認知症の患者さんの治療は、本人の治療と同時に介護者のメンタルヘルスに気をつけることが同じくらい大事だと思っています。認知症の介護は二重の意味で大変です。ひとつは、自分の親あるいは配偶者で、過去には支えてもらったりお互いに支えあったりした人の能力が下がってきてしまうことへの悲しみ(ストレス)。そのような思いは、なんとか回復させたいという気持ちと相まって、「おじいちゃん、これはどうだった?」というようなテストの試みになって、時に患者さんにストレスを与えてしまうこともあります。もう一つは、認知症のBPSD (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と言われる周辺症状で、怒りっぽくなったり、確認強迫のようになったり、さまざまな本人の変貌に対しての対応です。
このような状態にある認知症の患者さんへの対応について、御家族と話すときよく言うのは、「認知症は障害なので、例えば、不幸にして膝が曲がらなくなってしまった人への対応と同じで良いですよ。」という言葉です。膝の曲がらない人に、走れるように頑張って走ってみろなどとは言いません。歩きにくければ、歩行などについては介助して、不便の無いように介助をして対応するわけです。認知症も同じです。初期は記銘力障害が主体です。その場合は、何度でも覚えていない部分を繰り返し説明して、その情報をもとに判断してもらいます。丁寧に説明すれば説明するほど、本人はよくわかって、判断力は比較的保たれていることも多いので、正しい判断ができます。そのような交流の中で、家族としてのつながりに、介護者も気持ちを新たにする部分もあるのではないでしょうか。治療では、介護者に十分に共感することが大切と思っています。BPSDへも、おなじような対応で、患者さんが満足感を得て、イライラなどの精神症状が安定することも多くあります。
また、BPSDに対しては、薬物療法が効果的であることも多くあり、試す価値があります。認知症の薬物療法は、認知症そのものを進みにくくする抗認知症薬を用いますが、それと同時にBPSDを安定させる薬物をごく少量用いるのがコツだと思っています。また、日中の活動性を上げることは最も大切で、ディサービスはぜひ利用するほうが良いと思います。通常は、最初は行きたくないということになりますが、何度も根気強く進めていくことが大事です。これにより、日中の活動性が上昇し、夜間睡眠が安定します。夜間睡眠がそれでも安定しない時には、比較的穏やかな効きめの睡眠を安定させる薬物を投与します。高齢者への薬物療法は、少量の薬を使いますが、これには経験が必要と思います。
認知症患者さんへの対応については、私が一緒に仕事をさせて頂いている平沢記念病院の平沢秀人先生が、とても良い本を書いています。
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