「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」は、5年ほど前に厚生労働省の研究班が、様々な視点から適正な不眠治療について調べた、非常に中身の濃い良い内容のガイドラインだと思っています。私も、不眠治療を行う際に睡眠薬を用いるときには、このガイドラインを参考にしています。このガイドラインは、「出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアル」ともされており、漫然と睡眠薬を使い続けることに対しての警告を発しています。
私自身も、不眠治療の際には、規則正しい睡眠週間や食事、そして運動などを取り入れた生活指導や、睡眠に対する不安感を取り除く精神療法、不眠症の認知行動療法などをもちいて、なるべく薬物療法に頼らない不眠治療を行っています。その中で、高齢者への運動療法は、非常に効果のあるケースもあり、推奨されるものです。
このような、治療をおこなっている中で、最近疑問に思うことが有ります。「睡眠薬を続けることは、良くないことなのか?」という疑問です。例えば、高血圧治療を考えてみましょう。高血圧の因子としては、肥満、運動不足、塩分過剰摂取などがあり、これらを生活習慣から変えていく必要があると思われます。しかし、その上でも高齢になると加齢による心血管系の変化から、血圧の上昇がおきてきます。このような加齢による高血圧に対しても、薬物療法が行われます。そして、薬物療法をしっかり続けることが生命予後の改善につながると考えられています。
不眠の場合はどうでしょうか。高齢になると、睡眠時間が短くなるとは言われますが、しかし極端に短縮するとも言えません。むしろ、短くなるよりは中途覚醒が多くなり、睡眠が浅く分断されるという変化が主体であると考えられます。その上で、夜中に起きて、なかなか眠れないという状態になる人が多く居ます。
このような人に対して、適切な睡眠薬を適量投与し続けることは、中途覚醒を減少させ、睡眠時間を延長させることに繋がります。これを続けることは、生命予後に対して良い影響を与えるでしょうか、それとも、適切な生活療法をした上でも、なるべくであれば睡眠薬を離脱する方向に持っていったほうが生命予後が良いのでしょうか。
この問題に正確に応えられる睡眠医学者は居ないように思います。近年発売された、ベンゾジアゼピン受容体作動薬でない薬物は、薬理学的に報酬系を強化せず、依存が形成されにくいと言われています。このような薬物を用いて、老化による睡眠の質の劣化を防ぐことの生命予後への影響についての研究は、非常に興味深いと思っています。
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