2015年3月25日水曜日

精神生理性不眠症(Psychophysiological Insomnia)という診断

精神生理性不眠症(Psychophysiological Insomnia)は、いわば純粋に不眠の病態だけがあり、背景に他の疾患がないものというふうに考えられている、不眠症です。この診断名は、国際睡眠障害分類の第2版(ICSD2)では、項目としてあげられています。しかし、昨年刊行された、睡眠障害国際分類の第3版(ICSD3)では、精神生理性不眠症という項目が削除されています。不眠症は、図に示したような持続時間による分類のみになっています。この背景には、純粋に不眠だけという病態はほぼ無いということがあげられると書いてあります。実際に、このようなことは実臨床の経験ともよく一致する考え方で、これについては、「こころの科学」にも書きました。


先日、精神生理性不眠症の講演をした際に、聴講されていた内科開業医の先生から、精神生理性不眠症は、ICSD2の分類ということは分かったが、WHOの国際疾病分類(ICD)や、米国精神医学会による診断統計マニュアル(DSM)などでは、どうなっているのかと質問されました。

その時に、自分は必ずしも十分に正確に答えられなかったので、調べてみましたところ、以下の論文がありました。

Buysse DJ, et al. Clinical diagnoses in 216 insomnia patients using the International Classification of Sleep Disorders (ICSD), DSM-IV and ICD-10 categories: a report from the APA/NIMH DSM-IV Field Trial.  Sleep. 1994, 17(7):630-7.

これは、なかなか的を得た論文でした。1994年の論文なので、国際睡眠障害分類はまだ第1版ですが、「216例の不眠症患者における、ICSD, DSM-IV, ICD-10による診断」というものです。興味深いので、結果の表を3つ掲載します。一つ目は、ICSDとDSM-IVの対比、二つ目は、ICSDとICD-10の対比、三つ目は、DSM-IVとICD-10の対比です。

図は、見にくいので、大きくして見ると良いと思いますが、ICSDのPsychophysiological Insomniaは、ほぼ全てがDSM-IVのPrimary Insomniaと診断されています。

二つ目の図は、ICSDとICD-10ですが、これではPsychophysiological Insomniaはほぼ全てがNon-organic Insomniaとなっています。

三つ目の図は、DSMとICDですが、これは、なかなか興味深い結果です。DSMでPsychophysiological Insomniaに対応する、Primary Insomniaは、ICDでは、Non-organic Insomniaとほぼ診断されています(51例中44例)が、ICSDでNon-organic Insomniaと診断されているものがDSMでの診断がどうなっているかをみると、179例中44例がNon-organic Insomnia、1例がDelayed Sleep Phase Syndrome、112例がInsomnia/Mental Disorder、21例がSubstance Induced Insomniaになっています。

この三つ目の図が一番興味深かったです。この結果をみると、ICD-10による不眠症の診断は、必ずしも病態を丁寧に描出できないという印象も持ちます。

新しくなった、ICSD-3の分類が他の分類とどうか変わるのか新しい調査が必要になってくると思いますが、臨床の場では、不眠症の患者さんが100人いれば、100人その背景は違うので、結局のところは、患者さんの特質にあわせてきめ細かいケアをするということに行き付き、診断そのものの重要性は、二次的なものと考えられるのかもしれません。


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