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2015年12月4日金曜日

夢: 睡眠中の脳活動・人間の存在の本質

先日、早稲田大学のマスコミ研究会の学生から、インタビューを受けました。「夢」についての話を聞きたいということでした。このインタビューで、いろいろと考えることもありましたのでそのことを書いてみたいと思います。

夢は、レム睡眠(REM sleep)と結び付けられて語られることが多いですが、夢はノンレム睡眠(non-REM sleep)でも見ていることは知られています。フロイトなどの夢分析なども夢に関わることです。更に、睡眠中の脳活動は、記憶と結び付けられて語られることも多くあるります。これは、必ずしもレム睡眠だけが関わっているわけではありませんが、レム睡眠中の脳活動も記憶と関連して議論されることが多くあります。

Recurring Dream という絵画
オリジナルのURLから掲示してあります
この睡眠と記憶についての研究は睡眠研究では一つの大きなトピックですが、私は、この学生とのインタビューで、「記憶」という言葉は必ずしも、これに関わる睡眠中の脳活動の本質を表現していないように思いました。睡眠中の脳活動、そして現在の研究では「記憶」という言葉で表現される事柄は、実は、単に覚えるということでなく、もっと人間の存在の本質に関わることと関連がるように感じます。

その「人間の存在の本質に関わること」とは、例えば、「反復夢(Recurring Dream)」の話をしている時に考えたことです。反復夢は、フロイトの言う抑圧された無意識が夢として現れる、しかし、それが解決されていないために、何度も何度も反復されると解釈されるように思います。そして、多くの場合このような反復される夢は、成人期以降には少なくなります。これは、成人期にはエリクソンのいうところのアイデンティティーが確立され、自分が自分であることがしっかりと出来上がってくるからだというふうにも解釈できます。

そう考えると、睡眠中に行われている脳活動は、記憶の定着も含めて、自分自身が一貫して自分であること(自己同一性=これは、統合失調症などでは損なわれることも有りますし、解離性同一性障害における症状であることも有ります)を、保守していくという役割とも考えられます。記憶はまさに、自分が一貫して小児期より自分であることの証になります。そして、その中で自我が他者から侵されない自分自身のものだということを維持すことができるわけです。そこに、自分自身の解決されていない抑圧された無意識の葛藤があれば、人間の存在を保つため繰り返し夢としてその葛藤を解決する試みがなされる。これが、反復される夢として現れるのだと解釈すると、睡眠中の脳活動の役割としての一貫した解釈もできるように思います。つまり、人間の主観的な存在の一貫性を保つための脳の活動。日中の様々な意識による情報取得に一貫性を見出し人間の一貫した存在を維持する。このような、人間の存在の本質に関わる働きと考えられないでしょうか。

こういった学生との対話は、臨床活動と同様にときにアイディアを刺激されることがありますね。

2015年8月10日月曜日

悪夢に対する治療 (2) AASMによる悪夢治療のBest Practice Guide

悪夢に対する治療について調べてみたところ、下記のような総説がありました。

Best Practice Guide for the Treatment of Nightmare Disorder in Adults
成人における悪夢に対する最良の治療法ガイド
Journal of Clinical Sleep Medicine, Vol. 6, No. 4, 389-
R. Nisha Aurora, M.D. et al.

Nighmare by Steven Stahlberg
著者のAuroraという人は、マウントサイナイ医科大学の医者のようです。私は、名前は知りませんでした。

さて、この総説を読むと、まず最初に悪夢に対する臨床研究は、そのほとんどがPTSD(外傷後ストレス障害)にともなう悪夢障害に対する治療です。したがって、この悪夢ガイドもPTSDにともなう悪夢に対する治療について述べられていました。

13ページに渡る解説ですが、内容的にはさほど込み入ったことは書かれていません。治療という観点から解説すると以下の様なものです。



・ 悪夢は、ノルアドレナリン系の過活動によるものであろうと考えられている。
・ 薬物療法としては、ミニプレス(Prazosin:αアドレナリン受容体アンタゴニスト)が、グレードAの治療評価を受けている。
・ その他の、エビデンスレベルの低い薬剤としては、Clonidine, Trazodone, Olanzapine, Risperidone, Aripiprazole, Topiramate, Fulvoxamine, Triazolam, Phenelzine, Gabapentin, Cyproheptadine, 三環系抗うつ薬, Nifazodoneなどが挙げられています。
・ 日本では発売されていませんが、Venlfafaxineは治療に推奨されないとされています。
・ 認知行動療法としては、イメージ・リハーサル療法(IRT: Image Reharsal Therapy)が推奨される。【これは、悪夢を思い出し、それを実際に記述し、そして、その悪夢のストーリーを自分でよりポジティブな方向に改編するという作業をするものです。これによって、悪夢による誤った、あるいは歪んだ認知を矯正する作用があるとされています。覚醒した後に、10-20分くらいの時間をかけて行うものです。】

・ 特発性の悪夢に対しては、Progressive Deep Muscle Relaxation Training (漸進性筋弛緩法)がグレードBで推奨される。この方法については、こちらのリンクを参照。


PTSDの悪夢治療として、ミニプレスは使ったことが無かったので、適応のある患者さんには試してみても良いと思います。ただ、降圧剤なので血圧には気をつけなければいけません。また、漸進性筋弛緩法は、今後も多くの患者さんに試してみましょう。


この論文で、クロニジンの睡眠に対する効果について、私のグループで以前行った研究論文が引用されていたのは、ちょっと嬉しかったです。


推奨グレード (Wikipediaより引用)

推奨の強さの分類と表示 
グレードA強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
グレードB行うよう勧められる
グレードC1行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない
グレードC2科学的根拠がないので、勧められない
グレードD無効性あるいは有害性の科学的根拠があり、行わないよう勧められる
「根拠の強さ」の分類と表示
グレードA言いきれる強い根拠がある
グレードB言いきれる根拠がある
グレードC言いきれる根拠がない
※グレーディングの根拠
グレードA少なくとも1つのレベル1(1a/1b)の研究がある
グレードB少なくとも1つのレベル2(2a/2b)の研究がある

2015年7月30日木曜日

悪夢に対する治療 (1) ニューヨークマガジンとMITのビデオ

先日、クリニックにいらっしゃるMRの方々と話していて、悪夢に対する治療というのは、どのようにしているのかという質問を受けました。

確かに、悪夢を訴える患者さんは多く居ます。私は、そのたびに、経過を見たり、薬を変えてみたりしながら対処してきましたが、系統的なストラテジーで悪夢の治療をしてきていなかったなと、反省の材料を得ました。そこで、今回、悪夢についてどのような研究がなされているのか調べてみることにしました。

いくつかの回にわけて、少しずつ調べてみたいと思っています。

今回は、調べていく中でたまたま見つけた、New York Magazine(ニューヨークマガジン)による、悪夢にも良い面が有るという動画を紹介します。





このビデオが教えるところは、日中の経験の中から起こる不安や恐怖を、このような悪夢が「処理をする」ということです。実際の漠然とした不安や恐怖を、夢の中でそれにストーリーをつけ、記憶の倉庫に入れる。記憶は漠然とした不安よりも扱いやすいものであり、それ故漠然とした不安や恐怖に悩まされることから、悪夢によってより扱いやすい記憶に変化し、これはメンタルヘルスに良い影響を与えているという説明です。

夢と記憶の関係は、これまでにも多くの研究がなされていますが、このような仮説が本当に正しいかどうかはまだ良くわからないと思います。しかし、そういった視点で患者さんの悪夢の話を聞きながら経過をみていくことは、経験を共有していくプロセスの一つの視点として良い面もあるかと思いました。

このビデオの中では、こういう研究が有るというだけで具体的な出典は挙げていませんでした。そこで、もう少し調べた所下記の
MIT(マサチューセッツ工科大学)のHPをみつけました。

http://video.mit.edu/watch/the-good-side-of-nightmares-7805/

こちらは、映像はありません。音声だけですが、この中でMcNamaraという研究者の名前がでてきており、どうもこれらの情報源は、写真を掲げた本のようです。この本も購入してみようと思います。

悪夢の治療は、なかなか難しいですが、既にある程度の研究はなされているとも思われ、また特定の薬物で多いなどということがあれば、これは薬理学的に治療可能なものである可能性もあると思います。これらについて、暫くの間自分の課題として調べてみようと思います。