2014年4月2日水曜日

青魚に含まれるオメガ3脂肪酸(DHA、EPA)とうつ病

うつ病が生活習慣と関連していることは、臨床の場でも患者さんに強調してお話しています。独身で夜遅くまで仕事をしている方などは、運動、睡眠、食事のどれをとっても、好ましいとは言えない生活をしている方が多く居ます。「運動はほとんどしなくなっちゃいましたねぇ。」「だいたい4時間位眠れると良い方です。休みの日は結構殆ど寝てます。」「パンとかコンビニのお弁当とかになっちゃいますかね。」という具合です。これらを改善するだけでも、うつ病にたいしての抵抗性を増すことが確実にできると私は思っています。

その中で、うつ病の運動療法はあべクリニックで実践していますし早稲田大学のスポーツ科学学術院の研究としても行っています。睡眠に関しては、睡眠医療認定医として、あるいは前職の東京都精神医学総合研究所睡眠障害研究部門長として長く研究してきましたし、その重要性も臨床の場で強調しています。しかし、栄養に関しては、私自身は現在勉強中というところです。バランスの良い食事を、決まった時間にしっかり食べるということは、生体リズムという側面からも重要です。また、食物に含まれる成分も、精神活動に影響があると考えられています。栄養が精神症状に与える影響については、これまでにも研究がありますが、最近「オメガ3脂肪酸(DHA、EPA)とうつ病」についての論文を読みましたので紹介したいと思います。オメガ3脂肪酸は、青魚などに多く含まれている物質で、体に良いものであることは間違いありません。この製剤は、現在は高脂血症治療薬として用いられています。代表的な製品は、武田薬品のロトリガです。

MH Bloch and J Hannestad, Omega-3 fatty acids for the treatment of depression: systematic review and meta-analysis. Molecular Psychiatry (2012) 17, 1272–1282

2年前の論文ですので比較的新しいものです。

脂肪酸は、神経細胞の膜を構成しており、これらにはオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸があります。典型的な西欧の食事はオメガ6脂肪酸が多く、これが多いと、細胞膜の炎症性メディエーターを多く産生する結果になり、細胞を傷めます。一方で、オメガ3脂肪酸は抗炎症作用がありこれによって、細胞膜が安定します。これまでの動物実験による研究でも、オメガ3脂肪酸が、セロトニンやドパミンの神経伝達に影響をあたえることが報告されているようです。また、疫学研究でも(オメガ3脂肪酸を多く含む)魚を多くとっている人たちは、うつ病の発症が少ないという報告があります(Hibbeln JR. Fish consumption and major depression. Lancet 1998; 351: 1213.)。そういったことから、実際にオメガ3脂肪酸を投与して、うつ病の症状が改善したかどうかをみた研究がこれまでにもなされてきました。この論文は、これまでの多くの研究を総合的に解析しなおして、全体として効果があるのかを明らかにするメタ分析研究を行ったものです。

結論から言うと、オメガ3脂肪酸がうつ病の治療に効果は、殆どありませんでした。もう少し正確にこの論文の結論を表現すると"Current published trials suggest a small, non-significant benefit of omega-3 FAs for major depression."= これまでの論文を総合的に検討すると、うつ病に対しては、小さな有意とはいえない効果しかない、ということになります。

私自身は、オメガ3脂肪酸の効果はこのような研究デザインでは必ずしも十分に明らかにならないのではないかと思いました。こういった食品は、薬と同じようなデザインで研究をするのは良くないと思います。むしろ、食事として魚を多く食べるという生活習慣のなかで、うつ病の発症率をみるのが良いように思います。もし、製剤を使うのであれば、正常な人多数に、毎日習慣的に投与して、そうでない人の青魚摂取などもモニターした上で、薬物投与群でうつ病の発症が少ないかどうかをみるようなデザインが良いわけです。これは、相当大変な研究です。私は、オメガ3脂肪酸はうつ状態が発症したあと、この治療に良いかどうかはまだわかりませんが、疫学研究の結果などから、うつ病になりにくい身体を作ったり、あるいは、寛解状態になったあと良い状態を維持するためには効果がある可能性があるのではないかと思っています。

実際に医療の現場では、オメガ3脂肪酸だけの効果を見ることはしません。生活指導として、運動、睡眠、食事の全てについての構えを指導します。したがって、それらのどの効果が良いのかを明らかにする研究的アプローチとは異なっています。これらを総合的に行う中で、うつ病の患者さんであれば再発の少ない生活の助けになることはあるのではないかと考えています。



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