014年10月24日金曜日

新しい睡眠薬 (2) スボレキサント

オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントがいよいよ発売されます。私はまだ使用経験がありませんが、この睡眠薬はこれまでのベンゾジアゼピン系睡眠薬と比較して、全く新しい作用機序であるところが注目されます。簡単にいえば、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳の神経の働きを全体に低下させます。全体というと語弊がありますが、ベンゾジアゼピンGABA-Clチャンネル受容体複合という、GABAが作用して神経の活動性が下がるスイッチは、かなり広い範囲の脳神経についています。ベンゾジアゼピンはその機能を高めて、神経の働きを低下させやすくするわけです。したがって、神経の働きの低下により、眠気や鎮静作用が起きてきます。

スボレキサントは作用機序は根本的に異なっています。オレキシンという、覚醒に作用する神経伝達物質が作用する受容体(作用点)をブロックして、一定時間オレキシンが働きにくくする。それによって、眠気が出るという作用機序です。このオレキシンは、日中に分泌が多いですが、夜間も分泌されているため、これをブロックすることでより安らかな睡眠が得られるというのが説明です。

発売開始するMSD社の説明によれば、このスボレキサントは、血中濃度は比較的すみやかに低下するのですが、オレキシン受容体のブロック作用は朝まで続き、朝起きる頃にちょうどその作用が切れるということで、睡眠の導入だけでなく、睡眠の維持にも効果があるということでした。

実際の使用経験がまだ無いので、またこれについて使用経験が出てきたところで報告したいと思います。来月くらいから次第に使われるようになるのではないかと思います。

ただ、不眠症に関しては、新しい薬に過剰に期待するのはあまり良い考えではないと思います。睡眠は24時間全体の中で考えるべきで、日中の活動性の上昇(運動)や、睡眠覚醒のリズム、食事などにも気をつけて、より健康的な生活を営むということが最も重要な事と考えられるでしょう。そのことは忘れないようにしたいものです。

2014年10月22日水曜日

私が監修したヒーリング・ミュージック (4) 快適な運動

ヒーリングミュージックのいくつかのタイトルを取り上げて、個別に解説してみたいと思います。

「快適な運動」というこのタイトルは、運動をするときに流す音楽として作りました。勿論、普段かけて調子よく仕事をして頂いても結構ですが、本来的な目的は運動をするときにし易いことが目的です。収録した曲は、表に示したとおりですが、ここで見ていただきたいのは「テンポ」を併記してあるところです。テンポは 回/分で示してあって、一分あたり何拍かを示していますが、90から100位だと、ウォーミングアップやクールダウンで用いるくらいのテンポです。したがって、テンポを見ながら、自分の運動に合わせた曲を選択するとよいでしょう。

自宅で、サイクルエルゴメーターをこぐときも、ウォーキングをするときも、ジョギングをする時も、自分のテンポにあわせた曲を選べます。ただ、イアフォンを使うときは、交通事故にはくれぐれも気をつけてください!実はわたしは、ジョギングをしていて自転車と衝突して、重症ではありませんが相当痛い思いをしたことが有ります。

外で運動するときには、交通には気をつけて、是非このCDを利用し、健康な心と体を作ってください。

01. はじまりの場所へ(テンポ:100)
02. 露草のにおい(テンポ:120)
03. さわやかな海風とともに(テンポ:130)
04. ハートのみちしるべ(テンポ:140)
05. 光の小道(テンポ:150)
06. あすへのときめき(テンポ:160)
07. 草原を駆け抜ける(テンポ:170)
08. 夕暮れの静けさ(テンポ:90)


2014年10月20日月曜日

イスラム世界の精神医学

ここのところ、動きが非常に盛んになっている「イスラム国」に不安を感じます。このイスラム国の活動は、その残虐性に驚きますが、イスラム国設立に共感する人たちが多くの国から参加していることも報道されていています。

先日、日本からも北海道大学の休学中の学生が、イスラム国に渡ろうとして逮捕されました。このような事態についても、憂慮しています。一方で、イスラム世界と欧米との関係は大変複雑で、イスラム国を狙った、米国によるシリア領土内の空爆もその是非が問われている面もあります。

更に、この地域は、産油地域ということも有り、世界が看過できないということもこの紛争に別の意味付けをしている面もあります。我が国の立場は欧米寄りですが、私は日本は現状以上にこの地域の問題に踏み込むのは避けたほうが良いように思っています。問題は複雑で、日本はむしろ中立を保つことで、この地域に貢献できる面もあるのではないかと思います。

このようなことをも背景に、最近はイスラム圏から日本に来る人も増えています。このようなことから、イスラム世界での精神医学はどんなものなのだろうと思いました。文献を調べてみましたところ、以下の様なものが有りました。

Psychiatry and Islam.
Pridmore S1, Pasha MI.
Australas Psychiatry. 2004 Dec;12(4):380-5.

この文献には、イスラムの社会のあり方についての解説があります。一神教である、ユダヤ教やキリスト教とは、違いというよりも類似点が多いと書いてあります。イスラム教においては、唯一の神であるアラーを信じるという共通の観念の中で、社会が成り立っていて、そういう意味で個人よりも社会全体の福祉が重んじられるということです。そういった中で、精神医学は西欧の基準から言えば、限られたものだとも言っています(Psychiatric services in Islam, according to Western  standards,  are  somewhat  limited. )

しかしながら、医学という側面からは、例えば漢方医学ほどの大きな違いは無いのではないかとも思います。一般的に言ってパキスタンなどの精神医学者の多くは、アメリカに留学していたりもするので西欧と大きな違いは無いのではないかと思います。一方、社会精神医学という視点から見ると、アラーのもとでの社会全体の福祉を優先するということもあり、このような点で違いが見られるかもしれません。

私自身も、時々外国の方々の診療をしています。中国や韓国の方々が一番多いですが、英語を話す白人の方の診療もします。私自身は、外国語は英語しか話せませんので、それ以外の言葉だけの方はほぼお手上げです。この中には、英語を話すイスラム圏の方も居ます。

このような人たちの診療では時に興味深いなと思うことも有ります。それは例えば「食欲はどうですか」という質問に対して、「あまりないが、現在ラマダンなのでむしろ楽だ」という答えが帰ってきたりする時です。また、昨日、帝京大学溝の口病院精神科教授の張先生の話を聞いて、イスラム教徒には自殺者が非常に少ないことも知りました。しかし、このようなときも、診療というレベルでは、結局のところ、患者さんの主観的世界をなるべく中立的に感じていくという、精神医学一般における重要な実践を行っていくということに尽き、特に他の人の診療と変わるということもありません。

このようなイスラム圏の患者さんに対する私の経験は、まだ全く浅薄なものなのですが、イスラム世界のことを知れば、もう少し深い話ができるのかもしれません。私の経験は、まだまだですが、先の論文の最後の部分の下記の文章は、精神医学の持っている中立性を示している気もして、興味深く思いました。

Like  Islam,  the  profession  of  psychiatry  cuts  across ethnic  and  national  boundaries.  The  profession  can make a contribution to world peace through thoughtful respect, inclusion and cooperation.

2014年10月17日金曜日

私が監修したヒーリング・ミュージック (3) 全10タイトルの完成

私が監修したヒーリングミュージックCDの全10タイトルが完成いたしました。

これは、作曲家の西村慎吾さんと組んで、制作した力作の10タイトルです。西村さんのホームページを見ていただくと、このページの中に10タイトルが含まれています。この10タイトルは、かなり綿密なやりとりを、作曲家としています。曲の全体のイメージを伝えたり、時にはコード進行のモデルを伝えたり、電子音のニュアンスを伝えたりしました。出来上がったもののテンポや、ビートについても議論し、何度も作りなおしています。

名前だけで監修したものでないので、是非多くの方々に聞いてほしいと思います。

10タイトルは以下のとおりです。

○ 癒しのSPA
○ ストレスの解消
○ 癒しの自然音楽
○ 赤ちゃんおやすみ
○ 贅沢なリラックス
○ 快適な運動
○ 穏やかなマタニティー
○ ポジティブな気持ちに
○ 快適な睡眠
○ 集中力を高める

最近は、私の診療をしている あべクリニック の待合室でも流してくれていて、これはなかなか好評です。





Amazonなどでも購入できますので、是非興味のある方はご購入ください。

2014年10月15日水曜日

国際睡眠障害分類 第2版から第3版への変化 (1) 不眠症の分類の大きな変化

不眠症についての原稿を依頼されて、その準備をしています。不眠症の患者さんは私自身も非常に沢山診療していますが、それぞれ個性があります。そう言い始めれば、どの患者さんにもそれぞれそのバックグラウンドがあって、患者さんのそういった背景を考えながら診療しなければ、良い診療はできません。

そのような中で、比較的純粋な不眠症を「精神生理性不眠症」と呼んで、治療してきました。治療法としては、非薬物治療として、運動療法や、認知行動療法をします。また、薬物療法として、睡眠薬を投与します。

しかし、この診断についても、患者さんの背景には、本人の性格傾向やストレスの影響などがあり、実は純粋な「精神生理性不眠症」というのは、なかなか難しいなと感じることも多くありました。

今年発刊された、国際睡眠障害分類の第3版の不眠症の項目は、そういった意味で非常に大きな変化が有りました。これまで、細かい不眠症のサブタイプがあげられていたものを、慢性に不眠になる慢性不眠症と一括したのです。図に、第2版から第3版への違いを掲げましたが、このように大きな変化をした理由について、この本の中では、臨床的にもこのようなサブタイプの純粋な患者さんは稀だから、と書かれていました。

不眠症の分類の変化


この考え方は、私自身の診療の感覚とも非常に一致していて、共感しました。患者さんには、それぞれその背景となる特徴があり、それらを総合的に治療していくことがもっとも重要だと考えているからです。

今回の改定は、不眠症に関しては良い方向に向ったように思います。ただし、一方で、細かい要因を学べなくなるということはあまり好ましくなく、これについても専門医はしっかりと知識をつけていく必要が有ることも忘れてはいけないでしょう。

2014年10月13日月曜日

睡眠は、年をとると本当に短くなりますか?

最近、Sleep and Biological Rhythms(睡眠と生体リズム)という学術誌に、私が投稿した、Letter to the Editorという短い文章が掲載されました。原文は英語ですので、これを解説する文章を書きましたので、それをブログにも掲載しようと思います。最近の様々な、講演会で、年をとると睡眠時間は短くなるということが言われていて、本当にそうかどうかの疑問を投げかけたものです。高齢者は、不眠を訴えることも多く、そんなに眠らなくても大丈夫ですよ、と言うことは悪く無いと思うのですが、エビデンスはしっかり捉えて、例えば昼寝などを含めて、高齢者により適した睡眠を事実の中で捉えていくことの大切さを訴えたかった面もあります。



厚生労働省は11年ぶりに睡眠の指針を見直し、健康づくりのための睡眠指針2014として、睡眠12箇条を発表した。これは、国民が良い睡眠を取るために重要な心得が盛り込まれており、多く国民の健康増進に貢献する良い内容であるとおもわれる。
その中で、高齢者に睡眠に関連した記述に、一部誤りと思われる項目があるので、その点について、日本睡眠学会およびアジア睡眠学会の英文学術誌である “Sleep and Biological Rhythms” に、これを指摘するレター論文を投稿した。これは、審査の末掲載されたので、この点を広く知っていただくため、解説の文書を作ったものがこの文章である。

指摘は、厚生労働省の睡眠12箇条の中で、

9-②年齢にあった睡眠時間を大きく超えない習慣を
脳波を用いて客観的に調べると、夜間に実際に眠ることのできる時間(正味の睡眠時間)
は加齢とともに短くなるのに対して 3Ohayon et al. 2004)、実生活では年齢が高くなるほど寝床に就いている時間は延長している 4NHK2010 国民の生活時間調査)。これは、高齢者の多くは仕事や学業などの日中の制約から解放され、十分な時間を睡眠に充てることが可能であることが原因と考えられる。ただし、必要以上に長い時間、寝床に就いていると、中途覚醒が出現し、熟眠感が損なわれ、不眠を呈しやすくなることが指摘されている 1Wehr et al. 1999 ことから、注意が必要である。

とする箇所があり、寝床に就いている時間は長いが、実際に寝ている時間は短いとしている部分についてである。これは、スタンフォード大学のOhayonらの研究とNHKの調査を引用している。Ohayonらは、睡眠効率=寝床に就いている時間のうち実際に眠っている時間の%を算出して、これが高齢になると低くなる、つまり睡眠効率が低下するというデータを多くの夜間睡眠の研究を集めた解析から算出している。このデータによれば、夜間実際にとれている睡眠の時間は短くなっている。
一方で、NHKの調査は、夜間睡眠だけでなく24時間の中での睡眠時間について調査である。この指針にも書かれているように、高齢者は昼寝や夜間の睡眠など一日何度も眠ることが多くなり、NHKの調査では、昼寝も含めた睡眠時間を調べていることになる。このように、調査によって夜間睡眠を調べるものもあれば、日中の睡眠時間を含めているものもあり、データを見る場合には注意が必要である。この点は、この指針の中の他の部分でも説明されている。
しかし、ここに引用した9-②では、これを区別せずにまとめて議論している。つまり、寝床に居る時間は24時間の中で昼寝を含めて測定し、実際の睡眠時間は夜間の睡眠時間を見ているということである。これは明らかな誤りであるが、新聞報道ではそのような図が用いられている。朝日新聞と日本経済新聞の電子版に掲載された図が下記のものである。




上記は、朝日新聞電子版に掲載されたもの。



上記は、日本経済新聞電子版に掲載されたもの。


そこで、NHKのデータを24時間内の寝床に就いている時間として用い、その中での睡眠効率をOhayonらのデータをもとに算出して、24時間の中での昼寝を含めた実質的な睡眠時間を推定的に算出してみた。その結果がこの文章に掲載された以下のものである。

内田作成のグラフ(論文に掲載されたもの)


点模様の棒グラフは、NHKの生活時間調査に基づいた各年代の平均睡眠時間を、グレーの棒グラフは、これにOhayonらのデータによる睡眠効率をかけあわせて得た、実質睡眠時間の予想値を示している。これを見ると、高齢者では、睡眠効率は著しく下がって入るが、睡眠時間は長くなっている。
このようなことから、新聞報道などで用いられた図は明らかに誤りであり、訂正されるべきものであると考えられる。今回の試みからは、特に統制されない生活環境課では、日本人高齢者の睡眠時間は4050代の睡眠時間よりも長くなっている可能性が推測される。しかしながら、これは、実際に調査測定したものではない。日本人高齢者の寝床についている時間と実質の睡眠時間を統一的に調査した研究はまだなく、これを調査することは、高齢者の睡眠の実態を明らかにする上では重要な事であろうと思われる。この点は、大切であると、このレター論文の査読者からも評価を受けた。