2014年10月13日月曜日

睡眠は、年をとると本当に短くなりますか?

最近、Sleep and Biological Rhythms(睡眠と生体リズム)という学術誌に、私が投稿した、Letter to the Editorという短い文章が掲載されました。原文は英語ですので、これを解説する文章を書きましたので、それをブログにも掲載しようと思います。最近の様々な、講演会で、年をとると睡眠時間は短くなるということが言われていて、本当にそうかどうかの疑問を投げかけたものです。高齢者は、不眠を訴えることも多く、そんなに眠らなくても大丈夫ですよ、と言うことは悪く無いと思うのですが、エビデンスはしっかり捉えて、例えば昼寝などを含めて、高齢者により適した睡眠を事実の中で捉えていくことの大切さを訴えたかった面もあります。



厚生労働省は11年ぶりに睡眠の指針を見直し、健康づくりのための睡眠指針2014として、睡眠12箇条を発表した。これは、国民が良い睡眠を取るために重要な心得が盛り込まれており、多く国民の健康増進に貢献する良い内容であるとおもわれる。
その中で、高齢者に睡眠に関連した記述に、一部誤りと思われる項目があるので、その点について、日本睡眠学会およびアジア睡眠学会の英文学術誌である “Sleep and Biological Rhythms” に、これを指摘するレター論文を投稿した。これは、審査の末掲載されたので、この点を広く知っていただくため、解説の文書を作ったものがこの文章である。

指摘は、厚生労働省の睡眠12箇条の中で、

9-②年齢にあった睡眠時間を大きく超えない習慣を
脳波を用いて客観的に調べると、夜間に実際に眠ることのできる時間(正味の睡眠時間)
は加齢とともに短くなるのに対して 3Ohayon et al. 2004)、実生活では年齢が高くなるほど寝床に就いている時間は延長している 4NHK2010 国民の生活時間調査)。これは、高齢者の多くは仕事や学業などの日中の制約から解放され、十分な時間を睡眠に充てることが可能であることが原因と考えられる。ただし、必要以上に長い時間、寝床に就いていると、中途覚醒が出現し、熟眠感が損なわれ、不眠を呈しやすくなることが指摘されている 1Wehr et al. 1999 ことから、注意が必要である。

とする箇所があり、寝床に就いている時間は長いが、実際に寝ている時間は短いとしている部分についてである。これは、スタンフォード大学のOhayonらの研究とNHKの調査を引用している。Ohayonらは、睡眠効率=寝床に就いている時間のうち実際に眠っている時間の%を算出して、これが高齢になると低くなる、つまり睡眠効率が低下するというデータを多くの夜間睡眠の研究を集めた解析から算出している。このデータによれば、夜間実際にとれている睡眠の時間は短くなっている。
一方で、NHKの調査は、夜間睡眠だけでなく24時間の中での睡眠時間について調査である。この指針にも書かれているように、高齢者は昼寝や夜間の睡眠など一日何度も眠ることが多くなり、NHKの調査では、昼寝も含めた睡眠時間を調べていることになる。このように、調査によって夜間睡眠を調べるものもあれば、日中の睡眠時間を含めているものもあり、データを見る場合には注意が必要である。この点は、この指針の中の他の部分でも説明されている。
しかし、ここに引用した9-②では、これを区別せずにまとめて議論している。つまり、寝床に居る時間は24時間の中で昼寝を含めて測定し、実際の睡眠時間は夜間の睡眠時間を見ているということである。これは明らかな誤りであるが、新聞報道ではそのような図が用いられている。朝日新聞と日本経済新聞の電子版に掲載された図が下記のものである。




上記は、朝日新聞電子版に掲載されたもの。



上記は、日本経済新聞電子版に掲載されたもの。


そこで、NHKのデータを24時間内の寝床に就いている時間として用い、その中での睡眠効率をOhayonらのデータをもとに算出して、24時間の中での昼寝を含めた実質的な睡眠時間を推定的に算出してみた。その結果がこの文章に掲載された以下のものである。

内田作成のグラフ(論文に掲載されたもの)


点模様の棒グラフは、NHKの生活時間調査に基づいた各年代の平均睡眠時間を、グレーの棒グラフは、これにOhayonらのデータによる睡眠効率をかけあわせて得た、実質睡眠時間の予想値を示している。これを見ると、高齢者では、睡眠効率は著しく下がって入るが、睡眠時間は長くなっている。
このようなことから、新聞報道などで用いられた図は明らかに誤りであり、訂正されるべきものであると考えられる。今回の試みからは、特に統制されない生活環境課では、日本人高齢者の睡眠時間は4050代の睡眠時間よりも長くなっている可能性が推測される。しかしながら、これは、実際に調査測定したものではない。日本人高齢者の寝床についている時間と実質の睡眠時間を統一的に調査した研究はまだなく、これを調査することは、高齢者の睡眠の実態を明らかにする上では重要な事であろうと思われる。この点は、大切であると、このレター論文の査読者からも評価を受けた。



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