2015年5月27日水曜日

境界性パーソナリティ障害について

以前にも紹介しました、Depression Strategyの境界性パーソナリティ障害の特集号をMeiji Seikaファルマの方からいただきました。この小冊子は、先端医学社から発刊されているものです。以前紹介したうつ病の記事と同様に、今回も内容の深いものでした。

今回は、帝京大学の林直樹先生が境界性パーソナリティ障害のOverviewを書いています。林先生は現在帝京大学におられるようですが、私は東京都精神医学総合研究所に居た頃に、同じ研究員として同じ施設で仕事をしたことがあります。林先生は、パーソナリティ障害についてよく考えておられて、本も書いておられます。私も林先生の図に掲げた「パーソナリティ障害」という著書はよく参考にさせて頂いています。


このDepression StrategyのOverviewには、境界性パーソナリティ障害の概念が簡潔にまとめられているのですが、この疾患の名前は、統合失調症に近縁だけれどもそこまで確定的に考えきれないケースを示すところから来ていると説明されています。私が精神科に入局した頃、この概念も盛んに議論されていしたが、私自身の理解では、精神病と神経症の境界にあると考えていました。実際、そう書いている著書もあります。一方、この一群の病態を呈する患者さんがが単一の疾患に属するのかというような『疾病論的位置づけ』については、未だに確定的な結論には至っていないようです。

境界例の患者さんは、下記の診断基準にもあるように不安定さの継続が特徴なのですが、林先生の著書などで学んだことは、治療的にアプローチされた患者さんの多くが、改善しているということです。ただ、同時に自殺率が高いのも特徴で、この点については注意が必要だということ指摘されておられます。

個人的には、根気強い支持的な精神療法が大切だと思います。しかし、一方で、治療の枠組み(診療時間の中だけ)で治療するのが時に困難になる場合もあり、入院施設の有る大きな治療施設が適しているケースも多く有るように思います。

生物学的背景もあるということですが、私はそれだけでなく養育環境などの環境因が大きいとも思います。ただ、同じ環境だったとしても社会的に安定した生活を送れる人もいることを考えると、他の精神疾患と同様に、境界性パーソナリティ障害も素因と環境因の双方が関連しているのでしょう。

薬物療法も有効だと思いますが、治療者が患者さんと注意深く距離を保ちながら継続的に治療ができる様配慮することも、もう一つの非常に重要なポイントだと思います。治療には、高い技量と忍耐のいる疾患だと思います。

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 【境界性パーソナリティ障害の診断基準】
 対人関係、自己像、情動などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる、以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
 
(1)現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力(注:(5)は含めないこと)
(2)理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式
(3)同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識
(4)自己を傷つける可能性のある衝動で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀運転、過食。注:(5)は含めないこと)
(5)自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
(6)顕著な気分反応性による感情の不安定性(通常は2-3時間持続し、2-3日以上持続することはまれな、挿話的に起こる強い不快気分、いらだたしさ、不安)
(7)慢性的な空虚感
(8)不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難
(9)一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状

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