2014年8月29日金曜日

第12回 日本スポーツ精神医学会学会総会・学術集会 鹿児島 (3) 

いよいよ、本日から学会が鹿児島で開催されます。私はこれから鹿児島に向かいます。今回の学会はこれまで行われた12回の中では最南端で行われます。すでに、プログラムが送られててきていますので、以下に紹介します。最初は、なんとか演題を集めたという感が強かったのですが、次第にしっかりした、また興味深い演題が並んでいるのでとても楽しみです。多くの方々に参加してほしいと思っています。

<付記>
抄録集をご希望の方は、下記に送付先や冊数を記入してメールしていただきますと、一冊3000円で送らせて頂いています。よろしくお願い致します。

生協学会支援センター  gakkai@univcoop.or.jp
担当:日本スポーツ精神医学会事務局 井手


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一般演題
09:00 一般演題1:メンタルヘルスと運動・スポーツ(5題)
座長:吉野 聡先生(吉野聡産業医事務所所長)

1. 健常勤労者に対するウォーキングの介入が睡眠に及ぼす影響~運動習慣あり群
と運動習慣なし群の比較~
堀 輝先生(産業医科大学精神医学教室)

2. 地域運動教室に通う高齢者の認知機能と抑うつ評価と生活運動
宮内雅利先生(横浜市立大学医学部精神医学教室)

3. 運動施設におけるメンタルヘルス不調者に対する運動プログラムの検討
尾関拓也先生(あいち健康の森健康科学総合センター)

4. リワークプログラムで実施するストレス反応に効果的なストレッチ体操の考察
篠原慶朗先生(四谷ゆいクリニック)

5. 運動療法を併用することで就労が可能であったうつ病患者の一例
香月あすか先生(産業医科大学医学部精神医学教室)


09:55 一般演題2:精神科医療における運動・スポーツ(5 題)
座長:山口聖子先生(北里大学医学部精神科助教)

1. ランニング運動療法が奏効したひきこもりの一症例 運動療法前後における光
トポグラフィを用いた脳血流比較
西多昌規先生(自治医科大学精神医学教室)

2. 心と体を繋ぐ看護-運動療法における重症の神経症患者との関わりを通して-
福冨里子先生(アンジェ心療クリニック)

3. 移り変わる自我状態をスポーツという枠組みで支えた事例
 水上忠臣先生(緑風会 水戸病院)

4. 慢性統合失調症患者がフットサルで見せる積極性
峰野 崇先生(総合心療センターひなが)

5. 慢性統合失調症患者に対する運動指導の身体能力の改善について
石井千恵先生(医療法人社団清心会 藤沢病院)


10:50 一般演題3:アスリートのメンタルヘルス(5題)
 座長:山本宏明先生(北里大学メディカルセンター精神科臨床講師)

1. 競技者における身体感覚の増幅度傾向
秋葉茂季先生(国立スポーツ科学センター)

2. アスリート心理により食行動異常を有していた CO 中毒自殺企図症例
山口達也先生(熊本大学医学部附属病院神経精神科)

3. 大学競技におけるメンタルヘルス:第一報 スピードスケート事例の考察から
小林佳乃子先生(高崎健康福祉大学大学院保健福祉学専攻)

4. スポーツ指導における暴力に関する精神医学的考察―暴力被害者の類似性―
諸江健二先生(アンジェ心療クリニック)

5. トップアスリートの心理的援助における連携マップの必要性
関口邦子先生(国立スポーツ科学センター)

  •  教育講演
    「薬物乱用の最近の傾向」
    <講師>
    佐野 輝 先生
    (鹿児島大学医歯学総合研究科精神機能病学分野教授)
    <座長>
    杉田 義郎 先生
    (大阪大学名誉教授)
  •  特別講演1
    「からだを育み、こころを育み、人を育む」
    <講師>
    武藤 芳照 先生
    (東京大学名誉教授  日体大総合研究所所長)
    <座長>
    内田 直 先生
    (早稲田大学スポーツ科学学術院教授)
  •  特別講演2
    「情熱と我慢」
    <講師>
    松澤 隆司 先生
    (鹿児島県サッカー協会顧問)
    <座長>
    岡村 武彦 先生
    (大阪精神医学研究所 新阿武山病院 院長)
  •  シンポジウム
    「スポーツはこころを育む」
    <基調講演>
    「スポーツによって育まれるこころ」
    橋口 知
    (鹿児島大学教育学部健康教育講座教授、第12回学術集会会長)

    <シンポジスト>
    1.「夢を育み自主性を重んじる指導から生まれた世界新記録の背景」
    大脇 雄三 先生
    (志布志ドルフィンズスイミングクラブ代表)

    2.「障害者権利条約にみるスポーツ」
    谷川 知士 先生
    (鹿児島女子短期大学児童教育学科准教授)

    3.「オリンピック選手から少年野球まで」
    内田 泰彦 先生
    (健康・リハビリテーション内田病院理事長)

    4.「運動経験とパーソナリティ」
    藤田 勉 先生
    (鹿児島大学教育学部保健体育講座准教授)

    <座長>
    宮崎 伸一 先生
    (中央大学法学部 教授)
    佐藤 大輔 先生
    (公益社団法人いちょうの樹 横山病院院長)

2014年8月27日水曜日

夜尿症の治療

自分の書いた「好きになる睡眠医学」に、夜尿の項目がありますので、夜尿一般についてはそこを読んでいただければ良いと思います。簡潔に述べれば、子供の夜尿は、よほど高学年になって回数が多いということでなければ、経過を見ていけば良いと思います。

一方で、様々な理由で、中学生以上、時に成人で、夜尿の問題が出ることもあります。このような治療については、多くの場合三環系抗うつ剤を使ってきました。三環系抗うつ剤の夜尿に対する治療効果の薬理作用は、抗コリン作用によって膀胱平滑筋(膀胱の筋肉)を弛緩させて膀胱の容量を増やす効果です。アナフラニールを25mg程度処方します。この他に、抗利尿ホルモンを用いたりするということがありますが、私は使ったことはありません。

アナフラニールと類似した治療法として、抗コリン作用を利用し膀胱平滑筋の弛緩作用のある、プロ・バンサインを用いることもありますが、最近、過活動膀胱治療剤として発売されたトビエースが夜尿に著効したケースを経験しました。過活動膀胱というのは、高齢者ですぐにトイレに行きたくなるような症状を呈する状態です。これは夜尿ではなく、起きている時にトイレに行きたくなるというようなことです。また、夜間頻回に起きてトイレにいくということも含まれます。この一つの理由は、膀胱が尿の貯留に対して過敏になっているからです。

このトビエースという薬は、このような状態の人に対して、膀胱にかなり特異的に働いて、膀胱の平滑筋を弛緩させる作用があります。これによって、脳に対しても尿がたまっているという信号が行きにくくなり、尿意頻回が抑えられるという仕組みです。トビエースは、膀胱の弛緩をおこさせるということから、夜尿にも効果があると考えられ用いてみました。このケースは、成人でしたが速やかに夜尿がなくなり、感謝されました。

夜尿は、主には泌尿器科でみる疾患だと思いますが、高齢者の治療や、睡眠障害の専門外来をしていても時々来院されます。最初に書いたように、小児であれば叱らずに様子を見ていくというのが良いと思いますが、まれに治療が必要と考えられるケースの場合には、このような薬物療法が効果的なこともあります。

2014年8月25日月曜日

DSM-5 (4) トーマス・インセル によるDSM-5批判

先週の土曜日に、日本イーライリリーのカンファレンスが、新宿で有りました。その際に、慶応大学精神科の古茶大樹先生の「精神医学における疾患とは」というお話を聞きました。久しぶりに、心身論や大森荘蔵の重ね書き、というような話を聞いて、興味深かったです。

主な話は、精神医学における疾患というのは、内科学における疾患概念が、自然科学的エビデンスの上に成り立っているのに対して、精神科の疾患概念は患者さんの主観的な体験をうかがい知るという、自然科学的に言えば客観性に乏しい所見の上に成り立っているという話でした。これを理念型と呼んでおられました。

この中で、興味深かったのが、NIMH所長の トーマス・インセル によるDSM-5批判の位置づけです。DSM-5批判の中で、多くは診断基準によって、疾患と言えない概念まで疾患になり、これが医療保険制度などにまで影響を与える結果になることへの批判。アラン・フランセスの言うところの、「正常を救え」という状況になるというものです。これに対して、トーマス・インセルの批判は、全く違った視点からの批判だという話です。トーマス・インセルは、むしろ内科学的な、自然科学的エビデンスに則った診断基準を作らなくてはいけないという主張をしています。この点が他の批判とは質をことにしているという古茶先生のお話です。トーマス・インセルの考えは私も知っていましたが、そういった視点での解釈は私はできていなかったので、さすがに精神病理学者だなと思いました。

  トーマス・インセルのこのようなDSMに対する批判は、そう考えると、DSM-5に対する個別的な批判というよりも、これまでの精神科疾患概念に対する、批判ということになりそうです。

トーマス・インセルのブログ

精神疾患は脳病であるという考え方は、私は信じているところです。しかし、脳というところと病というところについて、少しずつ注釈が必要だと思います。精神科で扱う対象は、脳の働きを対象にしているという点は正しいと思います。例えば、内分泌疾患の精神症状にしても、内分泌疾患は精神科の概念の対象でなく、これが脳に影響をあたえるので精神科の対象になるということです。しかし、病というところは、社会的な概念との兼ね合いが有り、これを病とするかしないかは、様々な要因によって、境界が曖昧になると思うわけです。したがって、脳のところまでは自然科学で捉えられますが、病となると難しい。脳機能の変化は精神疾患の必要条件だが、十分条件ではないということです。これは取りも直さず、古茶先生の疾患概念のお話に戻るということになるわけです。そうなれば、 トーマス・インセルの批判の論理でさえ危うくなってくるわけです。生物学的に原因が明らかになっても、これを病とするか、正常とするかは様々な要因が関わってくるということです。

なかなか、楽しい講義でした。

2014年8月22日金曜日

ブログがスポニチアネックスに紹介されました。

「質の良い睡眠で潜在能力を開花させろ!」というタイトルで、スポニチアネックスの記事の取材をうけました。この記事の中で、このブログも紹介されました。



http://www.sponichi.co.jp/society/life/selectformen/140815/index.html

これからも睡眠の大切さについては、いろいろなところで訴えていきたいと思います。

2014年8月20日水曜日

マインドマップ (1) マインドマップを久しぶりに使ってみた

あるアイディアを練りたいと思ったので、久々にマインドマップを引っ張りだしました。

マインドマップとは、MindmapとしてGoogleの画像をみると沢山出てきますが、マップは下記のような絵です。これを使って、頭のなかにあるアイディアを整理するわけです。整理しながらさらにアイディアが出てくるという利点もあります。イギリスのトニー・ブザンという人が開発したもののようです。



上記は、「マインドマップを使おう」というサイトからの引用ですので、このサイトのリンクも貼っておきます。

私は、頭がごちゃごちゃした時には、時々マインドマップを使います。論文を書こうと思っている時にマインドマップで全体の構想を練ることもあります。例えば、書きたいことを上記のようにどんどんんと羅列していくわけです。しかし、最初は重複したりして、あまり整理されているとはいえない状態になりますが、それらを統合したり、枝をまとめたり、分けたりしながら、だんだん全体がまとまってきます。まとまってきたら、どの順番で書くかを決めて、文章を書き始めます。文章もアイディアプロセッサを使って(ワードにもこのモードが有ります)書いていくと、全体の構成がうまくいきます。

ペンで書くのも面倒なので、通常はソフトを使います。今回は、XMindというソフトを使ってみました。以前はFreemindというのを使ったと思います。この手のソフトは、毎日使い続けるというものでもないので、たまにその時点での人気ソフトを使うと良いと思います。

それぞれのサイトのリンクを下記にリストしておきます。

XMind

Freemind

このようなマインドマップは、AD/HDの患者さんに役に立つ場合があるかもしれないと思います。

2014年8月18日月曜日

うつ病リワークプログラム 再考 (1)

うつ病の患者さんが求職をして、仕事に復帰する際に、長期仕事をしていなかったためにすぐに復帰することが難し場合が多くあります。そのようなときには、会社によっては時短勤務からスタートして次第に仕事に慣れていくようなプログラムが用意されているところもあります。しかし、その場合でも、あるいはそういったプログラムが用意されていない場合には、「仕事をする練習」をしなければなりません。このように、うつ病の患者さんが長期の療養休暇から復帰する際にリワークのプログラムを行う施設が最近はできています。
このような施設の一覧は、私も準会員として個人で会員参加している「うつ病リワーク研究会」の会員施設一覧として公開されています。

うつ病リワーク研究会 リワーク施設一覧

東京には21の施設がリストされています。このプログラムについては詳細にはそれぞれの施設が工夫してやっていると思いますが、このリストからみると、

模擬業務
 オフィスワーク、プレゼンテーション、ディスカッション、ディベートトレーニング

心理教育
 疾患教育、認知行動療法、ストレス・マネジメント・プログラム、SST(ソーシャルスキルトレーニング)、,サイコドラマ、

運動プログラム
 軽運動、ヨガ、リラクゼーション

その他
 光治療
 

などに分類されます。私が面白いなと思ったのは、秋田の田代クリニックでやっている光療法です。私は田代先生のことは非常に昔から知っていて、睡眠学会で研究発表をしておられるときに盛んにディスカッションをさせて頂いていたことがあります。以前このうつ病リワーク研究会に参加した時に、久しぶりにお会いしてその後、日本スポーツ精神医学会にも参加していただくようになりました。光療法は、脳の活性化、生体リズムの調整にはとても効果があります。このような生物学的なアプローチをしている施設は他にはなく、このような生物学的な治験に基づいたプログラムも今後いろいろと開発されていくと良いと思っていいます。うつ病運動療法もその一つです。

うつ病リワークプログラムは、うつ病での療養から復職がスムーズに行くようにするために必要なプログラムなので、個々人によって必要なプログラムが異なってくるということもあると思います。私は、このような病院でやるリワークプログラムの他にも、EAP(従業員支援プログラム[Employee Assistance Program] )との関連や、うつ病運動療法プログラムとの関連があります。また、最近は、ベンチャー企業の立ち上げ支援プログラムの講師としても呼ばれました。そのようなことを考えながら、どのようなリワークプログラムが、実質的に効果があるのかを少しずつこの中で考えながら、私の考えるリワークプログラムの実践プロトタイプがどのようなものかを提案できたら良いなと思います。

2014年8月15日金曜日

クラウド・ストレージ (2)

以前にクラウドストレージの話を書きましたが、企業ではむしろローカルにファイルはおかず、パソコンやタブレットは端末として利用しながら、データ本体は常にクラウドにあるというような使い方をしているところもあるようです。このような使い方をすれば、パソコンを選ばず、いつも同じ環境で仕事ができるのでとても便利である気はします。自分が求めているクラウドコンピューティングがどんなものなのかと、先に書いたいろいろなクラウドを使いながら考えているのですが、まだ今ひとつこれというところに行き着きません。

多分、自分のコンピュータで完全にローカルにファイルを置かないというのは、いくらクラウドのセキュリティーや保全について信頼できると言っても、まだ不便だという気持ちがあります。例えば、私はWiMaxを使っていますが、苗場や軽井沢、菅平などに行った時にはこれが使えませんでした。また、海外に行った時にも、不便な思いをします。こういう時に、やはり全くローカルにファイルがないと何もできなくなってしまいます。

このように、ネット環境がないと切断されてしまうものに、Bitcasaがあります。これも試しに使っていますが、ネット環境があれば非常に便利です。しかし、ネット環境がないと上記のようなことになります。

同期型と呼ばれる、ローカルにもあり、クラウドにもあり、自動同期されるものはいろいろありますが、私の希望する形は、最近使ったファイルや、ローカルには必ずおいておきたいファイルなどを選択してローカルに置いておき、あとはクラウドで保管するという方法です。これができるのがどれなのか探していますが、Yahoo! Boxはこれができるようです。その他のGoogle Drive, OneDrive, Boxなどがどうなのか。まだよく自分ではわかっていません。SugarSyncは、クラウドのみのフォルダー設定が有ります。しかし、自分としては一つのフォルダの中で、最近はもういらないというものはクラウドに、使うものはローカルにも、気が変わったらまた変えてとできる方が良いので、SugarSyncのスタイルは今ひとつな気がします。

自分にあったクラウドサービスを見つけたら、一つに絞ってお金を払っても良いと思っています。ただ、DropBoxなどはファイル共有や交換に非常に便利なので、この目的で使い続けると思います。一つのローカルフォルダを、2つ以上のクラウドサービスに割り当てることも、便利そうなので、そんなこともできるのかどうか少しずつ試しています。

良い情報があったら教えてもらいたいと思っています。
Twitter @sunaouchida
よろしく願い致します。

2014年8月13日水曜日

睡眠関連摂食障害

“夜中に起き出して、冷蔵庫をあけむさぼり食う”。朝起きた時には、そのことを覚えていない。だけれども、台所に行ってみるといろいろなものが食べ散らかしてある。睡眠関連摂食障害(SRED:Sleep Related Eating Disorder)は、このような疾患です。

夜中に食べ物を多量に食べたことは、まったく覚えていない場合もありますし、なんとなく記憶がある場合もあります。食べるものも、冷蔵庫に入っているものをそのまま食べるなど、十分に火の通っていないものを食べてしまったり、塊の食パンや、冷凍したままのピザなどをそのまま食べたりというような具合です。この疾患は、摂食障害などの問題と合併することもあります。 

病態としては、ノンレム睡眠からの覚醒による行動障害に類似しているようですが、一方で根底に摂食に関連した精神的問題があり、夜間覚醒してもうろうとした状態の時に抑制なく摂食の欲求が行動に現れる、といった解釈があてはまるケースもあります。一方で、そのような病理が当てはまらず、夜間の摂食の症状だけがある症例もあります。背景に、多少なりともこのような摂食に関する問題があると、たとえば、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用して、夜中にやや朦朧とした状態で食べ散らかすというケースも見られると思います。

薬物治療としては、抗てんかん薬のトピラマートが有効であるという報告があります。実際に、私もトピラマートで治療をしたケースをもっていますが、良くなりました。

このような症状があれば、一人で悩まず、ぜひ、専門医を受診してください。

2014年8月11日月曜日

SSRIによるアパシー(無気力状態)

先日、持田製薬・田辺三菱製薬・吉富薬品の主催による講演会で、東京女子医科大学講師の高橋一志のお話を聞く機会がありました。この中で、SSRIによるアパシーについてのお話があったので紹介します。SSRIの副作用として、無気力状態が作られるという事です。

文献を調べてみると、いくつかの文献が出てきます。医学文献検索サイトPubMedにて、ApathyとSSRIで検索すると、Results: 1 to 20 of 62となります。62個の文献なので、非常に確立された知見とは言えないかもしれません。もう少し詳細に調べてみようと思い、SCOPUSという文献検索サイトに行き、タイトル、アブストラクト、キーワードから検索すると、43 document resultsでした。引用数の多い上位5つを参考までにリストします。一番多いのは、103引用で前頭葉型の認知症に対してパロキセチンが認知機能を低下させるというもの。次が83引用で、抗うつ剤の潜在的な悪い副作用について、3番目にSSRI誘発性のアパシー症候群で、これが56引用です。この引用数で重要度を判定するのは適当でないかもしれませんが、非常に多く知られている知見でもないようです。

その中で、
Barnhart, W.J., Makela, E.H., Latocha, M.J.
SSRI-induced apathy syndrome: A clinical review
(2004) Journal of Psychiatric Practice, 10 (3), pp. 196-199.
を読んでみることにしました。

この文献は、これまでに出版されたSSRIによるアパシーの論文をまとめた総説です。よくまとまっていると思いました。これまでの論文は、多くがケースレポートです。つかわれていた薬剤は、fluvoxamine, fluoxetine, paroxetineなどのクラシックなSSRIです。このうち、fluoxetineはプロザックという商品名ですが、日本では発売されていません。これらの薬物を使用するなかで、うつ病の疾患としての症状でなく、薬物の副作用としてアパシーがでて来るというものです。

ここで、アパシーについての定義も紹介されています。Marin RS(1991)の定義ですが、「モチベーションが無く、これに認知障害、気分の障害、意識の低下が伴っていないもの。」という事です。意欲だけが低下しているということです。ここで、高橋先生はPainfulでないということを強調されていました。自分自身の辛さは、感じないということです。

このような病態は、前頭葉機能の低下と考えられているようです。症状からして、その可能性は十分あります。前頭葉機能低下がSSRIで起きるメカニズムは、セロトニン神経の活動の活性化によって、直接的影響があるのか、あるいは中脳のドパミン神経が関連しておきてくるのかどちらかであろうということでした。

このような状態に陥ったならば、薬物をやめるか、あるいはSSRIを補う薬物を投与するかということが書かれています。この場合、補う薬物としてはbupropionも良いようです。この薬は日本では発売されていませんが、ノルアドレナリンとドパミンの両方の再取り込み阻害作用がある薬です。つまり、セロトニンの活性化だけでなく、同時にノルアドレナリンやドパミンを活性化することでこのアパシーは改善されるということです。高橋先生は、新しく開発されたSSRI=レクサプロに変更するのも良いと紹介されました。

では、実際の臨床の場で、SSRIをSNRIに変更してアパシーが改善した場合に、これは薬物によるアパシーなのか、うつ病の残遺症状としての意欲低下がSNRIによって改善したのかは、判断できるでしょうか。これは、なかなか難しいと思います。診断をきちんとするという意味では、一旦薬をやめてみた時にこれが改善すれば、薬物によるアパシーである可能性が高いと考えて良いと思います。しかし、臨床の中で診断を優先するか治療を優先するかと言えば、治療を優先する場合のほうが多くなると思います。

何れにしても、こういうことを言っている人達がいるということは、頭に置いておいて良いと思います。そして、随分良いように思えるけれども、気力が出ないという患者さんに出会った時には、減量あるいは、SNRIへの置き換えをしていくようにしていくと良いと思いました。良い勉強ができた講演会でした。


===参考文献===
Scopus
EXPORT DATE:08 Aug 2014

Deakin, J.B., Rahman, S., Nestor, P.J., Hodges, J.R., Sahakian, B.J.
Paroxetine does not improve symptoms and impairs cognition in frontotemporal dementia: A double-blind randomized controlled trial
(2004) Psychopharmacology, 172 (4), pp. 400-408. Cited 103 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-2442492769&partnerID=40&md5=d3a6eba6ed93bf3f9dca99dde5b8bea0
DOCUMENT TYPE: Article
SOURCE: Scopus

Settle Jr., E.C.
Antidepressant drugs: Disturbing and potentially dangerous adverse effects
(1998) Journal of Clinical Psychiatry, 59 (SUPPL. 16), pp. 25-30. Cited 83 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-3543114251&partnerID=40&md5=39ce97d31eaf85b9c6c5f3c76a8b20c5
DOCUMENT TYPE: Review
SOURCE: Scopus

Barnhart, W.J., Makela, E.H., Latocha, M.J.
SSRI-induced apathy syndrome: A clinical review
(2004) Journal of Psychiatric Practice, 10 (3), pp. 196-199. Cited 56 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-2442686636&partnerID=40&md5=bcdb2ae98dcd14aab9f2cd71e233e9cc
DOCUMENT TYPE: Review
SOURCE: Scopus

Murphy, T.K., Segarra, A., Storch, E.A., Goodman, W.K.
SSRI adverse events: How to monitor and manage
(2008) International Review of Psychiatry, 20 (2), pp. 203-208. Cited 40 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-41749095678&partnerID=40&md5=b99404b3c1370ed4972e9c70cc5cc466
DOCUMENT TYPE: Review
SOURCE: Scopus

Wongpakaran, N., van Reekum, R., Wongpakaran, T., Clarke, D.
Selective serotonin reuptake inhibitor use associates with apathy among depressed elderly: A case-control study
(2007) Annals of General Psychiatry, 6, art. no. 7, . Cited 39 times.
http://www.scopus.com/inward/record.url?eid=2-s2.0-33947099919&partnerID=40&md5=a8a16c1ed2ad1753602bc79c4ecb8288
DOCUMENT TYPE: Article
SOURCE: Scopus

2014年8月8日金曜日

第12回 日本スポーツ精神医学会学会総会・学術集会 鹿児島 (2) メンタルヘルス運動指導士について

学会の初日には、メンタルヘルス運動指導士の講習会が開かれます。これについて少し紹介したいと思います。

メンタルヘルス運動指導士は、この資格が最初に学会で提案された際には、精神科の病院で患者さんに運動指導をしているスポーツ体育系の学部出身者が医療に関わる資格がないということで、病院内での認識が充分でないという学会員からの問題提起から、何らかの資格を作りたいという形で始まりました。精神科の病院などでは、デイケアや入院患者さんのレクリエーション等でスポーツを多くします。また、スポーツが治療的に役立つということで、スポーツ活動を治療的な意味をこめて取り入れているところも多くあります。そういうところでは、スポーツ好きの看護師さんや作業療法士さんが運動指導をすることも多いですが、スポーツの専門家を指導者として雇用して運動指導をする場合も多くあります。このような人が、病院の職員になった場合には、病院における運動指導士という正式な資格が無いために、医療資格(看護師、作業療法士、精神保健福祉士など)のある人と比較して位置づけが充分でなく、肩身の狭い思いをするということがありました。日本スポーツ精神医学会では、このような仕事に就いている人に対して、資格をつくり、精神疾患の患者さんに運動指導をする知識と技術を持った人だということを保証するようにしたわけです。

日暮里あべクリニックで行っている、リワークディケアの運動療法。
近隣のスポーツジムと連携して行っています。


しかし最近になってくると、また別の方面からの希望も出てきています。例えば、スポーツジムやヨガ教室などに通っている利用者の中には、精神科に通院している患者さんもおられます。そういった人たちの多くは、うつ病の患者さんですが、パーソナルトレーナーなどの仕事をしている人たちは、このような患者さんから、運動をするようになってメンタル面でも良くなってきたという話を聞いたりするということが有ります。このようなときに、パーソナルトレーナーの人たちは、もう少しきちんとした精神医学の知識をもって、このような患者さんたちの運動指導をしたいと考えるようになります。また、最近ではうつ病患者さんの職場復帰のための、EAP(Employee Assistance Program=従業員支援プログラム)の中に運動指導を取り入れることも多くなってきています。この場合の運動指導は、一般のアスレティックトレオーナーやパーソナルトレーナーなどが行いますが、このようなEAPは、利用者がうつ病から職場復帰するプロセスにあるということが前提なので、利用者がうつ病の患者さんであるということがわかった上で運動指導をするわけです。つまり、ある意味では準医療機関的な要素があります。このような場で、運動指導をする人も、資格を取りたいという希望もあるようです。

資格の要件としては、きちんとした知識や技術を持っていることが大切なので、それを保証できるような実績を持った人に資格を与えるということが大前提ですが、そのうえで、病院だけでなく2つ目に上げたような職場の人達にも資格をとってもらい、さらにその人達が学会の場で交流しながら、この分野の知識や経験を広げていくということも大事だと思っています。

現在、このような背景を考えならが今後の資格制度の運営について様々な議論がなされています。今後については委員会の議論の中で決まっていくことですが、私は、このような資格が、精神疾患のある人に運動指導をしているひとたちの、指導の質の向上につながっていくと良いと考えています。その中で、この資格を持った人たちが増加し、精神疾患の人たちの精神・身体の健康度の向上、日常生活の質の向上に繋がると良いと思っています。

2014年8月6日水曜日

ウエアラブル デバイスで、健康管理 (Wearable Expo 2014 NYC)

朝日新聞に「ウエアラブル端末、NYに集結 健康分野に熱視線」という記事が出ていました。記事の写真には、ストーンクライサスという会社の腕時計型の活動量計が出ています。記事によれば、「歩数などの運動量や睡眠の深さ、食事の摂取量などのデータを一括管理する新型端末」だそうです。125ドルで秋には発売されるそうです。買ってみようと思っています。

ストーンクライサスの腕時計型測定器


このようなウエアラブル端末には私は非常に興味があります。これまでにもアスリートの測定をするために、アクチウォッチなどの活動量計を用いたり、うつ病の患者さんにライフコーダーという活動量計を用いたりしてきましたが、特に精神科の臨床では、このような活動量計は非常に役に立つ面があります。精神科の臨床は、例えばこのようなものです。

「◯◯さん、こんにちわ。」
「こんにちわ。」
「前回は2週間前でしたが、この2週間はいかがでしたか?」
「そうですね、処方していただいたお薬があっているようで、大分眠れるようになり、昼間の気分も改善しました。」
「それは良かったです。」
カルテに 『大分眠れる。気分も改善した。』 と書く。

このように、精神的な症状の変化は主観的に語られるものを頼りにしなければならない面が多くあるのですが、もう少し客観性をもった治療を行いたいと思っています。それで、私はしばしば患者さんに活動量計をつけてもらったり、そうでなくても、睡眠日誌や生活日誌をつけてもらったりしています。

この、ここで紹介されたストーンクライサスという会社の製品を調べてみました。

http://www.stonecrysus.com/

これが、ホームページでした。まだ、ホームページには情報がありません。
しかし、YouTubeにビデオが有りました。それと、紹介の記事も。

http://cyclestyle.net/article/2014/07/16/11691.html

うーん。良さそうですね。これを実際の臨床で無償で配って、患者さんの様子が分かるようにできないか、少し検討してみましょう…。

2014年8月5日火曜日

ブログがジャパンフィットネスに紹介されました

このブログが、ジャパンフィットネスという雑誌の8月号に紹介されました。
この雑誌の編集部では、私のゼミの卒業生が仕事をしています。

このブログは広く読んでいただけるとありがたいので、また機会があればご紹介ください。

ジャパンフィットネス 8月号

2014年8月4日月曜日

寝室の色と睡眠

早稲田大学の所沢キャンパスには、私の所属しているスポーツ科学学術院と、人間科学学術院があります。もともとスポーツ科学部は人間科学部の一学科だったのですが、私が着任した2003年から独立した学部(現在は学術院)になったわけです。さて、お互いの学部は同じキヤンパスなので、交流を持ちながら運営されています。

先日、人間科学部の齋藤美穂教授(現在は早稲田大学理事)の研究室の修士の学生さんからメールをいただきました。齋藤先生は、色彩心理学がご専門です。その学生さんからは色彩と睡眠についての研究をしたいので、睡眠についての話を聞かせて欲しいということでした。そして、この相談のの中で紹介されたインターネットの記事が面白かったので、ここでも紹介したいと思います。

この記事は、The Secret to a Good Night's Slumber Is to Sleep in a Blue Bedroomという記事です。このリンクがオリジナルかどうかはわからないのですが、出展掲載のためにリンクを貼っておきます。Travelodgeのこちらがオリジナルかもしれません。


イギリスでの調査なのですが、2,000名のイギリス人を対象として、寝室の色と睡眠時間者睡眠の質について調べたということです。その結果が以下の表です(拙訳)。



寝室の色

平均睡眠時間

各色の特徴
青色
7 時間52分
気持ちの静まる環境を提供し、悪夢を防止する。
黄色
7 時間40
暖かく気持ちのよい雰囲気を作り、リラックスに関連した神経系を刺激する。
緑色
7 時間36
休息できる静香な環境
銀色
7 時間33
月の輝きをかもしだし、夜であるという感覚を目に与えて睡眠を誘導する
オレンジ色
7 時間28
暖かさをかもしだし、消化を助ける。体の筋肉を解してリラックスさせる。
赤色
6 時間58
エネルギーを与える。心拍を高める。休める色とは考えられいない。赤は情熱とエネルギーに関連した色と考えられている。
金色
6 時間43
富と関連した裕福で温かい環境を提供。しかし、お金の問題を抱えている場合には良い色ではない。
灰色
6 時間12
もの寂しい、気分の落ち込む環境。体のエネルギーすっかり抜き取る。
茶色
6 時間05
悲げな窮屈な環境
紫色
5 時間56
メンタルを刺激し、忙しい日々からのスイッチを難しくする。その結果、夢や悪夢を助長するかもしれない。

これを見ると、青色の寝室が最も睡眠時間が長く、これについて黄色、銀色、オレンジなどが良さそうです。部屋の壁を青や銀色、オレンジに塗るというのは、日本ではさほどまだ多くないかもしれません。多くのマンションの部屋は、クリーム色系統が多いと思います。試しにGoogleで、マンションx寝室の画像検索をしたところ以下の様な感じでした。

Googleにて、マンション と 寝室 で検索した画像


青い寝室は、なかなか日本では無いでしょう。このような研究は、青い色の寝室は、睡眠に対して良い影響をあたえるというふうに解釈されがちですし、このコラムでもそのような解釈で話が進んでいました。しかし、このような横断研究では、長く寝る人は青い色の寝室を好むということとは、区別ができません。したがって、青い色の寝室と長い睡眠時間には何らかの関連があるということはありそうですが、どちらが原因かはもう少し詳しい介入実験でもやってみないとわからないと思います。

しかし、色は明らかに人々心理に影響をあたえると思います。睡眠との関連は、文化によっても色に対する感覚が違うので、万国共通にということにはならないかもしれませんが、日本人の寝室の色の好みというのは、価値観が多様化する中でこれから変わってくるかもしれませんね。

2014年8月1日金曜日

第2回 埼玉県スポーツ精神医学懇話会: アスリートの摂食障害

7月31日木曜日に、大塚製薬株式会社の主催で、第2回埼玉県スポーツ精神医学懇話会が所沢で開催されました。この会は、本年1月に1回目の会を開催し、今回第2回めを開くことが出来ました。主には、埼玉県西部の精神科の先生方にお集まり頂いていますが、第1回めから獨協医科大学の精神科主任教授下田和孝先生にも来て頂いています。お弁当を食べながらのクローズドな会ですが、参加を希望される精神科医あるいはアスリートの治療に関わっておられるスポーツドクターやスポーツ関係の方がおられましたらお知らせください。

会の目的は、アスリートの治療に経験のある精神科医の数を増やしていくことです。そのために、アスリートの診療に関わる情報を、ケーススタディーを通じて共有していくのが大きな目的の一つです。精神的な問題を抱えたアスリートは少なからず居るにもかかわらず、必ずしもその治療が効率的に行われていないという側面があります。これは、いくつかの理由がありますがその一つには、アスリートが精神科にかからないという事、そしてアスリートの診療に慣れた精神科医が少ないということもあります。慣れていない精神科医はアスリートの事情を考慮せずに治療を行うということがあり、そのため、アスリートは一般のスポーツドクターに話をきてもらう時のように、競技に関連した話しが噛み合わないという結果になってしまいがちです。この会で、様々な情報を共有する中で、スポーツに興味をもち、アスリートの治療についての経験を積むスポーツドクターの精神科医が増えると良いと思っています。

今回は、摂食障害を取り上げました。会では最初に私がアスリートの摂食障害(Anorexia Athletica)についての概論をお話し、二人の治療者が一例ずつのケーススタディーを行いました。女子アスリートに摂食障害は比較的多くみられ、特に審美的要素のあるスポーツ、重量階級制のあるスポーツ、体重が減ると競技力が伸びるスポーツなどに多いと言われています。しかし、実際に診察をしていると必ずしも、そういった競技だけでもないように思われます。

最初の概論では、以前の大学院生が行った女子アスリート(新体操、体操、一般学生)の質問紙による調査の結果もお話しました。この研究は、2005年に行ったもので、対象は関東にある大学に在籍する女性158名で、無記名式の質問紙調査を実施したものです。そのうち67名は体育大学の運動部(新体操45名、体操競技22名)91名は運動部に所属しない一般学生でした。調査には、EDI-2という摂食障害研究でよく用いられる質問紙と、独自に作成した質問紙を用いました。

いくつかの興味深い結果があったのですが、そのうちいくつかをまとめると以下のとおりです。
・ 新体操選手では、BMI 18.5以下の割合が他よりも有意に多い
・ 一般学生に比べて、体操、新体操選手では初潮年齢が有意に高い
・ 新体操選手は、多食の傾向が強い
・ 身体への不満は、体操群で低く、新体操と、一般学生で高い
などのことが分かりました。

この中で、初潮年齢の問題は、育ち盛りの小中学生が、競技を優先するために充分な発育ができないという現状が示唆されたようにも思います。初潮年齢を優先すれば、しかし、競技力が十分伸びず、結果として競技で勝てないということがあれば、何のために競技をやっているのかわからないという意見もあると思います。いずれにしても、この問題はエビデンスはしっかり共有しながら、議論を進めていくべき問題だと思っています。