2017年11月14日火曜日

過眠症の診断のMSLT検査について思うこと

2017年9月から本格的に、すなおクリニックにて、MSLT検査をはじめました。MSLT検査は、過眠症の診断のための客観的検査で、一日4-5回の昼寝を、暗い防音の部屋でしてもらい、眠り込む時間(睡眠潜時)を測定するものです。これで、平均8分以内の睡眠潜時があれば、過眠症と診断でき、更には、15分以内にレム睡眠が出現するSOREM(sleep onset REM)の回数などによって、ナルコレプシーと診断できるかどうかが決まってきます。

これらの診断基準は、ICSD-3(睡眠障害の国際分類 第3版)によるものですが、この中にも、診断基準の他に患者さんの状況について、よく確認して診断すべきとされても居ます。特発性過眠症は、日中の眠気はあるが、眠気の性状がナルコレプシーとは異なり、短時間の睡眠でも頭がすっきりしないということや、SOREMの特徴がないという点が異なった疾患であると考えられています。

これらを総合的に考えると、睡眠潜時が平均8分以内ということがまずは、必要な要件ですが、これについては、幾つかのポイントがあります。

緊張が高い患者さんで、初回に眠らなかった場合、記録は20分間行いますので、初回の睡眠潜時が20分になります。その場合、残り4回が、睡眠潜時6分でも、全体が平均8分以内になりませんので、基準を満たしません。

また、SOREMがでない、あるいは最初の4回で2回以上SOREMが出れば、4回でやめることも可能ではあるのですが、その場合には、1回目に眠らなければ、基準を満たすためには残りは4分以内に眠らなければなりません。

更に、前日の睡眠を含め、普段の夜間睡眠は十分である上で日中の眠気があることが病的な眠気の意味であろうと思いますが、現代人は一般には、十分な睡眠を取っているとも言えないので、これをどう考えるかということにもなります。

更に、治療薬モディオダールとの関連についても

1.MSLTを行えないクリニック、あるいは検査をしていない患者さんにはモディオダールは投与できないか。
⇒ 添付文書をみると、投与できないことになっています。

2.MSLTで睡眠潜時が、8分以内だけれどもSOREMのない特発性過眠症には投与できないか。
⇒ 添付文書をみると投与できません。

このようなことで、いろいろと困る事例があるように思います。したがって、過眠症の診断と治療は、検査だけでなく、本人の生活史や、生活時間などについても十分な問診を行い、これらも考慮しながら行うことが必要になってくるのだと思います。

2017年10月25日水曜日

小学校・中学校・高等学校・特別支援学校で働く教員のメンタルヘルス

先日、埼玉県の公立中学校で女子生徒の着替えを盗撮したというニュースを聴きました。更に悪いのは、これを当時の校長と教頭が隠蔽したということです。隠蔽というのは、ビデオを消去させ、市教委に報告をせずにそれで済ませたということのようです。この事実があったのは、2015年で2年も前のことだったようです。この記事を見て思うのは、学校の閉鎖的な体質です。これは、学校が全て閉鎖的な体質であるということを言っているのではなく、職員の労働環境に配慮した管理体制のある公立学校もあると思います。しかし、問題はそうでないことも可能になってしまうようなシステムがそこに有るということも事実のようです。
このように考えるのは、クリニックに訪れる様々な患者さんの話を聞くと、結局のところ校長の決断でいろいろなことが決まってしまい、それをしないと困るのは児童生徒たちなので、先生方はやむを得ずその体制に従い、結果として先生方にしわ寄せが来るという構造です。
私は、教育関係の人間ではないので教育のシステムを変えようという意見を言うつもりはありませんし、そこに関わるつもりもありません。関わるとすれば、産業精神衛生という視点で、クリニックに受診せざるをえない先生方が出てしまう体制です。
この理由の一つは、先生方が忙しすぎるということもあると思います。私はこの3月まで早稲田大学教授をしていましたが、大学教授と小学校教諭がどちらが教育者として大切かという議論を考えると、これは非常に難しい問題だということもわかります。大学教授のほうが専門性は高いことは明らかですが、教育という視点での重要性についていえば、先生方が、余裕をもって教育に臨める体制をつくことはとても大事だとも思います。話を聞けば、やったことのないスポーツや音楽の顧問をすることになり、これでほぼ土日のすべてを取られて休みがなくなる。これに加えて、主任などの負荷が加わると、忙しさは相当なものになるようです。
文部科学省の「学校における労働安全衛生管理体制の整備のために」というリーフレットをみると、
○平成20年4月1日より、すべての学校において、医師による面接指導を実施することができる体制を整備することが求められている。
○週40時間を超える労働が月100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる教職員については、教職員の申出を受けて、遅滞なく、医師による面接指導を行う必要がある。
○上記に該当しない教職員でも、健康への配慮が必要な者については面接指導等を行うよう努める必要がある。
という記載があります。
このようなシステムは積極的に利用したほうが良いと思います。特に残業時間が超過していなくても、健康への配慮が必要で、産業医と面接することが望ましいという診断書を発行すれば、管理者は産業医による面接指導に務める必要があります。管理者がこれを無視して、労働者が健康を害すれば労災となり、管理者の責任も問われることになると思います。
一方、校長先生も同様に辛い立場にある場合も多くあると思います。実際、管理者の先生の患者さんを診察したこともあります。重要なのは、子どもたちが充分な教育を受けられる環境を確保するということだと思います。
今回の選挙でも、教育の無償化が叫ばれていましたが、教育費も大切ですが、教育現場の改善ももう一つ大切なことだと思います。これによって、教員だけでなく、子どもたちも余裕をもった教育が受けられるようになるわけですから。

2017年10月24日火曜日

ブログの今後の方向について

以前はこちらのブログに、早稲田大学での教育・研究や精神科・睡眠医学の臨床に係る事柄を書いていたのですが、すなおクリニックを開業し、臨床に係る特に患者さん向けの発信は、Q&Aで行おうと思っています。そのような中で、こちらのブログの更新を怠ってしまっています。このブログを開始した当初は、ほぼ毎日書き込んでいたりしたので、前回が9月となると、書き込みを怠ってしまっているなぁという気持ちです。
そこで、心機一転して、ブログのタイトルも変更し、クリニックからのリンクも切り離して、臨床やスポーツ精神医学、あるいは、趣味や生活上の思うことを書き込むように方向を転換しようと考えました。実際、ここ1年は方向性がはっきりしていませんでしたが、それでもトータルのヒット数が20万を超えたので、読んでくださっている方は居るのだろうなとも思います。
タイトルもシンプルにして内田直BLOGとして、自由度をあげることにしました。
写真は、この夏(2017年8月)に訪れた奄美大島で撮影したものです。
私は、精神科の医者なので、精神医学に関わることと同時に睡眠医療認定として睡眠医療に関わること。また趣味は、開業以来ほとんど触らなかったテナーサックスを最近は触るようにもなっていますので、すこしはジャズについても書き込んでみようと思います。

2017年9月12日火曜日

すなおクリニックQ&Aについて

すなおクリニックのホームページ(http://sunao.clinic)の更新に時間を書けていて、以前のようにブログが更新できずに、申し訳ありません。

現在は、すなおクリニックQ&Aというサイト(http://sunao.clinic/qa)にかける時間も多く取っています。

最近の項目としては、大人の発達障害についてのエントリーをつくりました。このように、クリニックを初めて様々な情報を発信することは、責任を感じる面もあり、また、書いている内容について誤解されないように注意しなければいけない面もあるように感じています。

一方で、このようなエントリーを書くことにより自分自身もより正確な知識を自分のものにできるという側面もあります。

すなおクリニックQ&Aも時々御覧ください。

2017年9月11日月曜日

第15回日本スポーツ精神医学会(山形県鶴岡市)

9月8日から10日に、山形県鶴岡市にて第15回日本スポーツ精神医学会が開催されました。私も、理事長(チェアマン)として参加しました。

今年は、山形県立こころの医療センター院長神田秀人先生を会長として、東海林岳樹先生、白石啓明先生らが中心となって開催をしていただきました。

素晴らしい会でした。一般演題にも、うつ病に対する運動療法を実践している方々からの発表があり、またシンポジウムは精神障害者スポーツに関する発表も多くありました。 

特別講演は、元オリンピックフィギュアスケート選手の鈴木明子さんに来ていただきました。このお話は、本当に感銘をうける素晴らしいお話でした。鈴木さんはご存知のように摂食障害を患って、そこから復帰をして再び競技の場にもどり、そしてオリンピック選手にまで選ばれた方です。それは知っていましたが、その状況の中で彼女がどれほど重症の摂食障害を患ったのかはよく知りませんでした。鈴木さんは講演の最初に「今日は、私の経験した摂食障害について包み隠さず話します。」と言われ、その詳細について、素晴らしい記述力と洞察力をもっって話をしていただきました。1時間の講演の最後には、鈴木さんご自身も涙を流すシーンもあり、我々も目頭が熱くなりました。

摂食障害をもっているアスリートは多く居ます。しかし、その人達はなかなか自身の悩みを打ち明けられずに競技をしていると思います。鈴木さんには、オリンピックまで上り詰めたトップアスリートとして、是非このさきもこういった摂食障害に苦しむ後輩たちをにたいして、自分の経験を発信していっていただきたいと思いました。

教育講演をされた大阪体育大学の土屋裕睦教授と
教育講演は、大阪体育大学の土屋裕睦教授でした。私は既知の仲ですが、土屋先生のお話はいつも、楽しくわかりやすいものです。今回は、スポーツにける体罰についてのお話でしたが、この課題はとても大きく大切なものです。土屋先生のような方が、分かりやすく丁寧にこの課題を話していただくことによって、少しずつでも体罰によって将来を奪われてしまう若いアスリートが居なくなっていくことを願っています。

鶴岡市には私は初めて行きましたが、また行きたいと思いました。学会期間中は天候に恵まれ、熱くもなく寒くもなく、カラッとした天気でしたでした。会場近くにレストランなどが無いということから、山形名物の芋煮会をやっていただき、昼食は皆で青空の下で食べました。また、懇親会もひろい畑を前にしたオープンエァのイタリア料理で、とてもおしゃれな雰囲気でした。


2017年8月14日月曜日

開業医としての生活

4月から、開業医として生活していますが、仕事はとても楽しく行っています。それまでの大学教員としての生活とは大きく異なっていますが、人生最後の転職と思って新しい気持ちで出直しています。

大きく変わったのは、移動距離です。これまでは、所沢まで30kmあまりの道のりを車で通っていましたので、朝晩と車で1時間以上の移動がありました。これがなくなったのは、大変楽です。一方で、音楽を十分聞く時間がなくなったということもあります。

現在も、隔週で月曜日には、非常勤講師として東京医科歯科大学にかよっています。こちらでは、研修医に講義をしたり、患者さんを診たり、スポーツサイエンス機構の会議に出席したりします。スポーツサイエンス機構では、毎回室伏広治教授と一緒になるところが、楽しいところです。

月曜日と火曜日が休みなのですが、これになれるのに少し時間がかかりました。周りの人たちが休みでないので、どうしてもこれらの曜日に仕事を振ってくるということが有ります。講演や、インタビューなどです。これを受けていると休みがなくなってしまうので、今後は注意深く休みを確保していかなければならないと思っています。

一方で、月曜日と火曜日が休みなので、レジャーはとてもすいていて良い面があります。月曜日に地方で講演会を依頼されたときには、月曜日の朝から火曜日の夕方までの旅行として、講演以外の時間を観光にあてたりもできます。これは、楽しみです。

現在は、患者さんに多く来ていただけるようにしないといけないと思い、ブログよりもホームページの充実をはかる方向に時間をかけてしまっています。

今後、このブログは、随時更新・私見の公開や、診療についての意見などを書いていければ良いと思っています。

これからもよろしくお願い致します。

2017年6月20日火曜日

日本老年精神医学会

日本老年精神医学会の学術集会が、名古屋であり参加してきました。私はこの学会には、2年前から会員になっています。開業医としての仕事を見据えて、高齢者の精神的問題、認知症や関連疾患について、いろいろとべきょうしようと思ったからです。2014年の学会には、シンポジウムに呼ばれ、高齢者のうつ症状についての話をしてきましたが、このと

きは会員ではありませんでした。

昨年、金沢であった学会に参加したのが、会員としては初めてです。そのときにも思いましたが、この学会は本当に臨床的な良い学会です。高齢者のメンタルヘルスの問題について、本当に真摯に様々な立場の先生が知恵を出し合って、解決しようとしている姿勢が感じられます。また、より先進的な科学的知見も勉強でき、お金を払って参加をする価値のある学会だと思いました。

私は、会員になって日数が浅いにも関わらず、Psychogeriatricsというこの学会の英文誌のフィールドエディターに指名され、今回の参加は、この編集会議への参加という用事もありました。この年になって、新しい学会に入会し、雑誌の編集のお手伝いをするというのは、新しい刺激をもらうためにはとても良いことだと思っています。

今後は、高齢者のメンタルヘルスに関わる臨床も更に拡大していきたいと思っています。

2017年6月5日月曜日

A.L.E. (Athlete Live Entertainment)に参加しました

先日、5月29日、恵比寿のアクトスクエアで開催された、表題のトークショーに参加しました。チケットは、5,000円なんですが、早稲田大学時代のつながりで、なでしこジャパ
岩政さんと中西さん

ンのフィジカルコーチでもある、早稲田大学教授 広瀬統一先生のご招待で、参加しました。3月以来早稲田大学の先生方にはお会いしていませんでしたが、スポーツ産業論の作野誠一教授ともお会い出来て、なかなか楽しい集まりでした。
永里選手、広瀬統一教授と一緒に

トークショーは、岩政大樹から、サッカー解説の中西哲生さんが話を聞くという形式でした。15分クオーターが3つあるような構成ですが、なかなか興味深かったです。岩政選手については、名前くらいしか知りませんでしたが、アントラーズでは随分とディフェンダーツィて活躍し、代表にも招集されています。内容について細かに解説するつもりはありませんが、監修は、スポーツに関連した業界の人がほとんどのように見えました。いわば、B To Bの会なのですが、どういう意味があるかというと、この会を企画しておられる、伊藤滋之さんという方が、筋肉番付などのプロデューサーをやられた方で、語るスポーツの面白さを伝えたいという思いで始められたもののようです。今後、更に一般の人達に広がっていくのかと思います。

実際、面白い話でしたが、多少、業界向けかと思われる気もしました。

その分、いろいろな方も来ており、図らずも、なでしこジャパンの永里優季選手ともすこしだけ、お話する機会を得られました。

2017年5月9日火曜日

デジカルのホームページに掲載されました

電子カルテとして、デジカルという製品を使っています。

使用にかかる費用が安価であることが、非常にありがたいです。また信頼性も高く、使いやすいです。また、社長の尾崎さんが非常に熱心な方で、ユーザーのニーズを聞きながら汎用性の高い拡
 デジカル張をしていきます。自分でカスタマイズできるカルテではありませんので、そういうことがしたい方には向かないかもしれませんが、十分な性能があればあとは診療に時間を使いたいということであれば、非常におすすめです。

そんなご縁で、今回ホームページに
ということで掲載されました。

御覧ください。

2017年5月1日月曜日

◆GWこそ「至福の眠り」を手に入れる

「週刊朝日」5月5-12日合併号発売中! 主なコンテンツ ◆GWこそ「至福の眠り」を手に入れる ◆私立に負けない地方高の名門 ◆難関私大に強い高校1649 ◆PTA「他人任せ」に潜む子どもの危機 ◆600万部超!「科学漫画サバイバルシリーズ」特集 ◆岩合光昭さん「猫撮影」に密着

週刊朝日のインタビューにこたえたものが、現在店頭に並んでいる号にでています。上記のタイトルの記事です。記事は、GWにしっかりと睡眠の付けを返せると良いという内容を含んでいます。

では、一体どんな睡眠が良いのでしょうか。

睡眠には、
1.良い質の睡眠をとれること
2.十分な量の睡眠をとること
3.良い時間帯に睡眠をとること
の3つの要素があります。

1.良い質の睡眠は、ストレスや緊張のない状態を作ることが大事で、趣味のことをやって過ごしたり、スポーツをすることも大事だと思います。2.また、十分な量の睡眠をとることは確実に重要なので、睡眠不足の方はGWに寝すぎてはいけないということはありません。十分な睡眠をとるようにいたしましょう。ただ、3.良い時間帯に睡眠をとることが大事です。長く眠るために早寝をするということを心がけてください。早寝をすることによって、睡眠に適した時間帯を含んで眠ることができます。

とかく、休みなんだから普段できない夜更かしをして、すこし、怠惰な生活をしてと思われるかもしれませんが、これは勧められません。自由に時間をすごし、楽しい趣味などに時間を費やすことは大切ですが、それはあまり遅い時間までとならないようにしたいものです。

結果として、十分にリフレッシュした心と体で、また仕事に向かいたいものですね。

2017年4月29日土曜日

週刊朝日「眠らなきゃでも眠れない」の虜にならないように

現在書店に並んでいる「週刊朝日」の「健康寿命を延ばす快眠法 − 極上の眠りに浸る」に、筑波大学櫻井先生、国立精神神経医療研究センター三島先生、とともに私のインタビューが掲載されています。

取材を担当された山内さんも非常に熱心な方で、睡眠についてよく勉強されていました。他の先生方も話しておられますが、やはり十分な睡眠時間を確保することはとても大事なことです。一方で、こう眠らなければならないと過剰に注意が向いてしまう結果、「眠らなきゃでも眠れない」の虜にならないようにしないといけません。

患者さんたちと話をしていると、このように睡眠に過剰な注意が向いてしまう背景には様々な生活上の要因があることがわかります。

睡眠の問題を睡眠をみるだけで解決することは、多くの場合はできません。その患者さんを取り巻く様々な背景をしっかりとお聞きして、患者さんが語るその背景から、ときに自分でも気づいていない生活上の問題をとりあげ、それを同時に解決していくことも大事です。

高齢者の場合には、これに対してなんとかしてあげたいと懸命に頑張る家族の訴えを傾聴することもとても重要な事になってくると思います。

その中に、生活を改善する運動習慣や食事の問題なども取り入れながら、患者さんの興味を他に持っていくことが大事だと思います。このような視点で話をしていくと、時には、睡眠の問題から他の問題に主たる話題が移っていく場合もあります。

この記事は、そういった意味でも、正しい内容によって構成された良い記事で、一読の価値があると思います。

2週間店頭に並ぶようなので是非お買い求めください。

2017年4月21日金曜日

アンドレアス・イオアニデス博士との再開

以前、理化学研究所の脳科学研究所でを訪問して、脳磁図の研究をしていたころの共同研究者、アンドレアス・イオアニデス博士から連絡があり、久しぶりにお会いしました。急な連絡で、東京駅のレストランで1時間ほどの食事をする、短い時間でしたが懐かしく時間を過ごしました。

多分、10年ぶりくらいだと思います。以前も思いましたが、彼は思い込んだら諦めないという、良い面とそうでもない面の両面性をもった研究者で、それゆえに脳磁図(MEG)というどちらかというとマイナーな研究方法を丹念に突き詰め、数学的手法を駆使して脳機能を解明するという研究を行っていました。私は、睡眠という視点から睡眠に関わる脳の解剖学的な構造を明らかにするという興味をもって、共同研究をしていました。研究そのものはとても大変なものでしたが、論文にもあるように、メキシコの研究者や、ギリシャの研究者、ドイツの研究者などが加わって、国際共同研究のやりかたなども学べたと思います。この時の経験が、早稲田大学で国際担当副学術院長になったときの業務に行きてきたとも思っています。

相変わらず、熱心に脳機能に話す彼に久しぶりに会って、脳機能と精神機能の関係について、いままでの経験を臨床に結びつけていく、そしてわかりやすく患者さんにお話するということの大切さに思いを馳せるランチでした。


Cereb Cortex. 2004 Jan;14(1):56-72.
MEG tomography of human cortex and brainstem activity in waking and REM sleep saccades.
Ioannides AA1, Corsi-Cabrera M, Fenwick PB, del Rio Portilla Y, Laskaris NA, Khurshudyan A, Theofilou D, Shibata T, Uchida S, Nakabayashi T, Kostopoulos GK.


2017年4月18日火曜日

双極性障害のうつ状態に対するドパミン作動薬の使用

Dopaminergic Agents in the Treatment of Bipolar Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis

AG Szmulewicz et al. Acta Psychiatr Scand. 

上記の論文が、最近登録したCareNetに紹介されていました。

双極性障害のうつ状態に対して、抗うつ薬を用いることは、躁転(躁状態に変化すること)の可能性があって、注意が必要です。通常は、双極性障害は、気分安定剤を用いて治療することが行われていますが、ときにうつ状態をもう少し改善したいということが有ります。

http://call-for-addiction-treatment.com/
bipolar-disorder-causes-symptoms-treatment/
こういったときに、ドパミン作動薬を用いる方法が示唆されています。
ドパミン作動薬は、睡眠医学的な観点からは、過眠症治療薬として用いられています。
また、神経疾患の治療薬としては、パーキンソン病治療薬としても用いられています。

この論文で取り上げられている薬物は、

modafinil モディオダール ナルコレプシー治療薬、睡眠時無呼吸症候群の日中の眠気に対する治療薬
armodafinil ラセミ体のモダフィニルの中からR体のみを単独分離したもの(Wikipedia)
pramipexole ビ・シフロール。パーキンソン病治療薬。レストレスレッグス症候群の治療に用いられることがある。
methylphenidate リタリン、コンサータ。ナルコレプシー治療薬、ADHD治療薬
amphetamines 覚せい剤に指定。米国では、ADHD治療薬。ノルアドレナリンおよびドーパミンの放出促進と再取り込み阻害作用がある。

などです。日本で用いることができるのは、モディオダール、リタリン、ビ・シフロールですが、私はこれらを双極性障害のうつ状態に使用したことはありませんでした。しかし、この論文の結果からは、これらの薬剤の使用により、反応率や寛解率が上昇するとされています。また、抗うつ薬とちがい、躁転の危険性(mood switch)は上昇しないということなので、そういった意味での安全性もあるかと思います。

ただ、これらの薬物の幾つかは、報酬系のドパミン活動を上昇させ、精神依存を引き起こす可能性のある薬物でも有ります。この点に対の注意は必要であると思います。

モディオダールは、双極性障害への適応はありませんので、推奨はされませんが、適応外処方として用いる可能性はあるのではないかとも思います。また、最近話題になっている、双極スペクトラム障害に対する治療としても用いることができる可能性があると思いました。また、睡眠医学の臨床で使い慣れた薬でもあります。

治療の幅を広げる意味で、勉強になる論文でした。



2017年4月15日土曜日

好きになる睡眠医学 第2版 中国語版台湾で出版

好きになる睡眠医学が、中国語に翻訳されました。
海外の方々にも読んでいただけるということで、とてもうれしく思います。

中国語名は 図解 睡眠医学 ということのようですね


中国語版も頂いたので、中国人の患者さんにも読んでいただこうと思います。


2017年4月11日火曜日

高齢者の不眠症治療 (1)

すなおクリニックで臨床を始めて、近隣の内科の先生方が不眠症の患者さんを紹介してくださるようになりました。そういった患者さんの中に、すでに幾つかの医療機関を転々として、多くのベンゾジアゼピン受容体作動薬をたくさん投与されている人が見受けられます。

患者さんにとってみれば、「眠れない」という訴えは、深刻です。ねむりは毎日毎日のことですから、夜になるのが怖くなってしまいます。また、一日中、眠れるのかどうか、眠れないとからだに悪いのではないかと思い悩んでしまうこともあります。このような状態は、精神生理性不眠症 と言える状態です。

さて、このような方に眠れるようにと、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を投与すると、ある程度は眠れますが、その分昼間だるくなります。そうすると、日中の活動量が低下、さらにうとうとする時間が増えてしまうということもあります。その結果、夜の眠りの質が低下して、また眠れないということになり、また薬が増える、そしてまた日中ウトウト。高齢者の場合、このように日中の活動量が少ないと、サルコペニア(筋肉量の減少)がおき、だんだん動けない状況になってきます。散歩ができなくては、日中陽の光に当たることもできず、運動量も更に低下し、不眠を助長、薬が増えるという、悪循環に陥ってしまいます。

このような、高齢者の不眠について、
考えてみましょう。


*サルコペニアについての解説はこちらをクリック

2017年4月10日月曜日

時差ボケ朝日新聞

少し前になりますが、スポーツと睡眠に関わる興味深い記事が朝日新聞に出ていました。この記事は、自分で見つけたものではなく、花王と共同で行った短時間睡眠と肥満に関わる論文について朝日新聞が取材に来たときにお話しする中で、その記者さんが書いたものとして紹介いただいたものです。

http://uncyclopedia.wikia.com/wiki/HowTo:Beat_jet_lag
この記事は、時差ボケとスポーツパフォーマンスに関わる論文として、最近の知見として興味深いものであったのでご紹介します。

こちらの記事

本研究は、大リーグチームの「1992年から2011年までに開催された4万6535試合をホームとアウェーに分けて分析」したということで、結果としては、Fly East、つまり東向き飛行(カリフォルニアからニューヨークに戻るなど)のあとにホームゲームをすると、勝率が低下するとしています。

この研究は、興味深いものではありますが、これと似た別の研究も実は過去にあり、この1997年の研究では、NBAのバスケットボールゲームを同様に分析しています。この分析では、逆に東向き飛行のあとのゲームで勝率が上がるとしていますが、これは、ナイトゲームでは、西海岸にいたときの生物時計のままのほうが、東海岸でのナイトゲームではよいよい体内のコンディションを作るからであろうと考察しています。

こちらの論文

これらの論文をみると、一概にいえない面も多くあり、経験からは選手に対する時差のアドバイスは、慎重にしないといけないとも思っています。どのように睡眠を取ったらよいかは、過剰に理論に走らず、選手の顔を見ながらの現場の判断が優先されると行っても良いかもしれません。これはいわばアタリマエのことだとも思いますが、それだけ経験がいる判断であるとも言えると思います。


2017年4月8日土曜日

ブログのアドレスを変更



これまで、このブログは、blog.uchidaclinic.net  という名前で公開していましたが、開業に伴って、クリニックのURLである、http://sunao.clinic のサブドメインとして、blog.sunao.clinic に引っ越しました。

旧: http://blog.uchidaclinic.net
新: http://blog.sunao.clinic

です。
よろしくお願いいたします。

2017年4月4日火曜日

東京医科歯科大学医学部附属病院での診療

本年4月から、それまで金曜日に行っていた東京医科歯科大学へ、月曜日に行くことになりました。主な業務は、研修医の指導と、睡眠医学のコンサルト、スポーツサイエンス機構の会議などです。

4月から自分のクリニックを開業し、東京医科歯科大学に行く意味はいろいろあります。一つは大学病院という場で、いろいろな情報を取り込むことです。開業をしていると、新しい情報から少しずつ遠ざかってしまうので、大学病院の先生方と交流することで、新しい情報を取り込むことができます。特に大学病院には若い優秀な医者がおおくいますので、彼らとの交流は大切です。また、研究的な刺激も大学病院にはあるように思います。

東京医科歯科大学附属病院の精神科は、私が研修をした病院で、自分自身も幾分かの貢献でもできれば良いと思っています。

また、4月から気持ちを新たに通いたいと思っています。

2017年4月1日土曜日

すなおクリニック 

私は、早稲田大学を退職し、臨床活動に専念するため、さいたま市大宮区に「すなおクリニック」を開業いたしました。すなおクリニックは、「スリープ・メンタルヘルス 総合ケア」をその診療方針として、精神疾患・睡眠疾患の全般について、総合的に治療いたします。

私自身は、日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会睡眠医療認定医師の資格をもって、スリープ・メンタルヘルスについて総合的で、専門性の高いケアを行っていきたいと考えています。

また、睡眠時無呼吸症候群や、ナルコレプシー、むずむず脚症候群などの睡眠疾患に対する専門的治療だけでなく、早稲田大学スポーツ科学学術院においての研究・教育の経験をもとに、

1.身体運動や栄養を含めた、生活習慣へのアドバイスを通じて、精神的にも身体的にもより健康な生活を手に入れること
2.高齢者においても、動かないことによる筋力の低下から、日中の活動が低下し、更に睡眠の質の低下を招くという悪循環を、身体運動によって筋力を増し、動けるようになる中で、気分の改善、睡眠の改善をはかる治療をおこなっていくこと
3.学生指導の経験をもとに、社会の中での人間関係などについての悩みについて、より具体的に解決できる方法についてのカウンセリングをおこなうこと
4.これまでの、発達障害についての臨床経験と大学での経験をもとに、成人発達障害についてより快適な生活を目指す治療をおこなうこと

などを行っていきたいと思っています。

精神科・心療内科の治療は、とかく薬物療法に頼りがちです。このクリニックでは、薬物療法も他の治療法の一部と位置づけて、患者さんの話に十分耳を傾けるとともに、その生活の状況も伺い、運動、睡眠、食事などを含めた生活の仕方を一緒に考えメンタルヘルスを改善する治療を行いたいと思っています。これは、うつ病、睡眠関連疾患、発達障害、認知症、などどの疾患についても言えることです。

どうぞ、おいでください。よろしくお願い致します。

2017年4月1日
すなおクリニック 院長
内田 直

2017年3月27日月曜日

2017 最後の卒業式

卒業式に送り出す最後のゼミ生たちと
私は今年度で、早稲田大学を早期定年退職します。そのため、昨日は最後の卒業式になりました。一緒に写っているのが最後のゼミ生たちです。私は、4月からは自分自身のクリニックでの臨床活動に専念します。この日は、卒業生を送り出す会をやって、とても楽しい時間を過ごすことができました。ゼミ生たちも、花束と素敵なプレゼントをくれました。まだまだ続く彼らの人生に栄光あれと思います。

早稲田大学スポーツ科学部では本当に多くを学びました。健康に生活するということの大切さ。そのために、体を動かすということの大事さ。更には、それを通じて人とのコミュニケーションをはかり、相手を尊敬するという気持ち。早稲田大学の前に勤務していた研究所の10年とは全く違った生活でした。

この中で、自分はほんとうの意味での、「健康」を目標として、精神科治療を行うということを学んだ気がします。臨床をやらせていただいていた、あべクリニックではこういったアイディアを様々な形で実践させていただきました。また、平沢記念病院では平澤秀人先生に、高齢者の臨床の多くを学びました。その後、平澤先生は平沢スリープ・メンタルクリニック所沢でオープンされています。

4月からは、自分自身の臨床の場で、今まで学んだことを実践していきたいと思います。そういう意味では、今日は私自身の卒業式でもあります。自分も、卒業生として写真に写っていると思うと、こんなにたくましい同級生と一緒に卒業できるということがとても励みになります。

ここのところ、忙しさもありブログの更新を怠っていましたが、4月からはまたしっかりと更新していきたいと思っています。

2017年2月10日金曜日

サッカー経験者は長く目を向けたユニフォームを好きになる 視線を効果的に誘導する方法に活用

ながく、宮崎真教授(静岡大学)と続けてきた共同研究の結果が論文発表され、早稲田大学からプレスリリースもされました。

https://www.waseda.jp/top/news/48167

この研究は、以前私の研究室に在籍していた宮崎先生(認知脳科学/認知行動科学)に、私の大学院に入り、マーケティングに興味がある学生を紹介し、そこから、スポーツ、脳科学、マーケティングに関連したテーマを考えていった末にできた研究です。

研究の内容は、上記のURLをご覧になると詳しく書いてありますが、サッカーの経験者である場合に、長く視線を誘導したユニフォームを好きになったということが、非常に興味深い点です。ただ単に、ものを長くみるというだけでなく、その中に様々な意味付けができる資質が関係している可能性があると思います。サッカー競技を続けることによって、単に色の違うシャツと言うだけでなく、様々な意味付けがそこに出てくるのではないかとも考えられます。

このような研究は、狭い意味での私の専門ではありませんが、このような認知行動科学の知見や、この研究のように実際に研究にある程度自分が関わるということが、人の心の動きを探るという視点に、非常に参考になります。

普段の臨床においても、このような研究の経験をバックグラウンドに持っていると、診察場面での気付きにも繋がるように感じました。


2017年1月20日金曜日

睡眠時間の短縮が肥満リスクを増加させるメカニズムを解明 - 花王との共同研究

株式会社花王と、以前から行っていた短時間睡眠と代謝に関連した研究が、論文として発表されました。これにともなって、早稲田大学と花王の両方からプレスリリースが出されました。

論文は以下のものです。
http://www.nature.com/articles/srep39640

英国Nature Publishing Groupの電子ジャーナルScientific Reportsに2017年1月10日にオンラインで掲載されました。

この研究の詳細は、早稲田大学のプレスリリースをお読みください。
https://www.waseda.jp/top/news/47804

この研究は、花王の研究所が所有している、メタボリックチャンバーの使用なしにはできない研究でした。我々の睡眠の生理学測定についての技術と、花王の代謝に関連した研究の技術の両者の協力で、非常に興味深い研究ができたと思います。

睡眠時間が十分でない生活をすると、食欲が増し、肥満のリスクが増加する。十分な睡眠をとることが、健康な体を維持する上でも重要な事が明らかになりました。


2017年1月4日水曜日

おだわらっ子の約束

お正月はいかがお過ごしだったでしょうか。私は、例年通り(今年は家内と)、箱根駅伝の応援に行きました。残念ながら、今年は早稲田大学の選手としては、私のゼミ生は出場しなかったのですが、応援の場所としては、7区の小田原を選びました。過去2年は、6区を走る選手を応援していたので、小田原まで行くのは経験がありましたが、小田原で応援したことはありませんでした。

小田原は、非常によいところでした。まだ朝早かったので、応援までの時間もあり、小田原城址公園に入りました。人も少なかったのですが、広々として美しい公園でした。更に、公園内には、報徳二宮神社があり、二宮金次郎の像のオリジナルが見られます。境内には、きんじろうカフェなどがあって、とても良い雰囲気です。

隣には、児童図書館があるのですが、そこで面白いものを見つけました。「おだわらっ子の約束」という掲示なのですが、これが、非常に理にかなった約束なので、写真に撮ってきました。

ここに書かれていること、特に、「早寝早起きをして、朝ご飯を食べます。」というのは、いろいろな形で私が患者様にもお話していることで、これも、人生訓というような上から目線ではなく、自然にそういうことができるようになってくると、生活も安定してきますよ、というような意味で大事なことだと思っています。また、そういう努力の方向を頭に置いておくことも大事だと思います。

大きなシュロの木の横にあるこの看板は、気候の温暖な小田原らしさもかもしだして、お正月から良い発見をしたという気分になりました。

早稲田大学は、3位でしたがよく皆頑張ったと思います。上尾のハーフマラソンのあたりからは、密着して応援していましたが、それぞれの選手がそれぞれの思いをもって走る姿は、やはり大学スポーツならではだと思いました。

観戦のあとは、海辺に行き、家内と海を眺めて、帰りには家内の実家によって新年のご挨拶をして夜に帰宅しました。

良いお正月の一日が過ごせました。