さて、前回はラモトリギンの薬理作用を書きましたが、このようなナトリウムチャンネルの抑制が、双極性障害(躁うつ病)の治療にはどのように関わっているのでしょうか。
ここでは、双極性障害のドパミン仮説について理解しておく必要があると思います。双極性障害では、ドパミンが過剰に作用するということが、躁症状発現のきっかけになっているという仮説です。ドパミン仮説は統合失調症も有名ですが、このあたりの仮説は多分かなり大雑把な仮説なんだと思います。ドパミンが増えれば、どうなるというようなことではなく、ドパミンについてもそれに関わる脳部位などの違いや、そこから派生して起こる様々な神経伝達物質の「変化が関わって、躁状態や、統合失調症の症状が発現してくるのであろうと推察されます。これは、多くの研究者も考えているところであろうと思います。
さて、話を戻して、双極性障害のドパミン仮説では、ドパミンが放出され、さらにそれが興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を促すわけです。このようなメカニズムでグルタミン酸の過剰遊離が起こると、アポトーシス(細胞の自殺)がおきて、脳細胞が壊れるわけですから、その結果として病状が悪くなったり認知機能の障害が起きたりすると考えられています。
ラモトリギンは、ナトリウムチャンネルの抑制を介して、このグルタミン酸の過剰放出を抑えるはたらきがあるようです。これによって、上記のアポトーシスが絡むプロセスを抑制しているということです。つまり、細胞の自殺を防いで、細胞を保護する働きを持っているということです。
しかしながら、双極性障害に用いられる気分安定剤に分類される他の薬剤である、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンもこのようなアポトーシスの抑制作用は見られます。
一方で、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンに似た合成ホルモン剤であるデキサメサゾンを投与すると、海馬という記憶などに関連した脳の部位の細胞の増殖が抑制されてしまう。つまり、おおまかに言えば、ストレスで海馬の働きが悪くなるという現象に対して、リチウム、バルプロ酸はこれを抑制するようですが、ラモトリギンはこの効果が弱いようです。
このように、気分安定作用のある各薬剤(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン)は、それぞれ特徴を持っていて、患者さんによって効果が様々であろうと思います。ラモトリギンの特徴としては、グルタミン酸受容体の一つであるAMPA受容体を活性化するということがあります。AMPA受容体を活性化させることが、双極性障害のうつ病相を改善させると考えられているわけです。このような作用は、他の気分安定剤では顕著には見られない作用です。
総じて、双極性障害に対する働きは複雑でわかりにくいものです。また、さまざまな解説を読みましたが、本当に何が双極性障害の病相安定に働いているのかは、まだ解明の途上であるというのが妥当なところだと思いました。しかし、このようなメカニズムが少しずつ明らかになってくることが、双極性障害の解明にもつながり、またよりはっきりとした作用機序で治療的に用いられる薬物の開発にもつながるのだとも思いました。
受診は すなおクリニック (大宮駅東口徒歩3分)へ
参考URL
北海道大学大学院医学研究科神経病態学講座精神医学分野 講師 井上 猛 先生
第21回日本臨床精神神経薬理学会|第41回日本神経精神薬理学会 合同年会ランチョンセミナー
http://lamictal.jp/bp/seminarlecture/contents_a_02.html
ここでは、双極性障害のドパミン仮説について理解しておく必要があると思います。双極性障害では、ドパミンが過剰に作用するということが、躁症状発現のきっかけになっているという仮説です。ドパミン仮説は統合失調症も有名ですが、このあたりの仮説は多分かなり大雑把な仮説なんだと思います。ドパミンが増えれば、どうなるというようなことではなく、ドパミンについてもそれに関わる脳部位などの違いや、そこから派生して起こる様々な神経伝達物質の「変化が関わって、躁状態や、統合失調症の症状が発現してくるのであろうと推察されます。これは、多くの研究者も考えているところであろうと思います。
さて、話を戻して、双極性障害のドパミン仮説では、ドパミンが放出され、さらにそれが興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を促すわけです。このようなメカニズムでグルタミン酸の過剰遊離が起こると、アポトーシス(細胞の自殺)がおきて、脳細胞が壊れるわけですから、その結果として病状が悪くなったり認知機能の障害が起きたりすると考えられています。
ラモトリギンは、ナトリウムチャンネルの抑制を介して、このグルタミン酸の過剰放出を抑えるはたらきがあるようです。これによって、上記のアポトーシスが絡むプロセスを抑制しているということです。つまり、細胞の自殺を防いで、細胞を保護する働きを持っているということです。
しかしながら、双極性障害に用いられる気分安定剤に分類される他の薬剤である、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンもこのようなアポトーシスの抑制作用は見られます。
一方で、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンに似た合成ホルモン剤であるデキサメサゾンを投与すると、海馬という記憶などに関連した脳の部位の細胞の増殖が抑制されてしまう。つまり、おおまかに言えば、ストレスで海馬の働きが悪くなるという現象に対して、リチウム、バルプロ酸はこれを抑制するようですが、ラモトリギンはこの効果が弱いようです。
このように、気分安定作用のある各薬剤(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン)は、それぞれ特徴を持っていて、患者さんによって効果が様々であろうと思います。ラモトリギンの特徴としては、グルタミン酸受容体の一つであるAMPA受容体を活性化するということがあります。AMPA受容体を活性化させることが、双極性障害のうつ病相を改善させると考えられているわけです。このような作用は、他の気分安定剤では顕著には見られない作用です。
総じて、双極性障害に対する働きは複雑でわかりにくいものです。また、さまざまな解説を読みましたが、本当に何が双極性障害の病相安定に働いているのかは、まだ解明の途上であるというのが妥当なところだと思いました。しかし、このようなメカニズムが少しずつ明らかになってくることが、双極性障害の解明にもつながり、またよりはっきりとした作用機序で治療的に用いられる薬物の開発にもつながるのだとも思いました。
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北海道大学大学院医学研究科神経病態学講座精神医学分野 講師 井上 猛 先生
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