2014年3月31日月曜日

睡眠薬・精神安定剤などベンゾジアゼピン系薬物を服用していると認知症のリスクが高まるという報告

2012年9月27日に出版された、「Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study(ベンゾジアゼピンの使用と認知症の危険性:前向き集団研究)」というフランスの研究者の論文を読んだので解説します。タイトルの後半の、前向き集団研究というのは、集団を対象とした研究で、ある集団をフォローアップしてその後どうなったのかをもう一度調べて比較検討したものという意味です。精神科のクリニックでは、ベンゾジアゼピンを投与する機会が多いので、興味がありました。

原典のURL: http://www.bmj.com/content/345/bmj.e6231

研究のデザインは、まずは、5年間の観察期間をおいてその間にフォローする人たちに、ベンゾジアゼピン系薬物が投与されていないこと、そして、認知症がないことを確かめます。そして、その後15年間にわたってその人達をフォローしています。この研究では、狭義のベンゾジアゼピン系薬物だけでなく、マイスリーやアモバンというような、ノンベンゾジアゼピン系睡眠薬なども含まれています。ノンベンゾジアゼピン系の薬物は化学構造が違うだけで、ベンゾジアゼピンと同じような薬理作用を持っているからです。

この研究の特徴は、スタート時平均年齢78.2歳という高齢者を対象とした点です。ベンゾジアゼピン系薬物は、早ければ10代の人から投与されますので、この研究がすべての年代に当てはまるかどうかは不明である点も注意が必要です。

結果として、対象となった1063名(スタート時平均年齢78.2歳)のうち、15年間のフォローアップで、252名が認知症になったと確認されました。そのうち、ベンゾジアゼピンを使っていた人の割合は、使っていない人よりも多いというものです。下記に、原典のグラフを示します。横軸がフォローの年数で、縦軸は最初を1として、認知症になっていない人の割合がどのように変化していくのかを示しています。赤の点線のベンゾジアゼピンを使っていない人よりも、青のベンゾジアゼピンを使っている人のほうが、認知症になっていない人は早く減少しています。つまり、認知症になった人の割合が早く増えているということです。






著者らや、この研究で、ベンゾジアゼピンを連用していると認知症のリスクが高まると指摘しています。しかし、別の考え方をすれば、ベンゾジアゼピンを投与される結果になった人たちのなかには、認知症に関連する精神症状が前駆症状あるいは初期症状として出現し、医師がそれに対してベンゾジアゼピンを投与した可能性もあるわけです。つまり、認知症が発症した人に最初はわからずベンゾジアゼピンを投与したということもあり得るわけです。

では、このような研究でどうしたらはっきりとベンゾジアゼピンが認知症の発症に関連したといえるのでしょうか。もっともクリアなデザインは、スタートの時点で全く同じ特徴をもった2群の人たちを作って、片方にはベンゾジアゼピンを投与し、もう片方には投与せずに15年経過を観察するというような研究です。しかし、このような研究は、不必要な人たちにベンゾジアゼピンを長期投与することになり、実際には不可能です。

これが、この研究の解釈をする上での限界になるように思います。つまり、この研究からはベンゾジアゼピンが認知症のリスクを高めるとまでは言えないということです。

しかし、臨床的には、やはり高齢者には特にベンゾジアゼピンの使用は慎重になっておいたほうが良いと思います。筋弛緩やだるさ等から歩くのが億劫になり、高齢者にみられる筋肉量の低下に拍車がかかり、歩行が困難になる原因にもなり得ると思われます。このような状態が長く続く中で、認知症のリスクが高まる可能性も有り得ます。

一方で、確実にベンゾジアゼピンが認知症を起こすということも言えず、特に若年者にベンゾジアゼピンを投与することを、過剰に心配する必要もないとも思います。たとえば、30代の人で不安や睡眠障害のある人に、少量のベンゾジアゼピンを一定期間投与するということは認知症のリスクを高めるのでやめた方が良いということは言えないということです。

このような研究は、批判的に読むだけでなく、参考になる知見についても評価して、実際の臨床に知識のエッセンスを生かしていくのが良さそうです。

2014年3月30日日曜日

睡眠日誌

診療ではどのような場合もそうですが、その患者さんがどのような問題を抱えているのかを総合的に評価し、患者さんの状態を把握することが大切です。精神科の診療では、患者さんの様子を伺うときに、たとえば、「よく眠れていますか?」と質問して、「よく眠れるようになりました。」と患者さんが答えると、カルテには、「よく眠れるようになった。」と記載するというような具合で、客観性に乏しい面があります。

睡眠障害に治療をする場合に、このような主観的な記述でなく、少しでも客観的に患者さんの睡眠状況を把握するために、睡眠日誌をつけてもらっています。睡眠日誌は、簡単なもので、以下のURLにたくさんそのサンプルがあり、ダウンロードすることができます。

睡眠日誌をつけるとわかることはいくつかあります。一つは、毎日の平均睡眠時間がどのくらいであるのか。またこれは、毎日同じくらいの時間眠っているのか、それとも長かったり短かったりばらつきが大きいのか、ということも含まれます。ある患者さんは、時々朝早く起きてしまうのでどうしたらよいかという訴えをされました。睡眠日誌を見てみると、時には10時間、時には6時間と、毎日の睡眠時間がまちまちでした。長く眠った次の日には、早く起きてしまったという記録でした。そこで、毎日の就寝時刻と起床時刻を一定にするように指導をして、これは良くなりました。

さらには、どのような時間帯に睡眠をとっているのかも、睡眠日誌でわかります。これは、概日リズム睡眠障害の治療にはとても役に立ちます。毎日明け方の5時から眠って、昼頃に起きるという生活をしている方の場合は、このような疾患の可能性があります。たまたま早く起きても、午前中はぼーっとしているというような場合です。あるいは、高齢者で午後の遅い時間帯に昼寝をしている様子がわかる場合もあります。これにより、夜間不眠が起きていることもあります。

睡眠日誌に、食事や運動の時間帯を書き込んでもらうこともあります。そうすると、毎日の生活の様々な様子がさらにわかることもあります。

みなさんも、自分の睡眠の状況を把握するためにつけてみてはどうでしょうか。自分の睡眠に注意が向き、睡眠時間の改善に役立つかもしれません。


国立精神神経医療センター
http://www.ncnp.go.jp/pdf/hos_guide_s_outpatient_detail07_02.pdf

日本大学医学部部附属板橋病院睡眠センター
http://www.med.nihon-u.ac.jp/hospital/itabashi/sleep/sleepdiary_2weeks.pdf

過眠ランド
http://kaminsho.com/professional/tool/diary.html

SUIMIN-net 可愛らしいもの
http://www.suimin.net/topics/yamane/suiminnisshi.pdf

2014年3月29日土曜日

パニック障害の認知行動療法

西埼玉心と体の研究会という、私が世話人をしている会が先日あり、千葉大学の清水栄司先生から、パニック障害の認知行動療法についてのお話を伺いました。

まず、名称ですが、パニック障害にせよ他の障害にせよ、英文名のDisorderを障害と訳すのは、患者さんにとっては抵抗があるため、清水先生たちはこれを変更するように学会に働きかけているそうです。我々も、患者にお話しするとき、障害という名称でお話するのは、やや抵抗があります。これを、たとえば「パニック症」などという翻訳名に変えるわけです。これは採用されそうだとう事でしたが、良いことだと思います。

パニック障害はパニック発作によって特徴付けられる病態ですが、パニック発作はDSM5の診断基準では、

「下記のうち4つ以上の症状を含む強い恐怖あるいは強い不快感が突然起こり、10分以内にその頂点に達する。(A discrete period of intense fear or discomfort, in which four (or more) of the following symptoms developed abruptly and reached a peak within 10 min) 」 (拙訳)

となっています。症状は13個あり、

1.動悸,心悸亢進,または心拍数
2.発汗
3.身震い,または震え
4.息切れ,または息苦しさ
5.窒息感
6.胸痛,または胸部不快感
7.嘔気,または腹部不快感
8.めまい感,ふらつく感じ,頭が軽くなる感じ,ま
たは気が遠くなる感じ
9.冷感(悪寒),または熱感(hot sensations)
10.異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
11.現実感喪失(現実でない感じ)
12.コントロールを失うことに対する,または気が狂
うことに対する恐怖
13.死ぬことに対する恐怖

(塩入:精神経誌(2012)より訳語引用)


このような発作は、パニック障害の患者さんで繰り返し起こるということが診断の基準になっています。そのために、患者さんは外出を控えるようになったり、電車などに乗れなくなったりし社会生活が大きく障害されます。

このようなパニック障害の治療には、薬物療法が著効する例も多くあります。一方で、パニック障害の認知行動療法が治療的効果をあげることはよく知られています。しかしながら、この認知行動療法は、診療報酬点数化されていないために、治療として外来でしっかりと認知行動療法が行われることはあまり多くありません。

清水先生たちは、厚生労働省に働きかけて認知行動療法が点数化されるよう活動されています。また、一方で治療効果のエビデンスを明らかにするために、千葉大学の施設で認知行動療法の治療も行っています。

下記のURLが、その臨床研究のホームページで、無料で最高水準の認知行動療法を受けられるようです。お近くの方は、ぜひ試されると良いと思います。

http://www.chibasad.com/pd/index.html

また、清水先生の本もためになりそうです。私も読んでみようと思います。


2014年3月28日金曜日

注意欠如障害ADHD ADD にみられる日中の眠気 (2)

以前にもこの問題について書きましたが、その後も発達障害を専門としている先生にお話を伺ったりして、やはり昼間の眠気だけでなく、様々な睡眠障害のケースがあるようでした。ここのところ、睡眠専門外来にも、同様の主訴の方が多く見えて、治療にあたっています。高校生女子の割合が比較的多く、ADHDの症状は、様々です。診断できるかどうかのボーダー程度で、さほどADHDの症状で日常生活が障害されているほどではないが、幼少時のことを伺うと、その傾向がありそうだという方から、学校生活に支障をきたしている方までです。高校2年生が多いのは、これから受験でこのままでは勉強が難しいということからでもあるようです。

しかし、日中の眠気は同様で、眠気のパタンは、夜遅くまで起きていて日中は眠いという、睡眠相後退症候群(DSPS)に類似しているような訴えです。夜中のほうが頭が冴えているので、明け方近くまで起きていて眠る。眠ると相当長く眠って、休みの日などは午後になってしまうこともある。学校にいくと、眠気がひどく眠ってしまう。遅刻も多いということです。ただ、純粋なDSPSに比べると、テストの日など行かなくてはいけない日は、きちんと起きられたり、テストも受けられたりします。したがって、DSPSとは病態は異なっていると考えています。

この治療は、多くの場合、病態や治療について現状で考えられることを十分に患者さんと保護者に説明をして、治療へのモチベーションを確かめます。治療へのモチベーションを高めるように、高校生本人の今後の進路への希望なども聞いて、それを実現する目的に沿った治療をするということもお話するようにします。また、保護者にも治療の方針を説明します。

睡眠は、早く眠ることが可能なケースもあるので(ここが、DSPSと異なるところ)、早く眠るようにしてもらいます。それでも、昼間眠いという場合もありますが、生活習慣としてそのようなことを続けるというところから始めます。比較的長時間睡眠者出る可能性もあるので、一定期間は睡眠時間を延長して、日中の眠気がどう変化するかについても聞いてみます。入眠困難がある場合には、メラトニン受容体刺激薬(ラメルテオン)を用いたり、睡眠導入剤などを少量用います。同時に、睡眠日誌をつけてもらい、それによってどのような生活をしているのかをモニターし、同時に本人に生活習慣を改善するモチベーションにもしてもらいます。睡眠が改善した上で、どのくらい生活が改善するのかをみて、更に必要であれば、ADHDに対する薬物療法をするというようにします。

前回も書きましたが、このようなケースについて睡眠専門外来では、誤診されることが多くあると思います。また、ADHDと独立した睡眠障害が併存していて、確実に誤診かどうかわからないケースも有ります。2006年に出版された、「ADHDの小児における睡眠覚醒について」という総説論文では、この問題についての知見は、まだ充分でないとの見解でした。実際に、発達障害の専門家の先生方と話をしても、十分に明らかになっていないという印象です。しかし、患者さんは、特にこれから受験を控えた患者さんは困っていて、このようなケースに対する治療ストラテジーが早く確立されると良いと思っています。

2014年3月27日木曜日

うつ病において、重要な判断をするタイミング

うつ病の患者さんでは、多くのケースで職場での問題があります。問題は、勤務時間の問題から、上司や同僚との問題、仕事の内容が自分に合わないなど、さまざまです。そういう中で、いろいろなストレスを感じ、うつ状態になり会社を休職するということになるケースが多くあります。そういった中で、これではだめだ。職を変えよう。という判断をされる方がいます。

こういうときに、なるべく症状が良くなってから最終的な決定をするようにお勧めしています。具合悪いときは、現状を客観的に正確に把握することが難しい場合も多いからです。たとえば、同じやめるにしても、傷病手当をもらって、しばらくは会社に所属し、その後退社して失業手当をもらうことになれば、しばらくはある程度の収入が確保できるということもあります。また、会社の方でも様々な福利厚生があり、時には配置転換を考えてくれて、その後働きやすい部署に異動できることもあります。

このような、様々な可能性について、落ち着いて考え、判断する力は、うつ状態がひどいときには必ずしも十分ではありません。そういう中で、仕事を辞めてしまって、つらいストレスを切り離してしまいたいという気持ちから、決断をしてしまうことがありますが、そういうときには、私は積極的に介入します。可能であれば、家族とも話をし、そのような判断が客観的にも妥当かどうかの意見を聞き、先に延ばすことができるのであれば、そのようにして、良くなった上でも退職が妥当であればそうすれば良いとお話しします。

そのような中で、安全で妥当な道を選べるようになるケースは少なからずあります。

2014年3月26日水曜日

眠っているときに起き出して、横で眠っている奥さんを殴る - レム睡眠行動障害

「眠っているときに起き出して、横で眠っている奥さんを殴る」という疾患があります。必ずしも奥さんを殴るのが症状ではなく、軽症であれば寝言、さらには起き出して壁を殴って手をけがする、階段から落ちてけがをするなどということもあります。

「レム睡眠行動障害(RBD: REM sleep Behavior Disorder)」という疾患です。この疾患は、バーキンソン病など脳の変性症(神経内科の疾患)の始まりの症状として出てくることもありますが、私が診ている多くの患者さんは、必ずしもそのような疾患に発展していません。多分、そのような患者さんは、変性疾患による神経症状も出現して、主には神経内科に受診しているのではないかと思います。

症状は、軽いものでは寝言。小声の寝言だけでは、治療の対象とはならないと思いますが、大声で怒鳴るような寝言であれば治療の対象になり得ます。さらに重症になると、ベッドの上に座る姿勢になり、寝言を言う。殴るような行動をする。さらには、起き出してまとまりのあるような行動をする。多くの場合は、暴力的、攻撃的な行動です。背景にストレスがあるように思えることもあります。配偶者は、このような行動が自分に対する深層心理の憎しみを表しているのではないかと悩むこともありますが、これは必ずしもそうでないように思われます。

私の患者さんで多いのは、飲酒習慣のある方です。このような方は飲酒の習慣をやめると、多少症状が改善することもあります。しかし、多くの場合は薬物を用いて治療します。用いる薬物は、ベンゾジアゼピン系薬物です。多くの場合は、クロナゼパムという薬物を寝る前に服用します。これを服用すると、9割方の患者さんでは症状が改善します。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はレム睡眠を抑制するので、これも効果が出るメカニズムの一つになっていると思います。パーキンソン病の場合は、この治療を行うことで改善することもあります。

治療の目標としては、行動があったり、大声でねごとを言うという症状であれば、少量の薬物で症状が消失すればよいですし、行動がある人の症状が、時々寝言を言うくらいまで改善すれば、それでよしとしています。クロナゼパムには、ふらつきなどの副作用があるので、症状を完全になくすことを目標にすると、過剰投与になってしまい、夜トイレに起きたときに転んで怪我をするなどの危険があるためです。

2014年3月25日火曜日

STAP細胞その後 (1)

STAP細胞に関連したさまざまな報道をなるべく読むようにしていますが、ゴシップネタのものが多いです。驚いたのは、朝日新聞デジタル版に3月24日に掲載された、『小保方さん、『大人AKB48』で歌手デビュー!(うそ)』という記事。朝日新聞までも、このような揶揄を乗せるのかと思うと、愕然とします。科学者がこのような、下品なコラムに取り上げられること自体が、信じられない思いです。

【*その後朝日新聞からお詫びが出ています:
おわび 「ウソうだん室」について 2014年3月26日
 3月24日に掲載した連載「ウソうだん室」第3回は不適切な内容と判断し、同日中に削除しました。理化学研究所の小保方晴子さんを取り上げましたが、小保方さんをはじめ、関係者のみなさまにご迷惑をおかけしたことをおわびします。】

その中で、日本経済新聞は、科学の本質を追っていて読んでいて実質的な情報が得られます。『STAP細胞、解明へのシナリオ 遺伝子解析 決め手 』という記事ですが、STAP細胞の報告が、報告の通りであるとすれば、どのような実験的事実を集めなければならないかを、比較的わかりやすく書いてあります。

STAP細胞研究の詳細について、私自身は十分な知識があるとはいえませんが、このような再生医療につながるこのような基礎研究は、非常に重要なものであることに間違いはありません。科学研究の最前線で、いい加減なデータによって、事実でないものを事実と報告することは許されないことですが、内容も理解せずそのような研究の本質がくだらない周りの圧力でつぶされてしまうということも残念なことです。

理研や日本の科学者の善意を信じて、一部の問題点を解消できる機会とし、医学の進歩のための本質的な発見の芽を摘み取らないようにしていかなければいけないように思います。