2016年3月25日金曜日

社会の変化とADHDの診断

多くのADHDの患者さんを診るようになって思うことは、社会の変化がADHDを顕在化させているのではないかということです。同じような考えを持っている人も多分多くいると思います。DSM-5によるADHDの診断項目を見てみましょう。注意欠如の項目は、以下のとおりです。

A1:以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヶ月以上にわたって持続している。
a.細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。
b.注意を持続することが困難。
c.上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える。
d.指示に従えず、宿題などの課題が果たせない。
e.課題や活動を整理することができない。
f.精神的努力の持続が必要な課題を嫌う。
g.課題や活動に必要なものを忘れがちである。
h.外部からの刺激で注意散漫となりやすい。
i.日々の活動を忘れがちである。

17歳以上では、このうち5つが当てはまればよいのですが、どれも個人レベルで言えば忙しさ、社会的には情報量や必要な処理の量によって該当するかどうかが変化することは想像できます。

いろいろな雑誌などのインタビューで、うつ病の増加やADHDの問題などについては、このような視点で答えています。このような社会の変化は様々な点で明白です。

例を上げてみましょう

  • 離れていても意思交換ができる。テレパシーなど夢のようでしたが、携帯電話の普及でほぼこれと同じことができるようになっています。電話をして相手に「今どこ?」などと聞くのは、昔は考えられませんでした。
  • これによって、プライバシーはほぼ失われてしまいました。営業の人も、ちょっとの時間に一休み、裏道で昼寝もできましたが、今は下手をすればGPSで位置まで確認されてしまいます。
  • これ調べておいてね、と言われてできることは昔は限られていました。図書館に行くにしても開いてなければいけませんし、それなりの時間を取る必要もあります。ところが、今は、「オッケーGoogle」で、スマホが何でも教えてくれます。24時間いつでも調べられます。調べれば調べるだけ、指数関数的に更に調べることが増えてくるということになります。
  • コンピュータも便利で良いのですが、これによってやれることが増えて過ぎています。昔は、学会のスライドを作るにも、原図をつくって、グラフは綺麗に定規でつくる。これをスライド屋に頼んで、ブルースライドにしてもらう。そうすると、どうしても学会の3日前までに原図を仕上げなければなりません。また、それからあとはスライドは直せないわけです。ところが、今は発表の直前まで修正が効きます。

自分の生活を考えてみれば、それぞれの方がそれぞれの生活に当てはまる様々な例を上げることができると思います。

このようなことから、昔であれば社会生活に特に問題なく、少し不注意なくらいで、いろいろとアイディアもあるしということで、問題なく社会に溶け込んでいた人が、他の処理能力の早い人と同じように仕事をしなくてはならないということで非常に苦労をする結果となってきているわけです。

さりとて、人は生きていかなければなりません。社会との摩擦の中でストレスを感じ、そしてうつ状態になる。そういう人が増えているようにも思います。

休暇を十分に取る、そういうことの大切さが次第に気づかれているようにも思いますが、一方で逆方向への動きもあるようにも思います。競争が重要な社会では、少しでも前にという意識が働くのも無理はありません。

科学が人々の生活を豊かにすると信じられていた時代から、生活を豊かにした面はありますが、患者さんとお話をしていると、精神的な世界の豊かさについてはまた別の側面で考える必要を改めて感じます。


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