2014年7月9日水曜日

第39回 日本睡眠学会 徳島 (2) オレキシン受容体アンタゴニスト

オレキシン受容体アンタゴニストのSuvorexantが、MSD社から発売される予定であるというニュースは聞いていましたが学会でその内容を聞くのは初めてでした。オレキシンというのは、脳の神経伝達を担う神経伝達物質のひとつで、とくに睡眠覚醒に関連しては、覚醒状態を維持する働きのある物質です。このSuvorexantという薬は、このオレキシンの働きをブロックする作用があるわけです。したがって、オレキシンをブロックすると、覚醒への作用が減少し、眠気が出るため、睡眠薬として用いることができるわけです。

これまでに主に使われていた、ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、Suvorexantとは全く異なった機序で、(GABAを介して)神経の活動を全般に低下させることによって、睡眠を導入します。したがって、神経活動全般が低下するので、例えば神経全般に異常発火が起きる、てんかん発作の抑制などにも用いられます。また、麻酔前投与役などにも使われます。また一方で、記憶障害や筋弛緩、ふらつき、などの副作用もあります。しかし、このSuvorexantは、睡眠のメカニズムに直接作用することによって睡眠を導入するという意味で、画期的な薬物であり、副作用も少ないという評判です。

セッションでは、米国のMSD社からも研究者が来日し、発表していました。このような学会で、発表をすることは、非常に大きな宣伝にもなるわけですが、Suvorexantに関しては、非常に興味深い機序の薬物なので、学問的な興味から多くの聴衆が集まっていました。MSD社からは、Suvorexantが副作用が少なく、睡眠の構造(ノンレム睡眠やレム睡眠の割合など)を変化させずに、睡眠の質を良くする薬剤であるなどの説明がありました。

このセッションでは、私もこの薬物に興味があったので、ポスターセッションを含めて何度も質問をしました。ひとつは、オレキシンは覚醒の維持のために昼間分泌される神経伝達物質ですが、夜間眠る前にSuvorexantを投与するのは、オレキシンの分泌が少ない時期での投与だが、意味があるのかどうか。また、不眠症の患者さんでは夜間のオレキシン分泌が多くなっているというエビデンスがあるか。これは、まだデータは無いということでしたが、オレキシンは夜間でもゼロになるわけではないということと、薬が効果があるというのは実証されているところだということでした。また、ベンゾジアゼピンなどの他の薬剤との併用、あるいは、高齢者に対する投与についても質問いたしましたが、これらについては少なくとも発売すぐの状況では、慎重に使っていくのが良いという回答でした。この点は、注意深く用いまずは、Suvorexantのみの投与でその効果を見ていくのが良さそうです。

期待される薬物ではありますが、一方で、慎重さも大切だと思います。秋ころに発売される見通しのようですが、あくまで患者さんへの利点を第一に考えて、薬物選択をしていくことが大事だと思います。また、ベンゾジアゼピンよりも、副作用などが少ないとすれば、積極的に利用する視点も一方で持ちたいと思います。


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