2014年3月2日日曜日

アスリートのモチベーションから学ぶこと

アスリートやアスリートのメンタルサポートをしている人たちに関わっていると、精神科臨床でも役に立つ様々なことが学べる。先日、埼玉スポーツ精神医学懇話会を立ち上げて、少人数の地域の精神科の先生に集まっていただく会合をした。その時に、所沢メンタルクリニックの児玉芳夫先生にお話をいただき、その中で「自我目標」と「課題目標」という内容を伺った。この概念は、私は詳しくなかったので調べてみたところ、新しいところで「城西国際大学 紀要 2013 深山元良先生の論文」があった。そこから下に図を引用します。

おおまかに言えば、自我目標というのは、今度の大会で3位に入ったらみんなが喜んでくれるのでがんばろうというようなもの。しかし、これは、3位に入れない大会は、出ないでおこうということにも繋がるという。一方で、課題目標は、次は今のベスト記録を0.5秒縮めることだというようなこと。これであれば、常に前に進むモチベーションに繋がる。したがって、アスリートが課題目標を持てるように指導するのが良いという。

これで思い出すのは、以前に早稲田大学のラグビー部の医事関係のしごとをしていた時の経験だ。私が早稲田大学に移動した2003年ころ、ラグビー部は清宮監督になった。そこで変化があったのかどうかまでは知らないが、そのことラグビー部の合宿所に行くと、定期的に行われる測定(50mダッシュとか、ベンチプレスとか)の全部員の値がトレーニングルームに貼りだしてある。このような測定をひと月ごとにやり、自分の測定値と部内の順位が数値として分かるようにしてあるということだった。ラグビー部は部員数も相当多く百数十名いる。その中で、トップチーム(赤黒を着る、と言うようだ)に入れるのは、20名ほどであろう。その他の大多数の人たちのモチベーションをどう保つのか。みんな、強い向上心を持っているとは思うが、このような工夫はそれを更に高めるのだと思った。

精神科医療にも結びつく。両親に褒められることを自分の中心においているために、自分の道を見失ってしまう患者さんは少なからずいる。両親の子供に対する対応に、一貫性が無いため、これをしたら叱られないこともあれば、強く叱られることもあるということがあるために、どうして良いかわからなくなってしまう幼少時を過ごしたりする。その結果として、いつも「これでよいのか」という不安から逃れられない全般不安の状態になってしまうということもある。そういう患者さんには、課題目標を与えてあげることも大切だ。課題目標という名前は知らなかったが、そのようなことはしてきていた。揺るぎのない、自分自身でしっかりと捉えられる課題目標を持っていれば、それに向かって自分のペースで努力をすればそれで大丈夫。うまく行かなければ、うまくいくまで努力すればよいだけのことだ。それを、丁寧に励ますのが精神科医の仕事だ。

アスリートから学ぶことは多い。



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