2017年4月29日土曜日

週刊朝日「眠らなきゃでも眠れない」の虜にならないように

現在書店に並んでいる「週刊朝日」の「健康寿命を延ばす快眠法 − 極上の眠りに浸る」に、筑波大学櫻井先生、国立精神神経医療研究センター三島先生、とともに私のインタビューが掲載されています。

取材を担当された山内さんも非常に熱心な方で、睡眠についてよく勉強されていました。他の先生方も話しておられますが、やはり十分な睡眠時間を確保することはとても大事なことです。一方で、こう眠らなければならないと過剰に注意が向いてしまう結果、「眠らなきゃでも眠れない」の虜にならないようにしないといけません。

患者さんたちと話をしていると、このように睡眠に過剰な注意が向いてしまう背景には様々な生活上の要因があることがわかります。

睡眠の問題を睡眠をみるだけで解決することは、多くの場合はできません。その患者さんを取り巻く様々な背景をしっかりとお聞きして、患者さんが語るその背景から、ときに自分でも気づいていない生活上の問題をとりあげ、それを同時に解決していくことも大事です。

高齢者の場合には、これに対してなんとかしてあげたいと懸命に頑張る家族の訴えを傾聴することもとても重要な事になってくると思います。

その中に、生活を改善する運動習慣や食事の問題なども取り入れながら、患者さんの興味を他に持っていくことが大事だと思います。このような視点で話をしていくと、時には、睡眠の問題から他の問題に主たる話題が移っていく場合もあります。

この記事は、そういった意味でも、正しい内容によって構成された良い記事で、一読の価値があると思います。

2週間店頭に並ぶようなので是非お買い求めください。

2017年4月21日金曜日

アンドレアス・イオアニデス博士との再開

以前、理化学研究所の脳科学研究所でを訪問して、脳磁図の研究をしていたころの共同研究者、アンドレアス・イオアニデス博士から連絡があり、久しぶりにお会いしました。急な連絡で、東京駅のレストランで1時間ほどの食事をする、短い時間でしたが懐かしく時間を過ごしました。

多分、10年ぶりくらいだと思います。以前も思いましたが、彼は思い込んだら諦めないという、良い面とそうでもない面の両面性をもった研究者で、それゆえに脳磁図(MEG)というどちらかというとマイナーな研究方法を丹念に突き詰め、数学的手法を駆使して脳機能を解明するという研究を行っていました。私は、睡眠という視点から睡眠に関わる脳の解剖学的な構造を明らかにするという興味をもって、共同研究をしていました。研究そのものはとても大変なものでしたが、論文にもあるように、メキシコの研究者や、ギリシャの研究者、ドイツの研究者などが加わって、国際共同研究のやりかたなども学べたと思います。この時の経験が、早稲田大学で国際担当副学術院長になったときの業務に行きてきたとも思っています。

相変わらず、熱心に脳機能に話す彼に久しぶりに会って、脳機能と精神機能の関係について、いままでの経験を臨床に結びつけていく、そしてわかりやすく患者さんにお話するということの大切さに思いを馳せるランチでした。


Cereb Cortex. 2004 Jan;14(1):56-72.
MEG tomography of human cortex and brainstem activity in waking and REM sleep saccades.
Ioannides AA1, Corsi-Cabrera M, Fenwick PB, del Rio Portilla Y, Laskaris NA, Khurshudyan A, Theofilou D, Shibata T, Uchida S, Nakabayashi T, Kostopoulos GK.


2017年4月18日火曜日

双極性障害のうつ状態に対するドパミン作動薬の使用

Dopaminergic Agents in the Treatment of Bipolar Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis

AG Szmulewicz et al. Acta Psychiatr Scand. 

上記の論文が、最近登録したCareNetに紹介されていました。

双極性障害のうつ状態に対して、抗うつ薬を用いることは、躁転(躁状態に変化すること)の可能性があって、注意が必要です。通常は、双極性障害は、気分安定剤を用いて治療することが行われていますが、ときにうつ状態をもう少し改善したいということが有ります。

http://call-for-addiction-treatment.com/
bipolar-disorder-causes-symptoms-treatment/
こういったときに、ドパミン作動薬を用いる方法が示唆されています。
ドパミン作動薬は、睡眠医学的な観点からは、過眠症治療薬として用いられています。
また、神経疾患の治療薬としては、パーキンソン病治療薬としても用いられています。

この論文で取り上げられている薬物は、

modafinil モディオダール ナルコレプシー治療薬、睡眠時無呼吸症候群の日中の眠気に対する治療薬
armodafinil ラセミ体のモダフィニルの中からR体のみを単独分離したもの(Wikipedia)
pramipexole ビ・シフロール。パーキンソン病治療薬。レストレスレッグス症候群の治療に用いられることがある。
methylphenidate リタリン、コンサータ。ナルコレプシー治療薬、ADHD治療薬
amphetamines 覚せい剤に指定。米国では、ADHD治療薬。ノルアドレナリンおよびドーパミンの放出促進と再取り込み阻害作用がある。

などです。日本で用いることができるのは、モディオダール、リタリン、ビ・シフロールですが、私はこれらを双極性障害のうつ状態に使用したことはありませんでした。しかし、この論文の結果からは、これらの薬剤の使用により、反応率や寛解率が上昇するとされています。また、抗うつ薬とちがい、躁転の危険性(mood switch)は上昇しないということなので、そういった意味での安全性もあるかと思います。

ただ、これらの薬物の幾つかは、報酬系のドパミン活動を上昇させ、精神依存を引き起こす可能性のある薬物でも有ります。この点に対の注意は必要であると思います。

モディオダールは、双極性障害への適応はありませんので、推奨はされませんが、適応外処方として用いる可能性はあるのではないかとも思います。また、最近話題になっている、双極スペクトラム障害に対する治療としても用いることができる可能性があると思いました。また、睡眠医学の臨床で使い慣れた薬でもあります。

治療の幅を広げる意味で、勉強になる論文でした。



2017年4月15日土曜日

好きになる睡眠医学 第2版 中国語版台湾で出版

好きになる睡眠医学が、中国語に翻訳されました。
海外の方々にも読んでいただけるということで、とてもうれしく思います。

中国語名は 図解 睡眠医学 ということのようですね


中国語版も頂いたので、中国人の患者さんにも読んでいただこうと思います。


2017年4月11日火曜日

高齢者の不眠症治療 (1)

すなおクリニックで臨床を始めて、近隣の内科の先生方が不眠症の患者さんを紹介してくださるようになりました。そういった患者さんの中に、すでに幾つかの医療機関を転々として、多くのベンゾジアゼピン受容体作動薬をたくさん投与されている人が見受けられます。

患者さんにとってみれば、「眠れない」という訴えは、深刻です。ねむりは毎日毎日のことですから、夜になるのが怖くなってしまいます。また、一日中、眠れるのかどうか、眠れないとからだに悪いのではないかと思い悩んでしまうこともあります。このような状態は、精神生理性不眠症 と言える状態です。

さて、このような方に眠れるようにと、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を投与すると、ある程度は眠れますが、その分昼間だるくなります。そうすると、日中の活動量が低下、さらにうとうとする時間が増えてしまうということもあります。その結果、夜の眠りの質が低下して、また眠れないということになり、また薬が増える、そしてまた日中ウトウト。高齢者の場合、このように日中の活動量が少ないと、サルコペニア(筋肉量の減少)がおき、だんだん動けない状況になってきます。散歩ができなくては、日中陽の光に当たることもできず、運動量も更に低下し、不眠を助長、薬が増えるという、悪循環に陥ってしまいます。

このような、高齢者の不眠について、
考えてみましょう。


*サルコペニアについての解説はこちらをクリック

2017年4月10日月曜日

時差ボケ朝日新聞

少し前になりますが、スポーツと睡眠に関わる興味深い記事が朝日新聞に出ていました。この記事は、自分で見つけたものではなく、花王と共同で行った短時間睡眠と肥満に関わる論文について朝日新聞が取材に来たときにお話しする中で、その記者さんが書いたものとして紹介いただいたものです。

http://uncyclopedia.wikia.com/wiki/HowTo:Beat_jet_lag
この記事は、時差ボケとスポーツパフォーマンスに関わる論文として、最近の知見として興味深いものであったのでご紹介します。

こちらの記事

本研究は、大リーグチームの「1992年から2011年までに開催された4万6535試合をホームとアウェーに分けて分析」したということで、結果としては、Fly East、つまり東向き飛行(カリフォルニアからニューヨークに戻るなど)のあとにホームゲームをすると、勝率が低下するとしています。

この研究は、興味深いものではありますが、これと似た別の研究も実は過去にあり、この1997年の研究では、NBAのバスケットボールゲームを同様に分析しています。この分析では、逆に東向き飛行のあとのゲームで勝率が上がるとしていますが、これは、ナイトゲームでは、西海岸にいたときの生物時計のままのほうが、東海岸でのナイトゲームではよいよい体内のコンディションを作るからであろうと考察しています。

こちらの論文

これらの論文をみると、一概にいえない面も多くあり、経験からは選手に対する時差のアドバイスは、慎重にしないといけないとも思っています。どのように睡眠を取ったらよいかは、過剰に理論に走らず、選手の顔を見ながらの現場の判断が優先されると行っても良いかもしれません。これはいわばアタリマエのことだとも思いますが、それだけ経験がいる判断であるとも言えると思います。


2017年4月8日土曜日

ブログのアドレスを変更



これまで、このブログは、blog.uchidaclinic.net  という名前で公開していましたが、開業に伴って、クリニックのURLである、http://sunao.clinic のサブドメインとして、blog.sunao.clinic に引っ越しました。

旧: http://blog.uchidaclinic.net
新: http://blog.sunao.clinic

です。
よろしくお願いいたします。

2017年4月4日火曜日

東京医科歯科大学医学部附属病院での診療

本年4月から、それまで金曜日に行っていた東京医科歯科大学へ、月曜日に行くことになりました。主な業務は、研修医の指導と、睡眠医学のコンサルト、スポーツサイエンス機構の会議などです。

4月から自分のクリニックを開業し、東京医科歯科大学に行く意味はいろいろあります。一つは大学病院という場で、いろいろな情報を取り込むことです。開業をしていると、新しい情報から少しずつ遠ざかってしまうので、大学病院の先生方と交流することで、新しい情報を取り込むことができます。特に大学病院には若い優秀な医者がおおくいますので、彼らとの交流は大切です。また、研究的な刺激も大学病院にはあるように思います。

東京医科歯科大学附属病院の精神科は、私が研修をした病院で、自分自身も幾分かの貢献でもできれば良いと思っています。

また、4月から気持ちを新たに通いたいと思っています。

2017年4月1日土曜日

すなおクリニック 

私は、早稲田大学を退職し、臨床活動に専念するため、さいたま市大宮区に「すなおクリニック」を開業いたしました。すなおクリニックは、「スリープ・メンタルヘルス 総合ケア」をその診療方針として、精神疾患・睡眠疾患の全般について、総合的に治療いたします。

私自身は、日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会睡眠医療認定医師の資格をもって、スリープ・メンタルヘルスについて総合的で、専門性の高いケアを行っていきたいと考えています。

また、睡眠時無呼吸症候群や、ナルコレプシー、むずむず脚症候群などの睡眠疾患に対する専門的治療だけでなく、早稲田大学スポーツ科学学術院においての研究・教育の経験をもとに、

1.身体運動や栄養を含めた、生活習慣へのアドバイスを通じて、精神的にも身体的にもより健康な生活を手に入れること
2.高齢者においても、動かないことによる筋力の低下から、日中の活動が低下し、更に睡眠の質の低下を招くという悪循環を、身体運動によって筋力を増し、動けるようになる中で、気分の改善、睡眠の改善をはかる治療をおこなっていくこと
3.学生指導の経験をもとに、社会の中での人間関係などについての悩みについて、より具体的に解決できる方法についてのカウンセリングをおこなうこと
4.これまでの、発達障害についての臨床経験と大学での経験をもとに、成人発達障害についてより快適な生活を目指す治療をおこなうこと

などを行っていきたいと思っています。

精神科・心療内科の治療は、とかく薬物療法に頼りがちです。このクリニックでは、薬物療法も他の治療法の一部と位置づけて、患者さんの話に十分耳を傾けるとともに、その生活の状況も伺い、運動、睡眠、食事などを含めた生活の仕方を一緒に考えメンタルヘルスを改善する治療を行いたいと思っています。これは、うつ病、睡眠関連疾患、発達障害、認知症、などどの疾患についても言えることです。

どうぞ、おいでください。よろしくお願い致します。

2017年4月1日
すなおクリニック 院長
内田 直