2014年12月3日水曜日

DSM5 (5) Hanah Deckerの書いたDSMの歴史 解説 - その1

以前にブログに書いた、Hanah DeckerによるDSM(米国精神医学会による診断基準)の歴史についての短いコラムを紹介したいと思います。このコラムは、短いながらこれまでの米国の精神科診断基準DSM(診断と統計マニュアル)についてのオーバービューをするには非常に良い文章です。DSM-5に対しては、批判的なバイアスがあるとは思います。

Mad in Americaというサイトのコラムなので、英文を読むのであれば原文を読まれるのが良いと思います。ここでは、翻訳は著作権上の問題があるでしょうから、内容を紹介しながらコメントするように致します。

原文タイトル:
Why the Fuss Over the DSM-5, When Did the DSM Start to Matter, & For How Long Will it Continue to?
Hannah S. Decker
June 6, 2013

Fuss overという単語の意味を知らなかったのですが、「大騒ぎをしておせっかいを焼く」というような意味のようです。DSM-5はいろいろな意味で物議を醸していて、この問題は精神科医として非常に興味深いので、この問題をフォローしながら勉強しているところです。

この文章の最初の部分に「どうしてRobert Spitzerは、2007年という早い時期に、この編集に関わる秘密主義に抗議したのか?」と書かれています。私のアメリカの恩師のFeinberg先生が、DSM-5について色々と話されていたのは、あれは、2007年よりは後だったと思いますが、編集を始めたかなり初期から、編集方針に対して、批判が有ったことが判ります。また、Allan Frances(DSM IVのエディター)が、2009年にアメリカ精神医学会(APA)がDSM-5のゴールを発表した際に批判的であったこと、そして、彼を含め多くの精神医学者が、なぜ”Medicalization of Normality”という点でのDSM-5の批判をしたのか、という問が書かれています。

Medicalization of Normalityとは、正常の医療化とでも訳すのがよいでしょうか。つまり、病気でもない人を病気にしてしまって、治療する。そうすれば、医療のマーケットは大きくなり、医療全体が儲かるということです。

このようなことに関連して、DSM-5への批判として2つの事を述べています。

ひとつは、アメリカの保険制度として、病院での医療に対する保険の支払は、現場の医者が何という診断をつけるかによって、保険でカバーされる推奨すべき治療法が決まってくるということで、患者も自分の診断に非常に注意深くなるということ。

もう一つは、DSMがアメリカだけでなく、海外の言語にも訳されて、DSMによる診断は米国だけでなく世界中の人たちの生活に影響をあたえるということが書いてあります。これは、この診断によって、例えば障害者枠の雇用が可能になるかどうかや、子どもたちがどのような教育を受ける方決まってくるというようなことを示しているようです。確かに、日本でも障害者雇用の枠は広がっていて、職を求めるために、障害者の認定を受けようと積極的に考える患者さんも増えているように思います。このように、精神障害のある人達の社会への進出が増えることは、好ましいと思いますが、DSM-5がこれに影響をあたえるということは、有るのだと思います。それは、確かに注意しておくべき一面である気がします。(続く)


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