2015年5月25日月曜日

エアウィーヴ: 寝返り研究の思い出

この5月24日の朝日新聞の第6面に、エアウィーヴ代表取締役会長の高岡本州(たかおかもとくに)さんの記事が出ていました。その中に、私の研究室との共同研究についても取り上げていただきました。この記事に書かれているように、私のところに初めてエアウィーヴの方が見えたのは確か2008年だったと思います。エアウィーヴの担当者は非常に熱心で、エアウィーヴを購入してくれた人の反応は非常に良いのだけれども、何が良いのかということを科学的根拠をもって示したいのだという、その頃社長だった高岡さんの希望を伝えられました。また担当者の方々も非常によく勉強してきており、私の書いた「好きになる睡眠医学」を本当に熟読して、エアウィーヴで睡眠をとると、深いノンレム睡眠である徐波睡眠が増加するのではないかという仮説まで持って、そのための実験をどうしたら良いのかという具体的な案を出されました。

企業からの話は、多くの場合は売れる結果を出してくれという意図が強すぎて、研究結果も都合が悪ければ出さないというものもありますが、エアウィーヴは非常に真摯な姿勢で良い印象を受けました。実際に、寝具を変えることで、初日からその日の睡眠の質が著しく異なるということは難しいと思います。特に大学生などを研究の対象とすると、若者はどのみちよく眠るので良い寝具でもソファーの上でも爆睡してしまい、差がないという結果になりがちです。

そこで我々は、この寝具の特徴が何かということを抽出できるような研究が何なのかという事を時間をかけて議論をいたしました。2009年のことです。その結果、「寝返りのしやすさ」というものを、客観的測定値を用いて示すという研究をするという結論に達しました。エアウィーヴと比較対象として、低反発ウレタンマットレスを用いました。また、更に全く沈み込まない硬いタイルの床に毛布を敷いた場所のデータも測定しました。その結果が、エアウィーヴのホームページ(←リンクあり)に出ているものです。このリンクの先にあるデータは、このような様々な試行錯誤の結果に出てきたものです。測定に用いる筋電図の位置などについては、その頃私の研究室の助教だった、運動生理学の専門家である現立命館大学准教授後藤一成先生や、助手であった現上武大学の関口浩文准教授などのアドバイスも受けました。
左側の赤い下線の部分に私との共同研究についても言及されています

このような結果のなかで、更に科学的データの蓄積をエアウィーヴが行っている様子は、私も非常に好感をもって見守っています。

最近、高岡さんから紹介されて拝見した「ガイアの夜明け」というテレビ番組では、米国のIMGでの研究が紹介されていましたが、これには世界的な睡眠学者であるスタンフォード大学の西野精治教授が関わっています。西野教授は、私がまだアメリカに留学する前にスタンフォード大学を訪れた時に、まだ米国に渡ったばっかりの西野先生とお会いしてからの交流がありますので、もう25年余りになります。寝具の評価は、一日だけの睡眠の変化でなく、長期間毎日使った場合にどのような変化が出るのかということが一番重要だと考えられますので、IMGにマットレスを導入し、そこでマットレスを使用した選手のパフォーマンスを丁寧に測定する研究手法は、2008年にエアウィーヴの方が我々を訪れた時に、私も寝具の評価として行うべき実験パラダイムと考えたものです。時を経て、しっかりと研究に対する姿勢を崩さないエアウィーヴの熱意は素晴らしいと思います。

先日競合会社の社員が、寝返りは20回程度するのが良いということをテレビで話しているのを聞いて、一体何を根拠にそのようなことが言えるのかと少し腹立たしく思いました。しっかりした科学的根拠に基づいたデータというのは長い年月の中での試行錯誤の結果出てくるものです。人の睡眠には非常に個人差があります。その個人差の中で、最大公約数としての快適な寝具を作るという作業は、長い年月の中での絶えまぬ努力の成果なのです。

高岡本州さんともこの中でいろいろな交流がありました。高岡本州のご実家はもともと日本高圧電気という高圧線の部品を作っている会社でした。高圧線の部品は、定期的に交換が必要ですし、必要な会社に部品を納入するルートができれば、そんなに競合会社が出てくるわけではないので、安定した経営ができます。しかし高岡さんは、お父様が作った会社を継ぐだけでは気がすまなかったのだと思います。もともとノーベル賞研究者を多く排出している名古屋大学の工学部で勉強された理系の方なのですが、経営でも自分自身のアイデンティティを得たいという強い気持ちがあったのだと思います。父親が築いたものだけでなく、自分自身の築いたものを世に出したいという気持ちが、まさにこのエアウィーヴの経営に生きていると思います。このような高岡さんの経営に対する姿勢は、私自身も、業種は違いますが、生き方として多く学ばせていただきました。

このようなことで、私自身は、これからもエアウィーヴを応援していきたいと思っているわけです。

受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ
当院は、エアウィーヴを採用しています。

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