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2015年10月26日月曜日

NIMH所長Googleに転職 (Forbes記事、Psychiatric Times記事)

Psychiatric Timesの記事を読んでいたところ、グーグルの生命科学部門がTom Inselを雇ったということが、米国の経済誌Forbesの記事として紹介されていました。(Google Life Sciences Hires The Government's Top Brain Scientistグーグルの生命科学部門が米国のトップ脳科学者を雇用)。Tom Inselは、NIMH(米国精神保健研究所)の所長だった人で、DSM-5に対しては批判的な意見を持っていた人です。



私が何より驚いたのは、Googleがライフ・サイエンスの部門を持っているということです。正確には今年立ち上がったグループ会社Alphabetですが、すでにライフ・サイエンス部門においても幾つかの成果を上げているようです。

Forbesに引用されていたのは(多分、最初の大きな成果なのだと思いますが)、コンタクトレンズに血糖値を経時的にモニターするデバイスを組み込んで、血糖のモニターを容易にする装置を開発したというものです。これは、まだ実用化段階ではないようですが、臨床治験にまもなく入るようです。このような臨床治験などについては、大手製薬メーカーであるAbbvie社などとも資金協力するようなことが書いてありました。Abbvie社は、精神科医をしているとルボックス(Fulvoxamine)という抗うつ薬くらいでしか関連がないのですが、抗TNF-α薬「ヒュミラ」などが主力である、大きな製薬メーカーです。

さて、Tom Inselは、自身のブログでこの「転職」について述べているようで、Forbesにも引用されていました。彼は、コンタクトレンズで血糖値測定をするような斬新なアイディアが、精神神経疾患においても実現できると良いと考えているようです。

Forbesの記事では、彼は、共通した脳内の病態があるにも関わらず、表現形としての精神症状がことなることがあり、現在のDSMなどの診断基準では、それにもかかわらず表現形で精神疾患をカテゴライズしようとするために、異なった病態のものが一つの診断名の中に入ってしまうと考えている。Inselはむしろ、表現形(症状)にかかわらず、病態によって疾患を分類し、それぞれに適した治療を行う方向を考えていると紹介されています。実際に、NIMHにおいても彼はDSM-5とは異なったRDC(Research Diagnostic Criteria 研究用診断基準)を作ろうと試みていたのはこういった考えからだと思います。

このような、医療における斬新な試みが新しい物を生む可能性は、アメリカにおいてもかなり大変な要素もあるようで、Forbesにも医療への異種業の参入は、規則によってがんじがらめになった世界ではなかなか困難があると書かれていました。しかし、Googleのような新しい発想をもった会社が、更に新しい発想をもった先端臨床脳科学者を雇用し、そして何らかのブレークスルーを作っていけると胸がすく思いがあります。

我が国においても、規制緩和により、十分に科学的な根拠に基づいた新しい治療や、新しい工夫のある治療が供給されるようになると、臨床業務もやりがいのあるものになってくるのではないかと思いました。





2015年8月24日月曜日

双極性スペクトラム障害 (1)

先日、西埼玉心と体の研究会(明治製菓ファルマ提供)にて、双極性スペクトラム障害をテーマにした会合がありました。双極性スペクトラム障害は、双極性障害、つまり双つ(ふたう)の極(躁の極とうつの極)をもった精神的な障害=躁うつ病、をとらえる広い概念です。

図は、米国のクリーブランドクリニックのHPにリンクしたものですが、気分のレベルとして、真ん中の波が書いてある範囲は、概念的には「正常」な、気分の変動範囲です。Good timesつまり調子が良い時、Bad timesつまり調子の悪い時、は誰にもあることで、これは環境に左右されたり様々ですが、基本的には様々なストレス解消法などで生活をして行けます。

しかし、下の青と紫の部分はうつ状態、上のオレンジと赤の部分は躁状態を示しています。

いわゆる躁うつ病(双極性障害I型)というのは、紫とオレンジの間を波が行ったり来たりするという大きな揺れです。

しかし、その揺れの範囲は、病型(あるいは患者さん)によって様々で、紫の方にはしっかり行くけれども、上はオレンジ辺りまで、あるいはときに黄色くらいまでで振れる場合もあります。そのような場合には、うつ病ということになるのですが、しかし、少し元気になる時期がある場合には、双極性の要素をもった病態であると考えるわけです。

この図は、それぞれの気分の状態をはっきりと線で区切ってありますが、実際にはただ調子が良いだけなのか、すこし元気すぎるのかの境目は曖昧です。したがって、概念としてこのようなものがあっても、なかなか「正確に」診断するのは難しいケースが多くあります。

しかし、このような概念は、病態を理解する上では非常に助けになります。また、治療についても少しずつ研究は進んでおり、いわゆるうつ病相だけを呈するうつ病とは異なった薬物療法(気分安定剤や非定型抗精神病薬)をしていくのが良いとされています。

新しく発刊された、アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では、気分の変化を呈する躁うつ病とうつ病は、別のカテゴーリに分けられて、「双極性および関連障害群」と「抑うつ障害群」に分けられました。つまり、躁うつ病とうつ病は別の疾患であるということです。この概念は昔からのものですが、よりはっきりしたとも言えます。

これらの概念が明確で、治療アプローチが確立されていれば良いわけですが、しかしながら、現段階では、必ずしもそうではありません。それには、診断のための長い経験と、一方で科学的知見を得るための臨床研究が更に続けられなければなりません。

この、双極性スペクトラム障害の概念については、時々取り上げて論じてみたいと思っています。