2014年5月20日火曜日

アスリートのバーンアウト症候群

バーンアウト症候群について調べたいという学生が来て、相談に乗りました。このバーンアウト症候群という言葉は、スポーツ医学の分野では、非常によく使われます。競技を一生懸命やった末に、ある時、急に意欲が低下してやめてしまうというような場合です。そういう時にスポーツドクターからは、バーンアウト症候群として紹介されることもあります。

このバーンアウト症候群ですが、医学的な診断名ではありません。医学的な診断名は、例えばICD-10(WHOの国際疾患分類)に出ているような名前ですが、バーンアウト症候群も(オーバートレーニング症候群も)、ICD-10のなかには名前がありません。したがって、心療内科などの病院に行っても、バーンアウト症候群が正式な診断名となることはありません。

では、このバーンアウト症候群はどのようなものでしょうか。これは、社会心理学という分野で主には使われる名称で、もともとはヒューマンサービスに関わる人達に使われた言葉です。ヒューマンサービスとは人に対するサービスを行う仕事で、医療職や看護職、あるいは介護職なども含まれます。このような人たちの中に、それまで一生懸命仕事をやりながら、突然燃え尽きたように仕事をやめてしまう人がいるということが知られ、これがバーンアウト症候群と呼ばれるようになったということです。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/01/pdf/054-064.pdf

上記は、この分野の専門家である同志社大学の久保真人先生の論文へのリンクです。久保先生は、この分野の単行本も出版されています。




この本を見ると、このような燃え尽きたように見える人を、バーンアウト症候群とするための要件が三つあるということが書かれています。それらは、

1.情緒的消耗感 (emotional exhaustion)
2.脱人格化 (depersonalization)
3.個人的達成感 (personal accomplishment) の低下

です。これをアスリートの当てはめるとこのようなことになります。

1.俺はやってもやっても、レギュラーになれない。自分なりには相当努力した。しかし、監督も自分を認めてくれないし、時には控えめに考えても自分よりも下の選手が使われたりする。自分はそれでも努力したが、もう疲れた。2.監督は、おまえのポジションは他にも居るという。自分は、チームの為に一生懸命やってきたつもりだが、いつでも他の人に変えられるようなことを言われる。
3.やってもやっても、成功できない。いったい、どれだけ努力したら良いのだろう。

このような状態の中で、もう競技はやめようと思う状態があれば、それはバーンアウト症候群と社会心理学的に定義されることになるでしょう。しかし、多くの場合、スポーツ医学の現場では、嫌になってやめるように見える人たちが、全般的にそう呼ばれることがあるようです。そうは言っても、そういう人たちの中に、バーンアウトに当てはまる人は多くいるとは思います。

バーンアウトの結果として、ときにうつ病(あるいは、適応障害 うつ状態)に陥る人も居ますし、うつ状態にならず、他に自分の道を見つける人もいると思います。その後状態の人に対して、医学的ケアが必要であるとすれば、それはその人が何らかの医学的な意味での診断がなされる状態にある場合です。逆に言えば、バーンアウト症候群と言っても、特に医学的なケアが必要ないケースも有り得ると思います。

比較的多いのは、こういった選手を何とかもう一度競技に戻せないかという相談です。しかし、ここまでくると、なかなか難渋します。しかし、私の経験では、現在の状態を過去の自分のスポーツへの関わりから明らかにしていくプロセスを一緒に行う中で、今までこれだけ努力してやってきたことだから、もう一度頑張ってみようと思う選手が、ある割合居ることもわかりました。そういう選手は、競技に復帰すると再び努力し、多くは活躍するようになっています。

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