2014年6月30日月曜日

第110回 日本精神神経学会 (2) 患者さんの自動車運転

「患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン」が、日本精神神経学会で配布されていました。このガイドラインは、学会員向けのものです。また、シンポジウムにも出席してみましたのでこれらについての感想を少し書いてみたいと思います。

平成25年の道路交通法では、運用基準として、患者さんが問い合わせた時には、具体的に疾患名を提示し、それらについて運転の可否を示すことになっています。しかしながら、私の受ける印象として、患者さんが自分の診断名を知っている場合に、警察に「実はわたしはこれこれこういう病気なのです。」と話すことは非常に大きな抵抗があると思いますし、大きなストレスを感じることになると思います。また、実際に、精神疾患によって交通事故を起こる確率が上がるというデータは、全くないということです(シンポジウムより)。したがって、一過性の急性精神病状態で運転に万が一問題があったとしても、それは、例えば高熱のために運転がままならないということと何ら違いがないということです。したがって、このような特定の精神疾患を取り上げて、法律の運用を行うことは、偏見にほかならないということは言えると思います。

これらの法律は、てんかん発作をもったドライバーが発作のため意識を失い、子どもたちの列に突進し死者が出るという非常に痛ましい事故がおきたために、ご遺族の強い活動がおこり成立したといういきさつもあるようです。しかし、私は疾患を持った人について吟味して運転しないようにするということで、このような事故が無くなるとは思えません。むしろ、このガイドラインが示すように、積極的に担当医師が運転について患者さんに関わるということが大切なのではないでしょうか。これは、この法律運用に関わるうえでリストされている疾患だけでなく、どのような疾患でもしっかりと医師が、危険運転が起きないように指導するということが大切だという意味です。

実際に、このガイドラインでも、こういった可能性が予想される場合には積極的に医師が、運転をしないような指導をすべきであるとも述べています。これは、非常に大切なことです。私は、やはり医師が積極的に関わることが大切だという教育を普及することが、抑制の効果があると思います。

私が診療の中で、注意が必要だと思うのは、過眠症や睡眠発作のある患者さんです。このような患者さんには、充分に注意を与えるようにしています。決して、威圧するようなプレッシャを与えないように配慮しながら、眠気によって事故の起きる可能性や、治療によって症状が回復する可能性などについて説明するようにはしています。その中で、症状が安定してから慎重に運転を考えるようにお話することが多くあります。また、交通事故を回避するのは、やはり自己責任が最も大切で、自分が危ないと思ったら絶対に運転はしてはいけないということもお話することもあります。更には、仕事が関わってくる場合には、仕事場の側の疾患に対する理解などについても充分に情報を聞いた上で、どのように対処するのかを一緒に考えるようにはしています。

交通事故を避けるように努力することは、最も大事なことです。しかし、この中で、まったく根拠となるエビデンスのない偏見によって、精神疾患の患者さんが不利益を被ることはあってはならないと思います。


===引用:一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について==

http://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20140410.pdf

2 運転適性相談窓口の充実等
(1) 問い合わせへの適切な対応
免許の拒否又は取消し等に関する事項や免許の取得等に関する問い合わせに対しては、運転適性相談窓口(以下「相談窓口」という。)や警察署において、制度の趣旨、内容等を十分説明するとともに、免許の取得又は継続(以下「免許の取得等」という。)に係る具体的な運用基準について照会がなされた場合には、別添の「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」を教示するなど適切な対応を行うこと。



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