2015年11月20日金曜日

duloxetineとatomoxetineのKi値とADHDへの効果

先日勉強会の中で、duloxetineというノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害剤のKi値についての解説がありました。Ki値というのは、再取り込みを半分にする濃度で、ナノモル(nM)で表現されます。したがって、この値が小さいほうが少ない量で阻害ができるということなので、阻害作用が強いということです。

そして、ノルアドレナリンの再取り込み阻害をすれば、その分取り込まれないノルアドレナリンが神経伝達に働くのでノルアドレナリンの働きを強める事ができるということになります。つまり大まかには、Ki値が小さいほど、それぞれの神経伝達物質の働きを強めるということです。

そこで、duloxetine(サインバルタ)とatomoxetine(ストラテラ)の各神経伝達物質に対するそれぞれのKi値を比較してみました。サインバルタは抗うつ剤で、ストラテラはADHDの治療薬です。


Ki (nM)               5-HT        NA        DA

duloxetine           3.7           20        439

atomoxetine       152           4.5        658



この結果を見ると、atomoxetineは、やはりセロトニン(5-HT)に対しては、余り効果が期待できないことが分かります。duloxteineのほうが40倍以上強いということです。

ノルアドレナリンに関しては、duloxetineはatomoxetineほど効果は無いというものの、四分の一程度の効果はあります。したがって、60mg投与の場合は、atomoxetine 15mg投与くらいの効果は期待できるということになります。ともに、ドパミンのKi値はノルアドレナリンよりも高くドパミントランスポーターに対する直接的な効果は期待できません。しかしながら、前頭前野においては、ノルアドレナリントランスポーターがドパミン神経の投射系でも働いているため、前頭前野におけるドパミンの増強は期待できます。(*2015年11月21日訂正、参考資料…http://www.psychiatrist.com/brainstorms/documents/br6403jap.pdf)

このようなことを整理してみたのは、ADHDの患者さんに対して、duloxetineが薬理学的にどの程度の効果があるのかどうかを考えてみたかったからです。うつ病の患者さんの中には、時にADHD傾向があり、このことも含めてストレスの多い生活になり、うつ状態になる方が居ます。このような方に対して、まずはduloxetineを選択し、寛解状態に達した後に、疾病教育や認知行動療法を行い、診断的に可能であれば、atomoxetineを投与するという方法も考えられます。

適用外使用なので、あまり積極的に使用するのが良いかどうかはわかりませんが、ADHD傾向のある患者さんで、これが原因で社会との摩擦が多くなり、ストレスを感じるというタイプの人に対して、うつ病治療としてduloxetineを用いた場合に、これがNAの作用としてatomoxetineの作用のどの程度の部分を担えるのかは抑えておいたほうが良い知識と思って調べてみました。

5 件のコメント:

  1. こんにちは。最近になって自分は発達障害ではないかと思い、診断が出来る病院を探したのですが、診断をしていないか、していても予約があり過ぎて当面受け付けていない所ばかりで、最終的に診断はしていないが相談は出来るという病院へ行きました。担当医が軽く話を聞いた上で、二三十問程度のチェックシートを記入した結果、多少発達障害の気があるとの事で、ストラテラを処方されました。効果に満足しているのですが、健常者でも受験のために服用する方もいるとの事なので、結局自分は実際どの程度発達障害なのか、もしや発達障害と思い込んでいるだけで、薬の力でズルをしてしまっているのではないか?等悩みます。やはり、ストラテラを飲み始めてしまってからでは、診断がきちっと出来る病院に行っても遅いのでしょうか。因みに、ストラテラを飲む前に別の病院でサインバルタを処方された事があります。現在の担当医は、サインバルタとストラテラは似ていると言っていましたが、サインバルタを飲んでいる当時、多少不安は解消されていたように思いますが、ストラテラのように時間感覚を変えてくれたり、仕事がしやすくなるような効果は感じませんでした。そのような場合、やはり似ていてもストラテラの方が効くのであれば発達障害であると考えても良いのでしょうか。

    返信削除
  2. Unknown様:コメントありがとうございます。実際にお会いして診察していない中でのお答えと考えていただきたいと思うのですが、私の考えは以下のとおりです。

    まず、ストラテラを飲み始めたら診断が難しいということはないと思います。発達障害は、幼少時からの生活史なども非常に参考になりますし、最近の服用前の状態についても、自分自身の記憶からなくなってしまうわけではないのでそういった話を詳細にお聞きすることで、診断は可能であると思います。

    サインバルタよりもストラテラが効くから発達障害というのは、治療的診断という考え方もできると思いますが、一般的には診断はあくまで症状を総合して考えた上で行うというものだと思います。しかし、ストラテラで症状が改善されるということによりADHDである可能性があると考えることは、必ずしも間違いではないように思いました。

    返信削除
    返信
    1. ご返信ありがとうございました。

      ストラテラ服用後でも診断は可能と言うことで安心しました。
      正直な所「あなたは発達障害です」とハッキリ病院で診断されてしまう方がありがたい部分もあります。

      なかなか周りの人達のように上手く立ち回ったりこなしたり出来ず、仕事や人生に劣等感と不安を感じやすい生き辛さに、そうなってしまう理由が存在する方が気が楽な部分があります。
      全てが自分の至らなさのせいだけではなく、脳の神経伝達に不具合があるせいもあると分かれば、自分で自分を軽蔑するような気持ちがなくなると思います。

      現在、ストラテラが良い効果をもたらしてくれていますが、そのうち幼少期の生活史の評価や知能テストなどを受けてみようと思います。
      結局ハッキリ発達障害だと証明できる検査は存在しないのかもしれませんが、自分が納得し進める様になれればと思います。

      ご意見を頂き、ありがとうございました。

      削除
  3. こんにちは。もう更新されてないかと思いますが、大変勉強になりました。
    私はまさにADHDによるストレスで鬱症状になった者です。
    サインバルタとストラテラの説明が似ているなと素人ながらに感じ、
    作用・副作用に重複が無いか調べていたところ、こちらの記事を見つけました。

    ネット上で拝見できる中で最も専門的な考察で、大変参考になりました。
    ありがとうございました。

    返信削除
  4. Unknown様: コメントありがとうございます。良いコメントも頂いて大変嬉しいです。お察しの通り、こちらのブログは最近はほぼ更新していません。クリニックも忙しくなり、クリニックのQ&Aも更新を怠りがちです。このブログエントリーを見直して、これをクリニックのQ&Aに転載しようと思いました。良いきっかけをいただき、ありがとうございました。

    返信削除

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。